Tuesday, March 30, 2021

ヘイト・クライム禁止法(198)スイス

スイス政府がCERDに提出した報告書(CERD/C/CHE/10-12 .29 January 2019

前回審査の結果、CERDはスイスに条約第四条に関する留保を撤回するべきであり、なぜ留保を付しているのか説明するよう要請した。

スイスでは団体設立に際して審査が行われない。人種主義を助長する団体の設立や指導、そうした団体への支援すること、団体の活動への参加を刑法で処罰することは、人に、ある団体の違法な性質を認識して法律に従うようにもとめ、その認識に基づいてその団体に参加しないように決定することを要請し、そうでなければ処罰に直面することになる。憲法第二三条が保障する結社の自由の権利に合致しないことになる。二〇〇三年、そうした効果を持つ規定を導入する提案がなされたが、審議参加者のほとんどによって否決された。その状況に変化は生じていない。民法第七八条は、人種主義を助長しようとする団体のような違法目的の団体を、当局又は関係者の要請を受けて、裁判官が解散させることができるとする。

前回審査の結果、CERDはスイスに、裁判官など法律家に、意見・表現の自由の保護とヘイト・スピーチとの闘いの国際基準に敏感になるようにすることを勧告した。

人権と人種差別に関する法律は、ロースクールの必修科目であり、検察官と裁判官はその職務を担うことができるように、判例法を学ぶことが課せられている。ジュネーヴ大学やバーゼル大学などでは、このテーマの特別なクラスとセミナーを用意している。裁判官団体と研修は地方のカントン当局の責任である。連邦の検察官と裁判官は特別研修を義務付けられていない。

国際基準の意識涵養という点では、司法職員はオン・ザ・ジョブ研修を行っている。ルツェルン教員研修学校人権研修センターが人権教育を担当している。スイス人権専門センターは法律家のためのシンポジウムを定期的に開催している。

前回審査の結果、CERDはスイスに、高い地位にある公務員による人種主義発言を拒否し、憎悪思想を非難するよう勧告した。

刑法第二六一条bisは、人又は集団の人種、民族、宗教に基づく憎悪又は差別の公然たる煽動を三年以下の刑事施設収容又は罰金としている。現在提案されている「レイナード立法提案」が実現すれば、性的志向及びジェンダー・アイデンティティにも適用される。民法第二八条は、人がヘイト・スピーチを直接受けた場合には人格権侵害について制裁を定めている。カントン・レベルの助言機関は、この規定の効果的な実施を支援する。

刑法第二六一条bis違反の人種主義事件の発生件数や類型は時期によって変化がある。二〇一六年は四一件、一五年は五七件、一四年は二二件、一三年は四七件であった。法廷に登場した事件のごく一部が報道されるにすぎない。連邦の反人種主義委員会が把握した件数は、一六年は〇件、一五年は一件であった。電子的コミュニケーションで人種主義的言葉が用いられた件数は一九九五年~二〇一六年に一二%であった。

この問題で取られた制裁措置は意識啓発及び予防措置によって補われる。当局は、共存の概念に焦点を当てた対抗言論を促進し、拡散しなければならない。連邦審議官は社会的調和を維持し、不寛容に反対する必要を強調する声明をたびたび発している。アラン・ベルセ連邦審議官、内務大臣、連邦大統領(二〇一八年)は統合と共存のための呼びかけ発言を何度も行ってきた。

Monday, March 29, 2021

「ダーバン+20キャンペーン」 キックオフ・イベント

日本のレイシズムを可視化する~ラムザイヤーはここにいる!

 

日 時: 2021417日(土) 11:00-13:00

方 式: オンライン(zoom) 参加費:無料

zoom申込み:https://bit.ly/3lRR6Ek

主催:「ダーバンから20年:日本のレイシズム・コロニアリズム・セクシズムを解体する」キャンペーン(仮称)

(略称:ダーバン+20キャンペーン) 

+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:++:-:+:-:+:-:+:-+:-:+:-:+:-:+:-:


■プログラム■

司会・趣旨説明: 藤岡美恵子 (法政大学非常勤講師/「ダーバン+20キャンペーン」呼びかけ人) 

1部:ラムザイヤー論文に見るレイシズム、コロニアリズム

部落差別:角岡伸彦(フリーライター)

沖縄差別:親川志奈子(沖縄大学非常勤講師/琉球民族独立総合研究学会共同代表)

朝鮮差別:伊地知紀子(大阪市立大学教員) 

関東大震災朝鮮人虐殺:加藤直樹(作家)

2部:ダーバン宣言から見る日本のレイシズム、コロニアリズム 

総括コメント:上村英明 (恵泉女学園大学教員/「ダーバン+20キャンペーン」呼びかけ人)

参加者との質疑・討論/ダーバン+20キャンペーンの紹介・賛同呼びかけ

+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:++:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:

 米国のブラック・ライヴズ・マターや、欧州の奴隷貿易や植民地支配の負の遺産を克服しようという試み――近年、レイシズムと植民地主義に正面から向き合う運動が世界中で注目を集めています。一方日本では、差別撤廃を訴えるマイノリティの声に対して執拗なヘイト・スピーチが繰り返され、社会全体でも「レイシズムNO!」の声は残念ながら大きくはありません。 

20年前、レイシズムと植民地主義を世界的課題として話し合う画期的な会議がありました。南アフリカのダーバンで開かれた「人種主義、人種差別、外国人排斥および関連するあらゆる不寛容に反対する世界会議」(略称:ダーバン会議)です。ダーバン会議は、人種差別がジェンダーなどの他の要因と絡み合う「複合差別」の視点や、目の前にある差別は奴隷制や植民地支配など過去の歴史と切り離せないことを示すなど貴重な成果を残しました。 

ダーバン会議が示した地平を想起しつつ、近代日本がつくってきた差別構造を解体するためのキャンペーンの枠組みを議論していた矢先、米国ハーバード大学のラムザイヤー教授による「慰安婦」や沖縄、部落、在日朝鮮人などに関わる不正確な論文がニュースになりました。レイシズム、セクシズム、コロニアリズムが交差するラムザイヤー教授の主張はしかし、日本で私たちが日常的に目にする光景です。ラムザイヤーはどこにでもいるのではないでしょうか。キックオフ・イベントでは、このラムザイヤー論文を題材に日本のレイシズムを可視化するとともに、ダーバン+20キャンペーンのこれからをお伝えします。ぜひご参加ください。

 <実行委員会> 稲葉奈々子(上智大学) 上村英明(恵泉女学園大学)* 清末愛砂(室蘭工業大学) 熊本理抄(近畿大学)* 乗松聡子(『アジア太平洋ジャーナル・ジャパンフォーカス』 エディター) 藤岡美恵子(法政大学)* 藤本伸樹(ヒューライツ大阪) 前田朗(東京造形大学)* 矢野秀喜(強制動員問題解決と過去清算のための共同行動事務局)* 渡辺美奈(アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam) 2021.3.26現在/*は呼びかけ人 

連絡先:「ダーバンから20年:日本のレイシズム・コロニアリズム・セクシズムを解体する」キャンペーン(仮称)(略称:ダーバン+20キャンペーン) 

email: durbanRCS@gmail.com

Wednesday, March 24, 2021

ヘイト・スピーチ研究文献(167)カナダの二段階アプローチ

鈴木崇之「カナダにおける表現の自由の保障とその限界――審査枠組みの観点から」『東洋大学大学院紀要』五四集(二〇一八年)

鈴木によると、アメリカと同様に英米法系に属するカナダだが、アメリカの判例法理とは異なる独自の法理を形成してきた。違憲審査基準というわけではなく、「分析のための基本的枠組み」と理解されているという。

カナダの枠組みは二段階アプローチと呼ばれ、「まず第一段階で、カナダ憲章で保護された権利及び自由が制限されたかどうかが問題となる。この段階での立証責任は、権利及び自由の侵害を主張する当事者にある」。「第二段階では、制限が正当化されるかどうかが問題となり、この段階での立証責任は制限を支持することを求める当事者―大抵は国家――にある」という。そこでは形式的要件と実質的要件が検討される。形式的要件は「その機能として、公務員の恣意的ないし差別的取り扱いを排除すること、②何が禁止されているかにつき国民に知らしめる告知機能が挙げられる。次に、実質的要件については、その文言が多義的であり、その内実を確定することが求められる」という。それはOakes事件判決で提示されたOakesテストによって明示された。鈴木はOakesテストを(1)目的の重要性、(2)比例テスト、の2つに分けて説明する。

