Monday, February 10, 2014

ヘイト・クライム禁止法(53)ポーランド

2月10日、人種差別撤廃委員会CERDは、ポーランド政府が提出した報告書の審査を行った。ポーランド政府代表は10名ほど。傍聴のNGOは30名近かった。ナチスによる被害を受け、今もヘイト・クライム対策や、ホロコースト教育に力を入れているポーランドだけあって、ヘイト・クライムの箇所ではコマンド責任にも言及していた。捜査官への教育では、捜査官もヘイトに陥ることがありうることを教えると言ったことも述べていた。                                                                                                     ********************************                                                                                      前回のポーランド政府報告書(CERD/C/POL/19. 19 May 2008)については、前田朗「ヘイト・クライム法研究の進展」『Let’s』81号(2013年)で、紹介した。同じくポーランド政府が拷問禁止委員会CATに提出した報告書(CAT/C/POL/5-6. 15 November 2012)におけるヘイト・クライム関連の記述もそこで紹介した。(なお、いつものことだが、以下の地名その他の固有名詞の表記は正確ではない。)                                                                                                              ********************************                                                                                                                            今回のCERDへの報告書(CERD/C/POL/20-21. 6 August 2013)によると、ポーランド政府は平等処遇や人種差別の禁止のために憲法、刑法、労働法、国民的民族的マイノリティ法などで対処している。さらに、人権擁護者法もある。                                                                                                                            前回報告書によると、刑法第256条及び第257条は、国民、民族、人種及び宗教の差異、又はいかなる宗派に属さないことのために、公然と憎悪を煽動した者、その国民、民族、人種又は宗教関係ゆえに、又は、いかなる宗派にも属さないことゆえに、住民の中の集団又は諸個人を公然と侮辱した者、又はそれらの理由で、他人の人間の尊厳を侵害した者は、訴追されるべきとしている。他方、刑法第119条1項・2項は、集団又は個人に対して暴力を用いたり、違法な脅迫をすること、そうした犯罪の実行を公然と煽動することを禁止している。                                                                                                                                            今回報告書によると、刑法一部改正が行われた。刑法256条改正により、情報の受け手を、ファシストその他の全体国家の公然たるプロパガンダに煽動したり、国民的、民族的、宗教的差異や、宗教的信念のないことによる差異に動機を持つ憎悪に煽動する内容をもつ、印刷物を生産、記録、照合、購入、販売、所有、呈示、輸送又は移送し、その他の物を記録する行為を犯罪としている。実行者は、罰金、自由制限刑、又は2年以上の自由剥奪刑である。実行者が有罪となった場合、裁判所は当該物が実行者の所有物でなくても没収できる。この規定はインターネットを通じて行われる憎悪の煽動にも適用される。刑法119条の用語も改正された。119条1項は従前どおりである。119条2項(公然煽動)は、刑法126a条に移された。さらに、刑法118a条が追加され、政治的、人種的、国民的、民族的、文化的及び宗教的理由、又は世界観の差異、ジェンダー、宗教的信念のないことゆえに、人の集団の生命をねらい、又は迫害することを犯罪として規定した。刑法126a条は、118条に定義された行為(ジェノサイド、集団の生物学的破壊)の実行を公然と煽動すること、である。                                                                                                                                   ヘイト・クライムについて、2010年には、検事局は全国で163件の刑事手続きを行った。うち30件(38人)について曽於追試、72件は却下、54件は予備審問で却下、6件は処分保留。却下事案の大半は、実行者の特定ができなかったり(38件)、法定要件を満たさなかったものである(23件)。社会的有害性がないという理由で却下となった事案はない。公然侮辱事案の多くは、インターネット上、壁やファサードへの落書きである。                                                                                                             2011年前半期には、109件取扱い、そのうち11件(16人)につき訴追、53件が却下、1件が条件付き却下、36件が予備審問で却下である。実行者の特定ができなかったのが29件、法定要件を満たさなかったものが12件、証拠不十分が10件。                                                                                                                                                      以上の事案では、インターネット上の事例が最も多く、次いで壁の落書き、サッカーの試合中、そして書籍や音楽の順である。                                                                                                                              ファシスト・プロパガンダについて、2010年、37件のうち、訴追が6件、却下が19件、予備審問で却下が12件。                                                                                                                         2011年前半期では、22件のうち、訴追が2件、却下が14件、予備審問で却下が6件。ワルシャワ検事局が訴追した事案には、第三帝国の国歌とヒトラーの演説と写真をソーシャル・ネットワークにアップした事例が含まれている。                                                                                                                                                  被害者について見ると、2010年と2011年前半期で、反ユダヤ主義(それぞれ42、27)、人種的理由(16、14)、ロマに対する憎悪(14、8)である。                                                                                                                                     具体的な判決例も紹介されている。2009年3月19日、ヤスロ地裁は、ロマ出身者を侮辱し、威嚇した20歳の女性に、10か月の自由制限刑と30時間の社会奉仕命令を言い渡した。2009年6月23日、シュザノウ地裁は、古いユダヤ人墓地で墓石をひっくり返した3人の14歳に、墓地所属の博物館での講習に参加することと、墓地で6時間の社会奉仕命令を言い渡した。2010年7月14日、ヤスロ地裁は、ロマ出身者を侮辱、その人格の不可侵性を侵害した35歳の男性に、1年6か月の刑事施設収容(3年の執行猶予付き)を言い渡した。2010年12月14日、ラクロウ地裁は、3人の男性に有罪を言い渡した。3人は、全体主義を促進し、国民的差異に基づいて憎悪を煽動し、特定集団を国籍や人種に基づいて侮辱し、暴力を煽動するなど、公共のお秩序に対する犯罪を行うために組織を設立したメンバーである。3人は、それぞれ1年6月、1年1月、1年3月の刑事施設収容となった(実刑)。