水島朝穂『平和の憲法政策論』(日本評論社)
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第III部 日本型軍事・緊急事態法制の展開と憲法
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憲法破壊の軍事・緊急事態法制への批判を水島は長年にわたって継続してきた。平和憲法の立場からは当然のこととはいえ、これだけ長期にわたる理論闘争は大変な熱意と力量なしにはできない。もちろん他の憲法学者も多大な努力を傾けてきたが、牽引車としての水島の地位は言うまでもない。
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「第9章 テロ対策特別措置法」では、「ショー・ザ・フラッグ」のもとで提出されたという「偽称・ザ・フラッグ」のテロ対策特措法への内容(支援対象の拡大、武器使用の拡大)を、グローバル安保への道として把握し、厳しく批判する。
「第10章 ソマリア「海賊」問題と海賊対処法」では、2009年4月の衆議院特別委員会での参考人意見陳述を基に、海賊対処法の問題点を検討している。
「第11章 日本型軍事法制の変容」では、日本国憲法の下での軍事法制の変遷をあらためてたどる。警察予備隊から自衛隊へ、ポスト冷戦期における再編、そして本格的な「国防」省庁への道、自衛隊海外出動の本来任務化を点検し、最終的に軍事裁判所づくりがめざされていることに注意喚起している。
「第12章 「7・1閣議決定」と安全保障関連法」では、2014年の安倍政権による閣議決定、集団的自衛権に踏み出した決定の論理を批判する。水島は9条の立場から個別的自衛権も容認しないが、ここでは日本政府の従来の解釈との齟齬に焦点を絞っている。
「第13章 安保関連法と憲法研究者──藤田宙靖氏の議論に寄せて」では、元最高裁判事の藤田による安保法制批判論文を取り上げて、評価できる面と、疑問が残る点を提示している。安倍政権の論理のすり替えを、藤田は的確に見抜いていないのではないかが問題である。
「第14章 緊急事態条項」では、自民党改憲案の緊急事態条項について、あまりにも数多くの疑問点があると指摘する。
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憲法9条、自衛隊、日米安保をめぐる日本政府の解釈(解釈改憲)は、自衛隊創設、海外派遣、そして集団的自衛権に至るまで、法解釈の名に値するのか否かが一番の問題である。しかし、政府解釈が既成事実となってきたため、政府解釈の枠を逸脱していないかの検証も必要となる。理論的にはむなしい作業という面もあるのだが、おろそかにしてはいけない作業である。平和憲法学と平和運動が協働してこの課題に向き合ってきたが、水島の果たしてきた役割は大きい。