Friday, August 28, 2020

ヘイト・クライム禁止法(179)ジンバブエ

ジンバブエがCERDに提出した報告書(CERD/C/ZMB/17-19. 4 June 2018

ジンバブエ報告書は「差別されない権利」を掲げる。憲法第11条は、人種、出身地、政治的意見、皮膚の色、種族、性別又は婚姻歴にかかわらず自由と権利を保障されるとする。

非国家行為者による事実上の人種差別について、移民・送還法第5条は、外国人や難民の権利や、排外主義の抑制を定める。

憲法第23条は差別について、人種、種族、性別、出身地、婚姻歴、政治的意見、皮膚の色等による異なる処遇により人の権利を制限したり、特権を与えることと定義する。

刑法第70条は、人種差別の煽動を犯罪とする。

「全体として又は主として、人種、種族、出身地又は皮膚の色ゆえに、人又は人の集団に憎悪、嘲笑、又は軽蔑を表明し、描き出す言葉や出版を行った者は、犯罪に責任があり、人詠歌の有罪責任を負う。」

組織による人種差別への参加、助長又は煽動もこの法律の規制の下にある。

報告書の機関に、人種差別の裁判所への提訴事例はない。前回二〇〇七年報告以来、一人のムスリムに対する人種差別事案が国内人権委員会に申し立てられた。現在調査中である。

同じ時期に、そのほかの事案として、労働社会安全省に申し立てられた事案としては企業における言語使用の差別に関する事件がサザンサン・ホテル事件、ムンダワンガ植物園事件、カンサンシ炭鉱事件など6件あり、企業による差別が認定された。

CERDがジンバブエに出した勧告(CERD/C/ZMB/CO/17-19. 3 June 2019

刑法におけるヘイト・スピーチの定義を条約第4条に完全に合致させ、条約第一条に記載されたすべての差別理由を含めること。人種差別を助長し扇動する組織を明確に禁止し、そうした組織への参加を犯罪とすること。刑法上のすべての犯罪について人種主義動機を刑罰加重事由とすること。すべてのヘイト・クライム/スピーチ事件を捜査、訴追し、実行者を処罰すること。

Monday, August 17, 2020

ヘイト・クライム禁止法(178)リトアニア

 

リトアニアがCERDに提出した報告書(CERD/C/LTU/9-10. 23 May 2018

憲法第29条は、彼又は彼女の性別、人種、国籍、言語、出身、社会的地位、宗教、信仰又は意見に基づいて、権利をいかなる方法でも制限し、特権を付与してはならないとする。2011~19年の非差別促進行動プランを作成した。

ヘイト・スピーチと憎悪煽動は刑法第170条2項、同条3項で犯罪とされている。刑法第170条2項は、年齢、性別、性的志向、障害、人種、国籍、言語、世系、社会的地位、宗教、信仰又は見解に基づき、人の集団又は集団に属する個人に対して、公然と嘲笑、侮辱、憎悪を助長、又は差別を煽動した者の刑事責任を定める。刑法第170条3項は、年齢、性別、性的志向、障害、人種、国籍、言語、世系、社会的地位、宗教、信仰又は見解に基づき、人の集団又は集団に属する個人に対して公然と暴力又は物理的な暴力的取り扱いを煽動した者、若しくはこれらの活動を財政支援その他の支援をした者の刑事責任を定める。刑法第170条の1は、年齢、性別、性的志向、障害、人種、国籍、言語、世系、社会的地位、宗教、信仰又は見解に基づき、当該集団を創設した者、又はそれを扇動し、若しくはその集団又は組織に参加した者、財政その他の支援をした者の刑事責任を定める。

検察庁情報システムには上記刑法規定に関する予審捜査に関する十分な統計データがない。2014年1月1日から2017年9月30日までの間、刑法第170条2項について194件の予審捜査、刑法第170条3項について94件の予審捜査、その両条項について35件の予審捜査が行われた。予審捜査は1件の中に複数の事案が含まれる。

