Sunday, March 14, 2010

グランサコネ通信2010-12

1)人種差別撤廃委員会勧告要旨

12日に、CERD勧告要旨が公表されました(下に貼り付けます)。人種差別禁止法の制定をはじめとして、NGOネットワークがロビー活動で訴えた多くの項目、そして2001年に出た勧告とも共通する数々の勧告が出るようです。要旨だけでははっきりしない点もありますが、新しい点で特徴的なのは、第1に、高校無償化に関連する項目です。外国人学校への公的支援について言及しています。一般的な表現になるのか、2月の審議を踏まえてより詳しい表現になるのかはまだわかりません。第2に、朝鮮学校の子どもなどに対する人種主義的表現による攻撃のことが取り上げられています。従来のいわゆる「チマ・チョゴリ事件」の時とは表現が違いますので、これは「在特会」による朝鮮人襲撃を念頭に置いたものでしょう。2月24日のNGOブリーフィングで、在特会の蛮行映像を上映しましたので、それが反映したといってよいでしょう。第3に、部落差別への言及がかなり多いように感じます。2001年勧告との比較をきちんとして見ないと断定できませんが、今回は部落差別に比重を置いた勧告のようです。

なお、すでに「毎日新聞」には、「高校無償化:朝鮮学校除外は条約違反 人種差別撤廃委員会」とする記事を13日付で出ています。

http://mainichi.jp/select/today/news/20100313k0000m010140000c.html

2)人権理事会

11日の人権理事会は、議題3「すべての人権の促進と保護」の討論でした。午前中は、人権擁護者(活動家)の状況に関する特別報告者、宗教・信仰の自由に関する特別報告者の報告プレゼンテーションと、それをめぐる議論。午後から、子どもに対する暴力特別報告者、子どもの権利条約選択議定書をめぐる議論が始まりました。昼休みのNGOイベントでは、人権擁護者に関するセミナーが2つありました。

12日の人権理事会は午前から子どもの権利関連が続きました。子どもに対する暴力問題と、子どもの権利条約選択議定書問題です。子どもに対する暴力の時に、イラク女性総連合というNGOが発言をしたところ、イラク政府が割ってはいり、「このNGOは国連のNGO資格を失ったはずだからNY事務局に確認して欲しい」と抗議。議長が事務局とひそひそ話をした後、「いますぐに確認できないので、このまま発言を続ける。資格のないことが判明すれば記録から削除する」。イラク女性総連合の発言終了後、イラク政府は反論権を行使して、「たしかに子どもの状況は深刻だが、政府は医療や教育について努力を傾けている」と言っていました。緊張したのはこの時くらい。それから、気になったのは、11日も12日も日本政府が一度も発言していないことです。アジアでは、パキスタン政府は3回、韓国政府は2回、中国政府も1回発言(もしかすると2回)。午後の途中から個人通報の秘密手続きでした。

12日昼休みに、NGOの反差別国際運動IMADR主催のNGOイベント「現場における人種差別撤廃条約--人種差別の現代的諸形態を撤廃するための挑戦」がありました。冒頭に部落解放同盟の組坂繁之さんの報告「ITにおける人種差別」、ベルナデティ・エティエ「フランスにおけるロマ、タミル組織」、IMADR理事長のニマルカ・フェルナンド「スリランカと人種差別撤廃委員会CERD」、そしてCERDのソンベリ委員の発言でした。ソンベリ委員のほか、CERDのクリックリー、ダー、デグート委員が参加。

3)ジプシー美術展

国連欧州本部の人権理事会会場前のロビーで、このところ、「ハンガリーにおけるジプシー美術展/記憶の中のカラフルな夢」が開かれています。2007年にハンガリー国立美術館で行なったものだそうです。油絵が40点ほど、木彫が10点ほど。50~60年代生れの作者たち。解説によると、ハンガリーでジプシー/ロマの知的ムーブメントが起きたのが197年代初頭のことで、最初の詩人、作家、画家が輩出したそうです。1979年にはじめてのジプシー美術展が開かれ、徐々に広がり、2007年にはベニス・ビエンナーレにも出品したそうです。ジプシー人口は55~60万と推定されていますが、2003年の統計調査でジプシーであると届けたのは1万9400人に過ぎないそうです。展示されている作品は、おおむね4種類に分けることができます。

1 職業に関するもの(「音楽家」「籠職人」「木こり」「鐘づくり」)

2 日常生活(「きのこ狩り」「仕事帰り」「屋外の子どもたち」)

3 家族(「花嫁の入浴」「結婚式」「聖家族」)

4 カラフルではない、逆の記憶に関するもの(「ホロコーストの記憶」「絶望」「彼らに朝日は昇らない」「迷子の鳥」「飢えでは死なぬ」)

そして、Le Rocbere Mediterraneen, Corbieres,2007.

