水島朝穂『平和の憲法政策論』(日本評論社)
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450頁に及ぶ大著だ。著者から献呈いただいた。読まなくてはならないが、ふだんならこの分量の本を読むまとまった時間を取れず困ってしまうところだ。ちょうど夏休みなのでジュネーヴに持ってきて、毎日読んでいる。
あとがきに「私の3冊目の論文集である」と書いてあるのでちょっと驚いた。水島には膨大な著作群があるのに、3冊目? 『現代軍事法制の研究――脱軍事化への道程』『武力なき平和――日本国憲法の構想力』に続く3冊目だと言う。『戦争とたたかう』『同時代への直言』『ライブ講義徹底分析!集団的自衛権』等々は「論文集」ではないという意味のようだ。専門の研究書に限ると3冊目と言うことだ。『きみはサンダーバードを知っているか』『はじめての憲法教室』『18歳からはじめる憲法』などもあるが。
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第I部 ポスト冷戦期の「安全保障環境」の変化と憲法
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「第1章 安全保障と憲法・憲法学──腰をすえた議論のために」では、冷戦終結と9.11以後の状況に対応した安全保障観の変化を論じ、その主体と客体、方式を一瞥した上で、日本国憲法の安全保障のデザインを素描し、「制御安全」ではなく「本質安全」保障のモデルを模索する。
「第2章 自衛隊の平和憲法的解編構想」では、冷戦型軍隊である自衛隊の解散、そして災害救援組織への転換――平和憲法的解編の条件と基本方向を提示する。「自衛隊解編のためのガイドライン」が提案される。
「第3章 平和政策への視座転換──自衛隊の平和憲法的「解編」に向けて」でっは、第2章に続いて、平和主義に適合的な安全保障政策、平和政策を、自衛隊をめぐる環境変化の下で論じる。
「第4章 史上最大の災害派遣」では、東日本大震災における自衛隊の活動を点検し、被災地で果たした積極的役割をもとに、どこが評価でき、どこが足りなかったかを明らかにする。米軍の「トモダチ作戦」の虚偽性も検討している。その上で、脱原発と脱軍事化のプロセスを展望する。
「第5章 東日本大震災後のアジアと日本」では、東アジアの周辺諸国とトラブルを抱えたままの日本の実情を踏まえて、外交国会中心主義を実現し、自治体外交を展開し、新しい連帯を創出する憲法政策論を提示する。
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憲法の平和原則を基軸に、平和、人権、環境を重視した平和政策論を、具体的に展開するという視座が確立しているので、水島にはブレがない。しかも、自衛隊や米軍の方針、装備、行動を徹底的に分析する方法も他の憲法学者の追随を許さない。理念と事実をわしづかみにして離さない。理念を忘れたり、曖昧にする憲法学が目立ち始めているが、水島は理念を掲げつつ、現実に立ち向かう。事実を徹底的に把握しつくし、理念と照らし合わせ検証する。だから、ブレない。これほどブレない憲法学者も珍しいのではないか。射程がもっとも広く遠いのに、足元の現実にこだわる方法論のためだろうか。
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目次
序章
第I部 ポスト冷戦期の「安全保障環境」の変化と憲法
第1章 安全保障と憲法・憲法学──腰をすえた議論のために
第2章 自衛隊の平和憲法的解編構想
第3章 平和政策への視座転換──自衛隊の平和憲法的「解編」に向けて
第4章 史上最大の災害派遣
第5章 東日本大震災後のアジアと日本
第II部 「人権のための戦争」と「戦争の民営化」
第6章 「平和と人権」考 ──J・ガルトゥングの平和理論と人道的介入
第6章補論 「人道的介入」の問題性──「軍事介入主義」への回廊
第7章 人間と平和の法を考える
第8章 国家の軍事機能の「民営化」と民間軍事会社
第III部 日本型軍事・緊急事態法制の展開と憲法
第9章 テロ対策特別措置法
第10章 ソマリア「海賊」問題と海賊対処法
第11章 日本型軍事法制の変容
第12章 「7・1閣議決定」と安全保障関連法
第13章 安保関連法と憲法研究者──藤田宙靖氏の議論に寄せて
第14章 緊急事態条項
第IV部 日米安保体制のグローバル展開
第15章 安全保障体制
第16章 日米安保体制のtransformationと軍事法の変質
第17章 米軍transformationと自衛隊の形質転換
第18章 「日米同盟」と地域的集団安全保障
第V部 ドイツ軍事・緊急事態法制の展開
第19章 緊急事態法ドイツモデルの再検討
第20章 ドイツにおける軍人の「参加権」──「代表委員」制度を中心に
第20章補論 「軍人デモ」と軍人法
第21章 軍隊とジェンダー──女性の戦闘職種制限を素材として
第22章 「新しい戦争」と国家──U・K・プロイスのポスト「9・11」言説を軸に
第23章 戦争の違法性と軍人の良心の自由
第24章 日独における「普通の国」への道──1994年7月と2014年7月
あとがき