Tuesday, February 18, 2014

ヘイト・クライム禁止法(58)スイス(2)

今回のスイス政府報告書には、条約第4条に関する具体例は前回報告した、と記載されていた。スイス政府が2008年の人種差別撤廃委員会73会期に提出した報告書(CERD/C/CHE/6. 16 April 2007)によると、2005年12月13日、反レイシズム連邦委員会は1995年から2002年までの刑法第261条に関する判決の統計を公表した。裁判所に持ち込まれた事案は212件で、判決や決定は277ある。212件の約半数は却下された。残りにつき刑事手続きが進行した。110件のうち80%は最終的に有罪となった。                                                                                   1)「ダヴィデの星の前、ゲスラーの帽子の前でお辞儀をさせてくれ」という表現は、ユダヤ人に対する憎悪と差別の煽動に当たるとして訴追がなされた。物事の本質に即して、裁判所は、これが憎悪、ユダヤ人の絶滅の呼びかけであるとした。ウィリアム・テルは結局ゲスラーを殺したのである。                                                                                                  2)1999年、チューリヒの司法当局は「ユダヤ人と仕事をするなら、騙されることになるだろう。ヒトラーの『我が闘争』を読め。50年前の真実は今も真実だ」という表現は、ユダヤ人の組織的名誉毀損のイデオロギーの宣伝に当たると判断した。実行者は600フランの罰金である。                                                                                                         3)さまざまな運搬場から100人もの運転手がやって来る倉庫の職場で、被告人は被害者を「セルビアの豚」「尻の穴」と呼んだ。2002年、バーゼルの司法当局は、「セルビアの豚」は人間の尊厳を損ない、他人の名誉を毀損する犯罪に当たるとし、500フランの罰金とした。                                                                                             4)連邦最高裁は、ナチスドイツが人間殲滅にガス室を使用したことに疑いをはさむことは、ホロコーストの重大な過小評価であると判断した。1998年にアールガウ地裁が下した有罪判決を維持し、歴史修正主義者に15か月の刑事施設収容と8000フランの罰金が確定した。                                                                                                                       5)チューリヒ高裁は、有色人へのサービスを拒否して、「お前の国からの客なんていらない」と言った企業主に600フランの罰金とした。                                                                                                               6)2004年5月27日、連邦最高裁は、刑法第261条の公然性の概念を明確にした。人種主義的行為は公然と行われた場合に犯罪となる。それまで最高裁は、大きな集団の人々の前で行われれば、その人々に結びつきはなくても犯罪が成立するとしていた。このため、極右的見解を広めるスキンヘッドの集会は、入場チェックを行う私的集会や、非公開集会という形で行うことができた。最高裁は、刑法第261条の公然性に関して、非常に小さな私的サークルだけで行われたのでなければ処罰されるとした。入場チェックをしたり、参加者を選抜したとしても、それだけでは私的とはみなされない。                                                                                                                          7)アルメニア・ジェノサイドを否定した事案で、最高裁は当該犯罪は公共秩序犯罪であるとした。それゆえ、個人の法的権利は間接的に保護されるに過ぎない。個人被害者は当事者として現在した必要がない。                                                                                                                             他方、人種差別のシンボルを公然と展示・着用したり、その他の方法で公衆がアクセスできるようにすることを犯罪としようという立法提案がある。極右過激派のシンボルだけでなく、暴力や人種差別を唱道するすべての過激運動のシンボルに適用しようという意見もある。                                                                                                                               人種差別撤廃委員会はスイス政府に次のような勧告をした(CERD/C/CHE/CO/6. 23 September 2008)。                                                                                                                                委員会は、スイス政府が条約4条を留保していることに関心を有する。スイス憲法が表現の自由と集会の自由の重要性を表明していることを考慮しつつ、委員会は、表現の自由や集会の自由は絶対的ではなく、人種主義や人種差別を促進・煽動する団体の設立や活動は禁止されるべきだと呼びかける。この点で、委員会は特にスイスで人種主義や外国人嫌悪が台頭し、そうした政党や団体が活動していることに関心を有する。委員会は、条約第4条の義務的性格に照らして、スイスが条約第4条の留保を撤回し、人種主義と人種差別を促進・煽動する団体を違法で禁止されると宣言するよう勧告する。この文脈で、委員会は一般的勧告15号(1993年)に注意を喚起する。                                                                                                                            委員会は、さらに次のように勧告した。委員会は、スイスにおいて、皮膚の黒い人に対する警察による過剰な実力行使が増加しているという報告に関心を有する。委員会は、あらゆる形態の人種差別的慣行及び警察による過剰な実力行使の根絶のための措置を取るよう促す。法執行官の活動に関する不服申立てを調査する独立機関の設置。申し立てられた実行者への懲戒手続き及び刑事手続き、被害者への適切な補償。警察官への研修訓練の継続。マイノリティの警察官への採用等。