鈴木は最後に次のように述べる。

「この審査枠組みを特徴付けるカナダ憲章1条の規定は、憲法の条文上で憲法上の権利及び自由の制限を認めている。あたかも法律の留保とも思えるカナダ憲章1条の正当化条項はカナダ特有のものではなく、欧州人権規約、市民的及び政治的権利に関する国際規約、世界人権宣言にも類似の規定が見受けられる。1982年憲法が比較的新しいことから、カナダ憲章1条は人権保障に関する国際的趨勢を参考に規定したものと考えられる。」

鈴木によると日本国憲法13条も同じタイプの規定であるから、カナダのような段階的審査を参考にすることができる。

また、鈴木によると、カナダの審査枠組みは、アンティグア=バーブーダ、オーストラリア、フィジー、香港、アイルランド、イスラエル、ジャマイカ、ナミビア、南アフリカ、バヌアツ、ジンバブエに影響を与えているので、「このテストの汎用性が高いことが示唆されうる」という。

「よって、我が国においても、憲法13条の一般的人権制約条項を基幹に、カナダ型の審査枠組み構築に向けた議論を展開していくために、カナダの審査枠組みを研究することは十分に意味がある。」

若干のコメントをしておこう。

1に、人権条項と、それに対する一般的人権制約条項を持つ法体系という共通性は、私も『ヘイト・スピーチ法研究序説』以来、指摘してきたので、納得できる。私はそれゆえ、国際人権法の重要性を唱えてきた。鈴木は国際人権法と同様であるからという理由でカナダ法に向かう。カナダ法を参照するのは理解できるが、それならばなぜ最初から国際人権法を研究しないのだろうかと思わないでもない。

2に、アメリカ憲法は歴史的性格も憲法の構造も人権条項の規定方式も文言も、日本国憲法とは大きく異なる。それゆえ、日本国憲法の解釈に際して、アメリカ憲法に学べと主張するのであれば、その正当性を立証する必要があるはずだ。日本国憲法の制定をリードしたのがGHQであったことや、日本の憲法学がアメリカ憲法学に学んできたという事実は、およそ立証と言えるレベルの話ではない。

前回の「ヘイト・スピーチ研究文献(166)内容中立性原則」において、私は次のように書いた。

<鈴木は「アメリカの判例法理が、日本におけるhate speechの議論に対して、どのような意味を有するかという点については明らかにしえなかった」と正直に述べる。常識的に考えれば、「じゃあ、なんで論文書いたの?」と言うべきところだが、……>

鈴木はアメリカ法のみならずカナダ法も研究し、両者を視野に入れた議論を展開し、特にカナダ法の意義を強調しているので、私の上記コメントはピントがずれていたようだ。

3に、カナダの二段階アプローチ、審査分析のための基本的枠組みはシンプルな枠組みであり、それ自体はよく理解できる。国際人権法においても類似の方法が採用されてきた解いてちょいと思う。欧州人権裁判所や、国際自由権委員会やその他の条約委員会の議論の仕方も同様と言って良いだろう。その意味ではイギリス法系の諸国に限らないとも言える。問題は、シンプルなアプローチはわかりやすいが、実際の適用に際して背景や文脈や効果について別途検討を要することだ。鈴木も日本にカナダ法を応用する具体的な議論は今後の課題としている。

Tuesday, March 23, 2021

ヘイト・スピーチ研究文献(166)内容中立性原則

鈴木崇之「アメリカにおける内容中立性原則の分析――hate speech規制をめぐる合衆国最高裁の判例法理を中心に」『東洋大学大学院紀要』五三集(二〇一六年)

アメリカでは学説・判例上「公理」となっていると言われる内容中立性原則について、日本では多くの先行研究があるが、鈴木は「その内実に関しては、いまだ論争的であり、これを整理し、明確にすることでその理解が容易になる」という。Cox事件判決、Mosley事件判決からChaplinsky事件判決、Beauharnais事件判決を経て、R.A.V.事件判決における原則の確立、さらにBlack事件判決を辿り直す。

R.A.V.事件判決とBlack事件判決の整合性について、鈴木は、「規制される言論の表現行為類型については、R.A.V.事件判決とBlack事件判決で異なるが、内容規制の対象については、歴史的に差別されてきた個人あるいは集団に対する耐えがたい表現という点で、ある程度の一致がみられる。つまり、hate speechは、表現行為類型によって特徴づけられるのではなく、特定の内容(歴史的に差別されてきた個人あるいは集団に対する耐えがたい表現)を選び出していることによって特徴づけられている。法廷意見のように十字架焼却に特定のイデオロギーが付帯しないと解すれば、Black事件判決は、hate speechに関する事例ではなく、単に象徴的言論規制あるいは十字架焼却規制の合憲性について判断した事例として認識されるべきである」という。

hate speechについて、上述のように、その目的を歴史的に差別されてきた個人あるいは集団に対する耐えがたい表現から彼らを保護することにあるとすれば、保護されない言論全体を規制した場合に、hate speech規制との関係でその規制の広範性が問題となる。しかし、その目的に沿うように規制を行えば、中立性を欠くこととなる。つまり、保護されない言論の中で内容規制を行う場合に、規制の広範性と中立性との間でディレンマが生じる。その結果、アメリカにおいて、hate speechを規制することが事実上不可能となった。」

ただ、最後に鈴木は「アメリカの判例法理が、日本におけるhate speechの議論に対して、どのような意味を有するかという点については明らかにしえなかった」と正直に述べる。

「じゃあ、なんで論文書いたの?」と言うべきところだが、鈴木論文にはそれなりの意味がある。R.A.V.事件判決によって確立された内容中立性原則の射程を明らかにしているからだ。

私自身は内容中立性原則なるものをもともと評価していないので、あまり関心はない。ただ、多くの憲法学者が「内容中立性原則だ」と断定的に述べて問答無用の態度を示すので、いちおう応答しておく必要はある。若干の感想を述べておこう。

1に、鈴木によれば、「その内実に関しては、いまだ論争的であり、これを整理し、明確にすることでその理解が容易になる」が、R.A.V.事件判決とBlack事件判決の整合性についてさえいまだに理解の幅がある。それをなぜ「原則」などと呼ぶことができるのか。原則が確立されたとか「公理」だというのは、レッテル詐欺に近い話であることを鈴木が教えてくれた。

2に、日本における内容中立性原則は、芦部信喜がアメリカの判例法理を検討して抽出した原則とされ、日本の憲法学においては絶大の影響力を持っているが、判例には採用されていない。判例の読み方について、芦部は「二分説の考え方を明示すると否とを問わず一つの前提にしている、とみることは十分に可能であろう」と述べている。「明示的に否定されていないから、黙示的に前提とされているとみることが十分に可能」というトンデモな議論である。

3に、内容中立性原則なるものは、内容規制・内容中立規制二分論を説明する際に用いられてきた。よく言えば明快な議論である。悪く言えば過度の単純化の弊と言うべき議論である。内容規制・内容中立規制や、価値中立論の特質は、これに賛同する者には極めて明快な点である。だが、疑問を持つ者にとってはこれほどあいまいな議論はない。線引き不能の内容規制と内容中立規制という基準をあえて持ち出すことで、説明を要する概念を増やしただけではないだろうか。日本国憲法前文や第一二条は内容に満ちた法世界、価値に満ちた法世界を想定しているのであって、内容中立や価値中立に逃げ込むことは背理というべきではないだろうか。

もっとも、法解釈というものは試行錯誤を繰り返すことで、概念の明晰さを錬成していくプロセスであるから、内容中立性原則や、内容規制・内容中立規制二分論がそのための積極的な試みであることを否定することもできない。万が一、日本の裁判所において積極的に採用されることがあれば、その時には重要な意味を持つであろう。

スガ疫病神首相語録24 五箇条の誤誓文

3月18日、スガは記者会見を開き、21日をもって新型コロナの緊急事態宣言を解除すると発表した。

その際「5つの柱」対策を示した。

1.飲食の感染対策

2.変異ウイルス対策の強化

3.モニタリング検査など感染拡大防止策の強化

4.ワクチン接種の着実な推進

5.医療提供体制の充実

すべて従来の繰り返しで、誰もがアッと驚く「無策の表明」であった。ずっと以前から指摘されてきたことの繰り返しである。

<無責任な政治家×接待漬けの官僚×無能な医師団=5つの柱>

完璧な方程式である。

スガはこの3か月で「感染を8割減らした」と自画自賛したが、感染を10倍に増やしたのはスガであり、元に戻っただけである。

しかも、感染は再び増加傾向である。

その責任を国民に押し付けるために、マスク、手洗い、飲食業の自粛を繰り返す。

 