4)休日の読書

高橋昌一郎『理性の限界--不可能性・不確定性・不完全性』(講談社現代新書、2008年)

--「理性の限界」と言っても、安倍や麻生の話ではありません。果たしてまともな理性があるのかという話ではなく、いかに理性といえども限界があるという哲学・論理学の入門書です。投票のパラドックス、囚人のジレンマ、ラプラスの悪魔、ハイゼンベルクの不確定性原理、シュレーディンガーの猫といったおなじみの話題や、スクリブンの卵、ゲーデルの完全性定理と不完全性定理、ぬきうちテストのパラドックスなど、思考の多様性と限界を、架空シンポジウムでおもしろく読ませる本です。頭の柔軟体操。

陳天璽編『忘れられた人々 日本の無国籍者』(明石書店、2010年)

--編者は、かつて『無国籍』(新潮社、2005年)を出しています。日中国交回復に伴って日本が台湾を切り捨てたため、無国籍となった横浜中華街のララ。ご本人の人生をつづった、とてもいい本です。その後、日本国籍を取得していますが、無国籍者の権利擁護のために、研究と実践を続けています。国立民族学博物館と国連難民高等弁務官事務所の共催で2008年11月23日に東京・青山の国連大学で開催されたフォーラム「無国籍者からみた世界」の記録が本書です。国境を越えた医師アクセノフさん。無国籍状態の子どもの生育環境に取り組んできた李節子さん。ベトナム国籍を剥奪された家族なのに日本の外国人登録証にはベトナム国籍と記載されていたため無国籍と知らずに育ったグエンティ・ホンハウさん・・・・。無国籍といっても、その原因や、日本での在留資格や生活状態はさまざまに違っていることがよくわかります。従来、ほとんど知られざる、語られざる無国籍の人々の暮らしや思いが語られた貴重な本です。本書は重要なので日本に持ち帰ります。人種差別、難民、少数者など国際人権法において議論されてきたテーマと類似していますが、違いもある無国籍。以前、国連人権小委員会でワイスブロット委員が「非-市民」の権利を研究していましたが、その関連です。

以上の2冊はまったく異なる分野、異なるテーマですが、両方に登場するのがアインシュタインです。前者では、もちろん光速度不変の原理と相対性理論の科学者として。後者では、アインシュタインは有名人の無国籍者として。--もともとはドイツ国籍だったのに喪失してスイス国籍となり、後にドイツ国籍を回復したがナチスに剥奪されてスイス国籍だけになり、最後はアメリカ国籍。スイスではベルンに住んでいたので、ベルンの旧市街、世界遺産の町の真ん中にアインシュタインがすんでいた家があって、いまは「アインシュタインの家」という記念館になっています。もっとも、かつてはどこの国籍かわからなくても当たり前でした。ドイツ精神の権化のように思われているニーチェも、なぜか、いつの間にか「スイス国籍」ですし。

伊勢崎賢治『アフガン戦争を憲法9条と非武装自衛隊で終わらせる』(かもがわ出版、2010年)

--『武装解除』(講談社現代新書)、『自衛隊の国際貢献は憲法九条で』(かもがわ出版)の著者の新刊です。紛争地の東ティモール、シエラレオネ、アフガニスタンにおける武装解除という実績を基にした、平和構築論にはひじょうに説得力があります。本書では、オバマ政権になって以後のアフガン戦略の混迷を解決するための努力と提言が示されています。とうてい真似のできない構想力と実践にいつも驚き、今回も同様に驚きながらの読書です。いくつかの点では、留保を付さなければならないこともあります。例えば、(1)著者は上から、国家権力を利用しての平和構築を語ります。アフガンについては当然、アメリカ、NATO諸国、パキスタン、サウジアラビア、そして日本。権力の間を泳ぎまわりながらの平和構築の実践です。他方、私は、現在の国家権力が平和を創ることはない、論理的にも現実的にも、という基本認識です。(2)また、著者がかつてアフガンで行った武装解除について、日本政府はこの武装解除を「成功」と宣伝しています。著者は、日本政府のようにノー天気ではないので、冷静に「失敗」と認めて、その原因をアメリカ選挙事情の変化に求めています。武装解除が成功であろうと失敗であろうと、著者が果した素晴らしい役割、その活動を高く評価するべきであると述べた上で、私の個人的評価をいえば--かつ、仲間と一緒に取り組んでいたアフガニスタン国際戦犯民衆法廷の見地からも--あの武装解除は最初から失敗するしかない、成功の見通しなど全くなかったものです。当時から私たちはそう評価していました。この点の認識はかなり違います。アメリカ選挙事情が変わったなどということは関係ありません。私たちは、アフガンは泥沼になると、懸念し、警鐘を発していました。(3)それと、著者にはジェンダー観点が弱いことも気になります。紛争地における、国家権力のぶつかり合いの中で懸命に平和構築の構想を練って、その実現のために邁進している著者に、あれこれ何でも要求するのはお門違いというものですが。アフガニスタン女性革命協会RAWAと連帯して活動している私たち、RAWAと連帯する会としては、下からの、民衆からの、そしてジェンダー観点を貫いての、平和構想を掲げていくことが課題です。(4)最後に、アフガンに平和を構築するために著者が提唱している「国境プロジェクト」や、自衛隊を非武装の国際軍事監視団として派遣するという構想は優れた発想ですが、米軍撤退なしに平和構築が実現するとは思えません。「11・23東京会議」の最終コミュニケ(資料として収録されています)を岡田外務大臣に提出して、これから動き出すそうです。まだ書けないことがあるということで、本書には全体像が書かれていないので、どのように評価するべきか難しいのですが、最終コミュニケは、日本やイスラム諸国の役割に触れるだけで、米軍についてはまったく言及していません(NATOやISAFがアフガンの平和を支援しているという認識が書かれています)。米軍による占領と民間人殺戮をそのままにして、平和構築に成功するとは思えません。

