Sunday, June 20, 2021

ヘイト・スピーチ研究文献(177)d インターネットとヘイトスピーチ

中川慎二・河村克俊・金尚均編『インターネットとヘイトスピーチ――法と言語の視点から』(明石書店、2021年)

オヌール・エツァータ「ドイツ国家社会主義地下組織(NSU)とドイツにおけるヘイトクライムに対する取り組み」

著者はネオナチ地下組織のNSUの裁判で付帯訴訟の代理人を務めた弁護士である。ヘイトクライム事件の弁護人経験を有し、反レイシズムの立場である。NSU事件とは19982011年にかけてNSUメンバーが人種差別動機で10人の殺人事件を起こした事件で、2013年に始まった裁判は437回の公判を開く、ドイツ刑事裁判史に残る長期裁判となったが、NSUの組織的背景や、連続殺人に至るプロセスは未解明のまま終わった。というのも警察側に反レイシズムが徹底しておらず、それどころか被害者たちをテロや麻薬事犯の容疑者ではないかと疑いをかけ、加害者の特定が遅れるなど、ドイツ刑事司法に大きな制約があったという。

郭辰雄「ヘイトスピーチ根絶のための取り組み――鶴橋、ネット、二つの事例から見えるもの」

著者はヘイトスピーチと闘ってきたコリアNGOセンター代表理事。鶴橋に代表されるヘイトデモへのカウンター行動、被害実態調査を行い、ヘイトスピーチ禁止の仮処分申請を行ってきた。その経緯がつづられる。さらに李信恵・反ヘイトスピーチ裁判の支援も続けた。その経験をもとに、ネット上のヘイトの法的責任追及、複合差別との闘いを論じている。

2論文はいずれも反ヘイトのカウンタ委の理論と実践に大いに有益である。ただ、「インターネットとヘイトスピーチ」という本書の主題から言うと、ややずれている印象がある。

Thursday, June 17, 2021

ヘイト・スピーチ研究文献(177)c インターネットとヘイトスピーチ

中川慎二・河村克俊・金尚均編『インターネットとヘイトスピーチ――法と言語の視点から』(明石書店、2021年)

金尚均「ヘイトスピーチの社会問題化とヘイトスピーチ解消法」

序 問題

 インターネット上のヘイトスピーチ

 ヨーロッパにおける対応

Ⅲ ドイツにおける新立法(SNSにおける法執行を改善するための法律

Ⅳ 若干のまとめ

序ではヘイトスピーチ解消法の問題点・限界を確認し、Ⅰでネット上の情報の特殊性やネット被害回復の困難さを確認した上で、金はヨーロッパにおける対応としてプラットフォーム行動規範と欧州委員会の対応を紹介し、本論でドイツの新立法を詳しく紹介・検討する。

ドイツでは刑法に民衆煽動罪の規定がありヘイト対策が成されてきたが、SNSへの対応は不十分であった。プロバイダの自主規制が模索されてきたがやはり不十分なため、SNSにおける法執行を改善するための法律に至った。

ドイツ国内に200万人以上の利用者のいるSNSの迂遠映写に、苦情手続きを設け、利用者の苦情を受理し、刑法上問題になる書き込みを24時間以内に削除又はブロッキングすることを義務づけ、実施しなければ最高500万ユーロ(企業には5000万ユーロ)の罰金を課すことにした。刑法上問題になるものに、犯罪の煽動、テロ団体結成、児童ポルノとともにヘイト・スピーチが掲げられている。苦情処理手続きも具体駅に定められている。

金は新法を「義務を懈怠した場合に過料を科すことで、従来、司法による判断に委ねていた微妙な表現内容もホスティング・プロバイダに対応を迫ることになる。第1に単に表現と交流の場としてのプラットフォームを中立の立場で提供しているにすぎない、そして表現の自由という基本的人権の保護に照らし表現の自由について司法判断に委ねるとのホスティング・プロバイダの態度、第2に問題ある投稿による法益侵害の拡散と継続、そして第3に投稿者の行為の『野放し』状態、というこれら三者三つ巴の狭間でホスティング・プロバイダを対象にしてとられたインターネット上の表現対策と言える」という。

