Monday, September 26, 2022

講演レジュメ・ヘイト・クライム被害救済のために

明日の講演のレジュメ>

 

「生きる力、つながる力、考える力」第2

2022年9月27日(火)午後1時~

ステッチ(玉川上水駅)

 

ヘイト・クライム被害救済のために

――安倍晋三国葬の日に民主主義と人権を考える

前田 朗(朝鮮大学校法律学科講師)

1.        安倍国葬の日に

2.        ウトロ等放火事件を手がかりに

3.        ヘイト・クライムとは何か

4.        ヘイト・クライムの予防

5.        ヘイト・クライムの被害救済

6.        民主主義とレイシズム

**************************************

 

1.安倍国葬の日に

 

1)        国葬反対の取り組み

・国葬反対仮処分申請(横浜地裁、さいたま地裁など)

・国葬反対差止訴訟(東京地裁、横浜地裁など)

・地方自治体・住民監査請求(大阪、横浜、長野など)

・地方議会・意見書(鎌倉市、国立市、小金井市など)

・教育委員会へ弔意強制反対(全国的)

・反対声明、反対署名(憲法学者、著名人など)

・各地の抗議集会(全国各地)

2)        何を考えるべきか

・民主主義のあり方

・人権保障のあり方

 

2.ウトロ等放火事件を手がかりに

⇨文献⑨

2021830日 ウトロ放火事件

2022830日 京都地裁判決(有罪・懲役4年)

 

  ・ウトロの歴史          ⇨中村一成『ウトロ』、文献⑥

  ・ウトロに対するヘイト・スピーチ

  ・ウトロに対するヘイト・クライム

  ・ヘイト・スピーチとヘイト・クライム

  ・判決における動機の認定と「差別」           文献②

第1にヘイト動機を列挙する場合

第2に身分犯として公務員犯罪類型が設定される例

第3に場所(空間・対象)の特定

第4に被害者の特定

  ・量刑について                     ⇨文献⑨⑩

 

3.ヘイト・クライムとは何か

⇨文献②

1)        アメリカにおけるヘイト・クライム論(1980年代以後)

・刑罰加重法

・独立犯罪

・公民権法

・情報収集法

2)        保護される集団(属性)

・偏見に基づく暴力を犯罪化する場合:45州とコロンビア特別区

・人種、民族、宗教の集団を保護する場合:大多数の州

・性的指向を保護する場合:32州

・ホームレスを保護するか否か

3)        マシュー・シェパード・ヘイト・クライム法(2009年)

 

 

4)        国際人権法におけるヘイト・クライム法

・人種差別撤廃条約第2条、第4

・人種差別撤廃委員会の一般的勧告

・各国への勧告

・ラバト行動計画

・国際人道法

5)        ヘイト・クライム立法例

・ヘイト・クライムの犯罪成立要件を定める場合

・ヘイト・スピーチに暴力が伴う要件を定める場合

・暴力犯罪にヘイト動機を刑罰加重事由とする場合

・刑法総論で刑罰加重事由にヘイト動機等を含める場合(以上は刑法典)

・ヘイト・クライム法

・反差別法

・過激主義取締法等

6)        アジア系住民へのヘイト・クライム法(2021)      文献④

・新型コロナ禍におけるアジア系住民へのヘイト・クライム

 

4.ヘイト・クライムの予防

 

  ・差別の禁止

  ・ヘイト・スピーチの刑事規制

  ・ヘイト・クライムの重罰化

外国人人権法連絡会の提唱「差別犯罪」(前回報告)

  ・対抗言論

  ・教育・啓発

  ・行政指導

 

5.ヘイト・クライムの被害救済

文献①⑤⑦

  ・被害者中心アプローチ

EU『政策文書:ヘイト・クライム被害者のための専門家支援』

・適切な専門家支援の提供

       偏見動機の犯罪の影響を受けたすべての者に支援を確保する。

         共通の質的基準を確保するため専門家ネットワークを組織する。

         効率的な監視と評価。

         担当者の教育を継続する。

         多様なコミュニティに適切なサービスを提供する保障。

         すべての被害者に専門家支援の平等性。

         専門家協力のためのメカニズム設置。

         コミュニティ代表の参加を得て、政策遂行と同時に評価を行うこと。

  ・ヘイト・クライム被害者のニーズ

         個人の安全(反復被害や二次被害からの安全も含む)

         医療支援、財政支援、転居など実際の援助

         感情的精神的支援

         情報及び助言

         刑事司法制度における援助

         尊重ある取り扱い

  ・専門家による被害者支援の特徴

  ・専門家支援の実例

         国内の犯罪被害補償制度、被害者の刑事手続きにおける役割、法廷への出席等の被害者の権利についての情報、助言、支援。

         専門家支援実施の情報・直接紹介。

         感情的精神的支援。

         犯罪から生じた経済問題に関する助言。

         二次被害や反復被害のリスクと予防に関する助言。

 

6.民主主義とレイシズム

 

  ・民主主義とレイシズムは両立するか

  ・民主主義の前提としての法の下の平等

  ・民主主義の前提としてのマイノリティの権利

  ・ヘイトは民主主義を破壊する

 

