陣野俊史『サッカーと人種差別』(文春新書、2014年)
友人が病気入院しているのでプランパレの南のジュネーヴ大学病院に見舞いに行ってきた。帰りは小雨。ちょっと寒くて風邪をひきそうだった。
本書はとてもタイムリーな本だ。浦和レッズ・サポーターによるJapanese Only事件を契機に、サッカーにおける人種差別と反差別の動向をフランス中心に紹介・検討している。「人種差別、その事件簿」では、2000年以後に起きたエマニュエル・オリザデベ、ティエリ・アンリ、サミュエル・エトーなどに対する主な差別を取り上げ、最新事例ではバナナ投げ込み事件と、即座に拾って食べたダニエウ・アウベスの機智と、それにもかかわらず差別の解決にはつながらないことも含めて、考える素材を提供している。「個人史のなかの差別」では、ジョン・バーンズ、ニコラ・アネルカ、クリスティアン・カランブーの3人に絞って、それぞれの歴史的背景から差別の実態に迫る。「差別と闘う人びと」では、FAREをはじめとする反差別キャンペーンの試みと成果を紹介し、レイシストにならないためにいかにしてコスモポリタンとなるかという課題を提起する。
著者は文芸評論家で、フランス文学や日本文学を論じるとともに、サッカーについても造詣が深く、2冊のサッカー評論集を出しているという。本書もサッカー・ファンならではの好著といえよう。
もっとも、Japanese Only事件を手掛かりに論述を始めているが、残念なことに結局Japanese Only事件については論じることがない。Japanese
Onlyがダメであることはわかるが、なぜダメなのかを説明していない。本書だけでなく、日本のメディアはJapanese OnlyがFIFAの国際基準に照らして許されないことを伝えたが、なぜなのかを掘り下げた記事はあまり見られない。多くのサッカー・ファンは、なぜ、という問いへの答えを手にしていない。区別、排除、隔離が差別の基本であること。ゲットーやアパルトヘイトは何であったのか。公民権法以前アメリカの白人教会と黒人教会とは何を意味したのか。人種差別の基本的歴史を知らないとこの答えを示すことが出来ない。サッカー評論だけでは説明がつかないということである。