7月17日に衆議院第一議員会館で開催された「ノー!ハプサ 第3次訴訟第3回口頭弁論報告集会シンポジウム」での私の報告レジュメ・原稿を貼り付けます。
20分の報告のため、主要な部分は項目のみで、あとは資料です。
このため、私が何を言おうとしたか、一番重要な部分について正確なことは伝わりませんが、おおよその趣旨は読み取れるかと思います。
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最高裁第二小法廷2025年1月17日判決
三浦守裁判官反対意見を読むために
前田 朗
1 本報告の課題
2 国際人権法の視点(1)
3 国際人権法の視点(2)
4 国際人権法の視点(3)
5 ダーバン宣言
7 戦争と植民地の歴史・記憶・法
8 真実・正義・補償・再発防止保障特別報告者
9 おわりに
1 本報告の課題
①
三浦守反対意見
「個人が亡くなった近親者を敬愛追慕することは、宗教上、習俗上その他人間としての基本的な精神的営みであり、そのために平穏な精神生活を維持することは、個人の尊厳及び幸福追求に深く関わるものであって、正当な理由なく公権力によって妨げられることのない人格的利益として、憲法13条及び20条1項の趣旨に照らし尊重に値するというべきである。」
「靖國神社における合祀は、国事に殉じた者を祭神として祀る宗教的行為であり、そのような合祀を望まない遺族にとって、亡くなった近親者を敬愛追慕するという宗教上、習俗上その他人間としての基本的な精神的営みに影響を及ぼし得るものである。そして、本件各合祀行為等については上告人ら遺族が了承していない上、我が国と朝鮮との歴史的な関係、本件各被合祀者が戦死等をするに至った経緯、戦前における靖國神社の役割等に鑑みると、上告人らが本件各合祀行為等を認識することにより、本件各被合祀者を敬愛追慕する上で平穏な精神生活を維持することが妨げられたという主張には相応の理由がある。」
②
国際人権法の視点からの評価の試み
(1)
なぜ国際人権法の視点か
(2)
国際人権法の普遍性と「先進性」
(3)
国際人権法の限界
(4)
国際人権法の内実は確定的か
(5)
未来に向けての国際人権法
*近代法は西欧白人男性の権利保障から始まった。近代人権論と奴隷制は「矛盾しなかった」。
*近代国際法は植民地を前提として確立した面がある。
2 国際人権法の視点(1)
*国際人権法は、近代人権論を継承したので、すべての人の人権を保障するための法体系として出発した。
*西欧白人のみならず、有色人種、女性、子どもの人権が徐々に実現した。
*世界人権宣言起草過程において、マイノリティの権利について審議がなされたが、定義をめぐる対立から、削除された。
①世界人権宣言(1948年)
前文より「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎であるので、……国際連合の諸国民は、国際連合憲章において、基本的人権、人間の尊厳及び価値並びに男女の同権についての信念を再確認し、かつ、一層大きな自由のうちで社会的進歩と生活水準の向上とを促進することを決意したので、……」
第1条 すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。
第12条 何人も、自己の私事、家族、家庭若しくは通信に対して、ほしいままに干渉され、又は名誉及び信用に対して攻撃を受けることはない。人はすべて、このような干渉又は攻撃に対して法の保護を受ける権利を有する。
第18条 すべて人は、思想、良心及び宗教の自由に対する権利を有する。この権利は、宗教又は信念を変更する自由並びに単独で又は他の者と共同して、公的に又は私的に、布教、行事、礼拝及び儀式によって宗教又は信念を表明する自由を含む。
第19条 すべて人は、意見及び表現の自由に対する権利を有する。この権利は、干渉を受けることなく自己の意見をもつ自由並びにあらゆる手段により、また、国境を越えると否とにかかわりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由を含む。
②国際自由権規約(1966年)
