Sunday, September 26, 2021

真実・正義・補償・再発防止保障に関する特別報告書の紹介(3)

引き続き、ファビアン・サルヴィオリ「真実・正義・補償・再発防止保障に関する特別報告者」の報告書を要約して紹介する。

 

Ⅵ 良き実行例と教訓

 

 A 法的枠組み

 

 サルヴィオリによると、拷問、強制失踪、ジェノサイド、人道に対する罪を法的に定義していない国もあるが、多くの国では刑法か特別法で定義している。ウクライナ刑法は、拷問、残虐な取り扱い、強制労働、国際的に禁止された方法での戦争の使用等の最重大犯罪の刑罰として、八年から一二年の刑事施設収容、被害者が死亡した場合は一〇年から一五年の刑事施設収容としている。ウガンダでは、国際刑事裁判所規程第五条の犯罪を法律で犯罪としているが、有罪判決が出たことはない。グアテマラでは、ジェノサイド犯罪は三〇年から五〇年、ジェノサイドの煽動は五年から一五年、人道の義務に対する犯罪は二〇年から三〇年とされている。

 アイルランドでは、国際刑事裁判所規程が定める犯罪について、アイルランド国内で起きても国外で起きても捜査を開始できるとしている。犯罪によって得た財産を没収して被害者補償に充てる規定もある。刑罰は終身刑、又は三〇年以下である。アルバニアは、国際刑事裁判所規程を国内法に取り入れ、普遍的管轄権を認めている。

 国際刑事裁判所規程は強姦犯罪を定義するだけでなく、性奴隷制、強制売春、強制妊娠、強制不妊、その他の性暴力というジェンダーに基づく犯罪を定義する。旧ユーゴスラヴィア国際刑事法廷とルワンダ国際刑事法廷は強姦を人道に対する罪と戦争犯罪としている。

 

 B 恩赦の撤回

 

 適切な責任追及を妨げるので、恩赦を取り消した国内法廷や、恩赦を憲法違反とした国内裁判所がある。ペルーでは、憲法裁判所が二つの恩赦法を憲法違反とした。ネパール最高裁は、被害者の共催の権利に反するとして、恩赦規定を破棄した。アルゼンチンでは、自己恩赦法は無効とした。あるサルバドル最高裁・憲法審は一般恩赦法を憲法違反とした。

 

 C 制度の容量、市民社会の参加、被害者中心性

 

 国際犯罪を記録するのに国際協力が貢献してきた。法医学捜査、専門センターのある国がある。ビッグデータの記録と分析が開発されている。ラテンアメリカでは、市民社会や被害者団体が専門分野で中心的役割を果たしている。

 アルバニアでは、司法改革によって人道に対する罪を担当する特別検察局が設置され、共産主義体制下で行われた行為の記録と訴追に貢献している。リベリアでは、内戦期の重大犯罪の特別法廷の記録出版に市民社会が貢献した。ルワンダ・ジェノサイドでは、二〇〇五年から一二年に開催されたガチャチャ法廷を国際的協力が支えた。コロンビアでは真実・正義・補償・再発防止包括的システムが被害者中心アプローチを採用した。

 立法レベルでは、重大人権侵害と国際人道法の重大違反の適切な法的定義を刑事法で行っている国がある。移行期の正義枠組みが通常の警報システムを補完している。公共政策レベルでは、重大人権侵害の訴追のために特別機関を設置している国があり、被害者や市民社会との協力関係を構築している。

 

 D 国際制度と国内制度の共生

 

 国内管轄権と国際管轄権の関係が近年、関心を集めている。普遍的管轄権原則が多くの国内法枠組みに導入され、外国の裁判所における有罪判決を獲得するようになった。1985年のスペイン司法制度法第234項の適用によって、外国でのピノチェット大統領の逮捕が可能となった。最近のドイツの判決では、シリア政府職員が人道に対する罪の共犯で有罪となった。アメリカでは、リベリア元大統領リチャード・テイラーの息子が拷問で有罪となり、スイスではリベリア反乱軍指揮官が強姦、殺人で有罪となった。

 国際制度と国内制度の共生には多くの積極的事例が出てきた。ボスニア・ヘルツェゴヴィナやセルビアでは、旧ユーゴスラヴィア国際刑事裁判所判決が国際基準を尊重する効果を持った。グアテマラでは、人道に対する罪の訴追に際して国際法を適用している。ハイリスク裁判所はドス・エレス虐殺事件などの訴追に際して国際法を適用してきた。

 リベリアとフランスは、第一次リベリア内戦時の行為の捜査に、裁判官、検察官レベルの密接協力をしてきた。

 ウガンダは国内状況で発生した事案について、国際刑事裁判所規程に言及し、ヨセフ・コニーと神の抵抗軍司令官の国際逮捕状を発行した。

 ウクライナでは、国内レベルと国際レベルの相乗効果が見られる。国債刑事裁判所検事局は、キエフとクリミアにおけるマイダン抵抗時に起きた事件について予備審査を行い、捜査開始を要請した。国内レベルでは、ウクライナ検察局は国際犯罪を捜査する特別部局を設置した。両者を総合する包括的制度は出来ていない。

 米州人権裁判所、国連人権委員会(国際自由権委員会)、国連拷問禁止委員会は、重大人権侵害と国際人道法違反の責任追及の義務に関して拡大司法機関を設置し、恩赦、免責、時効、不遡及等々のような法律上または事実上の障害の不許容性について吟味している。

 これえらの判決が国内レベルでの責任追及基準に影響を及ぼしている。米州人権裁判所のバリオス・アルトス対ペルー事件判決で、ペルー政府は、フジモリ政権下で国家機関による司法外処刑が行われた事実を認め、被害者が正義と真実を手にする権利にとって、恩赦法が障害となっていることも認めた。続いて、憲法裁判所が、問題の恩赦法を無効と判断した。エルサルバドルでは、米州人権裁判所の判断に促されて、恩赦法が無効とされた。ある千珍憲法裁判所は、シモン事件で、世界人権宣言、国際自由権規約、米州人権条約といった国際文書が国内法よりも上位にあると解釈した。

 不処罰と闘うための国内司法権と国際司法圏の協力は、例えば国際刑事警察機構(INTERPOL)に見られる。ルワンダ国際刑事裁判所では、性暴力・ジェンダー暴力に関する捜査と訴追、国際犯罪の国内管轄権について実践的マニュアルを作成した。ルワンダ国際刑事裁判所はプレスと協力して、ジェノサイド記念日を定め、ジェノサイド再発防止のため子ども向けの本を出版した。

 しかし、国際基準を適用しない国もある。ロヒンギャを標的とした事件では、国際司法裁判所や国連人権高等弁務官、国連人権理事会独立調査団による非難にもかかわらず、ミャンマー国内では前進が見られない。国際司法裁判所、国際刑事裁判所、国連人権理事会独立調査団、常設民衆法廷による努力に加えて、ガンビアの裁判所とアルゼンチンの裁判所が、数千人の殺害と七〇万人の国内避難の事件を追及しようとしている。