Wednesday, August 11, 2010

グランサコネ通信2010-25

グランサコネ通信2010-25

2010年8月11日

1)8月9日

人種差別撤廃委員会CERDは、ルーマニア報告書の審査を始めました。CERD第77会期(8月2日から27日まで)は、いくつかの非公開ミーティングのほかに、次の各国政府の報告書の審査を行っています。エルサルバドル、イラン、ウズベキスタン(以上終了)、ルーマニア、オーストラリア、フランス、スロヴェニア、モロッコ、デンマーク、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、エストニア。第4週目は最終所見と勧告をまとめるため、すべて非公開です。私の関心は、もっぱら各国のヘイト・クライム立法がどうなっているか、です。

ルーマニア報告書(CERD/C/ROU/16-19. 22 June 2009)

 第16-19回報告書で、100ページを越える詳細なものですが、前回が1996年だったので委員からは報告書提出の遅延が指摘されていました。ICERD4条に関連する立法は4つに分類できそうです。第1に、刑法。第2に、ファシズム・シンボル禁止法、第3に、「アウシュヴィッツの嘘」法、第4にオーディオ・ヴィジュアル法。ルーマニア憲法30.7条は、国民、人種、階級、宗教的憎悪の煽動と、差別の教唆は法律によって禁止されるとしています。2000年の法律137号15条は、すべての形態の差別の予防と禁止を掲げています。

第1の刑法。2006年の法律278号によって改正された刑法317条は、差別の教唆を次のように定義しています。人種、国籍、民族的出身、言語、宗教、ジェンダー、性的志向、意見、政治的関係、信念、財産、社会的出身、年齢、障害、慢性の非伝染病またはHIVを理由とする憎悪の教唆。差別の教唆は、6ヶ月以上3年以下の刑事施設収容または罰金を課されます。317条の適用事例は、本報告書の対象期間には、ありません。

第2のファシズム・シンボル法。2002年の緊急法律31号は、ファシスト、人種主義者、外国人嫌悪の性質を持った組織とシンボル、平和に対する罪や人道に対する罪を犯した犯罪者を美化することを禁止しました。2006年法律107号と同年法律278号によって一部修正されています。この法律2条aによると、ファシスト、人種主義者、外国人嫌悪の組織とは、三人以上によって形成された集団で、一時的であれ恒常的であれ、ファシスト、人種主義者、外国人嫌悪のイデオロギー、思想又は主義、民族的、人種的、宗教的に動機付けられた憎悪と暴力、ある人種の優越性や他の人種の劣等性、反セミティズム、外国人嫌悪の教唆、憲法秩序又は民主的制度を変更するための暴力の使用、過激なナショナリズムを促進するものであす。これには、組織、政党、政治運動体、結社、財団、企業、その他の法律団体で、前期の定義の要素に合致するものも含まれます。第2条bによると、ファシスト、人種主義者、外国人嫌悪のシンボルとは、旗、紋章、バッジ、制服、スローガン、公式・決まり文句の挨拶、その他のシンボルで、前記の定義で述べられた考え、思想及び主義を促進するものです。「公式・決まり文句の挨拶」とは下手くそな翻訳ですが、たぶん、「ハイル・ヒトラー!」のようなものを指しているのでしょう。3条によると、ファシスト、人種主義者、外国人嫌悪の組織の設立は、3年以上15年以下の刑事施設収容及び一定の権利停止です。組織への参加や支援も同じ刑罰。ファシスト・シンボルの配布、販売、その準備は、6月以上5年以下の刑事施設収容と一定の権利停止。シンボルの公の場での利用the use in publicも同じ刑罰。公の場におけるプロパガンダ、行為、その他の手段による、平和に対する罪や人道に対する罪を犯した犯罪者の美化、ファススト、人種主義者、外国人嫌悪のイデオロギーの促進は、3月以上3年以下の刑事施設収容及び一定の権利停止。プロパガンダ概念は、新たな信奉者を説得し、魅了する意図をもって、考え、思想又は主義を組織的に広め又は正当化することです(5条)。