前文より「この規約の締約国は、国際連合憲章において宣明された原則によれば、人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び平等のかつ奪い得ない権利を認めることが世界における自由、正義及び平和の基礎をなすものであることを考慮し、これらの権利が人間の固有の尊厳に由来することを認め、……」
第17条 1 何人も、その私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない。
2 すべての者は、1の干渉又は攻撃に対する法律の保護を受ける権利を有する。
第18条 1 すべての者は、思想、良心及び宗教の自由についての権利を有する。この権利には、自ら選択する宗教又は信念を受け入れ又は有する自由並びに、単独で又は他の者と共同して及び公に又は私的に、礼拝、儀式、行事及び教導によってその宗教又は信念を表明する自由を含む。
2 何人も、自ら選択する宗教又は信念を受け入れ又は有する自由を侵害するおそれのある強制を受けない。
第27条 種族的、宗教的又は言語的少数民族(minorities)が存在する国において、当該少数民族に属する者は、その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない。
(1)
人間の尊厳と個人の尊厳
(2)
人格的利益と家族――個人の人権と家族
(3)
思想・良心・宗教の自由――内心の自由に限られない
(4)
宗教の自由の射程――「自由を侵害するおそれのある強制を受けない」
(5)
マイノリティ概念の登場
(6)
植民地主義の位置づけ
*以上は、すべての人に関する人権の国際法の検討である。
*加えて、第27条にマイノリティ概念が登場している。
*第27条の日本政府訳は「少数民族」だが、誤訳である。英語ではminoritiesであり、少数者、マイノリティである。
3 国際人権法の視点(2)
*次に、先住民族、つまり特定の集団に関する人権の国際法の検討である。
*1990年に移住労働者権利保護条約、1993年にマイノリティ権利宣言が採択され、特定の集団に関する人権法が形成され始めた。
①国連先住民族権利宣言(2007年)
第1条 先住民族は、集団または個人として、国際連合憲章、世界人権宣言および国際人権法に認められたすべての人権と基本的自由の十分な享受に対する権利を有する。
第12条 1. 先住民族は、自らの精神的および宗教的伝統、慣習、そして儀式を表現し、実践し、発展させ、教育する権利を有し、その宗教的および文化的な遺跡を維持し、保護し、そして私的にそこに立ち入る権利を有し、儀式用具を使用し管理する権利を有し、遺骨の返還に対する権利を有する。
2.
国家は、関係する先住民族と連携して公平で透明性のある効果的措置を通じて、儀式用具と遺骨のアクセス(到達もしくは入手し、利用する)および/または返還を可能にするよう努める。
(1)個人の権利と集団の権利
(3)先住民族の権利
(4)植民地主義の位置づけ
(5)アイヌ民族、琉球民族の遺骨返還問題
*これらの権利は先住民族固有の権利か。
*精神的および宗教的伝統、慣習、そして儀式に関する権利は、すべての人と集団に関連するのではないか。
*権利の主体をめぐる発展とともに、権利の内容をめぐる発展がみられる。
*長生炭鉱遺骨問題をはじめとする朝鮮人遺骨問題。
4 国際人権法の視点(3)
*最後に、国際人権法に関する最新の議論動向に即した検討である。国際人権条約に定められた確立した人権ではないが、国連人権機関や地域人権機関の判決・裁決例において検討されているテーマである。
*国連レベルでは、国連人権理事会、人権条約に基づく人権委員会(自由権委員会、人種差別撤廃委員会、女性差別撤廃委員会、子どもの権利委員会など)。
*地域レベルでは、欧州人権裁判所、米州人権裁判所、アフリカ人権裁判所など。
アントン・デ・ベーツは、国際自由権委員会の裁決例を検討・分析している。
Antoon De Baets,
The United Nations Human Rights Committee’s View of the Past. : in Uladzislau
Belavusau and Aleksandra Gliszczyńska-Grabias (ed.), Law and Memory. Towards
Legal Governance of History. Cambridge University Press, 2017.