 

<参考文献>

①前田朗「『慰安婦』問題の現状と課題――<被害者中心アプローチ>とは何か」『法の科学』51号(日本評論社、2020年)

②前田朗「ヘイト・クライムとは何か――国際社会における差別犯罪対策」『明日を拓く』131号(2021年)

③前田朗「忘れられたヘイト・クライム――千葉朝鮮総連強盗殺人放火事件」『部落解放』812号(2021年)

④前田朗「COVIDヘイト・クライム法――アジア系住民への差別と暴力」『部落解放』821号(2022年)

⑤前田朗「ヘイト・クライム被害者救済(一)(二)――EUのモデル・ガイダンス」『部落解放』823・825号(2022年)

⑥前田朗「底が抜けた差別社会で生きること」『部落解放』827号(2022年)

⑦前田朗「ヘイト・クライム被害者救済のために――EU政策報告書の紹介」『人権と生活』54号(2022年)

⑨前田朗「ウトロ放火事件一審有罪判決」『救援』642号(2022年予定)

⑩前田朗「刑事司法におけるヘイト・クライム被害者――欧州安全保障協力機構(OSCE)報告書の紹介(1)」『Interjurist』209号(2022年予定)

Monday, September 19, 2022

歴史研究における盗作論争・その後

原朗編『学問と裁判――裁判所・都立大・早稲田大の倫理を問う』(同時代社)

http://www.doujidaisya.co.jp/book/b608729.html

<学術界に衝撃を与えた「剽窃事件」に、

裁判所は学問的に正しい判決を下せたのか。

学術の存立を脅かす研究不正に対し、

大学は学問の独立に基づく審査を貫けたのか――。

その責を問う!>

序   本書の構成

 第一部 裁判所への批判

  第一章 最高裁判所への批判

  第二章 高裁・地裁判決批判――「訴状」の問題性と被告の「相当性」

第二部 東京都立大学への批判

    ――大学における研究倫理審査の形骸化(一) 

第一章   東京都立大学の厳格な判断と日和見的結論

第二章   東京都立大学の学位論文調査報告の二重性――研究不正排除の流れに抗って

 第三部 早稲田大学への批判

    ――大学における研究倫理審査の形骸化(二)

第一章   早稲田大学学術研究倫理委員会の第一の盗用認定

第二章   盗用の正式認定とその後の意図的隠蔽

 第四部 早稲田大学への「通報書」(全文)

第五部 本裁判に寄せられた書評・書評論文(前作『創作か盗作か』をめぐって)

第六部 裁判記録に見る小林英夫氏の主張

前作『創作か盗作か――「大東亜共栄圏」論をめぐって』は衝撃の書であったのに対して、本書は落胆の書ということになるだろうか。

http://www.doujidaisya.co.jp/book/b498239.html

『創作か盗作か――「大東亜共栄圏」論をめぐって』を、私は雑誌『マスコミ市民』に2回にわたって紹介をした。

小林英夫『「大東亜共栄圏」の形成と崩壊』を、私は大学院生の時に読んだ。研究史を書き換える名著とされていたからだ。なるほど、名著とはこういうものかと感心し、少しでも学ばなければと思った。

ところが、小林『「大東亜共栄圏」の形成と崩壊』は、原朗の研究を丸ごと盗んだ剽窃の書だという。それが40年もたって明かされた。すると、盗作疑惑をかけられた小林が、原を相手に名誉毀損裁判を起こした。盗んだと言われた側が、盗まれた被害者を訴えた。その裁判記録が前作である。どちらが本当なのか。私には決定するべき十分な資料もないし、十分な判断力もないが、『創作か盗作か』を読めば、原の主張に合理性があることはわかる。出版された著書・論文の対照表が作成されており、どちらがどちらを盗んだかは明かだ。多くの歴史学者が原を支援することになったのも当然だ。

原朗氏を支援する会

https://sites.google.com/view/aharashien/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0

ところが東京地裁・東京高裁は驚くべき判決を出した。歴史学的な考察を十分に行うことなく、歴史学者たちの意見書も参照することもなく、小林の主張を基に、名誉毀損の成立を認めたからだ。

本作は、その後の経過を詳しく報告する。最高裁が東京地裁・高裁の無責任な判決を追認したこと。都立大学が小林の盗作疑惑を十分調査せず、疑惑に蓋をしたこと。早稲田大学が、小林の生涯最初の論文がそもそも盗作であったことを認定したこと。

ところが、早稲田大学は、本体の『「大東亜共栄圏」の形成と崩壊』について、盗作か否かの判断を避けた。理由は、『「大東亜共栄圏」の形成と崩壊』の出版時、小林が早稲田大学所属の研究者でなかったことだ。