刑法第170条2項、同条3項に基づいて行われた43件の予審捜査の結果、97事案が犯罪の要素がないため終結、2事案が証拠不十分で終結、23事案が被疑者保釈、76事案が継続中である。有罪判決を受けた人員は70名である。

憎悪煽動と闘う長期戦略として、FacebookGoogleYoutubeMicrosoft

Twitter等の企業と協議し、オンライン憎悪煽動と闘う行動綱領を作成し、憎悪煽動を報告し、当該書き込みを削除する効果的で迅速な制度づくりを進めている。

2017年5月23日、司法省はオンライン・メディア、Facebook及びGoogle、市民社会と協力して討論会を開催した。

2014年、ジャーナリスト倫理綱領事務局が、公的情報における憎悪表現と闘うため、NGOによる研修に積極的に参加した。2014年、リトアニア・ジャーナリスト連盟は、「ジャーナリストの倫理とメディア法」という研修を組織した。

刑法第169条は、国籍、人種、性別、出身、宗教、その他の手段への所属に基づく差別を犯罪とする。2009年6月16日の刑法改正により、外国人嫌悪、人種差別を刑罰加重事由とした。

裁判所の統計では、2014年1月1日から2017年第一四半期までの間、の終結事件は、刑法第169条が1件(14年)、1件(15年)、0件(16年)、0件(17年)、刑法170条が37件(14年)、22件(15年)、17件(16年)、5件(17年)、刑法第170条の1が0件(14~17年)である。このうち刑法第170条の5件が判決言渡しとなり、3件が有罪、1件が無罪、1件が刑事和解成立である。全事件のうち25件が国籍に基づく煽動事案である。

憲法は表現の自由、集会・結社の自由を保障している。しかし、国際自由権規約に従って、集会の自由は民主社会における必要に応じて制約しうる。集会法第5条は、公開集会における禁止事項を定める。憲法や法令に違反する行為の教唆や、ナチス・ドイツの旗、エンブレム、制服、その他のシンボルの使用、及びソ連社会主義の旗、エンブレム、制服、その他のシンボルの使用は禁止される。

CERDがリトアニアに出した勧告(CERD/C/LTU/CO/9-10.7 June 2019

ヘイト・スピーチ、憎悪煽動及びヘイト・クライムと闘うキャンペーンを強化し、マイノリティ、移住者に対する偏見と否定的感情に対処し、寛容と相互理解を促進すること。ジャーナリストの研修を強化し、ヘイト・スピーチやステレオタイプを回避するようにすること。ヘイト・クライム/スピーチを報告できるように、法律扶助や法的補償へのアクセスについて公衆の理解を深め、犯行者が適切に訴追、処罰されるよう確保すること。法執行官、検察官、裁判官に、ヘイト・クライム/スピーチの捜査と訴追、及び統計情報収集する能力を教化すること。政治家やインターネット等のヘイト・クライムや憎悪煽動事件の捜査に関する統計を収集すること。差別、ヘイト・クライム/スピーチ事件の動機ごとの統計を取ること。

Sunday, August 16, 2020

国際人権法への誘い

阿部浩己『国際法を物語るIII 人権の時代へ』(朝陽会)

http://www.choyokai.co.jp/publication/index.html

1 国際法における人権

2 国際人権規範の相貌

3 国際人権保障システムを概観する

4 国連人権保障システムの至宝~特別報告者

5 国内裁判を通じた国際法の実現

6 希望の砦~個人通報手続

7 死刑の現在

8 人権 NGO

9 極度の不平等、NIEO、テロリズム

10 徴用工問題の法的深層

シリーズの3冊目である。ⅠⅡは2018年、は本年6月の出版である。

https://maeda-akira.blogspot.com/2019/06/blog-post_6.html

「人権の時代へ」とあるように、『テキストブック国際人権法』『国際法の人権化』『国際人権を生きる』の著者であり、国際人権法学会理事長、日本平和学会会長などを歴任し、アジア国際法学会理事でもある著者による国際人権法の入門編である。

