Thursday, February 23, 2023

性差別の憲法論に学ぶ

中里見博「性差別」愛敬浩二編『講座立憲主義と憲法学・第2巻』(信山社、2022年)

https://www.shinzansha.co.jp/book/b10025220.html

中里見は大阪電気通信大学教授で、長年、性差別や性差別表現に関する憲法論を展開してきた代表的な論客である。

目次

Ⅰ はじめに

Ⅱ 通説の内容と問題点

Ⅲ 代替的議論の展開

Ⅳ 反「性的従属」説の提唱

Ⅴ おわりに

憲法14条は、①前段で「法の下の平等」、②後段で「差別の禁止」を掲げている。

従来の通説は、①前段の「法の下の平等」と②後段の「差別の禁止」を同じことと理解し、国家に相対的平等の保障を要請するものと解釈してきた。国家が国民に対して差別的取り扱いをすることが禁止される。しかし、憲法は私人間には適用されないとの理由から、社会にいくら差別があっても、それは国家の責任ではないとされた。

単純化していえば、憲法には①②の2つが書いてあるが、両者は同じ意味内容なので、②は書いてないことにしても構わないことになる。

結局、憲法学の通説によれば、国家が積極的に差別をすれば違憲だが、社会的差別は放置しておいても違憲ではなく、差別に対処するか否かは政策論に委ねられることになる。

以上が通説である。

これに対して、学説の中には、私人間の差別を放置できない、国家には差別是正義務があるのではないか、例えば女性差別撤廃条約をどう位置付けるかといった議論が登場してきた。

これは憲法論だけでなく、国家観の相違につながる。積極国家か消極国家かという論点である。

中里見は、通説の問題点を具体的かつ多角的に検討している。

かくして②後段の「差別の禁止」に再度、注目が集まる。法の下の平等保護とともに、差別されない利益の保護が必要とされる。形式的平等の克服、国家の差別是正義務による実質的平等の実現が求められる。

中里見は、代替的議論の展開をフォローして、反「性的従属」説の具体化に挑む。近代的な意味での平等概念をもとにすれば、憲法14条は①前段の「法の下の平等」に限定され、②後段の「差別の禁止」を軽視してしまう。近代的平等は重要だが、それだけでは熾烈な差別を放置する解釈にとどまってしまう。現代的差別禁止に光を当てなければならない。国際人権法の観点が視野に入る。

ここで中里見は、前田朗『ヘイト・スピーチ研究原論』から引用する。私は、日本国憲法には差別を克服する側面と同時に、差別を助長する側面があるので、後者を抑制して、差別を克服する側面での解釈をするべきだと主張している。憲法14条はアジアの人民が日本で差別されない、ヘイト・スピーチを受けない権利の根拠規定である。この私の見解を、憲法学者が引用したのは初めてのことだろう。

中里見は反従属としての後段「差別の禁止」を重視する。中里見は次のように明示する。

「このように141項は、前段と後段を区別され、前段はすべての国民の人格的等価性を基礎に、合理的区別を許容し、不合理な区別を禁止する『法の下の平等』として、後段は、列挙された事由による従属的取扱いを禁止する反従属の規範であるとして捉えられる。」

それゆえ、「国家によって性別に基づき劣等的な市民的地位に置かれない権利」とともに、「社会構造的な性差別の是正を要求する権利」が導き出される。性暴力への対処が重要な内容となる。

こうして中里見は、買春や商業的性売買業を性暴力として捉え返し、実写ポルノ制作の規制の必要性を論じる。

具体的な議論は中里見論文それ自体にあたってもらうしかない。ここでは、私の関心に引き寄せて、その限りでコメントする。

中里見の議論は私にとってとても説得的で頷けるものだ。というより、中里見論文のおかげで、私のヘイト・スピーチ論に強い理論的支柱が追加されたと感じている。この点を今後、研究していきたい。