第3の「アウシュヴィッツの嘘」法。上記のファシスト・シンボル法6条によると、いかなる手段であれ、公の場で、ホロコースト、ジェノサイドあるいは人道に対する罪、又はその既決を、問題にし、否定し、是認し又は正当化することは、6月以上5年以下の刑事施設収容及び一定の権利停止、又は罰金を課されます。さらに、2006年法律107号は、1933-1945年の時期の、ホロコーストの定義にロマthe Roma ethnicsを含むことにしました。それゆえ、ホロコーストとは、国家によって支持された組織的迫害、ナチス・ドイツとその同盟者及び協力者によるヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅、です。同時に、定義には、第二次大戦時における、国内に居住するロマ住民の一部が強制移動や絶滅の対象とされたことを含みます。2002年の緊急法律31号12条と13条によると、平和に対する罪及び人道に対する罪を犯した犯罪者を、公の場所、像、彫像、記憶板(刻銘)を立てたり維持することを禁止しています。同時に、平和に対する罪及び人道に対する罪を犯した犯罪者の名前を、通り、大通り、広場、市場、公園又はその他の公共の場所の名前につけることが禁止されています。2003年以後、この法律に従って、イアシ地区では、25の通り、広場、軍隊墓地の名称が変更されました。首都やスロボジア地区でも像が撤去されました。

第4のオーディオ・ヴィジュアル法。2002年の法律504号は、オーディオ・ヴィジュアル番組における差別と闘うために2つの重要規定を取り入れています。29条によると、広告やテレビショッピングには、人種、宗教、国籍、ジェンダー又は性的志向に基づく差別を含んではならない。TV視聴者やラジオ聴取者の宗教や政治信念を攻撃を引き起こしてはならない。同法40条によると、人種、宗教、国籍、ジェンダー又は性的志向に基づく憎悪の教唆を含む番組を放送することは禁止されている。法律に基づいて、自律した公共機関としてオーディオ・ヴィジュアル委員会が設置されています。

ルーマニアには包括的な人種差別禁止法はないようです。英米法的なヘイト・クライム法は刑法317条。他方、ファシズト・シンボル法、「アウシュヴィッツの嘘」法などは、第二次大戦時のロマ虐殺や、社会主義政権時代の悲劇という複雑な歴史を反映したもののようです。ファシスト・シンボル法は2002年に緊急法律としてつくられています。社会主義崩壊後10年ほど過ぎると、その時代を懐かしんだり、政治的に逆行する主張が登場したのかもしれません。

2)8月10日

オーストラリア報告書(CERD/C/AUS/15-17. 2 June 2010)

 オーストラリア報告書も100ページを超える充実したもので、補充資料も含めるともっとあるようです。先住民族への公的謝罪をはじめ、政府の努力が詳しく報告されています。それでも、委員からは、州にはあるのに、連邦にはヘイト・クライム法がないとか、9.11以後のイスラム教徒に対する人権侵害とか、いろいろと厳しい質問がなされていました。

オーストラリア報告書は、ICERD条文ごとの記述がありません。人種差別の煽動や団体の禁止規定は4条で、多くの諸国の報告書では条文ごとに記述がいちおうあるので、わかりやすいのですが、オーストラリア報告書のスタイルは違っているため、ややわかりにくいです。

2004年法律2号はテレコミュニケーション犯罪に関する改正法で、故意に脅迫、いやがらせ、攻撃といった方法で搬送サービスを利用することを犯罪としました(搬送サービス? たぶん、インターネットなど電網空間のサービスのこと)。2007年オーストラリア市民権法改正によって、市民権の得喪に関連するひさべつ原則を導入しました。2007年4月15日のネイティヴ・タイトル改正法が成立しました(先住民族の土地所有権関連)。オーストラリア憲法には人種差別を禁止する特別規定はありませんが、人権尊重が基本です。各週には反差別法があります。オーストラリア政府はICERD批准の際に、第4条aに留保を付しました。4条aでカバーされている事態の全てを犯罪とする立場には立っていないからです。コモンウエルスの1975年の人種差別法が、人種に基づく差別の禁止と被害補償を定めています。以上は連邦の話。

各州ごとに見ると、首都圏は2004年に人権法を制定しましたが、これがオーストラリア最初の人権章典です。ICCPRと同様の基本権を定めています。2008年、人権法改正法が採択されました。1991年の差別法が、人種に基づく差別と人種憎悪の教唆を禁止しています。中傷は犯罪とされています(定義が紹介されていません)。2002年刑法2.4節には、教唆犯罪(47条)があります。2005年人権委員会法によって2006年に人権委員会が設置され、人権コミッショナーと差別コミッショナーが、人種差別、憎悪、中傷の訴えを取り扱います。