国際法が、国家間の外交・防衛等々の法だけでなく、人権を重要な柱にしてきた過程を示すとともに、国内法が国際法、国際人権法を踏まえて一定の変容を示してきた過程も示す。両方の意味で、国際人権法が発展し、それを通じて、各国の憲法体制における人権尊重も進展していく。その総体を120頁の小著で分かりやすく解説しているのは、さすがである。

私は国際人権法の研究者ではなかった。もともとの専攻は刑法であり、日本刑法の批判的検討、<権力犯罪と人権>をテーマとしていた。ところが、1988年の世界人権宣言40周年を契機に、仲間とともに「在日朝鮮人・人権セミナー」という小さなグループを立ち上げた。1990年代に日本軍性奴隷制問題に遭遇したのも、「人権セミナー」の活動を通じて、日本軍「慰安婦」問題について最初の国会質問を清水澄子さんにお願いに行ったのが最初であった。1991年6月、労働省職業安定局長の回答は「日本軍は関与していない」だったが、そこから火が付いた。1994年8月、朝鮮人差別と「慰安婦」問題を訴えるために国連人権小委員会に行ったのが、国際人権法との具体的な出会いであったと言えよう。正直言って、およそ無知だったが、久保田洋、戸塚悦朗、阿部浩己の論考を読んで勉強した。『テキストブック国際人権法』は当時、座右の書だった。

つまり、私の国際人権活動は著者の本を読んで始まったともいえる。何しろ、私は国際人権法の体系的学習をしたことがない。国際人権法学会に入ったこともない。この四半世紀、第1に、著者や申恵丰(青山学院大学教授)の著書に学んだ。第2に、国連人権委員会(現在は国連人権理事会)、国際自由権規約、拷問禁止委員会、人種差別撤廃委員会に参加して、現場で学んできた。第3に、私に国際人権法を教えてくれたのは、国連人権機関の特別報告者たちや、人権NGOのメンバーだった。日本の国際人権法学者とはほとんど交流もない。日本の多くの国際人権法学者に、国連人権理事会で会ったことがない。人種差別撤廃委員会で会ったことがない。以上は余談。

さて、本書である。

国際人権法の、とりわけこの半世紀の飛躍的な発展を踏まえて、本書は国際人権法の過去と現在を、コンパクト、かつわかりやすく解説する。「人権を基軸に据えて変容を続ける国際法の動態的な姿を描き出します」(はしがき)とあるように、国際法の発展の中に人権法を位置づける。

それゆえ、国際法における法の主体として、国家のみならず、国際機関の活動を概説すると同時に、個人や、NGOといった主体に焦点を当てる。国際人権規範が整備され、そこに創出された国際人権保障システムがどのような成果を上げてきたのか。どのような限界を有しているのか。国際法が国内裁判を通じてどのように実現されてきたのか。多様な主体と、多様な手続きに視線を送りながら、その全体像が見えるように工夫している。

国際人権法の教科書や入門書はいまでは珍しくないが、本書は、コンパクトでありながら、動態的把握を試みている。国際人権法の到達点を示しながら、その限界も指摘する。人権NGOの活躍を高く評価しながら、その硬直化にも用心の必要があることを指摘する。その意味では論争的でさえあると言うのが本書の特徴だ。

Saturday, August 15, 2020

ヘイト・クライム禁止法(177)ハンガリー

 

ハンガリーがCERDに提出した報告書(CERD/C/HUN/18-25. 12 November 2018

2012年に、1978年刑法第4章を改正し、ヘイト・クライム規制を厳格化し、2013年7月1日に発効した。いかなる社会的属性または人的属性に基づいて住民に集団に対して行われたヘイト・クライムの規制である。

刑法216条(コミュニティ構成員に対する暴力)

刑法332条(コミュニティに対する煽動)