「インターネット技術の発展によって社会において差別に対する障壁が低くなるおそれすらある」ので、ルールづくりが必要となる。

新法で違法な情報とされているのは刑法上の犯罪に該当する表現である。「特定人を攻撃対象にしてない誹謗中傷表現はドイツにおいても民事賠償の対象とはならず刑事規制の対象でしかない。このような刑事規制の対象にしかならない表現行為を中心に削除又はブロッキング措置をとることは、ドイツ通信媒体法との関係で法の間隙が生じることを回避し、これらの拡散の阻止という見地からは一定の意義があると思われる」という。

ドイツ法の仕組みの概要がわかって参考になる。フランス法は、刑罰導入について一部違憲との判決が出たようだが、欧州全体での取り組みがどのようになっていくのか知りたいところだ。

Wednesday, June 16, 2021

「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律」の可決成立に強く抗議する法律家団体の声明

2021年6月16日

改憲問題対策法律家6団体連絡会

社会文化法律センター 共同代表理事 宮里 邦雄

自由法曹団 団長 吉田 健一

青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 上野 格

日本国際法律家協会 会長 大熊 政一

日本反核法律家協会 会長 大久保賢一

日本民主法律家協会 理事長 新倉 修

 

1 拙速な可決成立に対して、強く抗議する

本年 6 11 日、参議院本会議で、「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律」(以下「改正改憲手続法」または単に「改正法」という。)が、自民、公明、維新、国民、立民などの賛成多数で可決成立した。改正改憲手続法は、2016 年に累次にわたり改正された公職選挙法(名簿の閲覧、在外名簿の登録、共通投票所、期日前投票、洋上投票、繰延投票、投票所への同伴)の7項目にそろえて改憲手続法を改正するものである。衆議院憲法審査会で立民の修正提案で、「施行後 3 年を目途に」、有料広告制限、資金規制、インターネット規制などの「検討と必要な法制上の措置その他の措置を講するものとする」附則第4 条が加えられた。

 改憲問題対策法律家6団体連絡会は、2018 6 月の法案提出以来一貫して法案の重大な欠陥を指摘し続けてきた。昨年 11 月から始まった衆・参憲法審査会の審議において、その欠陥は動かしがたく明らかとなったにもかかわらず、何らの見直しもないまま法案を成立させたことに強く抗議する。附則 4 条は、立法者自ら改正改憲手続法の重大な欠陥を認めて、この法律のままでは公平公正な国民投票が実施できないことを明らかにしているが、だとするならば、重大な欠陥の解決を先送りにしてまでこの改正法を成立させる理由は全くなく、徹底審議の上で一旦廃案にする選択以外にはなかったはずだ。

 

2 改正法は、憲法改正国民投票の公平公正が確保されない欠陥法であること

 そもそも憲法96条の憲法改正国民投票は、国民の憲法改正権の具体的行使であり、最高法規としての憲法の国民意思による正当性を確保する手段であることから、できる限り多くの国民に平等に投票の機会を保障し、公平公正を確保する手続きであることが憲法上強く要求されている(国民主権;前文、憲法 1 条、法の下の平等;憲法 14 条、硬性憲法と憲法の改正手続き;憲法 96 条、最高法規;憲法 97 条、98 1 項)。

() 投票できない国民がいることを放置したままであること

 遠洋航行などで長期にわたり洋上にいる船員等の中には、改正法のままでは憲法改正国民投票ができない人が出てくる。また、郵便投票の対象者が要介護5に限定されてい るため現在でも投票できない国民が相当数いることが指摘されている。新型コロナ感染症の拡大により、指定病院等に入院中の方や、宿泊施設や自宅で療養を余儀なくされている場合も投票ができない可能性がある。このように、正当な理由なく憲法改正国民投票の機会を奪われている国民がいるとすれば、2005 9 14 日の最高裁判例に照らしても、改正改憲手続法が違憲状態にあることは明らかである。

さらに、繰延投票の告示期日の短縮はそれ自体投票環境の後退であり、憲法改正国民投票に繰延投票が適切なのかという根本問題も提起されている。期日前投票の弾力的運用は、開始時刻の繰り下げと閉鎖時刻の繰り上げという投票時間の短縮となっていたり、共通投票所の設置が、投票所の集約合理化(=投票所の削減)をもたらしているという実態が明らかとなった。また、在外投票については在外投票名簿の登録率も投票率もともに減少しており、在外邦人の投票の機会が十分に保障されない制度上の問題点が指摘されている。

 憲法改正国民投票は、前記の性質上、できる限り多くの国民に対し平等に投票の機会が保障されなければならないが、改正法は、投票できない国民が放置されているなど、違憲の疑いが極めて強いといえる。