これは明らかにごまかしである。小林は大学卒業(ゼミ)論文(上記の盗作)でデビューした。都立大学大学院・助手を経て、駒澤大学講師時代に『「大東亜共栄圏」の形成と崩壊』を出版し、後にその業績によって早稲田大学教授に就職した。その後、早稲田大学教授時代に『「大東亜共栄圏」の形成と崩壊』増補版を出版した。そして早稲田大学教授時代に、裁判をおこした。その後、小林は早稲田大学名誉教授となった。盗作本を出版した時点で早稲田大学教員でなかった、などというのはまともな理由とは言えない。ごまかしの理屈で事実から逃げる無責任ぶりだ。

本書の最後に「第六部 裁判記録に見る小林英夫氏の主張」が収録されている。前作の書評の中にも、原の主張はよくわかった、小林の主張を知りたいという声があった。小林は裁判では主張を展開しているが、歴史学者であるにもかかわらず、歴史学会に向けて沈黙を貫いている。小林側の準備書面を、原が勝手に出版することもできない。このため、小林の主張がわからない。そこで、本書では裁判過程における小林の主張が紹介されている。

とはいえ、反対当事者によるまとめであるから、小林が自らの所説を世間に問うことが望ましい。歴史学会に向けて、そして一般社会に向けて、小林は責任ある態度をとることができるだろうか。

先に書いたように、本書は落胆の書である。裁判所も大学も真実から目を背け、責任逃れの態度に終始しているように見える。その点で、原も支援者もみな落胆している。

とはいえ、本書は単なる落胆の書ではない。盗作とは何か。研究者の倫理とは何か。研究機関の倫理はどうあるべきか。これからの若手研究者に向けて、重要な問題提起を多く含んでいる。歴史学の再生と、さらなる発展のために、原と支援者たちは本書を世に出した。歴史学に限らず、あらゆる研究分野で参照されるべき基本が明らかにされている。

Thursday, September 15, 2022

国葬反対大集会9.26衆議院第一会館

国葬反対大集会

「今回の国葬は、法的にも、政治的にも無理がある」

多くの国民は国葬に反対しているー

憲法を踏みにじり、法的根拠の全くない国葬を中止せよ

主催  安倍元首相の国葬を許さない会

 

 

●私たちは、今回の国葬問題は、日本の政治のあり方や日本の民主主義の帰趨を左右する極めて重大な問題だと受け止めており、今後、一層全力を挙げて安倍国葬反対運動に取り組む決意です。

●そのため、来たる926日(月)14時から、衆議院第一議員会館で「国葬反対大集会」を、下記の要領で開催いたします。

●立憲野党の連帯挨拶、弁護団報告のあと、この間、多くのメデイアを通じて、国葬問題に厳しい批判の声を上げられおられます、小林節・慶應義塾大学名誉教授から特別講演をしていただきます。その後、ジャーナリストの鳥越俊太郎さんなど、各界の著名人からのお話・リレートークをいただきます。

 

          記

日 時:2022926日(月)1400(開場1330

会 場:衆議院第一議員会館・地下1階・大会議室

 ※必ず、事前申し込みが必要です。

 

●プログラム●

1.総合司会:吉池俊子(アジア・フォーラム横浜代表)

2.主催者代表挨拶:藤田高景(安倍元首相の国葬を許さない会・代表)

3.弁護団からの報告:大口昭彦(弁護団長)

4.連帯の挨拶  立憲野党から

5.特別講演

小林節(慶應義塾大学名誉教授)

   「今回の国葬は、法的にも、政治的にも無理がある」

6.各界からのご発言

鳥越俊太郎(ジャーナリスト)

高山佳奈子(京都大学教授)

植草一秀(経済評論家)

纐纈厚(山口大学名誉教授)

船橋邦子(元和光大学教授)

足立昌勝(関東学院大学名誉教授)

7.閉会の挨拶:高梨晃嘉(神奈川歴史教育を考える市民の会事務局長)

 

※申し込み先:定員(250名)に達し次第、申し込みを締め切りますので。恐縮ですが、なるべく早めに、以下のメールまで申し込みを、お願いいたします。

Emailmurayamadanwa1995@ybb.ne.jp

 

岸田首相が強行しようとしている安倍元首相の国葬は、いかなる観点からも全く正当性がない、日本国憲法を踏みにじる違憲行為そのものだ。

もともと大日本帝国憲法下では、天皇の命令の「国葬令」が存在していたが、その勅令は新憲法制定によって1947年に失効した。つまり、安倍国葬は何らの法的根拠がないものであり、これに国民の血税をつぎ込むことは日本国憲法を踏みにじる行為だと断じねばならない。

しかも安倍国葬は、国民に対して安倍元首相を追悼せよと強要するものであるから日本国憲法が国民に保障する思想・良心の自由を侵害する違憲行為で断じて容認できるものではない。

岸田内閣は722日に安倍国葬を閣議決定したが、そもそも法的根拠のない憲法違反の閣議決定は無効である。また岸田首相があげる国葬の理由は全く根拠がないものばかりで納得できるものではないし、安倍元首相が一貫して立憲政治を破壊してきたことを想起すれば国葬強行には強い怒りを覚える。

だからこそ日に日に全国の国民は安倍国葬への批判の声を高めているのだ。

 