デ・ベーツは2016年が国際人権規約50周年であることから始める。二つの国際人権規約は1966年に採択され、そのうち国際自由権規約は1976年に発効した。そして個人通報手続きを定める「選択議定書」が採択された。国際自由権規約第6~27条の実体的権利の侵害を受けた被害者個人が国連に通報することができる手続きである。2016年時点で個人通報は約2500件に及び、年間平均50件の通報がなされた。国際自由権委員会は規約の条文解釈のために一般的勧告を公表し、個人通報を受理して判断を公表してきた。個別に各国政府に対する勧告も出してきた。これらを通じて規約の条文の意味内容が解明されてきた。これらの見解はオンラインに公表されている。
*国際自由権約第一選択議定書の個人通報の調査・研究である。日本は個人通報制度を受け入れていないため、人権侵害被害者は国際自由権委員会に訴えることができない。女性差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、拷問等禁止条約、子どもの権利条約にも同様の制度があるが、日本はいずれも受け入れていないため、人権侵害被害者が個人通報制度を利用して救済を求めることはできない。
デ・ベーツによると、自由権委員会は時、記憶、歴史に関する考えを示すことを任務としていない。先例拘束の原則に縛られてもいない。だが、デ・ベーツは個人通報申立て、一般的勧告など自由権委員会の文書(1976年~2015年)を調査して108件の事例を分析し自由権委員会の過去に関する見解を抽出した。分析枠組みとして4つの指標(14項目)を掲げている。
第一:基層としての時に関する見解――①時間を制約する要素(不遡及原則、個人請求原則等)、②時間を拡張する要素(継承原則、国家承継原則、侵害継続原理、合法性原則、過去の世代についての見解等)
第二:権利としての記憶に関する見解――①喪に服する権利、②記念する権利、③記憶する権利、④歴史見解を禁止する記憶法の不存在、⑤自由な表現を制限しない伝統
第三:権利としての歴史に関する見解――①過去についての真実への権利、②過去についての情報への権利、③過去の犯罪を捜査する国家の義務
第四:専門職としての歴史に関する見解――④歴史についての意見の保護、⑤間違える権利、⑥歴史教育における客観性、中立性、非差別の原則、⑦歴史研究における誠実さの原則
権利としての記憶に関する見解として、デ・ベーツは、①喪に服する権利、②記念する権利、③記憶する権利、④歴史見解を禁止する記憶法の不存在、⑤自由な表現を制限しない伝統、を列挙する。
ごく一部だけ紹介しよう(詳しくは、前田朗『ヘイト・スピーチ法研究要綱』三一書房、2021年参照)。
①
喪に服する権利
デ・ベーツによると、尊厳に基づく人権原則は喪に服する権利をプライバシーや思想の権利に含めていると言える。シェトコ対ベラルーシ事件では、息子がいつ、どこで処刑されたか、どこに埋葬されたかも教えられなかった事案について、国際自由権委員会は国際自由権規約第7条に違反すると指摘した。埋葬場所を知らせることや遺体を遺族に返還するようを勧告した。
②
記念する権利
デ・ベーツは私的に喪に服する権利は必然的に公的に喪に服する権利や記念する権利に広がり、表現の自由や平和的集会の権利につながるという(自由権規約第19条、第21条)。国際自由権委員会一般的勧告第31号(2004年)は人権侵害被害者について「公的に謝罪し、公的に記憶することのような補償措置」があるとした。ソ連邦時代のスターリン主義抑圧の被害者を記念するための集会に関するベラルーシの事件で、国際自由権委員会は平和的な記念活動を組織する権利を支持した。
③
記憶する権利