(2)憲法改正国民投票の公平公正が担保されていないこと

 改憲手続法については、2007 5 月の成立時において参議院で 18 項目にわたる附帯決議がなされ、2014 6 月の一部改正の際にも衆議院憲法審査会で7項目、参議院憲法審査会で 20 項目もの附帯決議がなされる等、多くの問題点が指摘されているにもかかわらず、こられの本質的な問題点が、改正法ではまたもや放置され先送りとされた。

とりわけ、①ラジオ・テレビ、インターネットの有料広告規制の問題やインターネット、ビッグデータ利用の適正化を図る問題、②公務員・教育者に対する不当な運動規制がある一方で、外国企業を含む企業や団体、外国政府などは、費用の規制もなく完全に自由に国民投票運動に参加できるとされている問題、③最低投票率が設けられていない問題等の見直しは、国民投票の公平公正を確保し、憲法改正の正当性を担保するうえで不可欠の根本問題である。

今回成立した改正法は、以上のような国民投票の公平公正を担保し、投票結果に正しく国民の意思が反映されるための措置について全く考慮されていない欠陥法であり、このままでは違憲の疑いが極めて強いといえる。

 

3 改正改憲手続法のもとで、改憲発議を行うことは憲法上許されないこと

菅首相や自民党など改憲派は、「施行後 3 年を目途に」、有料広告制限、資金規制、インターネット規制などの「検討と必要な法制上の措置その他の措置を講するものとする」附則 4条の措置がとられなくても、改憲発議は妨げられないとして、自民党改憲 4 項目改憲原案の議論を一気に加速させることを狙っている。

しかし、前述のとおり、改正法は、憲法改正国民投票の公平公正が確保されない違憲状態の欠陥法である。そして改憲手続法の違憲状態を解消することは、国会に課された義務であり、その義務の履行を怠ったまま、国会が、改憲の発議権を行使することが許されないことは、前述の憲法改正国民投票の性質上当然である。

 附則 4 条は、施行後 3 年を目途という期限をきって、このことを確認したものであり、法的な拘束力を持つことは明らかである。

 以上より、改正法の違憲状態を解消するために必要な措置が講じられるまでは、国会議員による憲法改正原案の発議(国会法 68 条の2)、憲法審査会による憲法改正原案の提出(同法 102 条の7)、国会による憲法改正の発議(憲法 96 条)は、いずれも、憲法上許されないというべきである。

4 市民と野党の共闘で、自民党改憲 4 項目(安倍・菅改憲)発議を阻止しよう。

2017 5 月、当時の安倍首相は 2020 年までに新しい憲法の施行を宣言し、2018 年3月に自民党は、9 条に自衛隊を明記するなどの4項目の改憲案(素案)を取りまとめて、同年 6 月に、改憲手続法改正案を国会に上程した。その狙いが安倍改憲を憲法審査会で議論するための呼び水であったことは、今年 5 3 日菅首相が、改正改憲手続法案について「憲法改正議論の最初の一歩として成立を目指さなければならない」と発言したことからも明らかである。しかし、改憲派の議席が 3 分の 2 以上を占める中で、市民と野党は共闘し、安倍 9 条改憲 NO3000 万署名運動を広め、安倍改憲を一歩も前に進めさせることなく、安倍首相を辞任へと追い込んだ。このことは特筆されるべき成果であり、憲法が市民の中に定着している何よりの証左である。

安倍首相の後継である菅首相もまた、今年 6 10 日、改正改憲手続法の成立を機に、憲法9条への自衛隊明記や緊急事態条項の創設などを盛り込んだ自民党改憲4項目の改憲論議を進める決意を公言した。本来、「憲法尊重擁護義務」(憲法99条)を負う首相や国会議員が国民の意思を無視して改憲を先導主導することは憲法に違反する。憲法改正は、国民の中から憲法改正を求める意見が大きく発せられ、世論が成熟した場合に限り行われるべき

ものである。今、国民は、政府や国会に対し、コロナ対策、命と生活を守る政治を求めているのであって、改憲世論は全く熟していない。

憲法によって公権力を制約し、国民の権利・自由を保障するのが立憲主義である。憲法に拘束される権力の側が、国民を差し置いて憲法改正を声高に叫び、改憲発議のために憲法審査会の開催を要求することは、立憲主義の危機であり、十分な警戒が必要である。この点、改正改憲手続法の審議の中で、附則 4 条の解釈も含め、自民党などが進める改憲論議と改憲発議に対して憲法上の楔を打ち込んだことは、今後に大きな意味を持つであろう。