そのような全国の市民の声の高まりを背景として、私たち「岸田政権による安倍元首相の国葬強行を許さない実行委員会(略称:安倍元首相の国葬を許さない会)」は、去る89日に、国葬差し止め等の訴訟を、原告231名で東京地裁に提訴しました。その後も、全国から原告加入の申し込みが殺到しており、近く、東京地裁に第二次訴訟を提訴しますが、これで国葬差止訴訟は、原告総数500名を越す、大型裁判となる見込みです。

私たちが裁判をおこして、本日まで、まだわずかな時間しかたっていませんが、この間、全国の皆さんから、数多くの激励・支援の声がよせられています。

これは、全国の皆さんが、国葬強行は、どう見てもおかしい、止めるべきだと怒っておられる、そういう国民の声の現われそのものだと言わねばなりません。

私たちは、今回の国葬問題は、日本の政治のあり方や日本の民主主義の帰趨を左右する極めて重大な問題だと受け止めており、今後、一層全力を挙げて安倍国葬反対運動に取り組む決意です。

 

●この国葬反対の集会も、皆さまのSNS等を通じて、最大限のよびかけを、お願い申し上げます。 

 

主催  安倍元首相の国葬を許さない会

連絡先(事務局)

090-9399-3941(松代)、090-8565-5407(小山)、090-8808-5000(藤田)

Monday, September 12, 2022

スラップ訴訟との闘い方=愉しみ方!?

澤藤統一郎『DHCスラップ訴訟』(日本評論社)

安倍国葬差止訴訟で東京地裁が無責任な却下判決・決定を出したので、裁判所の司法記者クラブで抗議の記者会見をした後、裁判所の廊下で旧知の澤藤弁護士と遭遇した。

「おやおや、こんなところで、何をなさってるんですか」

「国葬差止請求が却下されたので、抗議の記者会見をしてきたんです」

「反撃するのなら、とても良い本がありますよ。1冊進呈するので、是非読んでみて下さい」

と言うわけで、出版されたばかりの本書を頂戴した。

早速読んで、気分爽快。

まるで快晴の青空の下、モントレーのレマン湖畔のカフェでラムレーズンチョコケーキを一口囓って、ダージリンを啜りながら過ごす午後の気分になった。ほとんど意味不明かも。

最近有名な悪徳企業のDHCと吉田嘉明からスラップ訴訟(嫌がらせ訴訟)を起こされて、69ヶ月に及ぶ裁判闘争で徹底的に闘い、スラップ訴訟を全勝で乗り越え、さらに反撃訴訟に打って出て、こちらも全面勝利した記録だ。

DHCと言えば、辛淑玉さんのDHC「ニュース女子」裁判でも、ヘイト番組を制作した悪質な企業として知られる。そのDHCをこれでもかと徹底批判した書だ。

まるで昨日先発して2桁三振奪取した大谷に快哉を叫び、今日はその大谷が打者として放った特大ホームランをスタンドでキャッチしたような気分だ。ほとんど比喩になっていないかも。

何しろ爆笑ものだ。

スラップ訴訟を起こされた澤藤はのっけからこう述べる。

「以来、私は腹を立て続けている。おそらくは何年たっても、あのときの怒りは収まらない。DHCと吉田嘉明と、そしてその理不尽に加担して代理人となった弁護士を決して許さない。私は誰よりも執念深いのだ。」

澤藤の逆鱗に触れた輩を待っているのは地獄しかない(笑)。堕ちてゆけ、そこへ、堕ちてゆけ、と歌いながら阿鼻叫喚地獄をめざすしかない。執念深く、どこまでも追いかけてくるからだ。本当か?(笑)。

何しろ、澤藤の怒りは、何よりも「公憤」である。

「政治とカネ」問題について正当な言論表現の自由を行使しているのに、言論を萎縮させるため、脅しのためにスラップ訴訟を起こされたのだ。脅しに屈して沈黙すれば、表現の自由を守れない。ブロガーであり、言論人であり、弁護士である。民主主義の根幹を守るために闘わなくてはならない。

同時に、澤藤の怒りには、「私憤」も含まれている。

損害賠償請求で脅せば、おびえて沈黙するだろうと、舐められたのだ。見くびられたのだ。こんなことされて、一歩も引くことはできない。文字通り1ミリも退却するわけに行かない。

公憤と私憤のミックスサンドイッチをがぶりと噛むどんな味がするのか知らないが、澤藤は公憤と私憤をきっちり区別して認識しながら、だが両者を重ね合わせ、かみ合せて、闘いの準備を用意周到に進める。闘うためには家族の団結が必要だ。最強の弁護団が必要だ。

ベテラン弁護士の澤藤だが、被告になったのは初めてのことだ。弁護士としては百戦錬磨だが、「被告業」では初心者だ。陣容をきっちり固めてから闘いに臨まなくては、多少は不安が募ったりするものだ。

家族の闘いの一部が紹介されている。

澤藤を支えた息子は、反撃訴訟においては「反訴原告訴訟代理人弁護士」となって活躍した。つまり、息子が弁護士になって、父親の代理人となり、尋問を担当したのだ。息子の尋問に父親が答えるのは珍しいので、興味津々だが、本書ではそこは省略されている。

