Monday, August 03, 2015

伝説の革命家、見果てぬ夢、そして「新しい人間」

伊高浩昭『チェ・ゲバラ――旅、キューバ革命、ボリビア』(中公新書)
ストックホルムの中心街にある王立公園のベンチで読んだ。とても場違いだが、東京の研究室で読んだとしても、ゲバラが訪れた広島で読んだとしても、場違いには変わりない。本書を読むのにふさわしい場所はどこだろうか。
1967年から共同通信記者としてラテンアメリカ中心に取材をしてきただけあって、キューバ革命、カストロ、ゲバラについてもっとも詳しい著者が、あらためてゲバラの伝記を公表した。ゲバラの伝記や資料は世界で無数に発表されているし、日本でも数多いが、本書はこれまでの研究を踏まえて書かれた上、「伝説」と「現実」の双方に目を配り、ゲバラの「失敗」と「反省」も繰り返し強調しながら、ゲバラの同時代の走者としての自己認識を抑制しつつも読者に伝わるように書いている。
青年ゲバラの旅がどのように始まり、どこへ向かっていったのか。どこでどのように蛇行し、氾濫し、迷走していったのか。カストロとの運命的出会い。ゲバラの家族、女性、子どもたち。革命指揮官から国家建設政治家への転身と限界。ソ連との確執と、フィデル・カストロとの齟齬も含めて、時代の中のゲバラを描ききっている。
革命が輝いていた時代の武闘派ゲバラの闘い、鋭いまなざし、成果と限界、逡巡と悩みを明らかにするとともに、世界的反革命の巧みな操縦と画策、資金と容赦ない弾圧も。

とはいえ、2015年の現在、ゲバラの「新しい人間」論は何を意味するのだろうか。空しく宙を彷徨うしかないのではないだろうか。著者には様々な思いがあるのだろうが、詳しく立ち入ってはいない。