猿田佐世『自発的対米従属――知られざる「ワシントン拡声器」』(角川新書)
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トランプ政権発足間もない3月の出版。トランプ政権になって、日米外交の状況に一つの変化があったという。それは、アメリカサイドの知日派が、日本のメディアを利用してトランプ政権を批判したり、注文を付けるようになったことだ。その成果に加えて、安倍首相の頑張りによってトランプ政権の方針が、極端なものから従来のアメリカ外交に戻ったという。これを猿田は「ワシントン逆拡声器」と呼ぶ。
というのも、それ以前は、日本の政治家や財界が、自分たちの望んでいることをワシントンのシンクタンクを利用して発表し、日本メディアに大きく報道させることによって、「アメリカが日本にこう期待している」という雰囲気を作り、それを日本で実現させてきた。これが「ワシントン拡声器」だ。
アメリカの政治家は日本のことなど気に留めていない。その現実の下では、ほんの一部の知日派が圧倒的な影響力を持つ。だから知日派とメディアを利用することによって、アメリカの圧力として使うことができる。アメリカおよび日本のエスタブリッシュメントは、ワシントン拡声器を使って、日本外交を自在に操ってきた。なるほど。
「新外交イニシアティブ(ND)」事務局長の猿田は、この実態を踏まえて、市民が外交における政策形成を行うこと、つまりワシントン拡声器を市民のために利用することを考え、実践してきた。その方法を広めるために本書が書かれた。
ND発足の発表を見た時、見慣れた名前、核抑止論者の名前がずらりと並んでいて、「これじゃあ旧外交イニシアティブ(OD)だ」と思ったものだ。
本書最後に提言されている辺野古基地問題解決案でも、「沖縄に駐留しているのは主に海兵隊であるから、現在、米軍における比重が下がった海兵隊、かつ対中国という点ではさして機能しない海兵隊基地の撤退は可能だし、アメリカにも有益だ」という話が新しい論点として提示されているが、これは1995年当時から何度も言われてきた古くからある話だ。
ND=猿田の新しいところは、ワシントン拡声器を市民外交に活用する実践として組み立てて、ワシントンでのロビー活動を展開していることだ。これは確かに重要だ。