たぶん、「息子がこんな素晴らしい尋問をした」と長々と引用すると、「なんだ、澤藤も親ばかなんだ」と言われることを恐れたのだろう。

もしかすると、夜中に一人で調書を開き、息子の尋問を読みながら、「我が息子も立派になったものだ」と、そっと涙をぬぐっているのかもしれない。いや、そうに違いない。間違いない。本人は否定するかもしれないが、これが歴史の真実だ(笑)。

澤藤とともに歩んできた妻は、反撃訴訟の二審・東京高裁の結審の日、「東京高裁『松の廊下』事件」を引き起す。

本書132頁から134頁は全文引用したいところだが、控えよう。闘う弁護士の闘う妻がすっくと立ち上がり、DHC側代理人の弁護士に迫る。読者はこの3頁を読むためだけにでも、本書を買い求める意義がある。

「幸せな被告」であり、「幸せな原告」になった澤藤が「幸せな弁護士」であることを、密かに、いや、堂々と自慢しているのだ。見事な澤藤節である。たぶん、この日、澤藤は妻のために赤い薔薇を10本くらい買っただろう。

本書は笑いと涙の感動の書というだけではない。

スラップ訴訟とは何か。スラップ訴訟といかに闘うべきか。その理論と実践の書である。名誉毀損の成立要件と証明は、いかにあるべきか。

スラップ訴訟の代理人を経験しただけでなく、被告も経験し、反撃訴訟の原告も経験した澤藤は、最強の戦士だ。法廷でも、法廷外でも、一瞬たりとも気を抜くことなく、手を緩めることなく、正当な言論表現を守り、スラップ訴訟を許さず、いかに闘うべきかを丁寧に説明している。

スラップ訴訟だけでなく、「政治とカネ」問題について、「スラップと消費者問題」について、澤藤は論陣を張る。DHCは澤藤以外にも多くのスラップ訴訟を仕掛けたので、これまでのスラップ訴訟を整理して、DHCを追い詰めるだけでなく、スラップ訴訟対策についても検討する。さらに、スラップ訴訟に協力する弁護士の責任追及も必要だ。澤藤は、判例の積み重ねと、スラップ訴訟対策法の必要性も指摘する。つまり、弁護士と研究者には必読の書である。

「誰よりも執念深い」澤藤は最後の最後にこう宣言する。

「スラップをめぐるDHC吉田嘉明との法廷での闘いは終わった。しかし、DHC・吉田嘉明との民主主義や人権をめぐる闘いが終わったわけではない。DHC的な企業や吉田嘉明的な経営者との闘いは、際限もなく続くことになる。くりかえし自分に言い続けよう。『私は決して屈しない』『私は決して黙らない』と。」

「自分」に言い続けると書いてあるが、もちろんこれは読者に対する呼びかけであり、煽動である。民主主義の破壊を許さない。人権侵害に目を閉ざさない。デマやヘイトを許さない。スラップ訴訟に沈黙してはならない。声を大にして闘わなければならない。一人で闘えなくても、仲間がいる。家族がいる。見渡せば澤藤のような弁護士達がいる。

ともに闘おうという澤藤の熱いメッセージである。

Sunday, September 11, 2022

安倍国葬差止請求訴訟・却下判決に対する抗議声明

8月9日、私たちは安倍国葬差止請求訴訟を東京地裁に提起した。91日には第2次提訴を行った。第1次・第2次提訴の原告は650名を超えた。

9月9日、東京地裁は、差止請求及び仮差止請求をまとめて却下した。差止請求については却下の判決、仮差止請求については却下の決定である。なお、損害賠償請求については分離されて、継続審議となる。

本日、私たちは霞ヶ関の裁判所・司法記者クラブで記者会見を開いた。「抗議声明」を下記に貼り付ける。

 

記者会見で、私は次のような発言をした。

(1)立憲主義の基本が全く理解されていない。憲法も法律も無視して閣議で何でもできるという無謀を止めるべき。

(2)国葬には反対。将来、政治家を除外して、例えば野球の長嶋茂雄のような人物が他界した際に「国民葬」をすることができるようにしてはどうか。

(3)安倍国葬で弔問外交ができるなどと期待できない。本物の弔問外交はエリザベス女王の国葬に際して、来週ロンドンで行われる。再来週は国連総会が始まるので、本来の外交がニューヨークで行われる。東京で行われるのはインチキ弔問外交に過ぎない。 

**************************************

 2022年9月9日

 

          抗   議   声   明

 

  岸田内閣が、法令をも無視して、政治的考慮から拙速一方的に決定した、故安倍晋三元総理大臣の国葬に対する全国的な反対の声は、日を追って広がり、激しくなってきている。各メディアの調査によっても、反対の声は賛成の声を大きく上回っている。これに対して、政府は、「半旗・弔意表明は求めない」などと、一部表面的には譲った風を見せながらも、しかし他方では「国民の全員が反対しても、内閣が決めれば出来る」などと、居直りの姿勢を公然と表明するに至っている。

