山名元・森本敏・中野剛志『それでも日本は原発を止められない』(産経新聞出版、2011年)
http://www.sankei-books.co.jp/m2_books/2011/9784819111454.html
<日本にトドメを刺すエネルギーボケの国民世論
「夢物語」で日本は沈没する
代替エネルギーなき現実を直視せよ>
<「脱原発」シミュレーションでわかる日本の危機
「再生エネ」法で貧乏人がバカを見る
電力自由化論こそ経済性重視・安全性軽視
脱原発派「軍隊そのものを持つな」と同じ構図>
本書は原発推進本です。福島原発事故のため、14基増設はいったん否定されざるを得ないと認めつつ、その後も原発推進は必要である、火力、水力、原発と自然エネルギーのミックスでいくべきとしています。
本書の中心は、山名元
http://www.ne.t.kyoto-u.ac.jp/ja/information/laboratory/person/yamanahajimu-fold
http://www.sangakuplaza.jp/page/131694
つまり「原子力ムラ」の住人です。あの京大原子炉実験所教授。
軍事評論家、安全保障研究者の森本敏は有名です
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A3%AE%E6%9C%AC%E6%95%8F
http://www.office-morimoto.net/
中野剛志
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E9%87%8E%E5%89%9B%E5%BF%97
目次
第1章 フクシマ後の異常な言論空間 中野☓山名
第2章 「脱原発」と「反国家」の関係 中野☓山名
第3章 忘れられた「核のゴミ」問題 中野☓山名
第4章 大事故の責任と民主党政治 森本☓山名
第5章 安全保障を理解できない日本 森本☓山名
第6章 それでも「原子力」は止められない 山名
第1~5章は対談形式です。
3人のプロフィルと目次を見れば、ほとんど内容も推測できます。その推測通りのことが書いてありますが、もちろんそれだけではありません。
第1の特徴は、福島第一原発事故の被害実態(規模、漏出放射能の総量、放射線汚染地域の広がり、避難者の現状など)について一切言及がないことです。議論はひたすら「脱原発」への批判に割かれています。
第2の特徴は、具体性がまったくないことです。「脱原発」として批判している対象は、菅直人政権と「脱原発運動」ですが、「脱原発運動」とは何か、だれがどんな主張をしているのかが出てきません。同じ京大原子炉実験所の人間にも言及はありません。小出、今中はもとより、広河、鎌田、鎌仲、広瀬、明石・・・といった名前も一切出てきません(代替エネルギー問題で孫正義が少し出てきます)。そして、「脱原発」派が今回の災害を「想定外」などと言っているという奇妙な批判をしています。
第3の特徴は、見事な開き直りです。一番わかりやすいのは、第3章で、「脱原発」などというが、使用済核燃料は現に大量にあり、今後も増えるから処理方法を考える必要があり、だから六ヶ所や高速増殖炉だという主張です。ゴミを漏出している人間がお隣に対して「ごみ処理がなっていない」と説教しているようなものです。しかも、なんと、原発はトイレのないマンションと批判されるが、高速増殖炉は「理想のトイレ」とまで開き直っています。
第4に、異様な国家主義、軍事優先です。「反原発運動」は「反国家テロ」だとか、原発政策はいつでも核兵器をつくれるという意味での「抑止力」であるとか、脱原発では中国に対峙する原子力空母が持てなくなるとか、本音なのか、ただの放言なのか。
ともあれとても「勉強」になる本です。