ニューサウスウエールズでは、2001年に立法審査会設置提案があり、2003年に設置されました(それ以上の情報が書かれていない)。2000年、「コミュニティ関係委員会及び多文化主義原則に関する法律」ができ、異なる言語、宗教、人種的民族的背景の人々を承認し、各種の権利を認める規定が設けられています。1977年の反差別法は、性、人種、年齢の間の区別を特に必要とする場合について定めています。2004年の反差別規則が詳細を定めています。

クイーンズランドでは、2002年から2007年にかけて、反差別委員会が、1991年反差別法に基づく73件の被害申立てを取り扱っています。

北部領域では、人権章典に関する議論が進行中。

タスマニアでは、2006年、人権擁護のための法改正の議論が始まり、2007年に人権章典の提案がなされています(つまり、まだできていない)。1998年反差別法19条は、とりわけ人種や、集団構成員であることに基づいた、個人や集団への、憎悪、重大な侮辱、重大な嘲笑を教唆するいかなる行為も禁止しています。同法21条は、法律違反行為の幇助を、20条は、差別の促進を禁止しています。先住民族に関しては、1995年アボリジニ土地法、1975年アボリジニ遺跡法、1984年博物館法など。

南オーストラリアでは、2006年、1984年平等機会法改正により、正当化されない差別やハラスメントからの保護が追及されています。

ヴィクトリアでは、2006年に人権章典ができ、2007年1月1日施行。ICCPRにならった。先住民族の個人的権利と集団的権利を認めています。人種に基づく差別からの自由も。2004年多文化ヴィクトリア法によって社会各層に多文化主義が導入され、2001年人種的宗教的寛容法が人種的宗教的中傷を禁止しています。1995年平等機会法の再検討により、ヴィクトリア人権章典を検討中。

西オーストラリアでは、2007年に人権法が提案されています。2004年刑法改正法により、人種的中傷の犯罪規定が改正されました。2段階の犯罪構造の適用(複合犯罪のことでしょうが、具体的なことは分かりません。とても気になる)。もっとも重大な犯罪に最大14年までの刑罰重罰化。言論の自由の保護の確認。暴行脅迫などの犯罪の場合の「人種」を刑罰加重事由に。2006年平等機会改正法は、「人種に基づいて攻撃する行動」を違法としました。「人種に基づいて攻撃する行動」とは、人種に基づいて、又はその人種に関係する特徴やその人種に帰せられる特徴に基づいて、その人の親戚や団体帰属について、プライヴェートな場合以外で、侮蔑、侮辱、屈辱又は脅迫するような行動を行うことです。

連邦における統一法典がなく、州ごとにまちまちの対応をしています。ヘイト・クライム研究の著作などを見ると、州ごとの相違が一覧表で示されていたので、もう少し詳しく見る必要があります。今回の報告書だけでは、わからないことが多い。

オーストラリア報告書の末尾にさまざまなデータが掲載されていますが、おもしろいのは「就学ビザ許可」(2002-2008)です。世界各国・地域から申請され、ビザを許可した件数一覧です。2002-03年、03-04年、04-05年、05-06年、06-07年、07-08年と、6年間のデータです。日本は、6,319、6,650、5,829、5,406、4,806、4,074と、3分の2になり、減少傾向が明らかです。大学就学人口の減少に伴うのでしょう。中国は、14,215、17,279、17,506、15,877、24,915、31,511と、激増しています。インドは、5,901、9,611、10,000、15,396、28,949、39,015。韓国は、7,323、8,214、9,328、11,657、12,910、12,013。そのほか、モーリシャス、ネパール、パキスタン、フィリピン、サウジアラビア、スリランカ、ヴェトナムなどが急増中です。勢いが違います。こういう数字を見ていると、老人社会日本の先が心配。たぶん、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ドイツなどのビザ発給状況も同じ傾向にあるのではないでしょうか。

3)湖畔の読書

イガンスキ&ラゴウ「ヘイト・クライムはより多く侵害する--イギリス犯罪調査からの立証」

  このところ、「ヘイト・クライムはなぜ悪質か」という論文を書いていました。そこで紹介したのがイガンスキとラゴウの本論文。ポール・イガンスキ編『ヘイト・クライム第2巻 ヘイト・クライムの結果』(プレーガー出版、2009年)の巻頭論文です。4月に、前田朗『ヘイト・クライム--憎悪犯罪が日本を壊す』三一書房労組、2010年)を出しました。その後、次の論文を書いてきました。