刑法333条(ナチス及び共産主義政権が行った犯罪の公然否定)

刑法335条(全体主義のシンボルの使用)

このうち刑法216条と332条は、国民、民族、人種又は宗教集団を列挙するだけではなく、性的志向、ジェンダー・アイデンティティ又は障害のような保護された属性の保護を提供する。しかし、列挙は網羅的ではない。

刑法332条の改正の背景は、表現及び意見の自由に関するハンガリー基本法第4修正である。欧州評議会から、ハンガリー法が2008年欧州評議会枠組み決定を履行していないと指摘があったためである。基本法第9章は次のように改正された。

(4)表現及び意見の自由は、他者の人間の尊厳を侵害することを目的としえない。

(5)表現及び意見の自由の行使は、ハンガリー国民の尊厳、又はいかなる国民、民族、人種又は集団の尊厳を侵害することを目的としえない。これらの集団構成員は、自己の人間の尊厳を侵害する言説を裁判所に提訴する資格を認められる。

刑法216条のコミュニティ構成員に対する暴力については、人に対する現実的身体的攻撃以前の事案にも射程を及ぼす。現実的身体的攻撃については刑法216条2項が暴行脅迫を罰するとしている。

コミュニティ構成員に対する暴力の実行は、銃器・武器の使用、実体的法益侵害、重大な苦痛、集団的行為、犯罪共謀の場合は、刑罰が加重される。

刑法333条(ナチス及び共産主義政権が行った犯罪の公然否定)は新しい実行行為の定義を取り入れたので、ナチス及び共産主義政権が行ったジェノサイド又は人道に対する罪を正当化しようとすることも処罰対象である。この改正理由もハンガリー基本法第4修正、及び2013年の憲法裁判所決定である。憲法裁判所によると、全体主義体制の被害者及び家族の人間の尊厳を保護するので、処罰規定は合憲である。憲法裁判所は、基本法第4修正が表現及び意見の自由の濫用を禁止することに留意した。憲法裁判所は、ナチス及び共産主義政権が行った犯罪を否定することは、表現及び意見の自由の濫用であるとする。

刑法332条(コミュニティに対する煽動)、刑法333条(ナチス及び共産主義政権が行った犯罪の公然否定)、刑法335条(全体主義のシンボルの使用)は、いずれも犯行が公衆の前で行われたことを必要とする。刑法は公衆の前でという要件に付き定義をしていない。考慮すべき事項として、比較的多数の人々の現在すること、犯行時に公衆がいなかったが、公衆が現在する現実的可能性があったことが示されている。人々が現実にその言説を認知したことは要件とされていない。

人種主義行動への支援について、コミュニティ構成員に対する暴力犯罪の準備行為や財政支援は、処罰されうる。教唆・幇助も可罰的である。

「公共の安全に対する不法組織」犯罪が規定されている。刑法351条は結社の権利の濫用について、指導者としての参加、公共の平穏を侵害する方法での参加を可罰的とする。当該組織は裁判所命令により解散できる。

公の当局や公務員による人種差別扇動について、刑法は特別の処罰規定を用意していないが、2012年議会法改正により、議員が、国民、民族、人種又は宗教コミュニティの人々の個人または集団を甚だしく攻撃する言説を規制している。

ハンガリー政府は表現及び意見の自由を促進し、ヘイト・スピーチを根絶する政策枠組みを採用している。ハンガリーの立法者も行政も、反ユダヤ主義、反ロマ、その他の偏見と人種主義の諸形態に反対し、制裁を科す。

人種主義又は偏見同期に基づく犯罪は刑罰加重事由となる。犯行者が当該刑罰規定に明示された人種主義同期を持たない場合であっても、刑法上の刑罰加重事由に該当すれば刑罰が加重される。人種動機や偏見同期は合理的な疑いを超えて証明される必要がある。

