安斎育郎『福島原発事故――どうする日本の原発政策』(かもがわ出版、2011年)
http://www.kamogawa.co.jp/kensaku/syoseki/ha/0441.html
「あとがき」が4月18日付で5月に出た本です。原発問題に長年取り組んできた放射線防護学の専門家だけあって、いち早く重要な問題提起をされていました。当然のことながら5月以後の情勢は含まれていません。
放射線に関する解説は、著者の他の本ではずっと詳しいのですが、本書では福島第一原発事故の理解に必要な限りで書かれているので、読みやすいです。もっとも、低線量被曝について詳しく知りたいと言う場合には、本書ではなく、著者の他の本を読むべきことになります。
巻末付録の1972年の日本学術会議での演説を読んで驚愕しました。これが39年前の演説? いや~~本物は違う、とため息が出ます。素晴らしい問題提起です。「32歳の若造だったくせにと、ときどき顔が赤くなる思いですが、よく言ったという感じもあります」とご本人も書いていますが、さすが、です。
原発問題について6つの点検基準を整理しています。
1.自国に根ざした自主的なエネルギー開発であるのか否か。
2.経済優先の開発か、安全確保優先の開発か。
3.自主的・民主的な地域開発計画とどう抵触するのかしないのか。
4.軍事的利用への歯止めが保障されているか否か。
5.安全性の確保、すなわち発電所労働者と地域住民の生活と生命の安全を保障し、環境を保全するに十分な歯止めが、どれほどの実証性をもって裏づけられているのか。
6.民衆的な行政が実態として保障されているのか否か。
第一章 | 福島原発事故による放射能災害と私たちの生活 1、福島第一原発事故の態様 2、放射性物質の危険性 3、事故の収拾に向けて 4、私たちはどうすべきか |
第二章 | 放射線による被爆とは何か 1、放射線とは何か 2、放射線の人体への影響 3、被曝への対処はどのようにしたらいいのか |
第三章 | 原発の、何が問題なのか 1、原発とは何か 2、「原発安全神話」を改めて見直す |
第四章 | どうする、日本の原発政策 1、福島第一原発の廃炉は避けられない 2、既存の原発の総点検を 3、日本の原発政策の再検討を 4、原発の歴史から見えてくること 5、これからのエネルギー政策を考える |
第五章 | 生き来し方を振り返って 1、私と原子力分野との関わり 2、アカデミックハラスメントを超えて |
付 | 一九七二年日本学術会議原発問題シンポジウムでの基調演説 |