Sunday, October 25, 2020

ヘイト・クライム禁止法(185)ポーランド

 ポーランド政府がCERDに提出した報告書(CERD/C/POL/22-24. 22 August 2018

今回の報告書は、スポーツにおけるレイシズム、インターネット上のヘイト・スピーチ、ヘイト助長団体の3つを報告している。

スポーツにおけるレイシズムでは、二〇一二~一七年、大半のスポーツ領域では事件が起きていないが、サッカーの試合で起きている。ポーランド・サッカー協会の報告によると、協会は規律規則を作成し、攻撃的横断幕の展示を禁止している。違反事件には最低五〇〇〇PLN(約一一八〇ユーロ)の罰金としている。六年間に四四件の事案が報告された。

検察庁が担当した事案はごく少なく、減少している。しかし、協会はレイシズム事件予防に取り組んでいる。五二のクラブチームのためにレイシズム予防の訓練のできる講師を要請している。攻撃的スローガンの旗や横断幕の監視をしている。サポーターに反差別メッセージ付きのTシャツを提供している。ソーシャルメディアやウエブサイトでも反差別をアピールしている。

検事総長はインターネット上のヘイト・スピーチと闘うための活動を続けている。二〇一二年一〇月二九日、検事総長は私訴事件への検察官関与のためのガイドラインを出した。差別のための誹謗中傷犯罪であって、検察官専権ではなく私訴による刑事事件への検察官関与に言及している。これらの犯罪への検察官関与が正当化されるのは、電話やインターネットによる犯罪の場合、被害者が実行犯の特定が困難だからである。

 二〇一四年一〇月二七日、検事総長はインターネットによるヘイト・クライムについてのガイドラインを出した。これには証拠確保、記録、他の政府機関やNGOとの協力、非刑罰的措置も含まれる。

 二〇一六年一二月一日、警察庁サイバー犯罪と闘う部局が設置された。通常業務として、ソーシャルメディア、ウエブフォーラム、ウエブサイトの関連内容の監視を行う。刑法違反のヘイト・スピーチ犯罪を発見した場合、インターネット・ユーザーの個人情報特定を行う。個人情報は警察の担当部局に送付される。認知局には二四時間運用サービス課が設置されている。

 二〇一七年八月三一日、警察庁サイバー犯罪と闘う部局に、サーバースペースにおけるヘイト・クライムと闘う調整官が置かれた。同年九月二八日、首都警察のサイバー犯罪と闘うユニットも置かれた。

刑法第一一九条や一九〇条など人種憎悪助長犯罪の書き込みのあるウエブサイトを特定した場合、ドメイン所有者の特定がなされる。当該情報は訴追判断や更なる手続きのための決定判断に利用される。訴追に当たっての困難の一つは当該サーバーや書き込みが外国領で行われていることである。当該国家との協力が要請される。

条約第四条(c)に関する人種差別を助長・煽動する政党・組織について、憲法第一三条では、全体主義やナチス、ファシズム、共産主義モデルに基づく政党や組織、人種又は国民憎悪を行う政党や組織は禁止される。政党法は、政党活動に関する合憲性の評価の権限をワルシャワ地裁に与えている。結社法によると、裁判所や検察庁に、一定の重大な法律違反を行う結社の解散権限がある。

 二〇一六年、ヘイト・クライムの訴追が増えている。二〇一二~一五年には一五・四%~一八・六%だったが、一六年には二〇%である。犯罪の訴追実務がより実効的になっている。

 二〇〇九年以来、ヘイト・クライム訴追関係者への研修が行われている。裁判官や検察官の研修は、国立司法・検察研修所が担当している。二〇一二年六月一三日、検察庁は「ヘイト・クライム被害者」という会議を開催し、「犯罪被害者のための検察官」を出版した。

 二〇一四年六月、政府平等処遇庁は「ヘイト・スピーチに反対――グローバルに考え、ローカルに行動する」会議を組織し、平等処遇スタンダード・プロジェクトを進めている。

CERDがポーランドに出した勧告(CERD/C/POL/CO/22-24 . 24September 2019

一般的勧告第一五号と第三五号を想起し、刑法におけるヘイト・スピーチの定義を条約第四条に合致させ、条約第一条及び欧州評議会大臣委員会勧告に従うこと。インターネット上のヘイト・スピーチや暴力煽動としっかり闘うため必要な措置を講じ、政治家など公人による人種主義ヘイト・スピーチを非難すること。国民的マイノリティ、移住者、難民、難民認定申請者に対するヘイト・スピーチ、ヘイト・クライムと闘う公衆キャンペーンを強化すること。ジャーナリストや放送関係者に、ヘイト・スピーチやステレオタイプを避ける責任があるという強いメッセージを送ること。刑法第五三条二項を改正して、人種主義的動機を刑罰加重事由とすること。

 国民運動、国民ラディカル・キャンプ、全ポーランド青年運動、ファランガ、国民社会会議、自律的国民主義者、血と名誉などの団体のような、人種差別を助長・煽動する政党や組織を違法と宣言する法を執行すること。刑法を改正して、これらの団体への参加を犯罪とすること。

 ヘイト・スピーチとヘイト・クライムについて、被害者が国家の司法制度に有している不信を解消すること。事件の報告を確保し、法律扶助、法的救済についての公衆の意識を啓発し、事件を記録、捜査、訴追し、適切な刑罰を科すこと。憎悪動機犯罪について年次評価を実施すること。マイノリティに属する者を警察、司法、検察に採用し、適切な研修を行うこと。ヘイト・スピーチとヘイト・クライムの捜査、訴追、判決についての情報を提供すること。