コロナ禍に乗じた改憲発議を許さず、立憲主義を守るため、改憲問題対策法律家6団体連絡会は、今後も、市民と立憲野党と共闘して奮闘することを宣言する。

 以上

スガ疫病神首相語録43 パンデミックが止まらない

6月15日、野党はスガ内閣不信任決議案を提出したが、与党により否決された。これにより国会は閉会となり、新型コロナ対策もオリンピック開催問題も経済政策も議論が閉ざされた。

6月16日、オリンピック放映権を独占するNBC首脳は、これで史上最高額の収益確実、と勝利宣言をした。

この日、東京の新型コロナ感染者数が増えたが、もちろん大物のガースーはそんな些細なことは気にしない。一部勢力の反対の議論など時間の無駄と蹴散らし、屍を乗り越え、思い出たっぷりのオリンピックに突入するのである。

 

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C-C-Bの「ロマンティックが止まらない」のメロディで

 

長い自粛の途中で (Fu Fu さりげなく)

時短要請 解除 (Fu Fu 小手先で)

3密の エリアから はみだした

君の青い 柄マスク

 

誰か パンデミック 止めて パンデミック

胸が胸が 苦しくなる

 

惑う 基準 甘く 溺れて

Hold me tight  オリンピックは

止まらない

 

入国の基準 緩めて (Fu Fu だらしなく)

遊びなのと 聞いたね (Fu Fu ささやいて)

言葉では 答えない 基準はない

力こめる Tonight

 

誰か パンデミック 止めて パンデミック

息が息が 燃えるようさ

 

同じ孤独を 抱いて生きたね

今夜一人では 眠れない

 

誰か パンデミック 止めて パンデミック

胸が胸が 苦しくなる

 

走るスガに 背中押されて

Hold me tight  オリンピックは

Fu 止まらない

 

 

C-C-B Romanticが止まらない

https://www.youtube.com/watch?v=Oo71KT4SUhw

Friday, June 11, 2021

ヘイト・スピーチ研究文献(177)b インターネットとヘイトスピーチ

中川慎二・河村克俊・金尚均編『インターネットとヘイトスピーチ――法と言語の視点から』(明石書店、2021年)

申恵「インターネットとヘイトスピーチ――国際人権法の観点から」

はじめに

 人種差別撤廃条約とその国内実施

1.4条の規定とこれに対する留保・解釈宣言

2.4条の国内実施状況

3.日本の状況

(1)   ヘイトスピーチと不法行為法の解釈・適用

(2)   ヘイトスピーチ解消法

(3)   地方公共団体及び国の行政機関によるネット上のヘイトスピーチ対策

 ヨーロッパにおけるヘイトスピーチ禁止規範とそれに

1.欧州評議会レイシズムと不寛容と戦う欧州委員会の政策勧告

2.刑事法の手段による人種主義及び外国人嫌悪との闘いに関するEU理事会枠組み決定

(1)   EU枠組み決定とそれに基づく国内法整備

(2)   EU枠組み決定を受けた行動綱領――IT業者によるヘイトスピーチ削除の取り組み

おわりに

国連レベルの人種差別撤廃条約の国内実施と、欧州レベルの欧州評議会やEUの取り組みの紹介・分析を通じて、ヘイト・スピーチの刑事規制とオンラインからの削除の取り組みの現状を明らかにする手堅い論文である。取り上げられた情報の大半は私も紹介してきたが、これだけ手際よく整理することはできていない。

4条の国内実施についてはフランスとオーストラリアの状況を取り上げているが、この2カ国は日本と同様に4条に留保を付しているが、フランスは刑事規制を行いオーストラリアは国内人権委員会を活用している。また4条は刑事規制だけを要請しているわけではないので、民事法や行政法のレベルの規制も必要であるという。

欧州評議会レイシズムと不寛容と戦う欧州委員会の政策勧告の紹介もなされている。「ホロコースト否定犯罪」への言及も紹介している。欧州諸国における「ホロコースト否定犯罪」について私はこのところ調査中だが、東欧と西欧とでは状況がかなり異なるので、整理の仕方を考える必要がある。

