Wednesday, August 09, 2017

先進国と小国主義をめぐって

杉田聡『「日本は先進国」のウソ』(平凡社新書)
2008年出版の本だが、今回、著者からいただいたのでジュネーヴに持ってきて読んだ。杉田の本はレイプの政治学や福沢諭吉批判を読んできた。他の性暴力批判の本や、カント研究(『カント哲学と現代』行路社)もいただいたので、後日読むのが楽しみ。
本書は、「先進国」と自称してきた日本の実態を点検する。そもそも「先進国」とは何かが問題だが、サミット等に参加して自称している日本を多面的に検証すれば、どの観点から言っても「先進国」などと言えない、という。「人権侵害先進国」とか「棄民先進国」という言葉なら別だろうが。
第1章は環境、第2章は労働(過労死、低賃金…)、第3章は男女平等、第4章は今日行く(教育統制、思想統制)、第5章は政治(官僚と政治家の不祥事、政治献金、司法の凋落…)を取り上げる。各種のデータが紹介されている。9年後の現在、データを更新しても、結論は変わらないだろう。民法改正や、政府がアイヌを先住民族と認めたことなど、変化はあるが、基本的には変わっていない。
第6章で先進国の条件として、小国主義を論じている。環境・女性・子ども…と、他国を脅かさないことが条件だと言う。なるほど。
おもしろかったのは、男女共同参画基本法についてきびしく批判し、「みすぼらしい」と言っているところだ。私は当時、男女共同参画基本法は、エリート女性が男性並みに扱われることを期待しつつ、一般女性を置き去りにするための法律だと思っていた。女性差別法に共同参画という名を与えてごまかしただけだ。その後の一部改正で徐々に前進しているとはいえ。杉田はそこまで書いていないが、似たような認識を持っているようだ。
小国主義については、別の観点からも関心がある。第1に、軍隊のない国家を調査研究してきたが、小国ばかりだ。第2に、同じ関心からピースゾーンの思想を形成するにも小国主義が重要だ。第3に、民主主義の可能性と限界と言う観点からも、現代小国主義をいかに展開できるか。杉田の理論書にもきちんと学ぶ必要がある。

HURLEVENT Pinot Noir Valais 2015.