デ・ベーツによると、国際自由権委員会は記憶する権利を国際自由権規約第18条2項に関連付け、思想の自由に関する委員会一般的勧告第22号(1993年)、意見・表現の自由に関する一般的勧告第34号(2011年)を想起した。市民には記憶する権利があり、これには喪に服する権利と記念する権利が含まれる。
④
真実への権利
デ・ベーツによると、過去に人権侵害を受けた被害者や遺族には真実にアクセスする権利があることが1990年代を通じて認識されるようになった。真実への権利は情報への権利、実効的救済の権利、非人道的措置から自由な権利と結びつきを有する(自由権規約第19条、第2条3項、第7条)。キンテロス対ウルグアイ事件で、国際自由権委員会は娘が失踪した母親に娘に何が起きたかを知る権利があるとした。真実への権利が保障されないと直接被害者の遺族も人権侵害被害者となる。
⑤
情報への権利
デ・ベーツによると、情報への権利は個人が公共機関が保有する情報にアクセスする権利であり、遺族にも認められる。ぺゾルドヴァ対チェコ共和国事件で、国家による財産破壊を被った申立人が1991~2001年の間、政府資料へのアクセスを否定されたことを国際自由権委員会は実効的救済の権利が侵害されたとした。国際自由権委員会一般的勧告第34号も同じ趣旨を述べている。
⑥
過去の犯罪を捜査する国家の義務
真実への権利には国家が過去の犯罪を捜査する義務が対応していなければならない。国際自由権委員会は1982年以来、一般的勧告第6号(生命権)、第20号(拷問の禁止)などでこの義務を認めてきた。
*デ・ベーツは、戦争や植民地主義による重大人権侵害に焦点を当てているが、その分析自体は人権論に共通の理論を探る範囲にとどめている。
*国際自由権委員会や欧州人権裁判所は植民地主義を正面から取り上げないが、米州人権裁判所は植民地主義に関連する議論を行ってきた。
*アジアには人権条約や人権裁判所がないため、日本の人権侵害被害者は国際機関に訴えることができない。
5 ダーバン宣言
57 人類史が重大人権侵害の結果としての多くの残虐行為に満ちていることを自覚し、歴史を記憶することによって将来の悲劇を防ぐことを教訓として学ぶことができると信じる。
58 ホロコーストは決して忘れてはならないことを想起する。
59 世界のさまざまな部分で、一定の宗教的共同体に対する宗教的不寛容、ならびに宗教的信仰や人種的またはエスニックな出身を理由とする宗教的共同体に対する敵対行為と暴力が出現し、彼ら/彼女らの信仰を自由に行う権利が制限されていることを認める。
60 世界各地に、宗教共同体やその構成員に対する宗教的不寛容の存在、とくに自由に信仰を実践する権利の制限、ならびに、宗教的信念、民族、いわゆる人種的出身を理由とした、否定的なステレオタイプの増大、敵対行為、宗教的共同体に対する暴力の出現も深い懸念をもって認める。
61 世界のさまざまの地域で反ユダヤ主義とイスラム排斥が増大し、ならびに、ユダヤ、イスラムおよびアラブのコミュニティに対する人種的および差別的観念に基づく人種主義運動や暴力的運動が出現していることを深い懸念をもって認める。
62 人類史が、人間の平等の尊重の欠如を通じて加えられた恐るべき犯罪に満ちていることを自覚し、世界のさまざまの地域でこうした慣行が増大していることに驚きをもって留意し、とくに紛争状況にある人びとに人種主義的煽動、軽蔑的な言葉、否定的なステレオタイプを思いとどまるように求める。
98 過去の悲劇を包括的かつ客観的に認識できるようにするために、古代から最近の過去までの人類史の事実と真実を教えること、ならびに人種主義、人種差別、外国人排斥および関連のある不寛容の歴史、原因、性質と結果の事実と真実を教えることの重要性と必要性を強調する。