前田朗「ヘイト・クライム法研究の課題(一)(二)」『法と民主主義』2010年5月号、6月号。

前田朗「ヘイト・クライムを定義する()(二)[未完]」『統一評論』536号、537号。

次の課題はヘイト・クライム法の立法事実論と保護法益論です。日本政府は、「我が国には禁止法を必要とするような人種差別犯罪は存在しない」と断定してきました。第1に、実態調査すらせずに、必要ないと断定しています。第2に、ヘイト・クライムの定義すらしていません。第3に、ヘイト・クライムの被害結果をごくごく軽いものと決め付けています。こうした誤りを正すのが現在の課題です。その後、さらに、ヘイト・クライム禁止法の憲法論や罪刑法定原則との関係なども議論しなくてはならないのですが、当面は入口論です。そこでヘイト・クライムの犯罪としての悪質性、被害の重大さ、保護法益論を展開するために、イガンスキとラゴウの犯罪研究に学ぶことにしました。英米での議論は、ヘイト・クライムに重い刑罰を課すことは、表現や思想信条を処罰する結果となるという批判があったので、アメリカでは1993年のウィスコンシン対ミッチェル事件最高裁判決がこの問題を検討して、そうではない、思い被害結果があるから重い刑罰を課すのだ、ということで決着がついています。しかし、日本でもそうですが、具体的な事実を踏まえずに、表現や思想を処罰するものだという一般論による批判があり、イギリスでも同じ批判が続いているそうです。イガンスキらは、この批判への反論を試みています。イガンスキらは、ヘイト・クライムの空間的影響と感情的影響について、イギリス犯罪調査結果の分析を行っています。

Barbara Perry (General Ed.), Paul Iganski (Ed.), Hate Crimes, Volume 2, The Consequences of Hate Crime, Praeger Publishers,2009.

4)ジュネーヴ

旅する平和学(33)

国際人権の町ジュネーヴ(四)

 人権条約に基づく委員会は、女性差別撤廃条約などがニューヨークで開かれるが、多くはジュネーヴの人権高等弁務官事務所、レマン湖のほとりに立つパレ・ウィルソンという建物で開催される。ウィルソンとは国際連盟設立を提唱したアメリカ大統領の名である。

人種差別撤廃委員会

二〇一〇年二月二四日、人種差別撤廃条約に基づく人種差別撤廃委員会が日本政府報告書審査を行い、直前に明らかになったばかりの高校無償化から朝鮮学校を除外するという中井大臣発言について、懸念が表明された。アレクセイ・アフトノモフ委員(ロシア)は次のように述べた。

 「高校無償化問題で大臣が、朝鮮学校をはずすべきだと述べている。すべての子どもに教育を保証するべきである。朝鮮学校の現状はどうなっているのか。差別的改正がなされないことを望む。今朝、新聞のウエブサイトを見たところだ。」

人種差別撤廃委員会は、三月一六日に最終所見(勧告)を公表した。

「委員会は、日本政府が、バイリンガル指導員や入学案内など、少数者集団の教育を促進する努力を行ったことを評価するが、教育制度において人種主義を克服する具体的な計画の実施に関する情報が欠如していることは残念である。さらに、委員会は、次のような、子どもの教育に差別的影響を与える行為に関心を表明する」として、次の五点を指摘した。 

①アイヌの子どもや他国籍の子どもが自己の言語で教育を受ける適切な機会がない。②条約第五条、子どもの権利条約第二八条などに従って、日本にいる外国人の子どもに義務教育制度が完全に適用されていない。③学校認可、同等の教育課程および高等教育への進学に関して障害がある。④外国人(朝鮮人、中国人)学校について、公的援助、助成金、免税についての異なる処遇。⑤高校教育無償化から朝鮮学校を除外するという政治家発言。

 その上で、「委員会は、教育機会に関する諸規定に差別がないようにすること、日本の管轄に居住する子どもが、就学や義務教育に関して障害に直面しないようにするよう勧告する。多数の外国人学校制度や、代替的な制度の選択に関する研究が、日本政府によって採用されている公立学校以外にも行われるよう勧告する」とした。