①前段の「法の下の平等」と②後段の「差別の禁止」の議論については、私も同じことを違う形で主張してきた。

1に、世界人権宣言は第1条に平等を掲げ、第2条で非差別を掲げている。さらに第6条で人として認められる権利を、第7条で法の下の平等を掲げている。法の下の平等と差別の禁止が、重なり合いつつ、異なる意味内容を持つのは当たり前のことである。

2に、国際人権規約第2条は非差別、第3条は男女同等の権利を定める。第16条は人として認められる権利を定める。

3に、世界の多くの憲法には、法の下の平等規定だけを持つ憲法と、差別の禁止規定だけを持つ憲法がある。日本国憲法のように法の下の平等と差別の禁止を2つ揃って掲げる憲法は必ずしも多くはない。

系統的に調べた訳ではないが、いくつか例示しておこう。

差別の禁止は、アンティグア・バーブーダ、インド、ナミビア、アルゼンチン、ボリビア、メキシコ。

平等を定めるのは、マケドニア、コンゴ民主共和国、モザンビーク、エクアドル、チャド、イエメン、アルメニア、ジョージア。

法の下の平等と差別の禁止を掲げるのは、コスタリカ、韓国、ヴェトナム、ヨルダン、イタリア、カタール。

以上のことから言って、法の下の平等と差別の禁止が同じ意味だから後者は書いていないことにするなどというのは、およそ信じがたい暴論である。現に書いてあることを、恣意的に書いていないことにするのは、憲法解釈ではない。

それだけではない。

憲法14条は「差別されない」と書いている。「差別されない」に意味がなく、国家に是正義務がないのだとすれば、他の条文はどうするのか。

憲法18条は「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。」とする。

18条は、国家による奴隷的拘束だけを禁止し、債務奴隷を禁止せず、国家による是正義務はないのだろうか。人身売買、子ども労働をはじめとする現代奴隷制を是正する義務が国家にはないのだろうか。そのような解釈を許容するのは世界広しと言えども、日本の憲法学者だけだろう。

憲法14条の「差別されない」が「差別されない権利を国家が保障し、現に差別があれば差別是正措置を講じる義務が国家に生じる」という意味だと理解するのが素直な憲法解釈だろう。

 

 

 

Friday, February 10, 2023

尹美香さんに事実上の無罪判決! 日本軍「慰安婦」問題解決全国行動

事実上の無罪判決!!

控訴審でより公正な判断がなされることを願う

 

 本日、ソウル西部地裁は尹美香国会議員(前「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」理事長)に1500万ウォン(約150万円)の罰金刑を、共犯とされていた金東姫「戦争と女性の人権博物館」館長には無罪を言い渡した。

 

 尹美香議員も、検察が賑やかに並べ立てた補助金管理法及び地方財政法違反、詐欺、寄付金品法違反、準詐欺、業務上背任、公衆衛生管理法違反などの容疑について全て無罪を勝ち取ったが、検察が主張した業務上横領額約1億ウォン(約1千万円)のうち1700万ウォン(約170万円)ほどが認められ、この部分について裁判所は罰金の支払いを命じた。尹議員は「充分に証明できなかった一部の金額についても横領した事実はない、控訴審で誠実に立証する」としている。

 

 本日の判決によって、検察の起訴がいかに無理なものだったかが改めて浮き彫りになった。それは、公判の過程で充分に明らかにされていたが、それでもなお検察は尹議員に対し5年の懲役刑を求刑した。起訴も、求刑も、あまりにも無理筋だった。

 

 また、裁判所が一部認めた業務上横領も、不当だ。検察は尹議員が2011年から2020年の10年間に、217回にわたり計1億ウォン相当を流用したと主張した。そのうちの68回、約1700万ウォンが今回、裁判所によって認められたのである。

 