3月23日、贈賄事件の河合克行元法相が起訴事実を認めて議員辞職を表明した。自民党からの1億5000万円の真相は隠されたままである。

 

**********************************

 

「5つの柱」五箇条の誤誓文

 

一、広ク接待ヲ興シ、万機好論ニ決スへシ。

*接待と贈収賄に明け暮れ、すべて思い付きや好みで自分やお友達の都合の良いように決定するべし。

 

一、上下心ヲ一ニシテ、盛ニ経綸ヲ行フへシ。

*国民が一体となってGOTOイートとGOTOトラベルに励み経済を活性化させ、感染者を10倍増加させるべし。ワクチン接種はできる限り遅らせるべし。

 

一、政官一途財界ニ至ル迄、各其欲ヲ遂ケ、人心ヲシテ疑ワサラシメン事ヲ要ス。

*政財官そろってそれぞれの欲を貪り、庶民を騙し、疑念を抱かせないようにするべし。先進国では最悪の貧困率であることを隠し、我慢の哲学を推奨するべし。

 

一、旧来ノ陋習ヲ破リ、自公ノ私益ニ基クへシ。

*平和主義や民主主義という陋習を打ち破って、自公政権が気ままに政治を行うべし。女性差別の美風はしっかりと維持するべし。

 

一、知識ヲ世界ニ求メ、大ニ皇基ヲ振起スへシ。

*世界の腐敗政権、独裁政権に学び、おおいに差別と排除を蔓延させるべし。

 

 

一、広ク会議ヲ興シ、万機公論ニ決スヘシ。

一、上下心ヲ一ニシテ、盛ニ経綸ヲ行フヘシ。

一、官武一途庶民ニ至ル迄、各其志ヲ遂ケ、人心ヲシテ倦マサラシメン事ヲ要ス。

一、旧来ノ陋習ヲ破リ、天地ノ公道ニ基クヘシ。

一、知識ヲ世界ニ求メ、大ニ皇基ヲ振起スヘシ。

Wednesday, March 17, 2021

スガ疫病神首相語録23 トーキョーに電話

誰もが新型コロナと総務省接待問題に飽きてきたため、ガースーは、新たな話題提供が必要と、日米交渉を開始することにした。新型コロナ緊急事態宣言を解除するので、別の話題に関心を集めたほうが得策である。

3月16日、ブリンケン国務長官とオースティン国防長官が来日し、外務・防衛閣僚と「22」会合を持った。さらに4月前半、ガースーが訪米し、ジョーと会談することが発表された。

3月17日、札幌地裁は同性婚訴訟で、憲法違反を認める画期的な判決を出した。武部知子裁判長、時代を変える爽風一陣、勇気ある一歩である。

 

**********************************

 

ジョーの独り言

 

いやはや大統領は予想よりもはるかに疲れるね。えっ、年齢のせいだろうって、いやいや、そうじゃないんだ。

私は元気だよ。78歳は青春だよ。アメリカの繁栄のために活躍するには適齢期だ。脳動脈瘤は45歳の時に済ませたし、肺塞栓症も回復して、まったく問題なし。健康に不安などなく、全力投球で職務をこなしているところさ。

問題は、怒鳴るドナルドが滅茶苦茶にしたために後始末に追われたことだ。大統領選挙に不正があったなどと往生際が悪く、引継ぎをきちんとしなかったため、何から何までこちらで進める必要があった。外交も内政も破綻していたし、ホワイトハウスは大混乱だったからね。大統領職を始めるための準備作業に追われたよ。閣僚人事も大変だったしね。

スタート・ダッシュというわけにはいかなかったが、子どもの頃、ダッシュというあだ名で馬鹿にされたから、ダッシュできなくても構いやしない。

怒鳴るドナルドの「アメリカ・ファースト」が極端な孤立主義で、周囲に迷惑かけっぱなしだったから外交面でも一からスタートだ。アメリカ・ファーストがダメという訳じゃない。アメリカ・ファーストを実現するためには、駆け引きや調整も必要だ。知恵が必要だ。

無知なドナルドは駆け引きも協議も調整もなく、気まぐれに脱退や放棄を繰り返したから、アメリカの信用はがた落ちだ。

特に欧州諸国は冷淡だ。アメリカは身勝手だ、協調性がない、二転三転する、とても信用できないって、そればかりだ。

だから、いくら電話をかけても、そっけないんだ。

ボリス(イギリスのボリス・ジョンソン)なんて、「新型コロナ対策で忙しいので、3分にしてくれ」だって。アメリカ大統領をなんだと思ってるんだ!

ガチャン!

あっ、珈琲カップを落としてしまったじゃないか。まいったな、レディー・ガガからもらった愛用のカップを自宅から持ってきたのに。それに、割れたカップはどこに捨てたらよいのか、ホワイトハウスのゴミ掃除にまだ慣れていないんだ。

エマニュエル(フランスのエマニュエル・マクロン)もひどいもんだよ。挨拶抜きでいきなり、「政策変更はできましたか」だよ。朝食のメニューじゃないんだから、そんな簡単にできるはずないだろう。

ガチャン!

おっと、また落ちてしまった。ホワイトハウス常備の中国製白磁のカップなんだが。

ええっと、何の話だったかな。

そうそう、アンジー(ドイツのアンゲラ・メルケル)に至っては、秘書官が「必要な時はこちらから電話します」だって。

ガチャン!!

あっ、まただ。今日はこれで3個めだ。1週間もいればホワイトハウスのカップが全部割れてしまう。昔はローリング・ストーンズの「アンジー」が好きだったのに、いまや「悪魔を憐れむ歌」気分だね。

仕方がないからジャスティン(ジャスティン・トルドー)に声を掛けたんだけど、「国民も注意深く見ているので、察していただけますか」だってさ。

ガチャン!!

フーーーっ、4個めだ。

最友好国のカナダにまでこんなこと言われるなんて、私はなんてついていない大統領なんだ。

昔は、どこのリーダーも真っ先にアメリカ大統領に会いたがったもんだぞ。行列のできるホワイトハウスだった。誰が最初に会ったかがニュースになった時代もあった。私と会えるかどうかが、彼らの最大の関心事のはずじゃないか。世界の指揮官だぞ!

それが今じゃこの有様だ。まるで廃棄物のように、みんな避けてる。いくらなんでも耐えられないから、呼びつけたら飛んでくるリーダーはいないのかって、国務長官に聞いたら、「大丈夫です。ガースーが飛んできますから、命令してやればいいんです」。

そうか、その手があったか。

アメリカ大統領と会えるだけで涙を流して喜ぶのは、いまやあの国くらいのものだ。たしかシンゾーはドナルドが大統領に就任する前にぶっ飛んできて、「あなたの奴隷です」って感涙で叫んでいた。目が飛び出るような大金の思いやり予算付きだ。

私もガースーを呼び出して、アメリカ大統領として命令を下す気分を満喫することにしよう。思いやり予算、今年は増額しておこうかな。ついでに有田焼の珈琲カップも贈り物にしてもらおう。これから米中対立を演じなくちゃいけないから、中国製白磁のカップはもうやめて、有田焼のコレクションがいいな。

よし、「秘書官、トーキョーに電話だ」。

 

Rolling Stones, Angie

https://www.youtube.com/watch?v=RcZn2-bGXqQ

Rolling Stones, Sympathy For The Devil

https://www.youtube.com/watch?v=awXRuKDjVDY

https://www.youtube.com/watch?v=ZRXGsPBUV5g

 デジタル監視法案(デジタル改革関連6法案)に強く反対する

法律家・法律家団体の緊急声明

2021年3月17

デジタル監視法案に反対する法律家ネットワーク

共謀罪対策弁護団 共同代表 海渡雄一
秘密保護法対策弁護団 共同代表 海渡雄一・中谷雄二・南 典男
社会文化法律センター 共同代表理事 宮里邦雄
自由法曹団 団長 吉田健一
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 上野 格
日本国際法律家協会 会長 大熊政一
日本反核法律家協会 会長 大久保賢一
日本民主法律家協会 理事長 新倉 修
三宅 弘 元総務省行政機関等個人情報保護法制研究会委員 弁護士
平岡秀夫 元法務大臣・元内閣官房国家戦略室室長 弁護士
青井未帆 青山学院大学教授
池本誠司 元消費者庁参与 弁護士
右崎正博 獨協大学名誉教授
白藤博行 専修大学教授
晴山一穂 専修大学名誉教授