  そして、財政民主主義違背が明白であり、最初から危惧されていた投入国費の金額も、2億円から2・5億円に、更には16・6億円にとうなぎ上りに高額している。政府は金額について何とか隠蔽しようとしているが、膨大な費用の必要が明かな警備費用等については、何十億とも言われており、要人警護の実例一つを見ても、16・6億円でさえ、それで収まるとは誰も信じていない。現に、利権にまみれたオリンピック開催費用の例は我々の眼前にある。

2 もはや岸田首相の「聞く力」など、国民の誰も信用しない。岸田首相の「聞く力」とは、国民各界・階層の人民の切実な声・希望・要求なのではなく、実際は、いまだに旧統一教会との癒着を隠蔽し、維持しようとしている自民党の右派派閥・政治家の声に対してのみのものであることが、誰の目にも歴然としてきている。

  国民主権・国会の権威・財政民主主義の全てに違背しつつ強行されようとしている今回の国葬は、完全な憲法違反であり、早急に中止が実現されなければならない。

  このような情況に於いて我々は、政府の違憲違法の国葬方針に対して、二次に亘って、行政事件訴訟法に基づき、差止めの本請求と仮差止申立の2箇の訴訟を提起し闘って来た。我々の提訴の内容・証拠からして、政府の国葬方針の違憲違法性は明白であり、早期に仮差止が認められるべきであった。

 しかるに東京地裁民事51部は、9月9日付で、我々原告団・弁護団の要求にもかかわらず、一度の審尋手続をも開催することなく、仮差止申立事件を却下し去るという、違憲違法の暴挙を行った。また、差止請求訴訟をも却下し去った。我々は、政府に対する忖度をのみこととする、このような、「憲法の番人」などとは到底呼べない裁判所に対して、満腔の怒りを以て強く抗議する。

4 それと共に、あくまで法律闘争の貫徹を宣言すると共に、裁判のみならず、国会・首相官邸前を始めとして、「国葬反対!」を高く掲げ、「国葬中止!」を求めて全ゆる場で闘われている多数の国民各位と、固く連帯して進んでゆくことを、改めて宣言する。(なお、上記却下にもかかわらず、国家賠償請求訴訟は粘り強く継続してゆくが、この訴訟については原告の第三次の募集も準備中である。)

 

安倍晋三元首相の国葬を許さない会

故安倍晋三元首相の国葬差止訴訟原告団

故安倍晋三元首相の国葬差止訴訟弁護団

Friday, September 09, 2022

日中国交正常化50周年記念大集会

「中国を仮想敵国に仕立て上げて、着々と戦争準備に突き進んで良いのか。中国は敵ではない。最大の貿易相手国だ。」

日中友好こそ、日本の最大の安全保障の一つだ

 

主催  日中国交正常化50周年記念大集会実行委員会

 

今から50年前、田中角栄首相(当時)と大平正芳外相(当時)は、自民党内の親台派の抵抗・妨害を押さえ込んで、歴史的な日中国交正常化・台湾断交へと歴史の舵をきった。あれから、今年9月29日で50周年を迎える。

田中角栄氏と大平正芳氏は、今日の日本の政権の、対米追従外交の現状を、草場の陰で、いかなる想いで見ているのだろうか。

もとより日中友好の道も、平坦な道ではなかった。困難な時代を乗り越え、多くの先人たちの命がけの努力の上に、一衣帯水の隣国として、今日の日本と中国の重層的な関係が、創り上げてこられたのだ。

特に、19世紀以降の歴史においては、日清戦争で台湾を割譲させ、その後、中国に侵略するという罪深い歳月が含まれていることを忘れてはならない。日本は侵略戦争に敗れて、「平和国家」に生まれ変わることができた。日本国民は二度と戦争をしないという誓いが新憲法・9条によって礎を置かれたのだ。

また、日中国交正常化50周年の節目に際して改めて想起し、確認するべきは、日中国交正常化は日本が中国に対する侵略戦争の「責任を痛感し、深く反省する」ことによって可能となったこと(日中共同声明前文)、また、日中平和友好条約では「相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認」していること(12)である。

米国の言いなりに、反中国包囲網に突き進むのではなく、今や日本の最大の貿易相手国となった、中国とは一衣帯水の隣国としての、本来の正常な友好関係を、取り戻す事が、アジアの平和と発展、そして日本の国益のためにも必要である。

多くの皆さんとともに、21世紀のアジア・中国との関係はどうあるべきなのか。日中友好のあり方を未来思考で考えたいと思います。

 

「日中国交正常化50周年」という重要な時期に際し、本記念大集会では、村山富市・第81代日本国総理大臣(調整中)と鳩山友紀夫・第93代日本国総理大臣から記念講話を伺います。

孔鉉佑・中華人民共和国駐日本国特命全権大使にもご出席を賜わり、来賓御挨拶をいただきます。

常日頃から、日本とアジア諸国とりわけ近隣諸国との友好・連帯の持論を展開されている森田実氏(東日本国際大学名誉学長・政治評論家)が特別スピーチを展開されます。

また、国際情勢分析の第一人者である、羽場久美子氏(青山学院大学名誉教授・神奈川大学教授)が、東アジアの平和と繁栄を勝ち取るためには何が必要なのかについて、特別スピーチを展開されます。