EU理事会枠組み決定を受けた行動綱領(2016年)について私は紹介していない。その実施状況も少し紹介されている。今後まとまった研究が期待される。

「ヘイトスピーチを明文で禁ずるのでなく不法行為の規定で対処することの一つの限界は、不法行為法は金銭賠償による救済をもたらしうるにとどまり、人種差別を防止し及び再発を防止する規範としての役割を十分果たしうるとはいい難いことである。2016年にはヘイトスピーチ解消法が成立したが、同法にも、人権条約に沿った形でのヘイトスピーチの定義、及びそれを明確に『違法』とする規定はなく、人の行為規範また当局の法的措置の根拠として用いられるにはおのずと限界がある。」

同感である。

最後に申は2019年のオンライン・テロ防止の「クライストチャーチ・コール」に言及している。これも重要であり、さらに詳細な研究が望まれる。

Wednesday, June 09, 2021

ヘイト・スピーチ研究文献(177)a インターネットとヘイトスピーチ

中川慎二・河村克俊・金尚均編『インターネットとヘイトスピーチ――法と言語の視点から』(明石書店、2021年)

ヘイト・スピーチ刑事規制については、ヘイト・スピーチの本質論を抜きに、「表現の自由」が語られてきた。「ヘイト・スピーチ刑事規制は表現の自由を委縮させるから憲法に抵触するので許されない」という非常識で奇怪な主張が横行してきた。このため私は「インターネットとヘイト・スピーチ」という問題設定できるだけ回避してきた。「インターネットとヘイト・スピーチ」という問題設定をすれば「表現の自由」の議論に陥ることが目に見えているからだ。国連人権理事会の女性に対する暴力当別報告者は「オンライン暴力」という表現を用いているし、EUでは「サイバー暴力」という言葉も用いられる。私もこれらの表現を使う。とはいえ、「インターネットとヘイト・スピーチ」という問題設定は重要であり、喫緊の解題である。

本書の編者のうち2人はヘイト・クライム研究会で一緒に研究してきた。信頼できる研究仲間の編集による著書なので、じっくり勉強したい。

冒頭にジャーナリストの中村一成のエッセイが収められている。新聞記者時代とフリーになってから、いずれもヘイト・スピーチや歴史修正主義との闘いを続けてきた経過が紹介されている。中村については

https://maeda-akira.blogspot.com/2017/02/blog-post_3.html

次に中川慎二、木戸衛一、辛淑玉による鼎談「インターネットとヘイトスピーチ」だ。3人とも昨春まで留学でドイツに滞在していた。コロナが流行した時期に、木戸と辛は帰国したが、中川はオーストリアに滞在を続けたようだ。新型コロナとヘイトスピーチの関連、ドイツと日本の対比、植民地主義の変容、そしてフライデーズ・フォー・フューチャー、そして選民思想と天皇制。

木戸「フライデーズ・フォー・フューチャーが問題提起しているのは、今までの生き方、過剰生産・過剰浪費・過剰廃棄の生活様式でいいのかということですよね。先ほども新自由主義の話題が出ましたが、強欲資本主義というか、自然環境も人間社会もボロボロにする暴力経済を何とかしなければいけない。」

辛「もう、殺されないですむにはどうすればいいのかっていうレベルなんだと思うんですよ。」

中川「やっぱり敗戦の時に本当に天皇制を廃止していたらよかったんですよね。」

木戸「コロナ危機に乗じて差別とニヒリズムを使嗾し体制転覆も謀る『反コロナ運動』は、民主主義は民主主義の敵にどれだけ寛容であるべきなのかという問いを改めて投げかけている。」

Tuesday, June 08, 2021

黒川検事問題から見た検察官僚制論

岡本洋一「検察官の経歴・人事についての一考察――黒川東京高検検事長定年延長・検察庁法改正問題に寄せて」『熊本法学』151号(2021年)

賭けマージャン黒川問題は日本の恥と闇のあられもなさを見せつけた。笑うしかない、くだらない出来事だが、笑って済む話ではない。岡本は、黒川個人の資質の問題としてではなく、検察官僚制の根幹を貫く制度論的問題を直感し、これを理論的に整理し直すために、検察官の経歴・人事の実証研究を始めた。

