立野正裕『紀行 忘却を恐れよ』(彩流社、2021年)
https://sairyusha.co.jp/products/978-4-7791-2767-0
<コロナ禍により移動できなくなった旅人は故郷へ、日本国内へ、「思索」の旅をする。
第1部では故郷・遠野を軸に「語り」の世界を追究し、第2部では日本全国を舞台とした文学作品、映画作品を辿ることで思考をめぐらした。>
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立野の「紀行」シリーズ10冊目である。30年余りに及ぶ旅の数々、その旅先での思索の数々を、この10年余の間に続々と著書として世に送り出してきた。
矢継ぎ早に「紀行」を送り出してきた立野は休む間もないのではないかと見えるが、旅先でいかに多忙であり、いかに北へ南へ移動し、いかに思索を巡らせようとも、その旅先こそが心の休まる時間でもあるのだろう。
第1部は、故郷・遠野の旅である。
第1章・花冷えの道 吉里吉里四十八坂
第2章・沖縄と遠野 三つの手紙
第3章・遠野物語の土俗的想像力
第4章・河童と羅漢 旱魃の記憶
第5章・語り部礼讃 遠野物語と千夜一夜物語
第6章・語り部の墓 佐々木喜善
第7章・忘却を恐れよ 大津波の跡
遠野における少年時代の記憶、文学研究者となってからの短い帰郷、そして3.11以後の様相を変えた「故郷」への帰還の折々に、柳田国男『遠野物語』を手掛かりに、あるいは東北の文学者たちの仕事、世界の文学の名作を手掛かりに、生きること、語ること、笑うこと、伝えることを、問い続ける。
表紙の写真「遠野荒川高原に立つマダの木」は著者撮影――「自分が何処を旅し、何処を漂泊しようと、自分のうちに一本のマダの木が根を張っている」。
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第2部は、日本各地への旅であり、北海道、津軽に始まり、奄美まで南下するが、いったん秋田に戻り、最後は宮本武蔵の「我事に於て後悔せず」の読解で終わる。
第1章・北海道への旅 朱鞠内湖
第2章・津軽への旅 龍飛崎
第3章・若狭への旅 水上勉・古河力作・徳富蘆花
第4章・土佐への旅 物部川渓谷
第5章・奄美大島への旅 田中一村
第6章・秋田への旅 戸嶋靖昌
第7章・精神の旅 宮本武蔵と独行道
朱鞠内湖では殿平善彦らの空知民衆史講座による朝鮮人遺骨発掘に学びながら、立野は「自分の心を掘る」――歴史意識や人権意識の根源を探る。物部川渓谷では『きけわだつみのこえ』の木村久夫の遺書を手掛かりに、カーニコバル島のスパイ事件に思いをめぐらせ、「処刑までの日々の揺れ動く心のありようを、絶望と怒り、諦念と執着、感動と感謝、敬虔と慎み、その一つ一つに向き合っ」た木村の「運命」――絶望と将来の世代へのかすかな希望に目を向ける。
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旅する文学者が辿り着いた境地
https://maeda-akira.blogspot.com/2020/01/blog-post_11.html
遡行する旅、氾濫する旅
https://maeda-akira.blogspot.com/2017/03/blog-post_5.html
文学者が旅するということ