99 奴隷制、奴隷取引、大西洋越え奴隷取引、アパルトヘイト、植民地主義およびジェノサイドがもたらした大規模な人間の苦痛と無数の男性、女性および子どもたちの苦境を認め、深く残念に思い、過去の悲劇の犠牲者の記憶に敬意を捧げ、それらがいつどこで起きたものであれ、それらが非難されねばならず、再発が予防されねばならないことを確認するよう関連する各国に呼びかける。これらの慣行や組織が、政治的、社会経済的、文化的に、人種主義、人種差別、外国人排斥および関連のある不寛容をもたらしてきたことを残念に思う。
100 奴隷制、奴隷取引、大西洋越え奴隷取引、アパルトヘイト、ジェノサイドおよび過去の悲劇の結果として無数の男性、女性および子どもたちに加えられた語られざる苦痛と害悪を認め、深く残念に思う。さらに、犯された重大かつ大規模侵害について進んで謝罪をしてきた国家や、適切な場合には、補償を支払った国家があることに留意する。
101 歴史の暗い章を閉じて、和解と癒しの手段として、国際社会とその構成員がこれらの悲劇の犠牲者の記憶に敬意を捧げるよう勧める。さらに、進んで、残念に思う、遺憾の意を表明する、または謝罪を表明するとしてきた国家があることに留意し、被害者の尊厳を回復しようとしていないすべての諸国に、そのための適切な方法を見いだすよう呼びかけ、それを行った諸国に感謝する。
106 いつどこで起きたものであれ、過去の犯罪や悪事を想起し、人種主義的悲劇を明白に非難し、歴史の真実を語ることが、国際的な和解、ならびに、正義、平等および連帯に基づく社会の創造にとって必須の要素であることを強調する。
6 ベイルート宣言
2017年3月28~29日、国連人権高等弁務官事務所が主催して、ベイルート(レバノン)で信仰と人権に関する会議が開かれた。会議の成果文書として「権利のための信仰に関するベイルート宣言」及び「『権利のための信仰』に関する18のコミットメント」という2つの文書が採択された。
<権利のための信仰に関するベイルート宣言>
宣言は22のパラグラフから成る。随所に聖典(聖書、クルアーン、ハディース、ブッダ)の言葉が引用されている。21か所。
例えば、「一人の命を守る者はすべての命を守る者に等しい」(クルアーン)といった引用形式。
以下、パラグラフごとに要約紹介する。
1. 信仰者及び人権活動家が2017年3月28~29日、ベイルートで国連人権高等弁務官事務所主催の一連の会合に集まった。すべての人間の尊厳と平等の価値を支持し、宗教と信仰を尊重する。人間的価値と平等の尊厳は私たちの諸文化の共通の根である。信仰と権利は相互に補強し合う。人権は、宗教又は信仰から提供される倫理的精神的基礎に根差している。
2. 宗教又は信仰が生命、思想、良心、宗教、信仰、意見及び表現の自由から、欠乏と恐怖からの自由、暴力からの自由まで不可分の権利として保護される。
3. 宗教又は信仰は人間の尊厳、すべての個人と共同体の自由がいかなる理由でも差別されないことを保護する基本的な源泉の一つである。宗教、倫理及び哲学文献は、人類の唯一性、生命権の神聖性、信仰する者の心に基礎を持つ個人と集団の義務を支持することで、国際法を促進した。
4. 私たちを一つのものとする共通の人間的価値を広めることを誓約する。神学に関する相違はあるが、相違を利用して暴力、差別、宗教的憎悪を唱導することと闘うことを引き受ける。
5. 宗教又は信仰の自由は思想及び良心の自由なしには存在しない。人は全体としてすべての信仰の基礎であり、愛、赦し、尊重を通じて成長する。
6. 私たちはここベイルートから、ともに、利己主義、自己中心、人為的分断に反対する闘い、平和的だが力強い、最も気高い闘いを始める。
7. ベイルート宣言は、団結した、平和的で尊重溢れる社会の観点で、世界のすべての地域の宗教又は信仰に属する人々に及ぶ。ベイルート宣言は、「差別、敵意又は暴力の煽動に関するラバト行動計画(2012年)」と同様に、国連人権機関の協力の下で作成された。