 しかし、尹議員の通帳にメモされた「摘要」によると、それらは「○○ハルモニの昼食」「○○ハルモニへのプレゼント」「海外ローミング」などの経費で、「先に支出、後で補填」という、ほとんどの市民団体や一般企業などでも普通に使われている経費精算の累積である。尹議員は10年分の古い領収証や写真などの証拠を見つけ出さねばならなかった。また、挺対協では経費支出の必要が生まれるたびに支出決議書を作成して領収証を添付していたこと、代表が独断で後援金の使用について決定することはできないシステムであったことについても、裁判の過程で明らかにした。それでもなお、裁判所が十分に証明できていないと見なしたものが1700万ウォンほどあったということだ。

 

 一方、裁判所は「尹美香が初めから計画的に挺対協の資金を横領する目的で個人口座を使って後援金を募集したと見ることは難しい」と指摘した。さらに「何よりも、尹美香は去る30年間、人的・物的基盤が劣悪な状況でも、挺対協の活動家として勤務しながら日本軍慰安婦問題の解決、慰安婦ハルモニたちの被害回復等のため寄与してきた」とし、その過程で「有罪と認められた横領額よりも多額の金額を挺対協、正義記憶財団、正義連などに寄付した」と述べた。

 

 これは、検察が横領の対象期間として見なしたのと同じ10年間に、検察の言う「横領額」を凌ぐ1億ウォン以上の金額を尹議員が挺対協・正義連に寄付していた事実を指している。また、それらの寄付行為や献身的な活動が、理事会が提案した昇給を自ら辞退する中でおこなわれていたことも踏まえての発言と見られる。

 

 私たちは、今回の判決は事実上の無罪判決に等しいと考える。地裁で証明しきれなかった部分については、尹議員が述べたように、控訴審でより明確に証明する努力がなされていくだろう。

 

 私たちは、尹議員が日本軍「慰安婦」問題解決のために、いかに私心なく、献身的に、潔癖に活動してきた運動家であるかを、自らの目で見てきた証人として、控訴審でより公正な判決が出されることを心から願う。

 

2023210

 

日本軍「慰安婦」問題解決全国行動

日本学術会議の独立性を侵害する政府「方針」に反対する声明

日本学術会議の独立性を侵害する政府「方針」に反対する声明 

 ―政府はまず任命拒否の理由を明らかにすべきである 

 2023 年 2 月 9 日 

 日本学術会議会員の任命拒否理由の開示を求める情報公開請求人(法律家 1162 名)共同代表 

 私たちは、2020 年 10 月 1 日、菅義偉内閣総理大臣(当時)が、理由も明らかにせず日本学術会議会員候補者 6 名の任命を拒否するという前例のない暴挙を行ったことに抗議し、2021 年 4 月 26 日、政府(内閣官房および内閣府)に対し、 任命拒否の理由のわかる文書などの情報公開請求をした法律家(学者・弁護士)です。 

情報公開請求に対して政府は、任命拒否の理由のわかる文書は「存在しない」 又は「あるかないか言えない」などとし、誰もが知っている任命拒否された 6 名 の学者の氏名すら、「公正かつ円滑な人事の確保に支障がある」などとしてひた隠しにしています。 そこで私たちは、審査請求によって政府の上記不開示処分を争っています。 

このような中、2022 年 12 月 6 日、内閣府は、「日本学術会議の在り方についての方針」を唐突に公表し、21 日には「方針」の追加説明文書も公表しました。 

これらによると「方針」は、学術会議会員の「選考」について、「高い透明性」 確保のため第三者委員会を参画させるなどの「改革を進める」とし、「任命」については「内閣総理大臣による任命が適正かつ円滑に行われるよう必要な措置 を講じる」とし、こうした内容を盛り込んだ日本学術会議法改正案を、現通常国会に提出し、成立させるとしています。

 しかしこれは、以下に述べるとおり、立法事実を欠いた全く必要のない「改革」であり、学術会議の独立性と自律性を侵害する極めて危険な「方針」です。 

現行の日本学術会議法は、会員の「選考」について、日本学術会議が「優れた研究又は業績がある科学者」を候補者として選び内閣総理大臣に推薦すると定めています(法 17 条)。

