Monday, August 07, 2017

平和の憲法政策論に学ぶ(2)

水島朝穂『平和の憲法政策論』(日本評論社)
II   「人権のための戦争」と「戦争の民営化」
「第6章 「平和と人権」考 ──J・ガルトゥングの平和理論と人道的介入」では、「平和と人権」を「逆ネジ的に利用した『人道的介入』」を批判するために、ガルトゥングの平和理論に立ち返り、非暴力的で創造的な紛争解決の方策を提示する。
「第6章補論 「人道的介入」の問題性──「軍事介入主義」への回廊」では、人道的介入の論理と形態をソマリアと旧ユーゴの事例に即して分析し、人道的介入肯定論を批判する。
「第7章 人間と平和の法を考える」では、21世紀における戦争の変容(「新しい」戦争、人道的介入、保護する責任、戦争の民営化)を踏まえて、平和的生存権と人間の安全保障について論じる。スペイン国際人権法協会が提起して展開された平和への権利キャンペーンにより国連人権理事会で平和への権利の議論がなされていたことにも言及している。文献としては笹本・前田編『平和への権利を世界に』(かもがわ出版)及び「Interjurist」172号を参照している。
「第8章 国家の軍事機能の「民営化」と民間軍事会社」では、21世紀の戦争に顕著な民間軍事会社問題を取り上げ、その背景と要因を分析し、軍事機能の民営化への法的アプローチを論じている。日本国憲法は民間軍事会社について何も述べないが、平和主義的秩序の具体化の観点から検討している。
戦争の民営化と民間軍事会社の問題は、戦争論、軍事理論においてはいまや常識的論点だが、憲法学者による分析はあまり見られないように思う。日本国憲法には何も書いていない。しかし、水島は積極的に議論を展開する。平和の憲法政策論としては無視できない問題だからだ。水島は2000年代前半にアフガニスタン国際戦犯民衆法廷という民衆法廷の判事を勤めたが、この頃すでに米軍の民営化問題が浮上していた。イラク戦争で全面化したと言えよう。また、自衛隊内でも民営化の研究が進んでいるという。それゆえ、日本国憲法の議論としても戦争の民営化問題を射程に入れた議論が必要である。
平和への権利宣言について、水島が言及していたのは知らなかった。第7章は2012年の論文なので、人権理事会諮問委員会草案が出る前のものだが、笹本・前田編『平和への権利を世界に』などをもとに、当時の状況に言及している。ありがたいことだ。16年12月に国連総会で平和への権利宣言が採択されたので、宣言の意義についての検討も期待したい。