Sunday, June 14, 2015

文学者が旅するということ

立野正裕『紀行 失われたものの伝説』(彩流社、2014年)

『精神のたたかい』『黄金の枝を求めて』の著者による最新の旅行記である。若き日に出会ったフォースター『インドへの道』以来、英文学者として、近現代の文学と歴史を徹底解析してきた著者は、人はなぜ旅をするのかを問いながら、戦争と平和、非暴力のたたかい、戦争文学の矛盾と輝きを丹念に論じてきた。読者は、ノルマンディへ、イタリアへ、ウクライナへ、トルコへ、知覧へ、そしてドイツへと誘われる。キース・ダグラス、カルロ・レーヴィ、ミハイル・スヴェトロフ、ナーズム・ヒクメット、フランツ・フォン・シュトック、ラファエロ、カート・ヴォネガット。20世紀以後の近現代文学と映画を題材に、虐殺や空爆やテロに満ちた現実世界に文学者がいかに挑むのか。小さいが、重い1冊である。