8. これまで信仰と権利を結び付ける努力がなされてきたが、その試みは目標達成に及ばない。宗教活動家は、国内的にも国際的にも、憎悪の煽動に反対する人間性を擁護する責任を有する。ベイルート宣言によって、私たちすべての者の間の共通の根拠をもって、信仰が権利のためにあるその道を定義するために、手と心を一つにする。
9. ベイルート宣言をつくるために、私たちは多元的な連帯を通じて信仰を実践する。権利のための信仰のグローバルな連帯によって、それぞれの領域で具体的なロードマップを描くことになる。
10. 目標を達成するため、私たちは信仰者として5つの基本原則を遵守する。
(a)
伝統的な信仰間の対話を、地方レベルで具体的な「権利のための信仰」プロジェクトに変換する。対話は重要だが、対話に終わりはない。行動を通じて具体的な目標に到達できる。
(b)
神学的教条的分断を避ける。ベイルート宣言は宗教間対話の手段ではなく、すべての人間の尊厳を擁護する共通の活動のための共同プラットフォームである。
(c)
内省は私たちが大切にする美徳である。何よりもまず私たち自身の弱点を語り、行動につなげる。
(d)
特に、暴力、差別又は平等の尊厳の侵害を煽動する憎悪の唱道に反対して、一つの声で話す。宗教的理由による憎悪、不正義、差別の煽動を非難するだけでは十分でない。救済的な共感と連帯をもってヘイト・スピーチを矯正する義務が私たちにある。矯正という言葉は、宗教の境界を超えるべきである。煽動者、排外主義者、ポピュリスト、暴力的過激主義者の自由な土地を残してはならない。
(e)
私たちは良心のみに拘束され、完全に独立して行動する。
11.平等の尊厳を擁護する一つの声で語り、人間は完全に平等に尊重される。すべての信仰者に自らの責任で正義と平等を深く育むよう励ます。
12.世界中の草の根レベルの人々のために具体的な方法で目標を達成したい。お互いに活動を支え合い、毎年12月10日に多様性の中の連帯の表明として、「権利のための信仰の歩み」を行う。
13.2012年のラバト行動計画を基礎に、暗闇の力を武装解除し、恐怖と憎悪の間で揺れ動く心を解体する。宗教の名による暴力は宗教の基礎としての慈悲と共感を台無しにする。慈悲と共感のメッセージを多元的社会の連帯活動に変換する。
14.普遍的に承認された価値としての国際人権を受け入れる。すべての者が人間人格の自由で完全な発達を可能にする共同体に義務を有している。
15.宗教と現行国際法規範は宗教活動家に責任を帰する。宗教活動家を支援することは立法、制度改革、支援的公共政策の領域における活動を必要とする。国際条約はジェノサイド、難民、宗教差別、宗教の自由を法的用語で定義している。これらの概念はさまさまざまな宗教に根差している。
16.私たちは人間としてすべての人間に責任を有する。私たちは行動するべき時に適切に行動しないことについても責任を有する。
17.すべての人権の促進と保護にまず責任を有するのは国家であるが、私たちは宗教活動家として又は個人の信仰者として人間性と平等の尊厳のために立ち上がるそれぞれの責任を有する。
18.宗教共同体、その指導者及び信者には、国内法や国際法の下での公的人物とは独立にそれぞれの役割と責任がある。1981年の「宗教又は信仰に基づくすべての形態の不寛容と差別の撤廃に関する国連宣言」第2条1項に従って、国家、制度、集団、個人による宗教差別に従ってはならない。
19.紛争時における非国家活動家の責任について、宗教指導者にはつねに同様の法的倫理的正当性が求められる。
20.言論は個人および共同体が繁栄する基礎である。言論は人間の善と悪の両面にとって決定的なメディアである。戦争は心に隠された憎悪の唱道を呼び覚まし、燃料をつぎ込む。
積極的言論は和解と平和構築のための癒しの手段となる。言論は私たちがコミットしようとするもっとも戦略的な領域の一つである。
