Saturday, November 22, 2025

深沢潮を読む(8)越えられない海峡をいかに越えるか

深沢潮を読む(8)越えられない海峡をいかに越えるか

深沢潮『海を抱いて月に眠る』(文藝春秋、2018年)

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167916756

この夏、「日本人ファースト」が話題になった。思想の頽廃そのものだ。ひどい差別扇動なので、何度か批判する講演をやった。昨日も信濃町教会で開催された日本友和会の講演会で「日本人ファースト」批判をしてきた。そのもとになる文章を2つ書いた。

前田朗「『日本人ファースト』を知るためのこの三冊!」(『本のひろば』202510月号、キリスト教文書センター)

前田朗「いつも『日本人ファースト』だった」『人権と生活』60号、在日本朝鮮人人権協会、2025年)

近現代日本の150年は、いつも日本人ファーストで、周辺諸民族・国家に対して侵略と差別を続けてきた。第二次大戦敗北後、植民地を喪失しても、その反省がなく、「天皇制と国民主義」の日本国憲法に基づいて民族差別を繰り返してきた。その反省がまったくないので、いまになってさらに「日本人ファースト」などと叫ぶ。異様に根強い差別と排外主義だ。

『海を抱いて月に眠る』は深沢潮の第8作で、「前期」の代表作だ。深沢文学の最初のピークであり、ここまでが「前期」だろう。この後、深沢文学は多様な翼を広げていく。

あるウエッブ書評欄で次のような記述を見つけた。

KikuchiKohei

「すさまじい小説である。終戦直後から現代までの在日韓国人とその家族の生涯を、大河ドラマのようなスケールで描いている。これほどの技巧と構成力を備えた作品が、何の文学賞も受賞していないのは、日本の表彰システムの欠陥と言ってよい。物語の完成度、登場人物の造形、時代背景の描き込み、そのすべてが優れている。 本作は在日韓国人の物語であると同時に、日本の物語でもある。日本の植民地支配と戦争は、朝鮮半島とそこに生きる人々に不可逆の影響を与えた。その罪深さと、それに翻弄されながらも前向きに生きる人々の力強さが描かれている。」

Satoshi

「在日一世の父親の壮絶な一代記。大日本帝国から解放されたのに、政権が安定せず、偽名を用いて日本に亡命せざる得なかった。在日朝鮮人への差別と闘いながら、分断される祖国の民主化運動を日本から支えつつ、子供を育てる。祖国が分断するということは在日朝鮮人同士も敵対することを意味する。そこにはアイデンティティというありがちな言葉だけでは表現できない人生がある。在日朝鮮人や朝鮮学校にヘイトスピーチを繰り返す人達にぜひ読んで欲しい。本書を読んで考えを変えないなら重症だ。」

これまで連作短編形式を得意としてきた深沢だが、本書では、亡命して偽名で生きた父親の手記と、父親の死亡後にその手記を読む娘の、それぞれの想いを交錯させながら、植民地支配、戦後の分断(朝鮮、韓国、在日)、その状況を生き抜いた人々の歴史を現在を巧みに描いている。

巻末には参考文献が多数列挙されている。尹建次、池明観、金大中、金時鐘、文京洙といった名前が並ぶ。なるほど、私たちが学んできた現代史と思想である。

Wednesday, November 12, 2025

青梅九条の会講演会

<青梅九条の会講演会>

敗戦80年に考える

植民地主義と排外主義の現在

講師:前田 朗(東京造形大学名誉教授)

開催日時:12月7日(日)14時~16時 13:30分開場

開催場所:青梅市福祉センター集会室1から3(定員90名)

資料代:300円

(高校生以下無料)

問合せ:青梅九条の会

電話 0428-31-1302・中村

Monday, November 10, 2025

深沢潮を読む(7)貧困女子はどこから来たか

深沢潮を読む(7)貧困女子はどこから来たか

深沢潮『あいまい生活』(徳間書店、2017年)

 

朝日新聞(116日)に「根下ろす排外主義、言葉であらがう 新潮コラム抗議 小説家の深沢潮さん語る」が掲載された。

祖父が関東大震災時に自警団に殺されかけた過去に言及しつつ、現在の外国人排斥について語っている。

「『朝鮮人虐殺』という単語が独り歩きしているけれど、一人ひとりの生活や日常がどういうもので、それがどう破壊されて踏みにじられたのかを伝えなければ、抽象的な頭の中だけの理解になってしまいます。」

「排外主義的な言説がSNSでどんどん広がり、外国人排斥を訴える政党が支持され、選挙でもカジュアルにヘイトスピーチが言われるようになりました。言われる側、外国人当事者としては本当に恐怖でしかないと思います。でも結局、日本人にとっては自分事ではないんです。/関東大震災のときでも、虐殺はおかしいと思った人はいました。今、責任のある立場の人や声の大きい人が、差別をあおって止めないことの罪はすごく重いと思います。」