最高裁判所は、判決言い渡しに際しておおむね次の姿勢を表明してきた。ナチス及び共産主義政権が行った犯罪の公然否定犯罪について、保護観察付又は罰金。コミュニティ構成員に対する暴力犯罪について、罰金または社会奉仕命令。これらの犯罪型の犯罪と結びついている場合に、刑事施設収容であるが、執行猶予が付くこともある。

CERDがハンガリーに出した勧告(CERD/C/HUN/CO/18-25. 6 June 2019

人種主義ヘイト・クライムと効果的に闘うため、ヘイト・クライム予防の迅速な措置を講じ、被害を受けやすい集団を保護すること。そのための法適用に関する詳細な情報、特に告発、捜査、有罪判決、制裁に関する情報を提供すること。警察官、検察官、弁護士、裁判所にヘイト・クライム対処のための研修を行うこと。ヘイト・クライムを記録、捜査、訴追し、適切な刑罰を科すこと。

一般的勧告35号を想起し、人種主義ヘイト・スピーチ及び暴力の扇動を止めるため迅速な措置を取り、メディアやインターネットにおける政治家などのヘイト・スピーチを非難し、被害を受けやすい集団を保護すること。人種主義ヘイト・スピーチを予防し、関連法規を強化すること。人種主義ヘイト・スピーチを確認、記録、捜査、訴追し、政治家やメディア関係者など責任者に制裁を科し、次回報告書において詳細な情報を提供すること。

条約第4条に従って、人種憎悪を助長し扇動する組織を違法であり禁止されたものと宣言しすること。当該禁止法を完全に履行すること。

Friday, August 14, 2020

ジャーナリズムが崩壊した理由

 望月衣塑子・佐高信『なぜ日本のジャーナリズムは崩壊したのか』(講談社+α新書)

「ジャーナリズムの危機」は何十年と語られてきた。ジャーナリズムはつねに危機を抱え、改善することなく、腐敗と腐朽の途を歩んできた。御用ジャーナリズム論者は別として、誰もがジャーナリズムの危機を唱え、是正策、改善策を提示してきた。しかし、ジャーナリズムの再生が語られたことはない。転落の一途であり、自壊の一途であった。

『新聞記者』の望月と、辛口評論家の佐高は、「ジャーナリズムの危機」ではなく「崩壊したジャーナリズム」を語る。なぜ崩壊したのか。

大石泰彦編著『ジャーナリズムなき国の、ジャーナリズム論』(彩流社)は、ジャーナリズム研究者による精緻なジャーナリズム批判だが、そこでは「日本のジャーナリズムの危機」を語ることは誤りであり、もともとジャーナリズムではないのだから、その変質を語ることもできない、と喝破していた。私は本書を『マスコミ市民』で紹介した。

同様に、望月と佐高は、もともと日本のジャーナリズムには多大の限界があったが、それでもいちおうジャーナリズムではあった。それがなぜ崩壊したのか、と問う。

安倍や菅を批判してきた望月と、歴代政権批判・メディア批判を徹底してきた佐高であるから、矛先は何よりも安倍と菅に向けられ、続いて御用マスコミに向けられる。

「アベノマスク狂想曲」「安倍政権こそ緊急事態」「命の選別、国民蔑視」に始まり、「人間を休業するという残酷さ」「ヘイト国家の先にある闇」、そして「記者が権力の番犬になってしまった」。

次々と紹介されるエピソードは、2人の著者の本を何冊か読んだ読者には既知のことだが、2人のやり取りの中で提示されているので、単なる繰り返しではなく、あらためて、なるほど、と受け止めることができる。「権力の番犬」と化した記者クラブの腐敗ぶりは想像を絶する。

