Wednesday, May 09, 2018

ヘイト・クライム禁止法(146)イギリス


イギリス政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/GBR/21-23. 16 July 2015.)によると、イギリス法は人種憎悪を煽動することを禁止し、オンラインでもオフラインでも、個人に対するものにも適用される。長い伝統として、個人には、住民の多数派の意見に反対する意見を持ち、表明する言論の自由を保障してきた。政府は、言論の自由を維持しつつ、個人を暴力と憎悪から保護することの両者のバランスを取ることが重要と考える。政府はメディアの内容を統制しないが、ジャーナリストには人種憎悪を煽動しない責任がある。人種差別は2010年の平等法によって禁止されている。独立プレス基準機構は差別を禁止し、差別記事からの個人の保護を目的としている。

 編集者協会は政府の支援のもと、オンライン管理者に、ユーザーがウェブサイト新聞に投稿した際に人種、信仰、性的志向、トランスジェンダー又は障害に基づいて憎悪を煽動しないように確保するためのガイドを出版した。

 情報通信庁放送綱領は、犯罪を惹起するかもしれないオンスクリーンの差別を扱う。犯罪を惹起しかねない記事については、その内容から正当化できるようなものとしなければならない。放送者は、その内容が編集上正当化されるものでなければ、人種的内容や記事を回避しなければならない。放送者は文化的な分断に注意する必要がある。

 2010年、情報通信庁は、差別的記事を含む攻撃的な言語に関する視聴者の意見を調査した。情報通信庁によると、攻撃的言語や差別的言語の性質に関する理解が重要である。2011年には、テレビにおける民族的マイノリティの表象に関する分析が行われた。

 前回審査において人種差別撤廃委員会は、イギリス政府に条約第4条についての解釈宣言の撤回を勧告したが、イギリスは解釈宣言を維持する。

 人種差別撤廃委員会はイギリス政府に対して次のように勧告した(CERD/C/GBR/CO/21-23. 26 August 2016)。2016年6月に実施されたイギリスのEU離脱をめぐる住民投票の前後を通じて人種主義的ヘイト・クライムが急増した。住民投票キャンペーンが分断を煽り、反移民と排外主義の言説を多用し、政治家や有名人がそれを非難せず、偏見を強化する発言をした。最近のヘイト・クライムの増加し、多くの事例が不処罰のままであることに強い関心を有する。委員会は、ヘイト・クライムを捜査し、実行者を訴追し処罰するよう勧告する。ヘイト・クライムに関する情報を系統的に収集し、人種主義ヘイト・クライムと闘うよう勧告する。人種主義ヘイト・クライムの報告を強めるように具体的措置を採用するよう勧告する。人種主義ヘイト・スピーチに関する一般的勧告35を考慮して、人種主義的ヘイト・スピーチ、排外的政治家発言、と闘う包括的措置を講じるよう勧告する。人種主義的メディア記事と闘う効果的措置を講じるよう勧告する。それゆえ、条約第4条についての解釈宣言を撤廃するよう勧告する。


今回の政府報告書には、法律の内容紹介がないのは、これまでに報告しているのと同じだからである。判例等の具体的事案の紹介もなされていない。なお、イギリスのヘイト・スピーチ法については師岡康子及び奈須祐治の論文が詳しい。