深沢潮を読む(13)
深沢潮『李の花は散っても』(朝日新聞出版、2023年)
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本書は2018~21年に『小説トリッパー』に連載され、2023年に単行本になった。上下2段組で350頁を超える大作で、深沢の作品の中でもっとも長い。取材から7年の歳月をかけた長編大河小説だ。
著者自身が語った思いをyoutubeで見ることができる。
出版社のサイトには次のように紹介されている。
「かつて後の昭和天皇の最有力妃候補と言われながら、自身の李王世子・李垠との婚約を新聞の紙面で初めて知り、梨本宮方子は頽(くずお)れた――皇族でありながら政策によって李王朝に嫁いだ李方子王妃の数奇な運命を縦糸に、また方子を半島から来た革命家と恋に落ち社会から転落していく女性・マサを横糸に、戦前・戦中・戦後の日本と朝鮮半島を舞台に描く、著者渾身の力作。」
方子とマサという2人の女性の波乱万丈の人生を並列して描き、最後にこの2人の運命的出会いを通じて、日本と朝鮮半島の近現代史を見事に描き出している。韓国併合、政略結婚、関東大震災朝鮮人虐殺、韓国独立運動、第二次大戦、そして朝鮮戦争を生き抜いた2人の女性の物語だ。その意味で、出版社の紹介に「戦前・戦中・戦後」とあるのは、修正が必要だ。日本では第二次大戦後、現在に至る80年を「戦後」と呼びならわしてきたが、朝鮮戦争を度外視してきたのが「戦後日本人」だ。アジア諸国はこの80年を「戦後」と呼ぶことはできない。
深沢は、朝鮮戦争とその後も的確に描いている。
『ハンサラン 愛する人びと』以来、現代女性の出会い、恋愛、結婚、離婚や、家族の物語をつづり、特に在日朝鮮人女性を通じて、より普遍的な愛と家族の物語をつづってきた深沢だが、他方で、『ひとかどの父へ』『海を抱いて月に眠る』『翡翠色の海へうたう』で日本と朝鮮半島の歴史に挑んできた。その最新バージョンが本書だ。
あるサイトには次のような感想が述べられている。
「皇族から李王家に嫁いだ方子と、朝鮮から来た独立運動家と恋に落ちたマサ。史実に基づいたフィクションは胸にくるものがある。国とは何か。人は生きるために殺すのか。安倍政権時から負の歴史を修正する動きが広まり、SNSでは喜んで自ら創始改名していたなどという言質もある。支配された国で生きるということへの想像力が欠如している。日本は加害の歴史を忘れてはいけないし学ばなければいけないと思う。歴史を繰り返さないためにも。戦争を決めるのは権力者だけど、苦しむのはいつも市民だ。」
「すごい。深沢さん初読み。2人の女性の大河ドラマ。李王家に嫁いだ皇族の方子と朝鮮独立運動家と共に生きるマサの人生が交互に語られる。2段組は聞いてたので覚悟してたけど、戦中の描写はやっぱりつらくて読むスピードが落ちる。戦後になるとまたサクサク読める。フィクションだけど李方子は実在する人で、すごい人生だった。読めて良かった。」
「大韓帝国最後の皇太子のお妃である李正子氏について、ほとんど知らなかったことが恥ずかしい。中学高校の歴史の授業でもこのような人をきちんと紹介していけば、もう少し日韓関係を自分ごととして考えていけるのに。史実でもある正子さんの生涯に加え、戦中戦後を朝鮮・韓国で生き抜いてきたマサとの触れ合いを描くフィクションとなっていることで、国と国との力関係以上に人と人とのやわらかなつながりが強靭に見えてくる。」
https://bookmeter.com/books/20959830
林真理子の『李王家の縁談』が同じテーマの作品だそうだが、私は読んでいないため比較できない。