Wednesday, February 04, 2015

ヘイト・スピーチ研究文献(8)表現の自由を守るために

前田朗「ヘイト・スピーチ処罰は表現の自由を守るため」『人権と部落問題』867号(2015年2月)
ヘイト・クライム/ヘイト・スピーチについて10年ほど勉強してきた。『ヘイト・クライム』を出したのが2010年。その後も研究を深めてきた。定義論、被害論、比較法研究を積み重ねてきたが、憲法論は手薄だった。14年になってようやく憲法論を提示するようにしてきたが、その中間まとめが本論文である。主張内容は簡単だ。日本国憲法の趣旨に従ってヘイト・スピーチを規制するのは当然であり、表現の自由を守るためにヘイト・スピーチを処罰するべきである。そのエッセンスを本論文で示した。
憲法学者の多くは、被害には目を向けず、憲法21条の表現の自由が優越的地位にあるから刑事規制は困難であり、ヘイト・スピーチ法を作ることには消極的と言う。

しかし、この主張は日本国憲法を歪曲しているのではないか。憲法の基本精神、13条の人格権、14条の法の下の平等から言って、ヘイト・スピーチの被害は深刻であり、規制が必要である。憲法21条の表現の自由は人格権と民主主義に由来する。ヘイト・スピーチは人格権と民主主義を破壊するのであり、表現の自由の保障が及ぶと解釈することはできない。憲法12条は表現の自由には責任が伴うと明示している。マイノリティの表現の自由を否定してマジョリティの表現の自由だけを言い募る憲法学の差別的性格の検証が必要である。ただ、憲法学の内在的検討は今後の課題である。