1.はじめに 

 政府は、デジタルデータの活用が不可欠であるなどとして、デジタル改革関連6法案を2月9日に閣議決定し、今国会での早急な成立を目指している。

 関連法案は、内閣総理大臣を長とする強力な総合調整機能(勧告権等)を有するデジタ 

ル庁を設置し、個人情報関係3法を一本化し、地方公共団体の個人情報保護制度も統一化

した上で、デジタル庁が市民の多様な個人情報を取得して一元管理し、その利活用を図る

ことなどを定めるが、個人のプライバシー権(憲法13条)保護の規定を欠き、政府と警察

による徹底した市民監視を可能とする、「デジタル監視法案」というべき危険な法案である。

 私たち法律家・法律家団体は、個人のプライバシー権を保障し、国家による市民監視を

許さない立場から、以下に述べるとおり、デジタル改革関連6法案(以下「デジタル監視

法案」という。)の成立に強く反対する。

2.憲法13条のプライバシー権に対する重大な脅威であること

(1) 分散管理から一元管理となることの危険性

  従来、各省庁、独立行政法人、及び地方自治体が、データを分散管理することにより、 

 個人情報の保護を図ってきたが、デジタル監視法案は、これらの規制を取り払い、デジタ

 ル庁に、すべてのデジタル情報を集中して、マイナンバーと紐づけて一元管理することを

 目指している。しかし、デジタル庁に集積される個人情報は膨大な量であり、その中には、

 例えば、地方公共団体の保有する医療、教育、福祉、所得、税に関するデリケートな情報

 も大量に含まれている。ひとたび、これらが流出、漏洩、悪用された場合の被害の範囲と

 大きさは分散管理のときとは比較にならない。行政の外部委託化により、集約された膨大

 な個人情報を民間企業が取り扱う機会も増えており、外部流出等の危険性は高い。システ

 ムが統一化されることにより、外部からのサイバー攻撃を受けた際に被る被害も甚大なも

 のとなる。デジタル監視法案は、これらのリスクの増大に見合う対策が何ら講じられてい

 ない欠陥がある。

(2) 個人の同意なく情報が利活用される危険性

  個人情報の利活用を図るためには、データ主体の権利保護が大前提であり、それが、EU 

 一般データ保護規則(GDPR)をはじめとする国際標準である。しかし、デジタル監視法案

 は、データ主体の個人の権利保護規定が致命的に欠けており、運用が始まれば個人のプラ

 イバシー権が侵害される危険が極めて高い。とりわけ問題は、デジタル庁に集められた膨

 大な個人情報が、権利主体の同意なく、企業や外国政府を含む第三者に提供され、目的外

 使用に供される危険である。整備法案では、個人情報保護法の69条として、既存の行政機 

 関個人情報保護法8条と同様の例外規定をおくが、第三者提供が厳格に制限される保証は

 ない。「所掌事務の遂行に必要」、「相当な理由」があるなどの理由により、個人の同意原則

 が骨抜きにされる怖れが極めて大きい。この怖れは、デジタル監視法案の目的が第一義的

 に、「我が国の国際競争力の強化」に置かれているとおり、経済界の強い要請に基づく個人

 情報保護規制の撤廃による国際競争力の強化に置かれていることからも裏付けられる。

3.政府・警察による監視国家の推進

 デジタル監視法案のもとでは、各省庁と地方自治体の情報システムが、すべて共通仕様

化され、デジタル庁に一元管理される。さらに、マイナンバーによって、健康情報、税金

情報、金融情報、運転免許情報、前科前歴情報などが、紐づけされて一覧性の高い形での

利用できるようになるのである。これは、市民のセンシティブ情報を含むあらゆる情報を

政府が、「合法的に」一望監視できる国家、すなわち監視国家の体制整備を意味する。とり

わけ内閣総理大臣を長とするデジタル庁は、内閣情報調査室と密接な関係を持ち、そうな

れば、デジタル庁が集約した情報は、官邸・内閣情報調査室を介して警察庁・各都道府県

警察と共有されることになる。個人の私生活が丸ごと常時、政府と一体となった警察によ

ってデジタル監視されるような社会は、民主主義社会とは言えない。

4.地方自治の本旨に反すること

 デジタル監視法案は、これまでの分権的な個人情報保護システムの在り方を根本から転換し、国による統一的な規制を行うとするものである。このような制度は、各公共団体において、住民との合意のもとで構築してきた独自の個人情報保護の在り方を破壊し、公共団体による先進的な個人情報保護制度の構築を後退させるものになりかねない。自治体において収集した個人情報をどのように管理するかは、自治事務の一環であり、国がこれを一方的に支配・統合することは、地方自治の本旨(憲法92条)に反するというべきである。

5.結論

 デジタル監視法案は、上記以外にも、そもそも誰のためのデジタル化推進かという立法

事実の議論をはじめ、転職時における使用者間での労働者の特定個人情報の提供を可能と

する、国家資格をマイナンバーに紐づけて管理するなど、極めて問題が多い法案である。

慎重にも慎重な審議が必要である。デジタル監視法案に反対する法律家ネットワークは、

本年2月25日に法案の修正撤回を求める意見書を発表しているが、特に、個人情報保護

の徹底とプライバシー権侵害の危険の払しょく及び警察権力の規制をはじめ監視国家化防

止策が徹底されない限り、デジタル監視法案は、廃案にすべきである。 

                                          以上

ヘイト・クライム禁止法(197)シンガポール

シンガポールがCERDに提出した第1回報告書(CERD/C/SGP/1. 30 January 2019

すべての形態の人種憎悪と差別を禁止している。煽動法は異なる人種や階級の間の悪意や敵意の感情を助長することを違法としている。人種主義活動への援助も含まれる。裁判所は法律適用の際に、異なる人種や階級の間の悪意や敵意の感情を助長する行為は重大であると強調してきた。煽動文書や攻撃的文書の配布の事案では、裁判所は多人種・多宗教社会ではこうした行為が人種的宗教的調和を引き裂く社会的混乱をもたらす傾向を有するとしてきた。こうした事案では施設収容刑を言い渡してきた。

人種や宗教に関して、刑法は、人の宗教的人種的感情を傷つける意図をもってなされた行為、言葉又は音響を犯罪とする。3年以下の刑事施設収容及び/又は罰金である。2007年、刑法改正により、宗教又は人種に基づいて、異なる宗教や人種集団の間に不和、敵対感情、憎悪又は悪意を助長し、又は助長しようとする行動を犯罪とした。

刑法改正に際して、担当大臣は次のように述べた。「毎月の報告によると世界で人種主義や排外主義が33%増加している。多宗教多人種のシンガポールでは宗教や人種の調和が重要である。人種的宗教的調和を維持するには、寛容、中庸、感受性を実行することである。異なる宗教や人種間の寛容と相互尊重が必要である。」

人種的宗教的動機の夜場合に犯罪に対する刑罰加重もなされる。裁判所は刑罰を1.5倍に加重することができる。人種的宗教的刑罰加重される犯罪は、(1)犯罪実行時、その直前又は直後に、犯行者が被害者に被害者の属性(又は属性と見做して)に基づく敵意を表明した場合、(2)犯罪の全体または一部が、その集団の属性に基づいて人種的宗教的集団構成員に対する敵意に動機づけられていた場合。

2005年以後、煽動法又は刑法によって人種宗教関連犯罪で捜査が行われたのは16人である。

行政当局は行政法に服し、そこでは人種差別の助長又は煽動の予防が定められている。人種差別を助長又は煽動する団体の間接禁止措置、及び団体参加の承認の認定が定められている。違法な目的、又は公共の平穏、福祉、公序良俗に悪影響を与える目的のための団体の登録を認めていない。こうした目的を有する団体は大臣が解散させることができる。

さらに非法的措置として、人種的攻撃や差別思想への対処がある。雇用の面では、2016年にパン職人の仕事に関連してマレー人に対して不適切な発言をしたパン屋経営者を解雇した事案が有名であり、3か月間の営業停止とした。2017年には中国系に対して差別的広告を出した雇用主に6か月の営業停止とした。

Friday, March 12, 2021

スガ疫病神首相語録22 輝ける接待天国

総務省官僚接待問題は、東北新社の許認可問題にかかわることが発覚し、3月12日、手続きミスを理由に、認可取り消しの方向が示された。条件違反にもかかわらず強引に認可を出したマキコの責任は無視されたままである。

続いて発覚したNTTによる接待問題では、セイコ元大臣やサナエ元大臣が接待を受けていたことが発覚した。セイコ元大臣は慌てて飲食代を返還して、「何の問題もありません」と開き直った。