ナショナルアカデミーにおいて会員が会員を選ぶという選考方式は、国際的にも広く採用されており、学術会議においてもこれまで、 幾重もの慎重かつ公正な審査手続を経ながら、選考が実施されてきました。

この選考方式は、学術会議の政治権力からの独立性(法 3 条)のために必要であって、透明性を欠くとされる理由はなく、何ら改正の必要はありません。 

また、会員の「任命」は、学術会議の上記推薦に基づいて内閣総理大臣が行う こととされていますが(法7条2項)、この「任命」は「形式的」なものにすぎず、推薦のとおりに任命するものであることは、政府も国会等で繰り返し言明し、 実際そのとおりに任命されてきていました。

それは、学術会議の人事への政治の介入を防ぎ、その自律性を保障するために必要不可欠なことだからです。したがってここでも、適正性を欠くと言われる理由はなく、法改正の必要などありませ ん。 

逆に、これまで確立していた選考と任命のルールを、理由も明らかにせず覆した 2020 年 10 月の 6 名の任命拒否こそ、「不透明」・「不適正」極まりない行為だと言わなければなりません。 

だからこそ私たちは、情報公開請求を行ったのです。

しかし政府は、前述のとおり、「なぜ、どのような根拠に基づいて 6 名の任命を拒否したのか」を今に至るまで一切開示せず、隠し続けています。

このように、みずからの説明責任を果たすことなく、「不透明」・「不適正」な任命拒否行為を行って恥じない政府に、学術会議会員の選考・任命について「透明」・「適正」が必要だなどと述べる資格 はありません。 

そのような政府が今回打ち出した「日本学術会議の在り方についての方針」は、 みずからの任命拒否の不透明性を棚上げしながら、学術会議の側の「不透明」「不適正」を言い募り、学術会議に対する権力的な介入を可能にして、その独立性と自律性を侵害するものです。

 しかも「方針」は、学術会議に対し、政治の論理とは異なる学術固有の論理を考慮することなく、「政府等との問題意識や時間軸の共有」を繰り返し要求し、 さらには、「新たな組織に生まれかわる覚悟で抜本的な改革を断行することが必要」と決め付けています。

そこには、任命拒否を契機として学術会議を変質させ ようとする意図が現れており、学術会議が学問共同体として政府から独立した存在であり、学問の自由の担い手であることへの、最低限の配慮すら見当たりません。

 以上の理由により、私たちは、政府に対し、今回の「方針」の撤回を強く求めます。

また、仮に「法案」が国会に提出されたときには、心ある広範な市民と共に、日本学術会議の独立性を守るため、法案成立阻止に全力を尽くす決意を表明 します。 

日本学術会議会員の任命拒否理由の開示を求める情報公開請求人(1162 名) 

共同代表 浅倉むつ子(早稲田大学名誉教授) 右崎正博(獨協大学名誉教授) 小森田秋夫(東京大学名誉教授) 中下裕子(弁護士) 長谷部恭男(早稲田大学教授) 福田護(弁護士) 三成美保(奈良女子大学名誉教授) 三宅弘(弁護士)

Friday, February 03, 2023

女性に対するサイバー暴力と闘う01

インターネット上における女性に対する名誉毀損や脅迫をはじめとする非難・攻撃は、国際人権法の領域ではサイバー暴力、オンライン暴力と呼ばれてきた。日本では「表現の自由」の問題と誤解されているが、国際的には時に人が死ぬ暴力問題として理解されている。

