Friday, February 03, 2023

女性に対するサイバー暴力と闘う01

インターネット上における女性に対する名誉毀損や脅迫をはじめとする非難・攻撃は、国際人権法の領域ではサイバー暴力、オンライン暴力と呼ばれてきた。日本では「表現の自由」の問題と誤解されているが、国際的には時に人が死ぬ暴力問題として理解されている。

国連人権理事会の女性に対する暴力特別報告者等は、女性に対するオンライン暴力や、フェミサイドに関する報告書を公表してきたので、これまでそれらを紹介してきた。例えば

フェミサイド研究の現状01

https://maeda-akira.blogspot.com/2022/03/blog-post.html

女性ジャーナリスト・政治家に対する暴力01

https://maeda-akira.blogspot.com/2022/05/blog-post_49.html

フェミサイド測定のための統計枠組み01

https://maeda-akira.blogspot.com/2022/06/blog-post.html

オンライン暴力と女性ジャーナリスト01

https://maeda-akira.blogspot.com/2022/12/blog-post_12.html

ジェンダー迫害の罪01

https://maeda-akira.blogspot.com/2023/01/blog-post_8.html

欧州ジェンダー平等研究所(EIGE)は、202122年に実施した調査・研究をまとめて報告書『女性と少女に対するサイバー暴力と闘う』を公表した。

European Institute for Gender Equality, Combating Cyber Violence against Women and Girls, 2022.

調査・研究・執筆はElenora Esposito, Cristina Fabre Rosell, Adine Samadi, Andrea Baldessari

調査チームはMalin Carlberg, Virginia Dalla Pozza, Michaela Brady, Clara Burillo, James Eager

EU加盟27カ国の実態調査が中核である。本文が60頁、付録の資料を含めると106頁の報告書である。27カ国の実態調査を踏まえて、法と政策の現状を総括し、サイバー暴力の共通の定義を模索することを課題としている。

以下、ごくごく簡潔に紹介する。

<目次>

要約

1.        序文

2.        女性と少女に対するサイバー暴力を概念化し、定義する

3.        EU、国際及び国内レベルでの、女性と少女に対するサイバー暴力に関する法・政策枠組みの概観

4.        女性と少女に対するサイバー暴力の共通定義に向けて

5.        結論

6.        政策勧告

付録

「要約」

冒頭の「要約」で、新型コロナの影響によって、インターネットアクセスが「新しい基本的人権」となっていることに触れている。デジタル・プラットフォームは、公の自己表現のために平等の機会を提供している。だが、誰もがサイバー空間に歓迎されるわけではないという。匿名で不処罰のまま、排除や暴力の言説がなされている。サーバー暴力の被害は女性も男性も受けるが、女性が被害を受ける比率が高い。サイバー暴力のみならず、身体的性的心理的経済的被害を受ける。それによりデジタル空間から撤退せざるを得なくなる。沈黙と孤立を余儀なくされ、教育機会や仕事を失う。

オンラインとオフラインが統合されてきたため、サイバー暴力が身体世界における暴力と被害につながる。これは私的問題ではなく、社会的不平等問題である。暴力の交差的形態であり、パターンもレベルも多様である。ジェンダー要因が年齢、民族的人種的出身、性的指向、ジェンダー・アイデンティティ、障害、宗教と結びつく。

本報告書の目的はサイバー暴力現象を深く分析調査し、女性と少女への影響を測定することである。20217月から222月にEU27カ国の調査を実施した。まず文献調査、研究文献調査を行い、従来の定義、法、政策を明らかにした。さらに諸大臣、統計機関、市民社会の専門家の協力を得て、EUや国際レベルの情報を収集した。

これまで広く受け入れられているのは

(1)サイバー・ストーキング、

(2)サイバー・ハラスメント、

(3)サイバー嫌がらせ(いじめ)、

(4)ジェンダーに基づくオンライン・ヘイト・スピーチ、

(5)同意のない親密映像の濫用、である。

EUレベルでは調整・統合の試みはあるものの、定義や法的手段は統一されていない。新たな定義と法の提案が求められる。

国際レベルでは、欧州評議会と国連がサイバー暴力に対処してきた。欧州評議会の条約や、2021年の女性に対する暴力専門家集団の勧告第1号がデジタル局面に焦点を当てている。

各国レベルでは、ハラスメントやストーキングのような犯罪が、デジタル領域に拡大され、サイバー・ハラスメントやサイバー・ストーキングになりつつある。

法的定義や統計のための定義が統一されていない。選択的な情報しかないため、対策を検討するのに困難がある。情報の欠如は深刻である。

欧州ジェンダー平等研究所(EIGE)は統計目的の定義の統合を提唱した。もっともよく認められる上記の5つの形態についての提案である。

上記の5つの定義に共通の要素は、

(1)ジェンダーに基づいて行われた、

(2)ICTの利用を含む、

(3)オンラインで始まり、オフラインに続く、

(4)被害者の知る人物又は知らない人物によって行われる。

本報告書は、女性に対するサイバー暴力に対処するための包括的な枠組みを優先事項として勧告する。予防と対処に必要な措置を導入する必要がある。そのために緊急に必要なのが定義を統一することである。ジェンダー局面と交差局面を含む、そしてオンラインとオフラインを視野に入れた、つまりデジタル世界と身体世界を繋ぐ定義である。統計情報収集と犯罪統計のジェンダー局面が重要である。