ガースーの周囲には腐敗男だらけとの予想に反して腐敗女もひしめいていた。接待ゴチ人生の腐敗に性別は関係ないことを明確に証明したのは、平等主義者ガースーの業績と言えよう。

病気入院を口実に逃げ隠れするマキコの後任の内閣広報官には、外務副報道官だったヒカリコが任命された。光り輝く日の子である。

 

*******************************

 

いづれの御時にか、女御・更衣あまた侍ひ給ひけるなかに、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふ、ありけり。

はじめより我はと思ひ上がり給へる御方がた、めざましきものにおとしめ嫉み給ふ。同じほど、それより下臈の更衣たちは、まして安からず、東北の接待につけても、渋谷の接待につけても、人の心をのみ動かし、恨みを負ふ積もりにやありけむ、いと篤しくなりゆき、もの心細げに里がちなるを、いよいよあかずあはれなるものに思ほして、断わらない女御のそしりをもえ憚らせ給はず、世のためしにもなりぬべき御もてなしなり。上達部の晋三、上人の義偉なども、あいなく目を側めつつ、いとまばゆき人の御おぼえなり。唐土にも、かかる事の起こりにこそ、世も乱れ、悪しかりけれと、やうやう天の下にもあぢきなう、人のもてなやみぐさになりて、楊貴妃の例も、引き出でつべくなりゆくに、いとはしたなきこと多かれど、かたじけなき御心ばへのたぐひなきを頼みにてまきこまじらひ給ふ。

義父の大納言は亡くなりて、母北の方なむ、いにしへの人の由あるにて、親うち具し、さしあたりて世のおぼえ花やかなる御方がたにもいたう劣らず、なにごとの儀式をももてなし給ひけれど、とりたててはかばかしき後見しなければ、事ある時は、なほ拠り所なく心細げなり。

先の世にも御契りや深かりけむ、世になく清らなる玉の男御子、正剛さへ生まれ給ひぬ。いつしかと心もとながらせ給ひて、急ぎ参らせて御覧ずるに、めづらかなる稚児の御容貌なり。一の皇子は売れないばんどまんにて、寄せ重く、疑ひなき儲けの君と、世にもてかしづき聞ゆれど、この御にほひには並び給ふべくもあらざりければ、おほかたのやむごとなき御思ひにて、この君をば、私物に思ほしかしづき給ふこと限りなし。

初めよりおしなべての上宮仕へし給ふべき際にはあらざりき。おぼえいとやむごとなく、上衆めかしけれど、わりなくまつはさせ給ふあまりに、さるべき御遊びさくらを見る会接待の折々、何事にもゆゑある事のふしぶしには、先づ参う上らせ給ひ、ある時には大殿籠もり過ぐして、やがて侍らはせ給ひなど、あながちに御前去らずもてなさせ給ひしほどに、おのづから軽き方にも見えしを、この御子生まれ給ひて後は、いと心ことに思ほしおきてたれば、坊にも、ようせずは、この御子の居給ふべきなめりと、一の皇子の女御は思し疑へり。

Wednesday, March 10, 2021

ヘイト・スピーチ研究文献(165)アメリカ例外主義をどう見るか

斉藤拓実「『自由』と『尊厳』の狭間のHate Speech規制――アメリカ例外主義と憲法21条」『中央大学大学院研究年報』第45号(2016年)

斉藤は2018年に論文「日本におけるヘイトスピーチ――法的対応とこれからの課題」憲法理論研究会編『岐路に立つ立憲主義』を公表している。

https://maeda-akira.blogspot.com/2019/01/blog-post_31.html

そこでは斉藤は「刑事規制以外の手段を中心的な対象」、「刑事規制を敢えて迂回した手段」としていた。その背後にある斉藤の思想がよくわからなかったが、その2年前に発表した本論文で、ヘイト・スピーチ刑事規制に関するアメリカの学説及び判例の法理をフォローした上で、日本の学説と判例を検討している。これを前提として、次の一歩として「刑事規制を敢えて迂回した手段」を考察していたようだ。

本論文では、発話者の表現の自由の保障を理由にヘイト・スピーチの刑事規制に否定的なアメリカの学説・判例の中にも、被害者側の尊厳に注目して刑事規制の可能性を唱える新たな学説が登場していることに留意しつつ、両者の間の対話を確認する。

続いて斉藤は、日本について、奥平康弘と芦部信喜以来、憲法学説ではアメリカの判例法理に学んだ表現の自由論が圧倒的に強く、定説となっていることを確認する。近年も多数の表現の自由論が公表されているが、枠組みは奥平・芦部とさして変わらないと言って良い。

斉藤は、日本について、最高裁判例の動向を確認する。公務員の政治活動に関する猿払事件最高裁判決は「表現の自由にとって乗り越えなければならないハードルと考えられてきた」という。集会の自由と公共施設利用権に関する新潟県公安条例事件最高裁判決、泉佐野事件最高裁判決を踏まえて、日本では「明白かつ現在の危険」論がきちんと採用されず、独自の「明らかな差し迫った危険」論が採用されているという。

憲法学説は、明白かつ現在の危険に始まり、二重の基準論、表現内容規制、表現内容中立規制、ブランデンバーグ原則、LRAをはじめ、アメリカの理論を借用して数々の「理論」を提示してきたが、斉藤によると、最高裁はこれらを受容していない。最高裁判例を丁寧に読み解けば、憲法学説がさまざまに影響を与えてはいるのだが、受容されたわけではない。

結論において、斉藤は「少なくとも最高裁判所の立場に立てば、日本国憲法は必ずしもアメリカ例外主義を受容しているものではないように思われる。このような視点が、Hate Speechをめぐる今日の日本の議論状況において、どのような意味をもつものとなるだろうか」と問う。

そして斉藤は、表現の自由論による規制消極論と、差別解消のための規制積極論の対立を、上記の確認に照らして見直す。の立場を自明の前提のように語る憲法学者が多数いる。しかし、この立場は、最高裁判所によって採用されていない。今後に向けてアメリカ例外主義を受け入れるべきだと主張するしかないだろう。日本におけるヘイト・スピーチの議論として、いきなりの立場を前提とすることはできないことが分かる。

他方、斉藤によると、の立場に立つためには、規制が予防的なものとなるため「憲法21条違反を問われた時、立法政策上それに耐える十分なものとはなりえず、そればかりか不当な動機に基づく表現規制であることさえ疑われるだろう」という。

表現の自由についてアメリカ憲法学と判例に関する研究は膨大にある。多くの憲法学者がアメリカ表現の自由の法理を盾に、ヘイト・スピーチ刑事規制を否定してきた。

だが、その法理はそもそも日本の最高裁によって採用されていない。憲法学者にとっては重要か理論もしれないが、現実と交錯していない。このことを斉藤も確認している。

他方、差別解消のためにヘイト・スピーチ刑事規制を唱える見解は、斉藤によると、やはり憲法21条に照らして疑問が残るという。

斉藤は、①表現の自由を理由にする規制消極説と、②差別解消を理由とする規制積極説を対比して、検討する。私は、①や②ではなく、③表現の自由を理由にヘイト・スピーチ規制積極説を唱えてきたが、斉藤の視野には入っていないようだ。

斉藤は「アメリカ合衆国が、いわば表現の自由の『過剰』ゆえにHate Speech規制を困難にしているとすれば、日本においては、表現の自由の『過少』ゆえに困難が伴うのであって、Hate Speech規制にかかわる問題は両国に大きな隔たりがある」という。

半分納得するが、半分疑問である。

1に、アメリカにおける表現の自由の「過剰」とは何を意味するのか。現実には差別表現をするマジョリティの表現の自由の過剰にすぎないだろう。マイノリティにとっては表現の自由の「過少」ではないだろうか。法の主体はすべて自由で独立で平等であるという「信念」が無媒介に前提とされると、現実無視の議論にならないだろうか。

2に、日本における表現の自由の「過少」とは何を意味するのか。最高裁判例への批判としては適切であるが、現実の表現はどうか。とりわけインターネットの無法状態をどう見るか。

以上の2点を含めて、誰のどのような自由がどの文脈で、という観点で見ていく必要がある。この点では、斉藤は論文の終わりで、適切に、ヘイト・スピーチの類型論を考慮する必要性を指摘している。