国連人権理事会の女性に対する暴力特別報告者等は、女性に対するオンライン暴力や、フェミサイドに関する報告書を公表してきたので、これまでそれらを紹介してきた。例えば

フェミサイド研究の現状01

https://maeda-akira.blogspot.com/2022/03/blog-post.html

女性ジャーナリスト・政治家に対する暴力01

https://maeda-akira.blogspot.com/2022/05/blog-post_49.html

フェミサイド測定のための統計枠組み01

https://maeda-akira.blogspot.com/2022/06/blog-post.html

オンライン暴力と女性ジャーナリスト01

https://maeda-akira.blogspot.com/2022/12/blog-post_12.html

ジェンダー迫害の罪01

https://maeda-akira.blogspot.com/2023/01/blog-post_8.html

欧州ジェンダー平等研究所(EIGE)は、202122年に実施した調査・研究をまとめて報告書『女性と少女に対するサイバー暴力と闘う』を公表した。

European Institute for Gender Equality, Combating Cyber Violence against Women and Girls, 2022.

調査・研究・執筆はElenora Esposito, Cristina Fabre Rosell, Adine Samadi, Andrea Baldessari

調査チームはMalin Carlberg, Virginia Dalla Pozza, Michaela Brady, Clara Burillo, James Eager

EU加盟27カ国の実態調査が中核である。本文が60頁、付録の資料を含めると106頁の報告書である。27カ国の実態調査を踏まえて、法と政策の現状を総括し、サイバー暴力の共通の定義を模索することを課題としている。

以下、ごくごく簡潔に紹介する。

<目次>

要約

1.        序文

2.        女性と少女に対するサイバー暴力を概念化し、定義する

3.        EU、国際及び国内レベルでの、女性と少女に対するサイバー暴力に関する法・政策枠組みの概観

4.        女性と少女に対するサイバー暴力の共通定義に向けて

5.        結論

6.        政策勧告

付録

「要約」

冒頭の「要約」で、新型コロナの影響によって、インターネットアクセスが「新しい基本的人権」となっていることに触れている。デジタル・プラットフォームは、公の自己表現のために平等の機会を提供している。だが、誰もがサイバー空間に歓迎されるわけではないという。匿名で不処罰のまま、排除や暴力の言説がなされている。サーバー暴力の被害は女性も男性も受けるが、女性が被害を受ける比率が高い。サイバー暴力のみならず、身体的性的心理的経済的被害を受ける。それによりデジタル空間から撤退せざるを得なくなる。沈黙と孤立を余儀なくされ、教育機会や仕事を失う。

オンラインとオフラインが統合されてきたため、サイバー暴力が身体世界における暴力と被害につながる。これは私的問題ではなく、社会的不平等問題である。暴力の交差的形態であり、パターンもレベルも多様である。ジェンダー要因が年齢、民族的人種的出身、性的指向、ジェンダー・アイデンティティ、障害、宗教と結びつく。

本報告書の目的はサイバー暴力現象を深く分析調査し、女性と少女への影響を測定することである。20217月から222月にEU27カ国の調査を実施した。まず文献調査、研究文献調査を行い、従来の定義、法、政策を明らかにした。さらに諸大臣、統計機関、市民社会の専門家の協力を得て、EUや国際レベルの情報を収集した。

これまで広く受け入れられているのは

(1)サイバー・ストーキング、

(2)サイバー・ハラスメント、

(3)サイバー嫌がらせ(いじめ)、

(4)ジェンダーに基づくオンライン・ヘイト・スピーチ、

(5)同意のない親密映像の濫用、である。

EUレベルでは調整・統合の試みはあるものの、定義や法的手段は統一されていない。新たな定義と法の提案が求められる。

国際レベルでは、欧州評議会と国連がサイバー暴力に対処してきた。欧州評議会の条約や、2021年の女性に対する暴力専門家集団の勧告第1号がデジタル局面に焦点を当てている。

