Saturday, September 06, 2014

<妖婦>と<革命家>のあいだ 管野スガの実像を求めて

関口すみ子『管野スガ再考――婦人矯風会から大逆事件へ』(白澤社、2014年)
  
大逆事件で処刑された12名のうち紅一点のスガ。幸徳秋水の情婦。赤旗事件の女闘士。さまざまな呼び方をされてきたが、初期は、荒畑寒村による<妖婦>レッテルが幅を利かせた。1980年代から、大逆事件資料が出そろうなか、<革命家>としてのスガ像も提示されてきた。しかし、その実像はいまだ解明されていないし、<妖婦>イメージがもつ喚起力が強すぎた。
『御一新とジェンダー』『国民道徳とジェンダー』で荻生徂徠、福沢諭吉、井上哲次郎、和辻哲郎ら、男性思想を批判的に読み解いてきた著者は法政大学教授。今回は「新婦人」幽月、管野スガの実像に迫る。とくに、紀州の『牟婁新報』記者時代の記事を中心に、公娼制に反対して論陣を張ったスガの闘いはこれまで正当に評価されてこなかった。この闘いの後に東京へ出て平民社の幸徳秋水と同志となり、「結婚」し、ついには大逆事件にいたるのだから、スガ評価のためには不可欠の研究である。処刑から100年を経て、獄中で書いたはずの日記も隠され処分されたままという不利な条件のもと、男性視点でのレッテル貼りを受けてきたスガの生きざまを描き出した好著である。

私は『非国民がやってきた!』(耕文社)において「管野スガ・幸徳秋水」という章を設けて2人の思想の闘いを少しだけ紹介した。その際、<妖婦>イメージに惑わされることはなかったが、<革命家>イメージに惹きつけすぎたかもしれない。<妖婦>にしても、あの時代の<女革命家>のイメージにしても、見る側の思い込みが入りすぎると良くない。スガ自身の言葉に即してスガの思想遍歴を解明したうえで、歴史の中に位置づけることが必要だ。本書は勉強になる1冊だ。