Sunday, August 20, 2017

ローザンヌ美術館散歩

「ヤエル・バルタナ――震える時間」展(Yael Bartana, TREMBLING TIMES)を見た。
初めて知る名前だが、バルタナは、1970年イスラエル生まれ、イェルサレムのベザレル美術デザイン学校、ニューヨークのビジュアルアート学校で学び、ドキュメンタリー映像作家になった。現在ベルリン、テルアヴィブ、アムステルダムを拠点に活動している。実際の歴史をフィクショナルに再構成し、政治的ユートピアを模索しているようだ。代表作は「Profile」(2000年)、「Trembling Time」(2001年)、「And Europe Will Be Stunned」(2007~11年)、「True Finn」(2014年)など。
バルタナの問題意識を端的に示すのが、写真作品「Stalag: The Photographer」シリーズだ。バルタナ自身が被写体として登場する(他の作品では登場したことがないと言う)。1枚の写真はイスラエル女性兵士の制服を着てカメラを構えてこちらを向いて、まさにシャッターを押そうとしている。もう1枚の写真はナチス・ドイツの親衛隊の制服を着てカメラを構えてこちらを向いて、まさにシャッターを押そうとしている。そういうシリーズで、その容姿はリニ・リーフェンシュタールを想起させる。バルタナは兵士、市民、アーティストの責任を問う。日本では森村泰昌を思い出すことになるが。
展示の柱は「And Europe Will Be Stunned」3部作である。
第1作の「Mary Koszmary(Nightmares)」は、ポーランドにおけるユダヤ人ルネサンス運動を扱う。左翼運動家シエラコフスキーが「ユダヤ人はポーランドに帰還し、ポーランド人とともに、反セミティズムとホロコーストのトラウマを克服、新しい社会をつくるべきだ」と主張したという。その運動の呼びかけを映像化しているが、それは1930年代のナチスのプロパガンダ映像に類似していく。
第2作の「Mur I wieza(Wall and Tower)」はシエラコフスキーの呼びかけに答えた若者たちが、ワルシャワの元ユダヤ人居住地の公園にキブツを建設する。参加者全員で、木材を持ち寄り、家屋2棟と見張り塔を建設する。建設作業の中で精神的コミュニティができていく。が、それは第二次大戦時のゲットーに類似していく。あるいは、強制収容所に似ていき、さらには戦後の占領期の検問所に似ていく。
第3作の「Zamach(Assassination)」は、ポーランドに帰還したユダヤ人たちが、暗殺されたシエラコフスキーの追悼式を行う。シエラコフスキーの巨大な胸像が置かれる。人々が追想し、象徴的死を悼む。その参加者たちが徐々に表情を失い、真っ白な顔になっていく。個性を失った人々の前で、2人の若者が最後の追悼の辞を朗読する。その最後の言葉が、”Join us, and Europe will be stunned.”
かなり骨のある作品で、全部見るととても疲れた。イスラエル出身のバルタナがポーランド、ヨーロッパに向けて政治的パロディによる告発をしている。解釈の幅はかなり広いので、悩みながら、まだ結論が出ない。宿題が増えた。

Clemence, Cabernet Franc, 2015, Geneve.