各国レベルでは、ハラスメントやストーキングのような犯罪が、デジタル領域に拡大され、サイバー・ハラスメントやサイバー・ストーキングになりつつある。

法的定義や統計のための定義が統一されていない。選択的な情報しかないため、対策を検討するのに困難がある。情報の欠如は深刻である。

欧州ジェンダー平等研究所(EIGE)は統計目的の定義の統合を提唱した。もっともよく認められる上記の5つの形態についての提案である。

上記の5つの定義に共通の要素は、

(1)ジェンダーに基づいて行われた、

(2)ICTの利用を含む、

(3)オンラインで始まり、オフラインに続く、

(4)被害者の知る人物又は知らない人物によって行われる。

本報告書は、女性に対するサイバー暴力に対処するための包括的な枠組みを優先事項として勧告する。予防と対処に必要な措置を導入する必要がある。そのために緊急に必要なのが定義を統一することである。ジェンダー局面と交差局面を含む、そしてオンラインとオフラインを視野に入れた、つまりデジタル世界と身体世界を繋ぐ定義である。統計情報収集と犯罪統計のジェンダー局面が重要である。

日本を戦争に巻き込む「安保3文書」に反対し、その撤回を求める(声明)

2023年2月2日

国際人権活動日本委員会

議長 鈴木亜英

URLhttp://jwchr.s59.xrea.com/

 

20221216日、政府は「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の安保3文書(以下ではこの3文書を一括して扱う)を閣議決定し、2023123日の第211通常国会の施政方針演説で、その実行を表明した。国際人権活動日本委員会は、これに強く反対するとともに撤回を求める。

安保3文書は敵基地への「反撃能力」の保有を掲げるが、実際にはまぎれもない「先制攻撃能力」の保有である。これは戦争放棄を定めた日本国憲法を蹂躙し、国際法にも反する先制攻撃も可能にする暴挙である。従来、政府はともかくも「専守防衛」を「国是」として掲げ、「何ら武力攻撃が発生していないにもかかわらず、いわゆる『先制攻撃』や『予防攻撃』を行うことは、国際法上認められない」としてきた。安保3文書はこの「国是」を投げ捨てるものであり、断じて許されない。

安保3文書どおりに、軍事費がGDP2%に増やされれば、現在でも世界第8位(Global Firepower, 2023)の日本の軍事力はアメリカ・中国に次ぐ世界第3位になると予測されている。まごう方なき軍事大国化を、「平和国家としての我が国としての歩みを、いささかも変えるものではない」(施政方針演説)とする政府の主張は詭弁というほかない。

安保3文書の内容を実現するための財源として、大増税は必至である。大軍拡には湯水のごとく巨費を投じる一方、年金などの社会保障や医療費、教育費などはすでに切り下げや抑制が進行している。安保3文書によって、そうした事態がさらに加速されることは、火を見るより明らかである。これは憲法25条によって政府が実現の義務を持つ社会権規定(「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」「すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」)を放棄するものである。一方、安保3文書に先立って「戦争する国づくり」はすでに開始されている。日本学術会議の6名の委員の任命拒否と、それを正当化する日本学術会議法「改正」案は、その典型である。

これらは、日本自身が批准する国連の社会権規約や自由権規約をはじめとする人権諸条約への背信行為といわなければならない。国際人権活動日本委員会は、国際人権を日本で実現するために活動してきた立場から、安保3文書を強く非難する。

古代ローマの哲学者キケロは「武器の間で法は沈黙する」(inter arma silent leges.と述べたという。この言葉は「武器の間でムーサ(芸術の女神)たちは沈黙する」(inter arma silent musae)という格言の言い換えだという。いま、私たちは2000年以上前のこの2つの警句を思い起こさずにはいられない。「戦争する国」では、学問や芸術の自由は抑圧され、法で規定された人権は蹂躙されるだろう。安保3文書は、国内では憲法を蹂躙して日本に住むすべての人々の人権を侵害し、国際社会にあっては人権規約・条約の実行を否定するものである。国際人権活動日本委員会は、第211通常国会開会に際して、重ねて安保3文書に強く反対するとともに、その撤回を求めるものである。