検察官の個々の人事異動を「点」とし、その経歴・キャリアを追うことで「線」を浮き彫りにし、さらに「面」としての検察庁・法務省という組織に迫る。

裁判官については『裁判官経歴総覧』をはじめとする詳細な研究の積み重ねがあるが、検察・法務については同様の研究がない。そこで岡本は、裁判官経歴研究の手法を学びつつ、官僚制研究の成果にも目を配りながら、検察・法務省論の輪郭を想定しつつ、まずは辞任に追い込まれた黒川弘務、検事総長になった林真琴、最高検次長検事の落合義和の3人の経歴をチェックする。

黒川の場合、東京地検検事、法務省大臣官房参事官、大臣官房司法法制課長、大臣官房参事官、刑事局総務課長、秘書課長、大臣官房審議官、松山地検検事正、法務省大臣官房付、官房長、法務事務次官を経て、2019年に東京高検検事長になった。そのままで終わるはずだったのに、安倍政権が、黒川を検事総長にするために、定年延長を図るなど裏工作で人事を捻じ曲げたことが社会・政治問題となり、その騒ぎの渦中、賭けマージャン問題が発覚して首が飛んだ。

岡本は、林や落合の経歴、歴代の検事総長である稲田伸夫、西川克行、大野恒太郎、小津博司らの経歴も辿る。その特徴は、任官が20代前半であり、40代以降は東京勤務が長く、半数以上が法務省関連、短期間で次々とポストを移動し、出世していく。東京高検検事長、法務省刑事局長、法務省大臣官房長と検事総長の相関関係が分析される。その上で、黒川の個性・特殊性と、にもかかわらず黒川の検察官僚としての一般性を確認し、検察・法務官僚制論の課題を明確にする。ポイントとなるのは、「訴追権限を行使する刑事裁判の担い手としての検事」と、他方、訴追にはほとんどかかわらず、「法務省において政策立案・法案策定に関わり、そこから政治の中枢に奉仕していく行政官僚としての検事」=「検察官らしくない検察官」「行政官としての検察官」の関連である。法務省からさらに内閣官房に登用されていくコースの意味が焦点となる。「司法官と行政官の二重性」を切り口に黒川問題を再検討することになる。

一部のエリート検察官僚が、刑事裁判の担い手としてではなく、国家統治の中枢部で政治家に奉仕する。特段の知性も教養も国家構想も持たない彼らが、国家統治の枢要を握るためには、まさに黒川のように、権限を捻じ曲げることで政治家におもねるしか方法がない。権力の私物化は必然である。黒川でなくても、どの検察官であれ同じ立場に立てば同じことをするしかない。考えてみると、巨悪におもねり、こびへつらうのは検察の伝統である。かつて伊藤榮樹が「巨悪を眠らせない」と言いながら巨悪にこびへつらい、小悪だけを追及してきたように、検察の正しい伝統は巨悪にこびへつらうことで政権に奉仕することである。黒川は伝統の正当な継承者にほかならない。奉仕した相手が悪すぎただけだ。

裁判官人事と異なり、検察官人事については従来、実証的な研究がなかったため、岡本はこれに手を付けたが、まだ検事総長経験者等の一部の経歴を追跡したにとどまる。これをさらに広げることでより説得的な説明が可能となるだろう。その際、追加していくべき論点が多々あると思われる。例えば、これまでの検察研究では公安検察と経済検察の対抗が論点となってきた。現在の検察分析にとってこの視点は無用なのだろうか。また、検察から内閣官房への登用を分析するのであれば、検察以外(特に警察庁)からの内閣官房への登用も比較検討の素材にしなくてはならないだろう。

Monday, June 07, 2021

ヘイト・スピーチ研究文献176

小笠原博毅『真実を語れ、そのまったき複雑性において ―スチュアート・ホールの思考』(新泉社、2019年)

https://www.kobe-u.ac.jp/info/public-relations/book/2019/06_10_01.html

 

カルチュラル・スタディーズの理論家、スチュアート・ホールに学んだ著者が「ホールの思想」――存在しないホールの思想を追跡し続けた研究である。

カルチュラル・スタディーズは一時期、日本でも大いに流行した、軽快で、颯爽とした思潮だが、実は見事に無内容であり、一時の流行として消費されて、雲散霧消しつつある。それゆえカルチュラル・スタディーズとともに語られたポスト・コロニアリズムも同じ道を歩んでいるように見える。

著者は、しばしばまとまった思潮として語られてきたカルチュラル・スタディーズに違和感を表明する。とりわけ日本におけるカルチュラル・スタディーズとは、最初から訣別している。

