Saturday, September 13, 2014

ヴァロットン展――冷たい炎の画家

三菱一号館美術館で「ヴァロットン――冷たい炎の画家」展を観てきた。1865年にスイスのローザンヌ生まれでパリで活躍した画家(~1925年。なお、1900年にスイス国籍取得のままフランスに帰化、という)のため、ジュネーヴ美術館、ローザンヌ美術館、チューリヒ美術館などでいくつも見てきたが、まとめてみるのは初めてだ。初期にはナビ派に属したヴァロットンだが、やがて独自の道を歩む。画家としての地位を確立する前に、ジャーナルの世界で版画作品を発表しているが、そこには社会批判が込められている。モンブラン、マッターホルンや、「楽器」シリーズとは別に、「アナキスト」「学生たちのデモ行進」「暗殺」「街頭デモ」「突撃」「処刑」「自殺」、そして「これが戦争ダ!」シリーズ。今回初めて知った。
ヴァロットンの代表作と言えば、第1に、奇妙な静けさの裸婦像だ。「赤い絨毯に横たわる裸婦」「オウムと裸婦」「秋」。あるいは、「アフリカの女性」「赤い服を着たルーマニア女性」「海からあがって」。美人像ではなく、世界を見返すまなざしの女性たち。第2に、「ボール」に代表される、写真を活用した作品だ。異なる視点の写真を組み合わせて、不安定な構図の中に情景を描く。一見すると普通の光景だが、良く見ると不安になってくる。第3に神話ものだ。「竜を退治するペルセウス」「憎悪」「引き裂かれるオルフェウス」もジュネーヴで何度も見てきた。ここでも女性は美から切り離されている。
ヴァロットンが所有していた浮世絵も展示されていた。山水画や、海老蔵と団十郎、そして漫画挿絵(北斎漫画と似ている)。浮世絵の影響をどのように見るのか、型録には杉山菜穂子(同館学芸員)の解説論文「ヴァロットン――ジャポニスムの画家?」が掲載されている。

私の授業で「スイスの美術館」を始めた所なので、ここ数年、クレー展、セガンティーニ展を愉しんできたが、今年はこれからチューリヒ美術館展、ホドラー展と続く。今年は日本とスイスの国交樹立150周年だそうだ。有名どころもいいが、授業ではスイスゆかりの女性アーティストにも光を当てようと準備している。