そして、国際政治の権威である浅井基文氏(元広島平和研究所所長)が、「9条及び声明・条約の初心に戻ろう」と題して、記念講演をされます。

これらの日本を代表する、知の巨人のお話は、興味深い講演になると思います。

多くの皆様方のご出席をお待ちしています。

 

      記

 

日 時:2022928日(水)1400(開場1330

会 場:衆議院第一議員会館・地下1階・大会議室

 ※必ず、事前申し込みが必要です。

 

申し込み先:定員(300名)に達し次第、申し込みを締め切りますので。恐縮ですが、なるべく早めに、以下のメールまで申し込みを、お願いいたします。

Emailmurayamadanwa1995@ybb.ne.jp

 

●プログラム●

1.総合司会:吉池俊子(アジア・フォーラム横浜代表)

2.主催者代表挨拶:藤田高景(村山首相談話の会・理事長)

3.来賓のご挨拶

 村山富市(第81代内閣総理大臣)

 鳩山由紀夫(第93代内閣総理大臣・東アジア共同体研究所理事長)

 孔鉉佑(中華人民共和国駐日本国特命全権大使)

 森田実(東日本国際大学名誉学長・政治評論家)

「アジアの平和と繁栄の肝は、日中の協調と友好にある」

羽場久美子(神奈川大学教授・青山学院大学名誉教授)

「中国は敵ではない。日中の連帯を!」

 連帯の挨拶

東海林次男(中国文化財返還運動を進める会・共同代表)

「今こそ略奪文化財の返還を!」

 日中友好の想いをこめて  独唱

田 偉(東方文化芸術団・団長)

 

休憩

 記念講演

浅井基文(元広島平和研究所所長)

9条及び声明・条約の初心に戻ろう」

 

7.閉会の挨拶:伊藤彰信(日中労働者交流協会会長)    

 

※申し込み先:定員(300名)に達し次第、申し込みを締め切りますので。恐縮ですが、なるべく早めに、以下のメールまで申し込みを、お願いいたします。

Emailmurayamadanwa1995@ybb.ne.jp

 

代表呼び掛け人

浅井基文(元広島平和研究所所長)、池田香代子(翻訳家)、内海愛子(恵泉女学園大学名誉教授)、村田光平(元駐スイス特命全権大使)、植野妙実子(中央大学名誉教授)、植草一秀(政治経済学者)、内田雅敏(弁護士)、大内秀明(東北大学名誉教授)、大槻義彦(早稲田大学名誉教授)、岡本厚(元「世界」編集長)、笠原十九司(都留文科大学名誉教授)、鎌倉孝夫(埼玉大学名誉教授)、鎌田慧(ルポライター)、林伯耀(旅日華僑中日交流促進会共同代表)、木村朗(ISF独立言論フォーラム編集長)、纐纈厚(山口大学元副学長)、古今亭菊千代(落語家 真打)、朱建榮(東洋学園大学教授)、進藤榮一(国際アジア共同体学会会長)、高嶋伸欣(琉球大学名誉教授)、高野孟(インサイダー編集長)、田中宏(一橋大学名誉教授)、鳥越俊太郎(ジャーナリスト)、中川十郎(名古屋市立大学特任教授)、西原春夫(元早稲田大学総長)、西山太吉(元毎日新聞記者)、平野貞夫(元参議院議員)、前田朗(東京造形大学名誉教授)、前田哲男(軍事ジャーナリスト)、山田朗(明治大学教授)、凌星光(福井県立大学名誉教授)、藤田高景(村山首相談話の会・理事長)

 

呼び掛け人(順不同)