21.国際自由権規約第20条2項の下で、国家は差別、敵意又は暴力の煽動となる国民的人種的宗教的憎悪の唱道を禁止する義務がある。これには宗教の名による宗教指導者への憎悪の煽動が含まれる。発話する者の地位、文脈、その程度により、宗教指導者の発言は憎悪の煽動の導入になることがある。こうした煽動の禁止だけでは十分ではない。和解のための救済の唱道が等しく義務である。
22.この領域で最も重要なガイダンスは2012年のラバト行動計画によって提供されている。(a)宗教指導者は暴力、敵意又は差別を煽動する不寛容のメッセージや表現を用いないようにすべきである。(b)宗教指導者には不寛容、差別的ステレオタイプ、ヘイト・スピーチに確実かつ迅速に反対する発言をする重要な役割がある。(c)宗教指導者にとって、憎悪の煽動に呼応して暴力に寛容であってはならない。
7 戦争と植民地の歴史・記憶・法
*近代法は自由・平等な市民像を掲げたが、西欧白人に限定され、植民地人民は排除されていた。
*近代国際法は主権平等を掲げたが、植民地化と植民地支配を内包し、正当化していた。
*第二次大戦後、国連憲章と世界人権宣言により、植民地の解放・独立と、すべての人の人権保障が始まった。
*戦争と植民地の歴史・記憶と法をめぐる議論は、主に①「ホロコースト否定犯罪」、②追悼碑の建立命令というテーマに即して進められた。ここでは前者について確認しておく。
Uladzislau Belavusau and Aleksandra Gliszczyńska-Grabias (ed.), Law
and Memory. Towards Legal Governance of History. Cambridge University Press,
2017.
べラヴサウ&グリシェンスカ-グラビアスはホロコースト否定罪の形成と発展を牽引したのは欧州(欧州連合と欧州評議会)であるという。1992年のマーストリヒト条約以後、EU市民の基本権認識が共有されるようになった。ホロコーストの残虐性がEU市民の共通の記憶とされ、汎欧州アイデンティティの特別な要素となり、よりよい未来のための過去への対質が一般化する。2006年の「欧州市民プログラム」はその後の里程標となり更新されていく。全体主義に抗する「欧州の記憶」が駆動する。「記憶への招待」がやがて「記憶する義務」になる。記憶構築のパラダイムによって、虐殺の否定や矮小化の違法化につながる。2008年の「刑法を手段として人種主義と排外主義の一定の形態や表現と闘う欧州評議会枠組決定」が現在もっとも論争的な決定となっている。
*この「枠組み決定」により、欧州評議会加盟国はすべてヘイト・スピーチ処罰法を制定した。
欧州全体における展開を射程に入れてべラヴサウ&グリシェンスカ-グラビアスはホロコースト否定法を4つの流れに整理する。
第一に過去に遡って虐殺を認定し、ジェノサイドの否定を禁止する。フランス、スイス、スロヴァキア、ギリシアにおけるアルメニア・ジェノサイドの法的認定が代表である。オスマン・トルコによる150万人のアルメニア人の殲滅がフランスや欧州人権裁判所で論争を呼んでいる。ボリシェヴィキによるウクライナの飢餓政策の犠牲、日本軍によるアジアの被害も同様である。
第二に第二次大戦後の20世紀における独裁政権の評価である。民主化以後に被害者が真実を手にし犯行者を非難する。欧州では2007年のスペインの歴史的記憶法が知られる。ラテンアメリカ諸国の移行期の正義もこの類型である。
第三にソ連邦の非共産主義化と崩壊による東中欧や旧ソ連領の諸国における歴史をめぐる論争である。カチン事件、ハンガリーの憲法復旧、バルト諸国におけるソ連占領問題、スターリン主義の抑圧等である。
第四に国際法におけるジェノサイド等の虐殺の評価である。上記第二の「移行期」の記憶法とも重なるが、それ以外にもルワンダや旧ユーゴスラヴィアの人道に対する罪、カンボジアのクメール・ルージュの裁きやイスラエルによるパレスチナ人の大量移住(ナクバ)もこれに類する。
