弘仲淳一郎『無罪請負人』(角川ONEテーマ21、2014年)
8月3日、祭りで燃え上がっている八王子から、のどかなグランサコネの山小屋に移動した。朝方未明、寒くて目が覚め、毛布を追加した。成田空港で買ってシベリア上空で読んだのが本書。
刑事弁護中心ではないが、著名な刑事事件を担当してよくニュースにも出て来る著者の本だ。「私はこれまで担当した事件で、無罪判決を得たのは一〇件程度でしかない。件数でいえば、私以上に無罪を勝ち取っている弁護士はたくさんいる。」確かにそうだが、ロス疑惑事件、薬害エイズ事件、郵便不正事件・村木厚子冤罪、小沢一郎陸山会事件など、検察側が鳴り物入りで総力を挙げて被告人を徹底追及した事件で無罪を取ってしまうところが著者の凄いところだ。マスコミで無罪請負人と呼ばれ、それが本書のタイトルになっているのも、頷ける。本書は、こうした著名事件のポイントやエピソードを紹介しながら、日本の刑事裁判の問題点(長期の身柄拘束により自白を強要し、自白に基づいて有罪判決を量産する人権侵害の人質司法)を明らかにしながら、弁護士の仕事についても解説している。勾留されて追い込まれた村木厚子さんを家族が支えた話や、架空のストーリーに熱中した検察が自分のストーリーに目を奪われて動機の説明がつかなくなった話はおもしろかった。ロス疑惑の三浦和義さんをサイパンに行かせてしまった話の説明は疑問だし、一事不再理などと言っているのも法律論として全く不十分だが。他方で、住管・整理回収機構・中坊公平への批判はもっともである。権力から独立して人権擁護を追求するべき弁護士が金目当てで権力まみれになるさまは情けない。時代の変化とともに、弁護士の立ち位置が変わってきたと言う。司法改革やロースクールなどの改革の影響もあっただろう。刑事司法はさらに悪化の兆しがあるだけに、刑事弁護も厳しくなりそうだ。本書を読んだ若者が刑事弁護を目指すようになるといいのだが。