Friday, February 07, 2014
ヘイト・スピーチ法100か国調査めざして
2月6日にブログにアップした「ヘイト・クライム禁止法(50)ベルギー」で、ヘイト・クライム法、ヘイト・スピーチ法の紹介が50回に達した。ブログにアップしていない国の法状況も論文で紹介してきたので、その合計が75か国になった。2010年に『ヘイト・クライム』(三一書房労働組合)を出版して以後の私のヘイト・クライム研究の柱の一つが諸外国の法状況の紹介である。「100か国調査して紹介する。それが終わるまでは、比較法について分類整理したり分析したりせず、ひたすら調査紹介を続ける」と公言してきた。100か国はかなり遠い先の話と思っていたが、75か国になったので、ようやく先が見えてきた。
100か国調査の話は、これまでの比較法研究に対する批判から出ている。第1に、日本における比較法研究は、その多くが「一国主義研究」である。アメリカ、フランス、ドイツなどのうちどこか一か国の法状況を調査して、翻訳・紹介し、さらに分析も加えて、そこからただちに教訓等を引き出すという方法である。これをなぜか「比較法」と呼んでいる。第2に、「欧米中心主義」であり、しかもとくに「アメリカ中心主義」である。ヘイト・クライム、ヘイト・スピーチの研究は圧倒的にアメリカ法研究だ。一部、刑法学者はドイツ法を研究しているが、憲法学者はアメリカだけを紹介する。欧米中心主義には、日本が「西側の一員」であり、西欧的な法体系を一応学んできたという理由があるが、それにしても極端である。特にヘイト・スピーチでは、アメリカ法に学んで憲法の表現の自由のレベルでだけ研究し、他の問題をすべてネグレクトする。そして、アメリカの状況だけを根拠に、世界はこうなっている、と見事に断定する。そういうレベルの研究が多すぎる。
こうした研究史に対する皮肉の意味を込めて、100か国調査を始めた。もちろん、一か国の状況を調査するだけでも大変なのに、一人で100か国の調査などできるはずがない。できるはずのないことを始めたのは、ヘイト・スピーチ法については、人種差別撤廃条約4条に規定があるので、人種差別撤廃条約を批准した各国が人種差別撤廃委員会に報告書を出していて、そこに関連情報の記述があるからだ。人種差別撤廃委員会の資料を見れば、とりあえずの調査は可能だ。歴史研究は無理だし、判例研究や学説研究もすぐにはできないが、おおよその状況を紹介することは可能だ。とすれば、次のAとBの2本の研究によって、ヘイト・スピーチ法の国際的動向を立体的に明らかにできる。
A 従来通りのアメリカ、ドイツなどの一国に関するヘイト・スピーチ法の総合的研究(歴史、立法、判例、学説研究)
B 人種差別撤廃条約4条関連資料に基づく100か国調査
このAとBをそろえることが重要だ。Aについては憲法学者や刑法学者の研究に委ねることにして、私はBを徹底的にやることにした。それが3年経って75か国だ。ずいぶん時間がかかったが、意外に早かったような気もする。もともと人種差別撤廃委員会には春と夏に参加してきたし、政府報告書は人権高等弁務官事務所のウェブサイトでアクセスできるから、そう難しいことではない。今の調子なら今夏までに100か国に到達できそうだ。
ということで、次のステップの研究も考えておかなくてはならない。100か国の調査で得られた情報をどのように分類整理し、分析するのか。その概要は頭の中にあるが、そのための論文執筆に時間は限られている。龍谷大学を拠点に開催してきたヘイト・クライム研究会で報告して、議論の素材にしてもらう予定だ。
なお、100か国にとどまらず、人種差別撤廃条約批准国170ほどの全てを調査せよとの提案も受けている。もちろん、継続調査課題だ。