「尊厳を傷つけられると人間は本当にこたえます。相手が正面から答えてくれないと、海に向かって石を投げているような感覚になりました。」

「世の中は自分と同じ人には共感しても、立場の違う人に対しては想像力を失ってきていると思います。同質性のない人はないがしろにしていいという空気が広がっています。だからこそ『これはおかしいですよ』とちゃんと言っていかなければいけない。向き合う先は『海』だけど、自分に引き寄せて想像してもらえるように言葉を届けるしかないと考えています。」

『あいまい生活』は深沢潮の第7作だ。これまでと同様に、連作短編でありつつ、長編となっている。

貧困女子という言葉が流行語になった時期があった。2010年代から用いられていると言う。一般に、最低限の生活を営むことすら困難な女性が貧困女子とされ、例えば、年収が114万円未満や月の手取りが10万円未満ならば貧困女子とされているようだ。本書巻末には参考文献が列挙され、『失職女子。』『女性たちの貧困』『最貧困女子』『最貧困シングルマザー』などの著書が掲げられている。

アメリカ留学に適合できずニューヨークから帰国した樹(いつき)は、ティラミスハウスというシェアハウスの住人となる。劇団員の風香、50社の面接が不首尾だったさくら、中国人実習生として働き雇用主のセクハラに耐えているウェイ、家事手伝いをしているが仕事を切られそうになっている好美、そしてシェアハウス担当職員の雛。

いずれも文字通りの貧困女子である。貧困の原因も生活歴も志向も嗜好も異なるが、同じシェアハウスで明日を探す。だが、現実はさらに厳しい。シェアハウス経営主が違法行為をしていたため、立件され、住家も失われる。

深沢はそれぞれの貧困女子の生活と意識を巧みに描き出し、貧困女子は単純にレッテルを張って済む問題ではないことを示す。それぞれの人生があり、それぞれの貧困がある。だが、同時に、貧困を強制するこの社会という共通の背景がある。

貧困女子という言葉は見事に時代を体現しているようでいて、実はそうではない。2010年代に貧困女子が登場した訳ではない。非正規労働が増えてはじめて貧困女子が登場したのでもない。高度経済成長時代にも貧困女子は強制的に生み出されていた。戦前も同じだ。近現代日本史を見れば、つねに貧困女子がつくりだされていた。それが社会問題にすらならなかったのが現実だ。ようやく社会問題になったが、その時、非正規労働問題は女子だけでなく男子の問題でもあった。つまり、女性差別問題は隠蔽され、男女共通の非正規雇用問題が論じられる。

深沢の想像力は、一人ひとりの女性が直面している問題の個別性と共通性を描き出すことで、具体的な問題解決を求める作品となっている。

Tuesday, November 04, 2025

清末愛砂さん講演「憲法24条と平和の道しるべ」

清末愛砂さん講演「憲法24条と平和の道しるべ」

 

★ 11月28日(金) 18:30~20:30(開場18:00

★ 北とぴあ 701会議室

JR王子駅北口徒歩2分、地下鉄南北線王子駅5番出口直結)    

参加費:500

憲法24条と憲法9条。

私たちの憲法には2つの「個人の尊厳と平和な社会の実現を目指す」条文があります。前文の平和的生存権と併せて、日本国憲法の平和主義は多元的で多彩な意味内容を持っています。政治の現実は憲法理念を矮小化していますが、憲法理念を発展的に解釈し、実現することが求められます。

今回、憲法学者の清末愛砂さんをお招きし、改めて私たちの社会を見つめ直したいと思います。

アフガニスタンでの女性差別問題についても語って頂きます。

貴重な機会ですので、ぜひご参加ください。

 

●清末愛砂さん

室蘭工業大学大学院教授(憲法学)、青年法律家協会前議長、RAWAと連帯する会共同代表。

著書に『ペンとミシンとヴァイオリン:アフガン難民の抵抗と民主化への道』、『パレスチナ:非暴力で占領に立ち向かう』『北海道で考える〈平和〉―歴史的視点から現代と未来を探る』(共編)『平和に生きる権利は国境を超える』(共著)など多数。

<最近の関連論文>

清末愛砂「憲法のない国から見た日本――立憲主義を考える」前田編『憲法を取り戻す 私たちの立憲主義再入門』(三一書房、2025年)

清末愛砂「平和的生存権と国際協調主義に基づく国際連帯活動」憲法ネット103編『混迷する憲法政治を超えて』(有信堂、2025年)

 

<共催> 平和力フォーラム/RAWAと連帯する会/室蘭工業大学大学院清末愛砂研究室

(連絡先)akira.maeda@jcom.zaq.ne.jp 070-2307-1071(前田)