 また、日本政府が拒否し続けている人種差別禁止法の制定についても勧告した。

 「委員会は、条約第四条(a)(b)の留保に関心を有する。委員会は、朝鮮学校に通う子どもなどの集団に対するあからさまな、粗野な言動の事件が続いていることや、特に部落民に対してインターネットを通じて有害な人種主義的表現・攻撃にも関心を有する。委員会は、人種的優越性や憎悪に基づく思想の流布を禁止することは、意見・表現の自由と合致するという委員会の見解を強調する。そしてこの点で、日本政府に条約第四条(a)(b)の留保を維持する必要について検討し、留保の範囲を限定し、むしろ留保を撤回するよう促す。委員会は、表現の自由の行使は、特別な任務と責任、とりわけ人種主義思想を流布させない義務に対応するものであることを想起し、日本政府に対して、委員会の一般的勧告第七(一九八五年)と第一五(一九九三年)を考慮に入れるよう再び呼びかける。これらの勧告は、第四条は自力執行力がないとしても、命令的性格を有するとしている。委員会は日本政府に次のように勧告する。」

 日本政府は、包括的な人種差別禁止法もヘイト・クライム規制法も拒否しているが、態度を改めて法制定を検討するべきだ。

子どもの権利委員会

 六月一五日、子どもの権利条約に基づく子どもの権利委員会が、五月に行なわれた日本政府報告書審査の結果としての勧告を公表した。日本のマスメディアはこれを黙殺したが、韓国のメディアが詳しく伝えている。例えば、六月一八日の『朝鮮日報』は、子どもの権利委員会で日本の歴史教科書をめぐり勧告がなされた事実を報じた。
 「国連児童の権利に関する委員会(委員長:李亮喜成均館大法学部教授)は、日本の歴史教科書について、アジア・太平洋地域の過去の歴史に関する、バランスある視点が見られないとして、日本政府に対し是正を勧告した。/同委員会は、一六日に公開した報告書で、第五四会期中に実施した日本の『児童の権利に関する条約』履行状況の審議の結果、日本の歴史教科書は、アジア・太平洋地域の他国の生徒たちとの相互理解を強化し得ないだけでなく、歴史的事件を日本の観点からだけ記述していることを懸念する、と指摘した。(中略)さらに報告書は、華僑の学校や在日本朝鮮人総連合会の学校などに対する支援が十分でなく、これらの学校を卒業しても、大学入学に必要な資格要件が認められないことにも注目し、日本政府が日系以外の学校に対する支援を増やし、大学入学などの面での差別を撤廃することを勧告した。」

 このように重要な勧告が出ているにもかかわらず、日本のマスメディアを通じて詳細を知ることができない。子どもの権利委員会による総括所見に含まれた勧告は非常に多く、充実した内容である。一部の項目だけ列挙しておく。

①前回二〇〇四年の勧告の多くが実施されず、まったく対応されていないことは遺憾である。②子どもの権利に関する包括的立法を検討すること。③子どものための国家行動計画を策定すること。④次回報告で国家人権委員会および子どもオンブズパーソンについての報告をすること。⑤子どもの権利プログラムについて市民社会との連携を強化すること。⑥民族的マイノリティの子ども、移住労働者の子ども、障害を持った子どもなどへの社会的差別に対処すること。⑦在留資格を有しない者が子どもの出生届すらできない状況を改善すること。⑧学校における体罰が続いていることを懸念する。⑨児童虐待やネグレクトに対処し、子どもを保護すること。⑩子どもの教育における過度の競争(受験競争)について遺憾に思う。⑪朝鮮学校等への補助金が不十分である。大学受験資格差別を懸念する。外国人学校への補助金を増額するよう勧告する。⑫ユネスコ教育差別禁止条約を批准すること。⑬歴史教科書記述が偏っているため子どもの相互理解が増進されていない。検定教科書におけるアジア太平洋地域の歴史に関するバランスのとれた見方を提示するよう勧告する。⑭保護者のいない難民子どもを保護すること。⑮人身取引きへの効果的監視を行なうこと。⑯子どもの性的搾取の増加に対策をとるよう勧告する。⑰アイヌ、朝鮮人、部落その他のマイノリティの子どもが社会的に周縁化されていることを懸念する。⑱二〇一六年五月二一日までに次回報告書を提出すること。

 近年、各種の人権条約委員会からの勧告が相次いでいるが、日本政府は後ろ向きの姿勢を変えていない。