Sunday, August 06, 2017

大田昌秀さんの遺言

鳩山友紀夫・大田昌秀・松島泰勝・木村朗『沖縄謀叛』(かもがわ出版)
2016年9月11日に発足した東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会の連続シンポジウムと並行して、故・大田昌秀元県知事が主催する沖縄国際平和研究所で持たれた座談会の記録を中心に、論文やシンポジウム記録を収録している。
大田元知事は本年6月12日に他界されたので、『沖縄鉄血勤皇隊』(高文研))とともに、本書は大田さんの遺言となった。
首相時代に県外移設を公約したにもかかわらず官僚の抵抗にあってついに公約撤回に追い込まれた鳩山友紀夫は、自らの非力を反省し、その後、沖縄の人々ともに歩むことを決意し、東アジア共同体研究所を発足させた。
沖縄差別の根源を問う中から琉球独立論を鍛え上げ、新たな理論水準に引き上げた松島泰勝(龍谷大学教授)は、さらに実践も展望しながら多面的に理論的課題を提起し続ける。
 司会進行の木村朗(鹿児島大学教授)は、核兵器問題から報道・メデチィア論まで幅広く論陣を張る平和学者であると同時に、東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会を提唱し、共同代表の一人である。
この4人の座談会だからおもしろくないはずがない。近代日本と沖縄の歴史をさかのぼり、植民地化や構造的差別の実態を探り、日米共同の基地押しつけを批判し、民衆の闘いを展望する。その意味では、「類書」は多数あるとも言えるが、比肩すべき類書はない、とも言える。議論は錯綜し、時に揺らぎを見せるが、司会の木村が全体をうまくまとめている。記念碑的な1冊と言うべきだろう。
大田さんの言葉を引用し始めるときりがないのでやめておこう。一つだけ引用しておく。
「三、四年前は琉球大学の学生たちは三%しか独立論に賛成しなかったのに、近ごろは賛成は三〇%くらいになっているそうです。おそらくこれが広がっていくと、日本政府は破防法(破壊活動防止法)で完全に取り締まるとみています。これがいまの日本です。」
 この発言を受けて、木村は鳩山に応答を促しているが、直接この話題には応答がない。木村も応答していない。松島はパラオ、スコットランド、クリミアなど世界の人民の自己決定権の行使と独立について論じる中で、間接的に応答している。この発言を受けて応答するべきは本土、大和の側の政治家や研究者だが、問題の深刻さゆえにか、鳩山と木村はここでは立ちいっていない。
 私も、ただちに的確には応答できないだろう。しかし、安保法制、共謀罪、秘密保護法、緊急事態条項の時代に、琉球独立論は、警備公安警察、公安調査庁及び自衛隊と直接的な緊張関係に立つ。議論の射程に入れておく必要がある。
大田さんとは数回しかお目にかかったことがない。初めては、2005年6月だろうか、イラク特措法の参議院の審議において公聴会があり、公述人として呼んでいただいたときだ。違憲論を唱えるとともに、自衛隊出動は現地の状況を混乱させ、これまで活動してきたNGOの活動の妨げになることを強調しておいた。最後にお目にかかったのは、2010年の那覇における「平和な街づくりシンポジウム」のときだ。そのときの大田さんのお話は映像記録として残されている。
DVD『大田昌秀 今平和を語る-沖縄戦の原体験から無防備平和の夢へ-』(マブイシネコープ)。