Monday, March 08, 2021

レイシズムを解体する理論の前哨

梁英聖『レイシズムとは何か』(ちくま新書)

https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480073532/

第1章 レイシズムの歴史―博物学から科学的レイシズムへ

第2章 レイシズムとは何か―生きるべきものと死ぬべきものとを分けるもの

第3章 偏見からジェノサイドへ―レイシズムの行為

第4章 反レイシズムという歯止め

第5章 一九五二年体制―政策無きレイシズム政策を実施できる日本独自の法

第6章 日本のレイシズムはいかに暴力に加担したのか

第7章 ナショナリズムとレイシズムを切り離す

前著『日本型ヘイト・スピーチとは何か』(影書房)に続くスマッシュヒットである。梁は一橋大学大学院に学ぶ研究者であると同時に、レイシズムを調査・分析し、反レイシズム運動を進めるNGO「反レイシズム情報センター(ARIC)」代表である。

梁は、世界のレイシズムの歴史をたどり、その特質を抽出する。レイシズムは差別であり、差別助長の思想であり、差別の煽動であるが、単なる差別にとどまらず「生きるべきものと死ぬべきものとを分けるもの」である。敵と味方を分かつ基準である。それゆえ、偏見を放置しておくと差別につながり、やがて暴力へ、それもジェノサイドや人道に対する罪としての殲滅に至りかねない。

梁によると、国際社会は、国連憲章、人種差別撤廃条約などで反レイシズムの第一段階を経験した。1945年に始まり1960年代まで続いた植民地主義と人種主義に対する闘いとしての反レイシズム1・0である。にもかかわらず、レイシズムはなくならず、新たな形態をもって世界を苦しめてきた。このため1980~90年代、反レイシズム1・0のアップデートとして反レイシズム2・0が進められ、ヘイト・クライム/スピーチ規制、ホロコースト否定の犯罪化が実現した。これに対応して、さらに新たなレイシズム現象が生じている。

(梁は書いていないが、ここ10年程、国際社会はラバト行動計画、人種差別撤廃委員会一般的勧告35、ベイルート宣言、国連ヘイト・スピーチ戦略・行動計画を策定している。反レイシズム2・0のアップデートが続いている。)

ところが、梁によると、日本には反レイシズム1・0も2・0もまったくない。反レイシズムの規範が成立していない。その理由を、梁は「一九五二年体制―政策無きレイシズム政策を実施できる日本独自の法」と特徴づける。特定の激烈なレイシズム運動やレイシズム政策があったのではなく、入国管理体制と外国人登録法という形で、在日朝鮮人の排除と差別が徹底的に組み立てられた。日本国憲法の平和主義と民主主義と言いながら、実は世界でも珍しい「政策無きレイシズム政策」が貫徹した。ここに日本レイシズムの秘密がある。

梁は、入国管理体制や外国人登録法の下での朝鮮人差別と暴力の歴史を瞥見し、その変遷過程を踏まえつつ、「反差別ブレーキ」の存在しない社会におけるレイシズムの実相を暴き出す。在留資格、国籍問題、民族教育への差別と弾圧等々である。

日本に反レイシズム規範を確立すること、そのために歴史に学び、反レイシズム1・0と2・0の意義と射程を測定し、具体的に反レイシズム実践を積み重ねること。

梁の闘いは続く。

私は1989年に仲間と「在日朝鮮人・人権セミナー」を立ち上げ、事務局長として取り組んだ。いわゆる「チマ・チョゴリ事件」――朝鮮学校生徒に対する差別と暴力事件が頻発した時期であり、当時、私が作成した資料を梁も利用している。私たちの反差別運動はもちろん反差別規範を樹立するために闘われた。にもかかわらず、梁が指摘するように、それはまったく実現できなかった。

1990年代の「戦後補償運動」、特に日本軍性奴隷制の解決を求める運動の成果があったが、その後の反動は大きかった。同じ時期に、日本政府が人種差別撤廃条約を批准し、人種差別撤廃委員会での審査が行われたので、私たちの活動領域も大いに広がった。にもかかわらず、2000年代以後のヘイト・スピーチ大流行である。平和主義と民主主義を唱えるリベラル派憲法学者がヘイト・スピーチ擁護の論陣を張る異常な国である。

反差別、反レイシズム規範をこの社会に樹立すること、当たり前のことであり、必須不可欠のことであるが、これほど困難なことはないというのが現状である。

梁の問題提起を受けて、理論的にも実践的にも次の一歩を踏み出したい。現在、仲間と「ダーバン+20」の取り組みを相談中である。2001年に南アフリカのダーバンで開かれた反人種主義・人種差別世界会議20周年に、反差別運動の次の段階を目指す取り組みである。

Sunday, March 07, 2021

ヘイト・スピーチとソーシャルメディア(3)

スイスの国民投票でブルカ禁止の方針が過半数の賛成を得た。スイスでもイスラモフォビアの激化が懸念される。

 

「マイノリティ問題特別報告者」の報告書の紹介を続ける。

 

Ⅳ 国際法・制度枠組に関する勧告

法的制度的枠組みを指導する人権原則は一般的で技術中立的であるべきだが、ソーシャルメディア等の特別な技術に適用可能である。

②意見の自由、表現の自由、非差別及び平等の権利の間の関係は、積極的で相互に教化しあうとみなされるべきである。ヘイト・スピーチの禁止と意見・表現の自由の繫栄は、補完的であると見られるべきであり、ゼロサム・ゲームと見られるべきではない。

③議論は、ラバト行動計画と人権理事会決議16/18、特にサブパラグラフ5(f)に明示されているように、犯罪化を通じて、ヘイト・スピーチの多様な諸形態に対処する国際文書の適用に関してなされるべきである。

④国際自由権規約第19条と第20条、人種差別撤廃条約第4条のような既存文書の関連条文は、国内法のヘイト・スピーチ法の解釈と適用にギャップがある場合、修正するために用いられるべきである。これらの諸規定は、ヘイト・スピーチの標的とされる広範な集団をカバーするように適用されるべきである。すなわち、宗教、民族、言語、国籍、人種、皮膚の色、カースト等の世系、ジェンダー、難民、難民申請者、移住者、人権保護活動、性的志向、その他のアイデンティティ要因。

⑤国際的に受け入れ可能なヘイト・スピーチの法的定義は、国際人権法、特に表現の自由に合致して、国際協力を通じて、既存の国際、地域、国内のヘイト・スピーチ法規範の分析を通じて、適用されるべきである。

⑥各国はすべての現象形態のヘイト・スピーチと効果的に闘うために必要な多元的で補足的な戦略のための包括的規制・政策枠組みを発展させ、実施するべきである。枠組みは民事措置や行政措置、例外的に刑法措置を含むべきである。

⑦各国はヘイト・スピーチに関する最終手段として、もっとも重大な形態についてのみ訴追を採用するべきである。それゆえ訴追は、(a)ジェノサイドの煽動、(b)差別、敵意、暴力の煽動となる国民、人種、宗教的憎悪の唱道(国際自由権規約第20条2項)に限られ、表現の自由の権利を確保し、情報へのアクセスが弱体化されないようにしなければならない。

⑧各国とテクノロジー企業は、グローバルなレベルで、マイノリティを標的とするヘイト・スピーチ等を扱う戦略の一部として、敵意、差別、暴力の煽動に対処するラバト行動計画を実施し、はっきりと参照するべきである。ラバト行動計画の六項目テストは、どのような基準と条件で国内法において当該煽動が犯罪とされるべきかを示し、コンテンツがソーシャルメディア・プラットフォームから削除されるべきかの基準を示している。基準は、文脈、話者、意図、内容と形式、発話の程度、煽動の蓋然性である。

⑨各国は、ヘイト・スピーチ法と規制が、国民、民族、宗教、言語にかかわらず、マイノリティを抑圧するために用いられないように確保するべきである。検閲や意見・表現の自由の抑圧になってはならない。表現の自由と憎悪煽動の制限を定義する敷居は、国際自由権規約第20条の適用の基準は、非常に高いものでなければならない。各国は差別、敵意、暴力の煽動に当たるものの間で区別をするべきである。

各国は、ヘイト・スピーチについて責任を問う明確な国内法・制度枠組みを発展させ、平等を促進し、言論・表現の自由を尊重するべきである。各国はこの問題を扱う明確、首尾一貫した規範、制度、政策を持つべきである。枠組みには、不寛容、憎悪、その他のヘイト・スピーチの原因に対処する予防措置が含まれるべきである。救済、必要な場合には処罰が含まれるべきである。

⑪各国は、ソーシャルメディア企業の義務、ソーシャルネットワークサービス提供者の行動綱領を策定し、キーとなる擁護と実務を明確にするべきである。

⑫各国は、政治キャンペーン、選挙、危機管理のような、ヘイト・スピーチにつながりそうな文脈を規制することを考慮するべきである。

⑬各国は包括的規制・政策枠組みの効果的設計と実施のため多元主義アプローチを採用すべきであり、国際機関、地域機関、国内人権機関、既成組織、テクノロジー・ソーシャルメディア企業、市民社会組織及びマイノリティ代表を取り入れるべきである。

