Sunday, February 23, 2014

ザンクト・ガレン美術館散歩

ザンクト・ガレンのテキスタイル博物館に行ったところ、3月まで閉館になっていた。残念。世界遺産のカテドラルを見てから、ザンクト・ガレン美術館にまわった。旧市街の一歩外にある公園の中に劇場と美術館がある。劇場はメキシコを代表する画家フリーダ・カーロをテーマとした演劇公演中だった。                                                                                                                  ザンクト・ガレン美術館は2つの企画展。1つは、フランシスコ・シエラの「アヴァロン」という展覧会。1977年チリ生まれ、1986年からスイス在住で、ザンクト・ガレン、シャフハウゼンなどで音楽、絵画、写真を学んだという。スイス美術賞やロンドンの展覧会で高い評価を得た若手現代アーティストのようだ。展示は4部構成。配布された資料の解説はドイツ語なのでよく分からないが。まず、大きな皿に一筆書きのような感じで顔を描いたものを油彩で描いた「怒る男」。陶器の皿と、ピカソのタッチの顔の輪郭のアンバランスが面白いと言えばおもしろい。次に、コーヒー・セットや灰皿の絵だ。これも油彩で、奇妙なリアリズムだ。3つ目が、「アバロンの形態学」。灰色のプラスチックで作った長方形や三角の素材を、油彩で描いたもので、7点のシリーズだが、趣旨がよくわからなかった。                                                                                                                                             最後に油彩画3点だが、ここが代表作の扱いになっていた。代表中の代表が「庭園にて」だ。遠くから見ると、公園の中に青いドレスの若い女性がいて、その姿がみごとに鮮やかに浮き立っている。素敵な写真、と思わせるが、実は油彩。近くで見ても、丹念な筆使いで、鮮やかな写真風の光景を描いている。18世紀後期の写実主義の再現だそうで、たしかに公園の緑と茶色の生け垣や、背景のアルプスらしき山の描き方は、写真よりも写真らしい写実だ。解説ではハイパー・リアリズムとなっている。しかし、それだけだ。確かに写実的で巧みだが、いまどき珍しくない。                                                                                                                                            と思ったら、解説にはその先があった。若い女性は白い人形を持っている。スイスでは有名なメリンゲ。その2本の手が骸骨で、その片手は本を持っている。その本は、表紙等の体裁はハロー・キティの子ども本に見えるが、実はヒトラーの『我が闘争』だという。若い女性と人形が乗っている赤い絨毯は画家の祖母でユダヤ人のものだったという。画家は、文化史的背景のみならず、個人的観点と社会的関連を示したのだ、と解説に書かれている。                                                                                     しかし、よく理解できない。第1に、祖母がユダヤ人ということは、作品からはわからない。赤い絨毯はほんのわずか見えるだけで、模様も分からない。第2に、本は『我が闘争』だというが、ごくまじかでじっくり見ても、それはわからない。本のタイトルはMein Kampfとは読めない。特にMとKは、どんなに見ても、そう判読できない。少女から大人になる途中の若い女性が、メリンゲ人形の骸骨の手にハロー・キティ本のふりをした『我が闘争』を持って、ユダヤ人祖母の絨毯に乗っていることに、画家本人に何らかの文化史的かつ社会的文脈での「思い」はあるのかもしれないが、肝心なことは、作品から読み取れない。解説を読んではじめてわかることだ。公園の生け垣や芝生が緑というよりも茶色になっていて、花が咲いていないので、冬なのだろうが、その意味もはっきりしない。ヒトラーが暗示する時代の冬とも読めるが、冬の公園に鮮やかで可憐な赤と白の花のような美女が立ち上がるという印象だ。                                                                                                                            もう1つの展示は、Post/Postminimalというもので、ロルフ・リッケの収集品だ。1970年前後のニューヨーク・アートシーンの作品をいくつかと、2010年前後の地元スイスの作品を、並べて展示していた。バリー・ルヴァの「長い岸辺」(1968年)、ビル・ボリンガー「ロープ」(1969年)、リチャード・セラ「コイル」(1968年)、ロマン・シグナー「砂」(1973年)。そして、ヴァレンティナ・シュタイガー「衣装ハンガー」(2013年)、カティンカ・ボッケ「ポーズ」(2011年)、マリアナ・カスティーヨ・デバル「安楽でないオブジェ」(2012年)といった作品群だ。70年ニューヨークと2010年スイスの現代アートの対比が何を狙ったものか、私にはわからない。ニューヨークとスイスの現代アートの流れを踏まえた人にしかわからないだろう。                                                                                                                                                    ザンクト・ガレン美術館は、30年ほど前まではよくある西欧近代美術館でマネやジャコメティを所蔵していたらしいが、その後、現代アート専門になったようで、近年開催された企画展はいずれも西欧の現代アートのようだ。併設されている自然博物館を見て帰った。