ドネル・ボードマン『放射線の衝撃――低線量放射線の人間への影響』(PKO法「雑則」を広める会)
原著は1990年のもののようで、1991年に翻訳されています。翻訳は肥田舜太郎さん。それを、2008年にPKO法「雑則」を広める会が継承し、本年7月に通算第5刷が出ました。用いられているデータは1990年までのものですから、古いと言えば古いのですが、基本的な考え方は参考になります。何よりも、2008年5月30日の大阪高裁の、原爆症認定集団訴訟判決において引用されているのが本書なのです。本文107頁。
抜粋
序論
第一章 低線量放射線の影響
第二章 問題の重要性
第三章 電離放射線生物学
第四章 被曝者の医療管理
第五章 討論
第六章 勧告
第七章 総括と結論
後書きの言葉
附録A~K
症例発表
冒頭の抜粋は「放射線被曝者の診断と医療管理者の諸問題への入門」とあり、「入門書」ですが、私にはかなり難しいです。「重要な科学的な調査が、医学の専門家もふくめて一般大衆から大きく遠ざけられ、研究者の間でさえ意見交換が制限された」と始まります。状況は今も変わっていないように思います。もちろん、「だれが制限しているのか」を問う必要もあります。すぐ続いて「電離放射線はどんな線量レベルでも、すべての生物学的物質に対し、分子、原子の次元で高度に有毒である;それは抑えきれないし制御しえない」としています。
総括と結論を紹介しておきます。
A.電離放射線への被曝は-低線量への被曝でも-急性放射線症候群、又は晩発性の癌、白血病、先天性欠損以外に、より複雑な障害を引き起こす。
B.電離放射線によるエネルギーの沈着は無作為の経過をとる。物質の小さな容量の中で相互に影響し合う同エネルギーのまったく同じ分子は、偶然だけの理由によってエネルギー量を違えて沈着する。(略)
C.生物学的な修復反応は奇跡的だが不完全である。損傷はあらゆる種類の生物物質に対し、執拗に、時には世代を超えて与え続けられる。治療法はない。
D.低線量放射線被曝の明らかな障害のすべてを認めるために、われわれは、開業医が非定型的で通常のパターンでない、どんな器質的、機能的な異常とも同じ肉体的な異常を伴う疾病に注意しなければならないと確信している。残念なことに、臨床記録は常にあまり助けにならない。
E.人工の放射線は増え続けており、何世紀にもわたって生物圏の一部分であり続けるだろう。放射性同位元素を非活性化する方法は、現在のところ存在しない。