Monday, September 08, 2014

ヘイト・クライム禁止法(84)ロシア

ロシア政府が人種差別撤廃委員会82会期に提出した報告書(CERD/C/RUS/20-22.6 June 2012)によると、ロシアは条約第四条(a)(b)に従って、人種的優越性に基づく思想の流布を非難し、犯罪としている。刑法第二八〇条は過激活動の公然たる呼びかけ、第二八二条は憎悪宣伝や軽蔑、第二八二条一項は過激組織の結成、第二八二条二項は過激組織の活動の組織化を、政治、イデオロギー、人種、民族的又は宗教的憎悪に基づいて、又は社会集団に対する憎悪に基づいて行う場合を規制している。二〇〇に年の過激主義と闘う連邦法を基に、過激主義活動であって憎悪を煽動する場合も処罰対象となっている。差別的動機による憎悪犯罪の規制がなされている。
二〇〇八年から一一年の統計では、刑法第二八〇条(過激活動の公然たる呼びかけ)の捜査当局の認知件数は二九件(〇八年)、四五件(〇九年)、五一件(一〇年)、六一件(一一年)である。第二八二条(憎悪宣伝や軽蔑)は一八二件(〇八年)、二二三件(〇九年)、二七二件(一〇年)、二四二件(一一年)である。第二八二条一項(過激組織の結成)は一八件(〇八年)、一九件(〇九年)、二三件(一〇年)、一七件(一一年)である。第二八二条二項(過激組織の活動の組織化)は二四件(〇八年)、二〇件(〇九年)、二七件(一〇年)、六五件(一一年)である。暗数があるため、認知件数が現実を正確に反映しているわけではない、特に被害者必ずしも迅速に届け出るわけではないし、犯行時に動機が判明するとは限らない。
二〇一一年三月三日、ヴァシリエフ、ゴルディエフ、クヒャー及びポリャコフが、コーカサス出身、アジア系、アフリカ系の人々に対する九件の襲撃事件、及び爆発物所持について有罪を言い渡された。ヴァシリエフは殺人罪及び刑法第二八〇条(過激活動の公然たる呼びかけ)により二〇年、ゴルディエフは八年、クヒャーは一〇年、ポリャコフは七年の刑事施設収容とされた。
二〇一一年七月一一日、モスクワ軍事法廷は、殺人罪及び刑法第二八〇条(過激活動の公然たる呼びかけ)により、「国家社会主義協会」メンバー五人に終身、七人に有期の刑事施設収容を言い渡した。
内務省は、ボランティア団体の協力を得て、メディアやインターネットにおける過激犯罪実行の準備の監視を続けている。
二〇一一年三月三一日、クリミア地区捜査当局は『永遠のユダヤ人』という映像(一九四〇年、フリッツ・ヒッペル制作)をサイトから削除するようカモフニチ裁判所に申立てをした。
二〇一一年八月三一日、カレリア共和国内務省は、不祥人物がインターネットのビジネス・ニュース・サイトに、性別、人種、民族的背景に基づく憎悪を助長する投稿をしたことを認知した。
二〇一一年九月一一日、バショコートスタン共和国で、バシュキル人民に対する憎悪を助長・支持する文書をインターネットに投稿したイスマイロフに対して刑法第二八〇条(過激活動の公然たる呼びかけ)違反容疑で刑事手続きが始まった。
二〇一一年一〇月二一日、「不法移民に反対するスラブ人連盟」の過激な映像をソーシャル・ネットワークに投稿した件で、刑法第二八〇条(過激活動の公然たる呼びかけ)違反容疑で刑事手続きが始まった。
二〇一一年一一月二日、モスクワで、ナチスを積極的に支持する過激な内容のインターネット投稿について、刑法第二八〇条(過激活動の公然たる呼びかけ)違反容疑で刑事手続きが始まった。
二〇一一年一一月二二日、ベレボの町でインターネットに過激な内容の投稿をした人物について、刑法第二八〇条(過激活動の公然たる呼びかけ)違反容疑で刑事手続きが始まった。
連邦・コミュニケーション情報技術マスメディア局は、民族的憎悪煽動などの監視を継続している。二〇〇六年から一一年にかけて、一九七件について、人種憎悪の煽動があると判断し、三九件(〇六年)、四四件(〇七年)、二八件(〇八年)、三三件(〇九年)、二八件(一〇年)、二五件(一一年)の警告を発した。
人種差別撤廃委員会はロシアに次のような勧告をした(CERD/C/RUS/CO/20-22. 17 April 2013)。ロシアが過激主義組織と闘っていることは承知しているが、委員会は次のことに深い関心を有する。中央アジア出身者、コーカサス出身者、アジア系、アフリカ系などの人々に対する人種的動機に基づく暴力事件、殺人事件が増加している。路上での騒乱を煽動する人種主義活動が、ネオナチやサッカーの試合で頻発している。当局がこうした人種主義活動を十分に非難していない。裁判所が人種的動機による犯罪について刑の執行猶予を認めている。不寛容、人種主義の全ての活動を明確に非難すること、人種差別を行う過激組織と闘う努力を強化すること、刑事司法当局が人種的動機による犯罪を取り扱えるよう十分に訓練を行うこと、ヘイト・クライムの統計をきちんととること。

ヘイト・スピーチに関して、委員会は次のことに強い関心を有する。排除や優越性を主張するネオナチのような集団が増加している。政治家が人種主義的レトリックを用いて、ロマ、移住者を犯罪者扱いしている。人種差別思想がインターネットを通じて拡散されている。委員会は次のように勧告する。人種的優越性の主張や人種差別の煽動を明確に非難すること、不寛容や憎悪の煽動を行う政治家に条約第四条(c)に従って適切な制裁を科すこと、メディアが寛容を促進し民族的多様性を尊重するよう促すこと、インターネット上のヘイト・スピーチと闘うために効果的なメカニズムを設立すること。