Friday, August 22, 2014

人種差別撤廃委員会・日本政府報告書審査(8)ヘイト・スピーチ関連・委員発言

ケマル委員――2010年にソンベリ委員が指摘したとおり、日本国憲法14条に差別禁止規定があるが、条約(ICERD)にある禁止自由をカバーしていない。反差別法をICERD2条~6条にあうように、包括的な形で定める必要がある。
勧告13で、ICERD4条(a)(b)の留保について、留保を撤回するべきである。政府報告書84,84があるが、懸念を表明したい。特定のグループ、例えば朝鮮学校の子どもを標的とした差別発言や、部落差別が続いている。ヘイト・スピーチには絶対的な定義がないからと言って、マイノリティに対するヘイト・スピーチが良いということにはならない。13年には360件の差別デモがあったと言う情報がある。日本政府は具体的にどのような措置をとったのか。ヘイト・スピーチをおさえるのにどのように措置をとっているのか。朝鮮学校に対するデモについて判決があるというが、もっと詳しい状況を負知りたい。
勧告14について、人権教育をしているのは承知しているが、これまでと同様、公人による差別発言が繰り返されている。これに対して、どのような対応がとられたのか、具体例を知りたい。最近の措置が取られたのではないか。日本社会はコンセンサスを重視し、対決的ではないと言うが、積極的な対応が必要である。マイノリティ、弱者が日本の文化にあわないと言う指摘があるが。また、ヘイトは日本の歴史においては事例がかつてはあったので、朝鮮学校へのデモに厳格な措置が取られる必要があるのではないか。
バスケス委員――ヘイト・スピーチについて、残念なビデオを見た(*NGOブリーフィングの際に上映した5分のビデオで、在特会によるヘイト・スピーチと暴力の様子をまとめたもののこと)。朝鮮人に対するヘイト・スピーチである。条約に基づいて懸念があり、安倍総理もヘイト・スピーチに適切に対処すると述べていると言う。CERDが2013年に採択した一般的勧告35「ヘイト・スピーチと闘う」において、ヘイト・スピーチに対する対応を整理してある。一般的勧告26にも書かれている。日本は憲法の枠内で条約を実施するとして、条約4条を留保していることは承知している。しかしなぜ留保が必要なのか、留保の性格、範囲も問題である。勧告を受けて見直したが、留保の決定は変えないというが、性格や内容をもっと明確にしてほしい。憲法の範囲内で条約を実施するというが、憲法がなぜそこまで制約になるのか。懸念しているのは、どういう限界が必要なのか、である。表現の自由は幅広いが、ヘイト・スピーチに対応することは特に表現の自由とは抵触しない。実際に暴力をふるい、威嚇している。「出てこい」「殺すぞ」などと、非常に過激な言動であり、スピーチ以上のものである。まさに暴力の威嚇が身に迫っている。大阪高裁判決が出て、最高裁係属中ということも承知している。期待している。33-44、ヘイト・スピーチ処罰規定を設けるべきである。措置を取る必要がある。教育、寛容の精神との回答だが、37では、公人によるヘイト・スピーチについ述べている。もっと情報を提供してほしい。高いレベルの公人(政治家等)がヘイト・スピーチをどのように非難しているのか、「ヘイト・スピーチはいけない」と言っているのか。ヘイト・スピーチに対するカウンター・デモがあるが、心配なことに、人種差別グループのヘイトデモに対するカウンター・デモの側から逮捕者が出ている。カウンター側がメッセージを広めることができない。差別に反対するカウンターを阻害することは許されない。ヘイト・スピーチ法ができても心配がある。NGOによると、現政権は法律を乱用して、マイノリティに対して押さええつける心配がある、という。CERD勧告20は、あいまいで幅広いヘイト・スピーチの定義によって、守られるべき人にとってマイナスになる可能性がある。条約の定義にあう形で定義する必要がある。法律を口実としてマイノリティをおさえつけない、マイノリティを守ることが目的であると明確に述べる法律であるべきだ。
ディアコヌ委員――「前回報告書に書かれている」と言う報告書は役に立たない。差別について、法務省の組織、人権擁護局など265のアンテナというのはわかった。差別の動機ついて、例えば人種だが、日本はどう理解しているのか。学術的には人種は存在しない。我々は皆同じ人間という人種である。日本における人種の定義はどうなっているか。日本国籍保持者か。世系はどう考えるのか。人種差別禁止法が必要である。さまざまな外国人が住んでいるので、包括的な差別禁止法をつくるべきだ。ヘイト・スピーチは、バスケス委員が言った通り、表現の自由とヘイト・スピーチの規制に矛盾はない。CERD一般的勧告35「ヘイト・スピーチと闘う」は長い検討の結果、採択された、情報の自由があるが、差別言説は、バスケス委員が指摘したように、単に表現の自由ということではなく、暴力であり、暴力の煽動は世界中で問題となっている。殺す、ガス室、叩き殺すと言った表現は暴力に訴える、暴力を唱導することは表現の自由とは区別できる。
ユエン委員――バスケス委員が既に発言したが、ヘイト・スピーチについて、京都朝鮮学校事件で地裁でも高裁でも1200万円の賠償命令が出ている。名誉毀損を認定し、不法行為とした。刑事の側面、起訴されたとの話も聞いたが、もう少し詳しく知りたい。刑法の罰則が幅広いようだが、しかし、ヘイト・スピーチが起訴相当の罪にあたる場合があるという。具体的にどういう罪が法律に定められているのか。実際に発動されて、判決で認定されたのか。刑法のどのような条項か。差別は日本刑法で罰せられないのではないか。ヘイト・スピーチは法律で禁止されていない。表現の自由という理由だが、ビデオを見て懸念を抱いた。ビデオでは、特定の出来事が映っているが、加害者に警察が付き添っているように見える。ほとんどの国では、こういう事が起きれば、加害者を逮捕し、連行し、収監するはずだ。刑事的な面でどのように対処しているのか。安倍首相の発言はきちんとした措置を求めている。これは評価すべき。立法措置の見通しはあるのか。タイムスケジュールを設定しているか。朝鮮学校だけが名指しされている。中華、アメリカン・スクール、他にもあるのに、朝鮮学校だけ別のカテゴリーで、別扱いされている印象を受けた。