8 真実・正義・補償・再発防止保障特別報告者
国連「真実・正義・補償・再発防止保障特別報告者」のファビアン・サルヴィオリ(アルゼンチン・ラプラタ大学教授)の報告書『人権と国際人道法の重大違反の文脈における歴史記憶化過程――移行期正義の第五極』(A/HRC/45/45. 9 July 2020)は、移行期正義は異なる時間軸にかかわると言う。
第1に過去の侵害に光を当てる(事実の認定、刑事法では実行者の処罰)。
第2に現在の問題(被害者の記憶の認知・尊重・共有化、補償の提供、体験を語ること、公的謝罪、歴史否定主義との闘い)。
第3に未来のための準備(教育を通じての未来の暴力の予防、平和の文化の構築)。
サルヴィオリによると、南アフリカ真実和解委員会は南アフリカにおける人種関係を変更するためにアパルトヘイト犯罪に対処し、異なる未来を構想するのに役立った。委員会の仕事は技術的ではなく、言葉のもっともよい意味で政治的であり、被害者集団、メディア、政治家、労働組合等にも幅広い支持を得た。
カナダの真実和解委員会は、インディアン居住学校の悪しき遺産に影響を受けた人々についての歴史の事実を確定した。リベリアでは真実和解委員会の勧告により保障と紛争解決メカニズムが検討された。シエラレオネでは真実和解委員会が国家の将来構想に広く反映させられた。アルゼンチン真実委員会と責任者の訴追により、軍事独裁下の国家テロリズムについての共通理解が形成された。
*真実・正義・補償・再発防止保障特別報告者は「移行期正義」を取り上げるので、戦争、植民地支配、独裁政権の歴史に関わるテーマを取り上げてきた。
*以上のように、国際人権法は歴史や記憶と法をめぐるテーマについて、例えば喪に服する権利、記念する権利、記憶する権利、真実への権利を練り上げてきた。各国はこれらの権利を尊重し、実現するために必要な措置を講じるべきである。国際社会における紛争時の記憶化の課題はまさに現在進行中の重要人権問題である。
9 おわりに
本件テーマ(ノー!ハプサ)についても、その他の多くの植民地主義時代の重大人権侵害問題についても、戦後の不正義についても、日本の裁判所は後ろ向きの判断を積み重ねてきた。それは歴史の否認に向けられたり、人権侵害の隠蔽に向けられたり、権力への拝跪を意味してきた。
三浦反対意見は、こうした議論動向に言及していないが、ノー!ハプサ訴訟全体の中で、多数意見と対比して、その積極面を論じる際、国際人権法の視点からの検討には意味があると言える。三浦反対意見を手がかりに、個人の尊厳論や人格的利益論を展開する際、国際人権法の視点を織り込むことができないか。
韓国においては、日本軍性奴隷制(慰安婦)問題や徴用工をめぐる判決に顕著なように、歴史に正面から向き合うとともに、国内法及び国際法を未来に向けて「再解釈」する意欲的な試みが続いた。
このことは裁判所だけではない。本年2月に制定された「慰安婦」名誉毀損処罰法や、現在、国会に上程されている長生炭鉱遺骨問題特別法案は、過去を引き受け、現在を問い直し、未来に向けて想像力を振り絞り、法的思考に輝きをもたらす挑戦である。
*植民地主義批判について
①前田朗「日本植民地主義法論の再検討」『法の科学』49号(2018年)
②前田朗・連載「日本植民地主義をいかに把握するか(一)~(一六)」『さようなら!福沢諭吉』第5号(2018年)~第20号(2025年)
③
前田朗「脱植民地主義の理論闘争」『明日を拓く』143号(2025年)
④
前田朗「脱植民地フェミニズムに学ぶ」『人権と生活』57号(2024年)
⑤
前田朗「脱植民地フェミニズムの可能性」『人権と生活』60号(2025年)
⑥
前田朗「脱植民地フェミニズム・ノート(1)(2)」『INTERJURIST』216号・217号(2025年)