本書はヘイト・スピーチについて積極的に議論を展開しているわけではない。だが、レイシズムと階級とジェンダーは本書のキーワードであり、ヘイト・スピーチについて議論するための土俵を設定しようとする者には参考になる著書である。そういう読み方は著者には失礼かもしれないが、植民地主義、レイシズムム、階級闘争に関連する記述を重点的に読み進めた。当座の必要から飛ばし読みしたと言う意味だ。その結果、繰り返し紐解くべき本であることを確認できた。

興味深い論述が随所にあるが、一つだけ紹介しておこう。白人西欧による植民地主義と人種主義を批判したデュボイスが、白人西欧への効果的な対抗勢力として大東亜共栄圏を礼賛してしまったという。植民地主義への抵抗勢力としての有色人種の模範となるべしという発想だ。その誤りを批判するのは容易い。では、デュボイスをどのように乗り越えるのか。

「旧植民地からの『移民』だけに目を奪われがちな現代日本の人種差別の様相に対して、デュボイスはリフレッシュされた視点を再び提供するだろう。しかし、彼がアジアに抱いていたその同質性のファンタジーはそのまま日本の同質性へのファンタジーに繋がることも忘れてはならない。日本の周縁領域である沖縄、九州、北海道は、本州の現代史とは異なる民族的・人種的混交性を経験しているし、本州でも日本海側か太平洋側かでそれは異なる。都市と農村、工業地域と山間部、鉱山労働や港湾労働の現場、アメリカ軍基地のあるところとないところ。人種と民族の経験を日本という括りで語ることにはそもそもの困難がある。本来バラバラで統一された規則性などない他者との遭遇なのに、日本という共通の磁場を想定してしまうことによって日本人という『同』を生み出すことになってしまう。デュボイスがはまってしまったアジアや日本の同質性の罠こそ、その『同』の受け皿となる『文化』なのだ。日本人というカテゴリーが人種化された文化の保持者として倫理的なコミュニティとなるとき、その『なり方』がどんなに――デュボイスが日本と大東亜共栄圏に対してしたように――政治的に正しそうであっても、そこには排除の論理が働いてしまう。」

著者は「だから、文化には気をつけなくてはならない」と続ける。

ちょうど「日本植民地主義」について、領土と住民と主権の観点で整理した上で、もう一つ、別の視角として、日本におけるマイノリティー同士の出会いに焦点を当てて考え直していた。具体的には北海道におけるアイヌ民族と朝鮮人の出会い、琉球/沖縄における琉球人と朝鮮人の出会いについて考えていたので、小笠原の一文は思考の整理に役に立った。

Saturday, June 05, 2021

スガ疫病神首相語録42 鉄鎖か全世界か

ワクチン接種が先進国中最低最下位独走の日本だが、ここへきて調達量に余裕が出そうだとのことで、台湾及びベトナムに提供することになった。

6月4日、大々的な宣伝の下、台湾にワクチンを空輸したのに続き、6月5日、ベトナムにも提供する方針を発表した。対中国の政治的思惑を隠すこともなく、支援に前のめりになっている。

欧州の二の舞を避けるための諸外国への支援は評価されているが、日本国内で接種は進んでいないのに、と批判も上がっている。

 

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一個の怪物欧州を徘徊す、何ぞや、COVID-19の怪物是れ也、今や古欧州の権力者は、此怪物を退治せんが為めに、挙ってワクチン同盟に加盟せり、羅馬法皇も露国皇帝プーチンも、メルケルもマクロンも、佛国の急進党も独逸の探偵も。

 見よ、在野の政党にして、曾て在朝の政敵の為めに、ヴィルス的なりしとて毀傷せられざる者ある乎、又見よ、在野の政党にして、曾て他の急進的在野諸党派に対して、並に保守的政敵に対して、ヴィルスてふ罵を投返さゝる者ある乎。

 此事実は以て左の二事を知るに足る。

一、      COVID-19は、既に欧州の各権力者に依て、亦是れ一個の勢力として認識せらるゝに至れる事

二、      COVID-19が公然全世界の眼前に立つて、其型、目的、感染力を明白にし、党自ら発表せる所の宣言を以て、此ヴィルスの怪物に関するお伽噺と対陣すべきの機熟せる事。

此目的の為めに、国のCOVID-19は、倫敦に集会して左の宣言を草し、英、佛、独、伊、フランダー、和蘭の諸語を以て茲に之を公にす。

 

 ヴィルスは其型感染力を隠蔽するを陋とす、故に吾人は公々然茲に宣言す、曰く吾人の型は一に現時一切の社会組織を転覆するに依て之を達するを得べし、権力階級をしてヴィルス的革命の前に戦慄せしめよ、ヴィルスの失ふべきところは唯だ鉄鎖のみ、而して其得る所は全世界なり。

 萬国のCOVID-19団結せよ!