フアン委員――ヘイト・スピーチをいかに止めるか。2010年のCERD勧告は、4条留保を撤回すべきとしたが、日本は留保撤回は考えていないと言う。その理由は、人種差別が激しいことはないとか、正当な言論を抑え込むことになるからとか、重大な人種差別はないと、言っている。しかし、日本はどうもそれほど明るい状況ではないのではないか。人種差別が実際に日本に存在する。極端な個人や団体、右翼が、日本人の優越性、植民地主義的考えを抱いて、少数派、外国人に嫌がらせをし、挑発、暴力的行為をしている。インターネット、新聞テレビでもヘイト・スピーチを流布させ、民族的対立をあおっている。閣僚、政治家が政治的発言をして、人々をあえて誤解させる発言をしている、在日、子どもたちへの差別発言がある。「中国脅威論」の発言もある。日本では法律で差別を禁止せず、パリ原則に従った国内人権機関もない。差別言論が起きているのに処罰されない。極右集団や個人の発言がさらにあからさまに過激になっている。被害者は司法へのアクセスがない。極右組織はあきらかに人種主義的、排外的デモが政府のお墨付きを得ている。排外主義デモが警察に守られている。人種主義的スローガンを叫び、かつての日本軍国主義の旗や、ナチスの旗を掲げている。被害者が訴えても警察は無関心であるという。極右は根深い人種差別思想を心の中にもっている。過激な「殺すぞ」といった発言が、日本人以外の者に向けられている。日本的名前に改名するよう圧迫もある。雇用、年金も平等処遇を受けていない。日本に差別が存在し、深刻な事態である。ICERDに基づいて、表現の自由は2013年のCERD一般的勧告35において明示したが、ヘイト・スピーチを禁止するべきである。表現の自由を保護することとヘイト・スピーチ禁止の間に矛盾はない。一人一人が表現の自由と同時に社会的責任を有している。とくに政府、政治家は自制するべきである。条約4条の責任を果たすよう勧める。差別禁止法を作るよう、積極的措置を取るべきである。それから、関東大震災時に、6000人もの人が警察や軍隊によって殺された。犠牲者はその後の処遇に満足せず、調査を求めている。日本政府は、いつ調査を行うのか。
ラヒリ委員――日本はアジアの人たちに対して、植民地主義との闘いの必要性を意識させた。高度成長、経済成長、伸展があった。しかし、孤立した部分がある。移住者のコミュニティは差別に直面している。コリアン50万人が差別を受けている。朝鮮学校無償化問題もある。アイヌなど先住民族も差別されている。ビデオを見たが、ヘイト・スピーチが助長されていることは否定できない。国内人権機関が、これだけ長い検討の後になぜできていないのか。
バルデル委員――日本の姿勢、「ジャパニーズネス」についてどうとらえれているのか。どの国も社会の一体性を維持するのに苦労している。排外主義、反発があり、包摂ではなく排除がどの国でも起きる。
アフトノモフ委員――最高裁が2014年7月、京都朝鮮学校の件で、直接条約について判断し、差別は見逃すことはできないとし、京都地裁を支持しなかったが、くつがえすことはしなかったと聞いた(*大阪高裁判決のこと、一部混乱?)。日本ではヘイト・ウピーチを刑法で処罰対象できない。集団に対するヘイト・スピーチの処罰を許していないと言う点。政府の立場はどうなのか。
ディアコヌ委員――4条の適用留保が、表現の自由という観点と説明された、ICERD5条と比べて、憲法の他の権利はどうなっているのか。4条には様々な行為、4つの行為がある。流布、煽動、暴力煽動、差別的行動参加・資金調達。表現の自由の範囲に入らない。煽動は表現の自由ではない。なんのためにICERDを締結したのか。暴力煽動は表現の自由ではない。暴力を予防しなければならない。留保撤回を検討しているが、結論に至らないのか。日本のICERD批准から20年経った、あまりに長い時間がたっている。結論に到達し、国内法によって処罰を規定するべきである。どうして表現の自由をそこまで守らなければならないのか。アフトノモフ委員が言ったが、個人に対す差別と集団に対する差別がある。ICERD4条は集団に関するが、国内法でカバーされていない。法律がないので、裁判所がどのように判断するのか。条約規定が法執行官や裁判官によってフォローされていない。国内法で定める必要がある。憲法14条が列挙的例示に過ぎないことは理解したが、適正な解釈はなされたのか。差別について禁止しているという具体的判断は示されたのか。ないのなら法律が必要である。
クリックリー委員――ヘイト・スピーチは同僚たちが述べた。日本政府は警察は中立であると言うが、ビデオを見てほしい、どういう発言か。(*「殺せ」などの)ビデオの翻訳が正しいのであれば、本当にこれが中立公正なのか疑わしい。
ケマル委員(まとめ)――まず何よりも、包括的差別禁止法の制定である。憲法とのギャップを埋めることになる。4条(ab)と日本国憲法に不一致はない。しかし、日本政府は留保している。これでは、善意であっても誤解されかねない。善意の印象を与えていないパラドクスである。4条と憲法に矛盾はなく、負担でない。ヘイト・スピーチの処罰は、表現の自由にマイナスにならない。