本書はジャーナリズムの死亡宣告だが、実は2人はジャーナリズムを諦めていない。

「文化は権力と対峙して磨かれる」「パージされても新たな出会いがある」「変えようとしなければジャーナリズムじゃない」。

固有名詞では、松坂桃李、岸井成格、前川喜平、佐橋滋、赤木雅子、吉田ルイ子が。そして、望月は最後に「ジャーナリズムの危機と光明と」と語る。ただ、解決策はほとんどない。ジャーナリストの自覚の必要性が唱えられるにとどまる。自覚して闘ってきた望月が言うから説得力があるように見えるが、記者クラブの記者たちが同じように自覚して闘うとは思えない。この点では、何十年と同じ事が指摘されてきたが、改善したためしがない。

ヘイト・スピーチ法研究文献(152)

 

前田朗「ヘイト・スピーチと地方自治体――共犯にならないために」『解放新聞東京版』986号(2020年)

前田朗「人種差別撤廃条約第四条の解釈(一)」『人権と生活』50号(2020年)

前田朗「多民族国家ニッポンの病像(一)~(三)」『部落解放』789・790号(2020年)

前田朗「複合差別との闘いの記録」『部落解放』791号(2020年)

前田朗「マイノリティの教育と言語」『部落解放』792号(2020年)

前田朗「メビウスの輪から抜け出すために」『友和』724号(2020年)

前田朗「時空を歪める政治力学――日本軍「慰安婦」問題の混迷を読む」『日本と朝鮮』922号(2020年)

前田朗「時代と格闘する精神 鵜飼哲という万華鏡」『救援』615号(2020年)

前田朗「『法と記憶』をめぐる国際研究の紹介(1)」『INTERJURIST』202号(2020年)

Wednesday, August 12, 2020

ヘイト・クライム禁止法(176)グアテマラ

 

グアテマラがCERDに提出した報告書(CERD/C/GTM/16-17. 6 February 2018

国家警察アカデミーは職能訓練課程に文化的多様性、人種差別と闘い、ジェンダー視点を導入し、警察職員に先住民族の権利に関する法律適用を促進している。2013~16年に13803人に訓練を行った。移住担当局は職員に人身売買被害者、保護者のいない子ども、LGBT、先住民族に属するマイノリティに焦点を当てた人権教育を行いている。公衆衛生社会保険省及び文化スポーツ省もそれぞれ多文化主義や先住民族の言語に関連して訓練を施している。

検察庁は、先住民族に関する業務を体系化し研究するために先住民族部門を設置し、70人の通訳者に文化や言語に関する訓練を行い、女性と男性の平等のための戦略計画を採択した。

2002年に刑法改正を行い、民族や人種を含む諸要因に基づく差別を犯罪化した。直接差別と間接差別に関する定義規定はない。

検察庁は、2014年に差別関連犯罪の告発受理に関する一般指令を発した。2014年の検察協定によって差別犯罪班を設置した。2015年、検察庁と先住民族に対する差別と人種主義に関する大統領委員会の間で、差別犯罪の取り扱いについて協議した。

CERDがグアテマラに出した勧告(CERD/C/GTM/CO/16-17. 27May 2019

先住民族とアフリカ系住民が公務員による差別発言や差別行為の対象とされているとの報告がある。条約第4条の下での義務を完全に履行するため、人種差別の煽動と、人種動機の暴力行為を犯罪として定義し、その重大性に見合った刑罰を持って制裁を科すこと。メディアにおける人種差別の煽動及び人種主義現象を予防し闘うためっ効果的な措置を講じること。犯行者の地位にかかわらず、捜査し処罰すること。多様性の尊重と人種差別の撤廃に関する啓発キャンペーンを行うこと。

Wednesday, August 05, 2020

ヘイト・クライム禁止法(175)アンドラ

アンドラがCERDに提出した報告書(CERD/C/AND/1-6. 30 May 2018

アンドラの初の報告書である。

差別行為は、刑法第5章に規定されている。2005年刑法338条は、2014年に改正され、処罰範囲を拡張した。338条1項は、以下の違法な差別行為について3月以上3年以下の刑事施設収容とする。人又は人の集団に対する暴力、憎悪又は差別の扇動。人又は人の集団を標的とした公然の虐待、中傷又は脅迫。いかなる手段であれ、人の集団の融雪性の主張、侮辱、中傷するイデオロギー又は思想の公然表明。そうした表現を含んだ物の流布又は配布、同様の行為の表明。

