8月31日、米軍がアフガニスタンから撤退した。カーブルでは祝砲があげられた。
日本政府は邦人救出などと称して自衛隊機を派遣したが、たった1人救出しただけで、あとは米軍の要請で若干のアフガン人をイスラマバードに運んだという。
実は日本大使館員は12人全員、逃げていたことが判明した。日本に協力したアフガン人を全員棄てて、カーブル在住の日本人も見捨てて、自分たちだけ逃げたという。
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(ZOOMで)
はい、そうです。日本大使から「日本のために協力してくれ、いざという時には日本政府が守る」と言われました。
みんな、同じです。イギリス政府もフランス政府も、約束しました。だから、相談して、みんな協力しました。私は日本政府に協力しました。
日本に協力した私が悪いんですか。なぜですか。
ほかのみんなは家族を連れて退避しました。イギリスもドイツもフランスも韓国も、最後までフォローしてくれました。韓国政府は300人も連れて帰りました。退避したい人は、みんな退避しましたよ。
タリバーンに殺されるかもしれない人はどんどん出国しました。本当はアフガンに残りたいです。でも、命あってのモノダネです。
タリバーンが市中で外国協力者を探索しています。私のところにも深夜に妙な手紙が来ました。今は逃げるしかありません。
日本大使館に行ったら、空っぽでした。なぜ大使館の12人が真っ先にいなくなったのですか。何の伝言もありません。
他の国は30人のうち5人が残るとか、10人のうち3人が残るとかして、ビザを発給してました。イギリスの大使は最終日まで空港でビザを発給しました。全部ビザを出して、最後の最後にギリギリ脱出しました。
「命のビザ」ですか。そうです。イギリスや韓国に協力した通訳や家族はみんな「命のビザ」で助かりました。
「命のビザ」は日本語ですか? スギハラチウネ? 誰ですか、それ。
スギハラが、上司の命令に抗してユダヤ人にビザを出し続けて、たくさんのユダヤ人が助かったですって。
嘘でしょ。
全員いなくなったのは日本大使館だけです。それっきりです。
わかりました。私がばかだったんですね。
日本に協力した私が愚かだったんですね。
――ドンドン、ガンガン
ついに来ました。誰かがドアを蹴っています。もう最後です。
「命のビザ」、見てみたかった――
(ZOOM切れる)