マイノリティに対するヘイト・スピーチの類型、標的、影響をよりよく理解するために、地域レベルと国内レベルで、マイノリティに対するヘイト・スピーチと暴力に関する申立て受理と情報収集のためにメカニズムを確立するべきである。

マイノリティ権利宣言、ビジネスと人権ガイド原則、ラバト行動計画など国連法的政治的基準とメカニズムが、オンライン・ヘイト・スピーチに対抗するために採用されるべきである。

ラバト行動計画に含まれる勧告の実施が監視されるべきであり、ヘイト・スピーチや敵意、差別、暴力の煽動に対処し対抗する義務に関して各国が利用できる指標を開発するべきである。

各国は、SDGs2030やビジネスと人権ガイド原則のような既存の枠組みを実施について、ヘイト・スピーチと闘うためにとられた措置を報告するべきである。

国連は、ヘイト・スピーチに関する国連戦略と行動計画を関連機関の仕事の中心に据えるべきである。

各国は、国際ホロコースト記憶連合の仕事を支援し、ホロコースト否定法の制定と解釈について国内機関と国際機関に通知できる。

ヘイト・スピーチに関する申立てを受理する関連機関は、その信頼性と能力を構築するためにマイノリティと協働するべきである。

Saturday, March 06, 2021

ヘイト・スピーチ研究文献(164)刑事規制と個人主義

金尚均「ヘイトスピーチに対する刑事規制」『法律時報』93巻3号(2021年)

『差別表現の法的規制――排除社会へのプレリュードとしてのヘイト・スピーチ』(法律文化社、2017年)、編著『ヘイト・スピーチの法的研究』(法律文化社、2014年)で、主にドイツ法を中心に、ヘイト・スピーチの刑事規制の法理論を研究してきた金尚均の最新論文である。

ヘイト・スピーチ解消法は「ヘイトを許さない」としながら、「規制はしない、処罰はしない」という容認路線を掲げた。他方、川崎市条例は、勧告と命令を出しても従わずヘイトを繰り返した場合に罰則を導入し、行政刑罰(罰金)という形で、ヘイトの刑事規制を日本で初めて採用した。金は次のように述べる。

「第12条の保護法益は『居住する地域において平穏に生活する権利』とされる。生活の基盤としての居住する地域において平穏に生活して人格を形成しつつ、自由に活動することによって、人格的価値について社会から評価を獲得するのであり、地域において平穏に生活する権利は、憲法第13条に由来する人格権として、強く保護される。本邦外出身者が、もっぱら本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として差別され、地域社会から排除されることのない権利は、地域社会内での生活の基盤である地域において平穏に生活し、人格を形成しつつ、自由に活動し、名誉、信用を獲得し、これを保持するのに必要となる基礎を成す。本邦外出身者という属性に基づいて地域において平穏に生活し、人格を形成しつつ、自由に活動し、名誉、信用を獲得し、これらを保持する権利を侵害する差別的言動が規制の対象である。」

川崎市条例の「解釈指針」や横浜地裁川崎支部平成28年6月2日判決の趣旨を踏まえて、金はこのように解釈し、ひとまず個人的法益を確認する。そして次のように続ける。

「これに対し毛利透は、『しかし、個人主義の建前からして、各人が何を人格形成の核に据えるかは各人が自由に決めるべき事柄のはずであり、公権力がある集団に属する人々の人格形成の基礎を特定するには、非常な慎重さが求められるはず』であり『ヘイトスピーチ規制が困難だという理由はまさにこの点にある』『その認定のためには、彼ら彼女らが日本社会において置かれてきた特殊な事情を考慮に入れる必要があるはず』と指摘する。ヘイトスピーチは、マイノリティの『幸福を追求する権利』を否定し、民主主義の基盤である『法の下の平等』それ自体を破壊する暴力に他ならないとの遠藤比呂通の指摘があるように、社会からの排除、つまり集団とその構成員の同じ人間としての存在の否定という意味をもつ。このことから、ヘイトスピーチは個人的法益にも増して社会的法益に対する侵害・危険としてクローズアップされる。」

こうして金は、ヘイト・スピーチ規制は個人的法益と社会的法益の双方を考慮すると見ているようである。

川崎市条例が罰金のみを採用していることについて、金は、「ヘイトスピーチが野放しに許されていた社会状況から大きな一歩を踏み出したということは間違いないが、『お金で済む』との誤ったメッセージを社会に送る恐れがあることも認識しなければならない」と言う。

欧州諸国のヘイト・スピーチ規制法は多くの場合、刑事施設収容を柱としている。刑事施設収容及び/又は罰金、又は社会奉仕命令である。刑事施設収容の期間にはかなり幅があり、法定刑の上限は6月以下であったり、1年以下、2年以下、5年以下もあれば、10年以下のところもある。

川崎市条例は、命令違反に刑罰を規定しているが、処罰範囲が明示されていないようにも見える。金は、勧告、命令、そして違反への刑罰というプロセスを確認して、「行為が抽象的に有害であるだけでなく、害悪の発生及びその重大性を予定していると言える。それゆえ、法文上の明確性が担保されている」と言う。

金の見解のほとんどすべてに賛同する私だが、1点だけ、説明を補足しておく必要を感じる。毛利透の見解をどう見るかである。

*毛利透「憲法訴訟の実践と理論(第1回)ヘイトデモ禁止仮処分命令事件」『判例時報』2321号(2017年)

毛利は、「個人主義の建前からして、各人が何を人格形成の核に据えるかは各人が自由に決めるべき事柄のはずであり、公権力がある集団に属する人々の人格形成の基礎を特定するには、非常な慎重さが求められるはず」と述べる。

金は、毛利の見解を個人的法益説に対する批判と受け止めて、遠藤比呂通の見解を参照して、ヘイト・スピーチは個人的法益のみならず社会的法益をも考慮して規制すると応答している。納得である。だが、しかし、と付け加えておきたい。

というのも、毛利は「ヘイトスピーチ規制が困難だという理由はまさにこの点にある」、「その認定のためには、彼ら彼女らが日本社会において置かれてきた特殊な事情を考慮に入れる必要があるはず」と述べる。

つまり、毛利は「個人主義の建前」からヘイト・スピーチ刑事規制を否定する論旨を展開している。この主張に、金は反論していない。

私は毛利の主張は成り立たないと考える。

1の理由は次の通りである。

ヘイト・スピーチを刑事規制することは「公権力がある集団に属する人々の人格形成の基礎を特定する」ことではない。

まったく逆である。

ヘイト・スピーチ行為者が「ある集団に属する人々の人格形成の基礎を特定する」ことによって、当該集団や個人を攻撃するのである。つまり、「各人が何を人格形成の核に据えるかは各人が自由に決めるべき事柄のはず」なのに、ヘイト・スピーチ行為者はこれを否定し、攻撃するのである。だから、処罰するべきなのだ。個人主義を否定する行為に対する非難こそ必要である。

2の理由は、補足的な理由だが、次の通りである。

フランス刑法のヘイト・スピーチ処罰規定がわかりやすいのだが、次のいずれも処罰対象となる。

1)           犯行者が、ユダヤ人をユダヤ人であると認識して、ユダヤ人であるがゆえに差別を煽動した場合。

2)           犯行者が、非ユダヤ人をユダヤ人と誤認して、ユダヤ人であるがゆえに差別を煽動した場合。

3)           犯行者が、非ユダヤ人を非ユダヤ人と認識して、ユダヤ人でないがゆえに差別を煽動した場合。

フランス刑法のように明示していない国でも、刑法における「錯誤論」は広く知られている。人間を熊と見間違えて銃を発射して殺した場合に、殺人罪になるのか傷害致死罪になるのかそれとも器物損壊罪になるのか、といった議論である。法学部の1年か2年で学ぶことだ。法律家ならば刑法における錯誤論を知らないと言うことはあり得ない。

ここでは、「被害者がユダヤ人であるか否か」が問題なのではない。「犯行者が被害者をユダヤ人であると認識したか否か」が問題なのである。

このように、ヘイト・スピーチを刑事規制することは「公権力がある集団に属する人々の人格形成の基礎を特定する」ことではない。

ヘイト・スピーチを刑事規制することは「公権力が、<犯行者が、ある集団に属する人々の人格形成の基礎を特定し、あるいは誤認し、これを攻撃しようとしたこと>を、特定し、認定する」ことである。

