ニュージーランド政府が人種差別撤廃委員会82会期に提出した報告書(CERD/C/NZL/18-20. 14 June 2012)によると、世界人権宣言、条約第四条、条約第五条を政府は尊重している。前回(2006年)報告書(CERD/D/NZL/17)で報告した内容が維持されている。ニュージーランドには特別のヘイト・スピーチ法はないが、人権法第一三一条は人種的不和の煽動を犯罪としている。
人権法第六一条(人種的不和の不法性)違反でなされた告発は、三一件(二〇〇七年)、二三件(二〇〇八年)、三〇件(二〇〇九年)、二一件(二〇一〇年)である。人権法には表現の自由の規定もあり、単に人種に言及しただけでは不法とはならず、民族的敵意を引き起こそうとするものでなければ犯罪とならない。適用事例は二〇〇九年に一件あったが、有罪とはならなかった。
二〇〇二年の量刑法第九条は、量刑に際して裁判所は、犯行者が当該犯罪を、人種、皮膚の色、国籍、宗教、ジェンダー・アイデンティティ、性的志向、年齢、障害などの特徴を共有する人々の集団に対する敵意のゆえに行ったか、その敵意がその特徴ゆえに生じたのか、犯行者が被害者はその特徴を有していると信じたのか否かを考慮しなければならない。
『刑事司法統計年報二〇〇九年』は、人種的に動機づけられた犯罪など偏見犯罪に関する情報を取り上げている。警察は今後も調査を続ける。政府は人種的に動機づけられた犯罪の公的統計を有していないが、警察は、人種的動機による差別、ハラスメント、人種主義事件を報告するようになってきた。メディアでも言葉による侵害から身体的虐待まで、人種的に動機づけられた暴力事件を報道するようになってきた。
委員会はニュージーランド政府に次のような勧告をした(CERD/C/NZL/CO/18-20. 17 April 2013)。人権法によって人種的不和の煽動を非難しているが、サイバースペースで行われている人種憎悪の煽動に対する包括的戦略が欠けている。インターネット上の人種憎悪の煽動に条約第四条に従って対処する包括的立法をするよう勧告する。内閣のメンバーが、中央アジア・中東出身者の皮膚の色、出身国、宗教に関して煽動的な発言をしたのは残念であるが、司法大臣及び人種関係委員会がこの発言を強く非難したのを歓迎する。一定の民族的及び宗教的集団に対するステレオタイプや偏見と闘うために啓発を通じて民族的調和を促進する努力を強化するよう勧告する。