差別イデオロギーの公然表明が処罰されるのは、一般公衆に対してなされた場合のみならず、私的集会やインターネット・フォーラムで行われた場合も含まれる。

338条に掲げられた行為について、そうした表現を含んだ物を所有又は製作するなどの準備行為も可罰的である。

集団侮辱に関する339条は、故意にかつ公然と、宗教、も区民、民族又は政治集団、労働組合の構成員に対して行われた集団侮辱を犯罪とする。

2014年刑法改正により、359条と360条は、差別目的のために形成された結社を違法と宣言し、その結社に財政その他の援助をした者にも刑事責任があるとした。

刑法338条2項は、公的職務において上記の差別行為を行った公の当局者は、刑罰が4年以下の公職停止である。

刑法338条4項は、公的職務において差別目的をもって、公共サービスの提供を拒否した者に1年以下の刑事施設収容及び3年以下の公職停止とする。

刑法30条6項は、刑法上のすべての犯罪について、差別的動機のあった場合に刑罰加重事由とする。差別的動機は、人の出生、出身、国民、民族、皮膚の色、性別、哲学又は政治的意見、労働組合に関する意見、心身の能力、生活方法、慣習、言語、年齢、性的アイデンティティ又は性的志向である。この定義は人種に言及していないが、人の出身、国民、民族、皮膚の色に人種が含まれる。

CERDがアンドラに出した勧告(CERD/C/AND/CO/1-6. 22 May 2109

2000年の放送法が平等と非差別原則を明示していることに留意する。ジャーナリストに人種主義と人種差別に関する研修がなされている。しかし、メディアにおける人種差別発言に関する申し立てを受け付ける独立機関がない。一般的勧告第35号に照らして、すべてのメディアに対する申し立てを受理し検討し、人種的動機によるヘイト・スピーチや、人種差別や暴力を扇動するメディアを監視する独立機関を設置すること。


ヘイト・クライム禁止法(174)韓国

韓国がCERDに提出した報告書(CERD/C/KOR/17-19. 17 November 2017

前回審査の結果、CERDは韓国に包括的な人種差別禁止法を制定して、条約第4条に沿って人種差別を禁止するよう勧告した。2007年に差別禁止法が国会に提出されたが、成立しなかった。法務省は2013年に差別禁止法制定委員会を設置し、検討中である。

CERDは条約第2条と第4条が義務的であると強調し、人種差別を犯罪とし、刑罰加重事由とし、被害者救済をするように勧告した。韓国には人種差別に基づく犯罪を処罰する包括的立法はないが、現行の個別法規によって処罰可能である。最近、外国人に対するヘイト・クライムに関心が集まっているが、排外主義的ヘイト・クライムは現行の個別法規によって処罰できる。

CERDは次回報告書で人種差別事件についての統計情報を報告するよう勧告した。現在、韓国の犯罪統計は訴追された犯罪ごとに分類している。被害者が外国人の犯罪すべてが人種差別動機によるものではない。人種的動機による犯罪に関する格別の統計を保有していない。

CERDが韓国に出した勧告(CERD/C/KOR/CO/17-19. 10 January 2019

ヘイト・スピーチとしっかり闘う措置を講じ、次のような戦略を策定すること。移住者や難民、特にムスリム難民についての偏見や誤解に対処する。難民の権利について人々に注意を喚起する。難民と地域住民の間の理解と寛容を促進する。メディア、インターネット、ソーシャルネットワークを監視し、人種的優越性に基づく思想を流布し、外国人に対する人種憎悪を煽動する個人や集団を特定し、これらの行為を訴追し、有罪の場合には適切な刑罰を科すこと。放送擁護のためのガイドラインを効果的に履行すること。公文書で「不法移民」という用語を用いるのをやめること。