3の理由は次の通りである。

毛利は「個人主義の建前」からヘイト・スピーチ刑事規制を否定する論旨を展開している。

このような突拍子もないことを、毛利はいったいどうやって思いついたのだろうか。信じがたい話である。

イギリス、フランス、アイルランド、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、イタリア、スペイン、ポルトガル、スイス、オーストリア、ドイツ、リヒテンシュタイン、アイスランド、デンマーク、ノルウェー、スウエーデン、フィンランド、私が知っている西欧諸国はすべて個人主義を採用しており、同時にすべてヘイト・スピーチを処罰する。個人主義の国はヘイト・スピーチを処罰する。当たり前のことである。

にもかかわらず、毛利は「個人主義の建前」からヘイト・スピーチ処罰に疑問をさしはさむ。気が遠くなる話だ。

個人主義だからヘイト・スピーチを処罰できないという主張は毛利だけではない。憲法学者の齋藤愛や駒村圭吾も、個人主義を理由にしてヘイト・スピーチ処罰に疑問を示してきた。これに対して、私は繰り返し反論してきた。憲法学者は近代法における個人主義を理解していないのではないか。今後も繰り返し指摘しなければならないのだろう。

ヘイト・スピーチとソーシャルメディア(2)

フェルナンド・デ・ヴァレンヌ「マイノリティ問題特別報告者」が国連人権理事会第46会期に提出した報告書(A/HRC/46/58. 26 January 2021)の紹介を続ける。

前回、「人権を基礎にしたアプローチを用いてソーシャルメディア上のマイノリティに対するヘイト・スピーチに対処する一般的勧告」を紹介したが、報告書は次のような構成である。

Ⅰ 序論

Ⅱ 人権を基礎にしたアプローチを用いてソーシャルメディア上のマイノリティに対するヘイト・スピーチに対処する一般的勧告

Ⅲ ソーシャルメディア上のマイノリティに対するヘイト・スピーチの原因、規模、影響に対処するための勧告

Ⅳ 国際法・制度枠組に関する勧告

Ⅴ オンライン・ヘイト・スピーチの規制に関する勧告――国際組織、各国、インターネット企業及びソーシャルメディア・プラットフォームの役割と責任

Ⅵ マイノリティにとってより安全な空間に向けた勧告――オンライン・ヘイト・スピーチに対処する積極的イニシアティブ、国内人権機関、人権団体、市民社会その他の関係者の役割

**********************

 

「Ⅲ ソーシャルメディア上のマイノリティに対するヘイト・スピーチの原因、規模、影響に対処するための勧告」の主な内容は次の通りである。

 

    各国は、インターネット、特にソーシャルメディア・プラットフォームが、意見・表現の自由、結社の自由、国民的民族的宗教的言語的マイノリティの構成員の惨禍とエンパワーメントが補償されるような、安全な環境を作るように確保するべきである。

    各国はマイノリティに対するヘイト・スピーチ、ヘイト・クライム及びレイシズムに対する法・政策枠組みを、国際人権規範に沿って、改善し、オンライン情報伝達において必要な法的制度的政策及び行政的枠組みを創設するべきである。ソーシャルメディアで主にヘイト・スピーチの標的とされるマイノリティが、これらの過程の一部となり、包摂政策を策定するのに援助できるようにするべきである。

    各国、テクノロジー・ソーシャルメディア企業は、マイノリティに対するヘイト・スピーチ、ヘイト・クライム、レイシズムについてのゼロ・トレランス政策をもって解決するべきである。

    テクノロジー・ソーシャルメディア企業は、人権を完全に尊重するのに適切な方法で行動し、合法的コンテンツの意図せざる削除を予防するするために効果的で適切な安全策を履行し、迅速、完全かつ首尾一貫してヘイト・スピーチを削除し、アクセスできなくさせるべきである。

    ソーシャルメディア・プラットフォームは、ヘイト・スピーチを理解し認識し、寛容にならないように、コミュニティの基準と用語を確立するべきである。すべてのヘイト・スピーチを削除するため、規則が迅速、完全、一貫して履行されるようにするべきである。

    各国とオンライン企業は情報収集を改善し、収集情報を提示するべきである。ヘイト・スピーチの原因と実行者、その背後にあるメカニズム、その条件を特定する措置を講じるべきであり、その原因と実行者に対処するべきである。

    各国と国際組織及び地域組織はデジタル・リテラシーと人権リテラシーをもって、オンライン・ヘイト・スピーチを認識、拒否し、立ち上がるべく市民をエンパワー措置を講じるべきである。

    各国は、ヘイト・スピーチに反対する仕事をするために国際基準に合致した独立の権威ある特別制度を確立するよう考慮するべきである。

    各国は市民社会組織がオンライン・ヘイト・スピーチを報告するために対応するメカニズムを確保するべきである。

    各国は特にオンライン・ヘイト・スピーチに関して、マイノリティの権利につき法執行機関や司法機関に適切な特別研修を提供するべきである。法執行官側のヘイト・クライムは完全かつ速やかに捜査し、制裁を科すべきである。

    メディア・プラットフォームは、マイノリティ、先住民族、その他の集団の自己の言語によるメディア・アクセスを容易にし、メディアを保有するよう促されている。メディア多元主義を通じてのエンパワーメントは、ヘイト・スピーチに他行するスピーチの登場を容易にする。

    各国、メディア及びソーシャルメディア企業、及び市民社会は、包括的な方法で、ユダヤ人とムスリムに対する歪曲や組織的偏見に対処するよう促されるべきである。

    各国が一次的な義務の担い手であるが、すべての関係者、テクノロジー企業、特にソーシャルメディア・プラットフォームは、人権を基礎にしたアプローチを通じて、ヘイト・スピーチと闘うのに寄与しなければならない。

スガ疫病神首相語録21 頭から腐る

3月4日、総務省官僚が東北新社だけでなくNTT社員と会食していたことを認めた。首相の息子事件で調査した際に、「東北新社以外にはない。通信会社はない」と断言したが、NTT社長からも接待を受けていたことが発覚。飲食代58万円。衆議院で「鯛は頭から腐るの典型」と指摘された。

3月5日、スガは緊急事態宣言2週間延長を決め、「率直に申し訳ない」と述べた。感染者数の減少が止まり、1週間当たりで東京では増加してしまったので、解除できないのはやむなし。もっとも基準がないのは困りものだが。

問題はコロナ対策と経済対策の両面で信じがたい無策が続いていることだ。不祥事や汚職という前に、そもそも政策形成能力がない。接待が忙しくて政策を考える暇もない。頭から腐っているのは、こちらの方だ。深刻だ。

 

********************************

 

スガの独り言

「鯛は頭から腐る」だなんて、失礼な。私は頭から腐ったわけじゃない。足先も手の指先もみんな腐ってるんだ。内臓だってボロボロだよ。接待漬けのゴチ人生だ。なにしろ私は平等主義者だから、万遍なく腐ってるんだ。満身創痍のガースーと言ってくれ。

だいたい」とはなんたい概にしてもらいたいね。先月、およげ!たいやきくんを歌ったばかりだ。タイムリーなギャグと好評だったんだ。や平目の舞踊りにしようかと思ったけど、たいやきくんにして良かった。ぜったい受けると思ったんだ。たいしたもんだろ。調子が良いから、1曲うたいたいね。

 

スガの一人カラオケ

(与作は木を切る ヘイヘイホーのメロディで)

 

無策(むさく)

 

無策は 首を切る

ヘイヘイホー ヘイヘイホー

コロナは 増えるよ

ヘイヘイホー ヘイヘイホー

観光業は 旗下ろす

トントントン トントントン

飲食業も 暖簾外す

トントントン トントントン

無策 無策 もう限界だ

無策 無策 倒産が待っている

ホーホー ホーホー

 

無策は ボトル開ける

ドンペリダ~ ドンペリダ~

コロナは 横ばいだ

ドンペリダ~ ドンペリダ~

息子は 接待に

カンパイダ~ カンパイダ~

官僚も 接待に

コトワラナイ コトワラナイ

無策 無策 もう限界だ

無策 無策 庶民が泣いている

ホーホー ホーホー

 

無策は 腹を切る

ヘイヘイホー ヘイヘイホー

コロナは 減らない

ヘイヘイホー ヘイヘイホー

ワクチン つくれない

トントントン トントントン

ワクチン 足りないよ

トントントン トントントン

無策 無策 もう限界だ

無策 無策 死人が待っている

ホーホー ホーホー

 

無策 無策 もう限界だ

無策 無策 日本の日が暮れる

ホーホー ホーホー