林郁(作家)、田代博之(重慶大爆撃訴訟弁護団長)、根津公子(「日の丸・君が代」被処分者)中山武敏(東京大空襲訴訟弁護団長)、児玉勇二(弁護士)、越智祥太(医師)、三野村一恵(市民憲法調査会)、大口昭彦(ノーハプサ訴訟弁護団長)、鈴木俊夫(東北大学名誉教授)、一瀬敬一郎(弁護士)、粟遠奎(NPO法人都市無差別爆撃の原型・重慶大爆撃を語り継ぐ会代表理事)、王選(NPO法人731部隊・細菌戦資料センター代表理事)、伊香俊哉(NPO法人都市無差別爆撃の原型・重慶大爆撃を語り継ぐ会代表理事)、柳田真(たんぽぽ舍共同代表)、鈴井孝雄(元静岡県平和国民運動センター事務局長)、石河康国(労働者運動史研究家)、山中幸男(救援連絡センター・事務局長)、伊藤彰信(日中労働者交流協会会長)、石田寛(食・みどり・水を守る大館労農市民会議議長)、西川朋子(市民憲法調査会)、長瀬隆(著述業)、長谷川和男(国連人権勧告の実現を!実行委員会)、吉留昭弘(社会主義問題研究者)、沖本裕司(南京・沖縄をむすぶ会)、川野純治(沖縄県名護市議会議員)、河原崎道枝(村山首相談話の会)、木村知義(元NHKアナウンサー)、近藤昭二(ジャーナリスト)、村山和弘(不二越訴訟連絡会)、中川美由紀(不二越訴訟連絡会)、杉本健司(東京海外旅行研究会代表)北川広和(日韓分析編集人)、原秀介(9条改憲阻止の会)、山本恵子(村山首相談話の会)、李徹(村山首相談話の会)、水上宏(ライフクロッシング主宰者)、高梨晃嘉(神奈川歴史教育を考える市民の会事務局長)、吉池俊子(アジア・フォーラム横浜代表)、増田都子(元闘う社会科教師)、松代修平(村山首相談話の会・理事)、小川利靖(村山首相談話の会・理事)、小山俊(市民自治をめざす1000人の会・運営委員)、五井信治(戦争の加害展実行委員)、奥田和弘(日本軍「慰安婦」問題関西ネットワーク)、西崎典子(フェム・語り部の会)、中野英幸(差別と排外主義に反対する連絡会)、渡辺好造(地球環境フォーラムJAPAN)、梶間恒夫(村山首相談話の会)、仲村正昭(不動産コンサルタント)、乾喜美子(経産省前テント広場)、橘優子(被ばく労働ネット)、石川美知子(日中友好21の会)、大島ふさ子(詩と朗読「たきび」の会)、細田加代子(狭山事件の再審を求める支援者)、大場晴男(NHK放送を語る会)、和田千代子(ABC企画委員会・事務局長)、皆川義幸(村山首相談話の会・理事)、小菅きぬ江(群馬合同労組執行委員)、加藤弘吉(森友ごみ問題考える会世話人)、小泉恵美(森友ごみ問題考える会世話人)、朝倉真知子(村山首相談話の会)、坂本政美(千葉県市民連合一区世話人)、田中誠(村山首相談話の会)大嶋眞之助(村山首相談話の会)、沖野章子(ABC企画運営委員)、渡辺洋介(ピースデポ・研究員)

 

連絡先(事務局)

090-9399-3941(松代修平)、090-8565-5407(小山俊)、090-8808-5000(藤田高景)

じっくり読みたい資本論・経済学批判要綱

白井聡『武器としての「資本論」』(東洋経済新報社)

2年前に話題になった本だが、ようやく読んだ。資本論第1巻の解説だが、よくできている。

1に、一番難しい第1章・商品を、かみくだいた解説で、読みやすくしている。本格的な解説書だと、この部分はどうしてもマルクスからの引用に頼ることになり、どんどん難しくなる。

2に、映画寅さん、あるいは、ロシア文学のゴーゴリ、ゴンチャロフ、チェーホフなどを活用して、理解を容易にしている。

3に、第1巻だけに絞って、290頁の本にしている。

本書を読んで、さあ、『資本論』を自分で読んでみようという気になる、そういう気にさせる本だろう。もっとも、それで実際にどのくらいの読者が『資本論』にチャレンジしたかはわからないが。

私の場合、大学時代、大月全集版を購入して、挑戦したが、即座に挫折した。

大学院時代、『経済原論の方法』の宮崎犀一先生のゼミに5年間出席して、第1巻から第2巻の途中まで読むことができた。経済学研究科のゼミだが、いつも法学研究科の院生が数人潜っていた。私もその一人だ。

商学研究科の山中隆次先生のゼミでは『経済学哲学草稿』を読んだ。『ドイツ・イデオロギー』編纂問題で、ラーピンや広松渉の研究が話題になっており、山中先生もド・イデ編纂問題で論文を書いておられた。経哲草稿ゼミでも、翻訳出版された順序で読むのではなく、マルクス自身の草稿の順番、つまり実際に書いた順番に従って読むという方法だった。

宮崎犀一先生は、法学研究科の院生が多く参加していることに配慮して、できるだけわかりやすく進めるようにしてくれた。当時、私たちの関心は「社会科学方法論」としての『資本論』だったので、経済理論としてというよりも、社会科学方法論として、どのように読み、理解するかに焦点を当てていた。良い読み方だったのかどうかはわからないが、私にとってはそれが有益だったと思う。

その後、OD時代に、新日本出版社から社会科学研究所監訳の新書14冊の『資本論』が出たので、やはり第1巻は読んだものの、第2巻には辿り着かなかったと思う。

その後、多忙になったため、『資本論』を読む時間はおよそとれない。定年退職したら、あれを読もう、これを読もう、『資本論』を読もう、『経済学批判要綱』を読もうと思ったが、退職してもそれなりに忙しいため、やはりそれどころではない。一人で読むのは難しい。資本論ゼミに参加しないとなかなか読めないだろう。

といった調子なので、資本論解説書を読んで満足するしかないのが実情だ。時間に余裕ができたら、じっくり読みたい。今は、それだけの余裕はないので、他の著作で、テーマを決めて読んでいくことにしよう。