 

――堺枯川、幸徳秋水訳「共産党宣言」『平民新聞』53号(明治37年11月13日)より。同号は新聞紙条例違反とされ検挙・有罪。

(*ただし旧字を新字に変えるなど変更した)

Thursday, June 03, 2021

スガ疫病神首相語録41 普通はない/普通でない

6月2日、新型コロナ対策分科会の尾身会長は「五輪を今の状況でやるというのは、普通はない」として、踏み込んだ発言を繰り返した。

「今の状況で普通は(開催は)ないが、やるということなら、開催規模をできるだけ小さくし、管理体制をできるだけ強化するのが主催する人の義務だ」

「感染リスクを最小化することはオーガナイザー(開催者)の責任。人々の協力を得られるかが非常に重要な観点だ」

「なぜやるのかが明確になって初めて市民はそれならこの特別な状況を乗り越えよう、協力しようという気になる。国がはっきりとしたビジョンと理由を述べることが重要だ」

「オリンピックをやるのであれば、国や自治体、国民に任せるだけではなく、組織委員会も最大限の努力をするのは当然の責任だ」

 

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スガ――政府方針は以上の通りですが、オミ会長から補足をお願いします。

オミ――今の状況で普通は(開催は)ないが、やるということなら、開催規模をできるだけ小さくし、管理体制をできるだけ強化するのが主催する人の義務であります。

スガ――オミ会長が仰る通り、やるということでありまして、管理体制をできるだけ強化して開催いたします。

オミ――感染リスクを最小化することはオーガナイザー(開催者)の責任。人々の協力を得られるかが非常に重要な観点です。

スガ――オミ会長が仰る通り、多くの人の協力が得られると確信しております。

オミ――なぜやるのかが明確になって初めて市民はそれならこの特別な状況を乗り越えよう、協力しようという気になる。国がはっきりとしたビジョンと理由を述べることが重要であります。

スガ――オミ会長が仰る通り、まさに平和の祭典として五輪を実施します。スポーツの力を世界に発信していきます。もっともらしいビジョンを持って安全安心の五輪を開催します。

オミ――オリンピックをやるのであれば、国や自治体、国民に任せるだけではなく、組織委員会も最大限の努力をするのは当然の責任ですね。

スガ――オミ会長が仰る通り、オリンピックをやるので、自治体、国民に任せるだけではなく、組織委員会も最大限の努力をするものと承知しております。国はしっかりと見ていることにしますが責任はとりません。

オミ――政府に言ってもIOCに届かないので、どこに我々の見解を示せばよいのか分からない。

スガ――オミ会長が仰る通り、IOCに言っても開催は決定事項ですので、安全安心の五輪を実現することにいたします。

オミ――こういう状況ですので、しかるべき時期に分科会としての意見を提出したいと考えています。

スガ――オミ会長が仰る通り、政府としましては専門家の意見をお聞きして、聞くだけ聞いて、平和の祭典としての安全安心の五輪を開催いたします。

 

世界の国からこんにちはのメロディーで

 

こんにちは こんにちは 西のくにから

こんにちは こんにちは 東のくにから

こんにちは こんにちは 世界のコロナが

こんにちは こんにちは さくらの国で

二〇二一年の こんにちは

こんにちは こんにちは 握手をしよう

 

武漢型 イギリス型 月へ宇宙へ

インド型 ブラジル型 地球をとび出す

こんにちは こんにちは 世界の悪夢が

こんにちは こんにちは スガの丘で

二〇二一年の こんにちは

こんにちは こんにちは 握手をしよう

 

こんにちは こんにちは 泣顔あふれる

こんにちは こんにちは 心が潰れる

日本型 できたなら 世界を揺るがす

日本型 こんどこそ 世界の国へ

二〇二一年の こんにちは

こんにちは こんにちは 握手をしよう

こんにちは こんにちは 握手をしよう

 

世界の国からこんにちは - 三波春夫

https://www.youtube.com/watch?v=SgOteYLTS9o