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Japan

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Among positive aspects in the third to sixth periodic reports of Japan, the Committee noted with interest Japans pilot resettlement programme for Myanmar refugees (2010). It welcomed Japans support for the United Nations Declaration on the Rights of Indigenous Peoples (September 2007) and congratulated Japan for the recognition of the Ainu people as an indigenous

people (2008). It also noted with interest the creation of the Council for Ainu Policy (2009). Further, the Committee noted with appreciation the adoption of regulations against illegal and harmful information on the Internet, including the revised Guidelines for Defamation and Privacy (2004) and the Provider Liability Limitation Law (2002).

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Noting Japans view that a national anti-discrimination law was not necessary, the Committee was concerned about the consequent inability of individuals or groups to seek legal redress for discrimination. It regretted the repeal of the proposed Human Rights Protection Bill, which included provisions for the establishment of a human rights commission, and noted with concern the lack of a comprehensive and effective complaints mechanism. Also noted with concern was the continued incidence of explicit and crude statements and actions directed at groups, including children attending Korean schools, as well as harmful, racist expressions and attacks via the Internet aimed, in particular, against Burakumin. The Committee encouraged

the Government to examine the need to maintain its reservations to article 4 (a) and (b) of the Convention with a view to reducing their scope and preferably their withdrawal. Japan should also increase sensitization and awareness-raising campaigns against the dissemination of racist ideas and to prevent racially motivated offences including hate speech and racist propaganda on the Internet. Similarly, the Committee reiterated its concern that discriminatory statements by public officials persisted and regretted the absence of administrative or legal action taken by the authorities in that regard. Among others, the Committee recommended that Japan provide relevant human rights education, including specifically on racial discrimination, to all civil servants, law enforcement officers and administrators as well as the general population.

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The Committee regretted that there was no public authority specifically mandated to deal with Burakumin discrimination cases, and noted the absence of a uniform concept when dealing with or referring to Burakumin and policies. Further, although socio-economic gaps between Burakumin and others had narrowed, for some Burakumin they remained in areas of public life such as employment and marriage discrimination, housing and land values. The Committee recommended that the Government, inter alia, assign a specific government agency or committee to deal with Buraku issues; engage in consultation with relevant persons to adopt a clear and uniform definition of Burakumin; and supplement programmes for the improvement of living conditions of Burakumin. With regard to the Ainu, the Committee was concerned about their insufficient representation in consultation forums; the absence of a national survey on the development of the rights of Ainu people and improvement of their social position in Hokkaido; and the limited progress so far towards implementing the United Nations Declaration on the Rights of Indigenous Peoples. It recommended that further steps be taken in conjunction with Ainu representatives to translate consultations into policies and programmes with clear and targeted action plans and that the participation of Ainu representatives in consultations be increased. Other areas of concern included persistent discrimination suffered by the people

of Okinawa; discriminatory effects on childrens education, including the differential treatment of schools for foreigners and descendants of Korean and Chinese persons residing in Japan with regard to public assistance, subsidies and tax exemptions; and cases of race and nationality-based refusals of the right of access to places and services intended for use by the general public, such as restaurants, family public bathhouses, stores and hotels. With regard to the latter, it was recommended that the Government counter that generalized attitude through educational activities directed to the population as a whole and that it adopt a national law making illegal the refusal of entry to places open to the public.