川﨑英明・白取祐司『刑事訴訟法理論の探求』(日本評論社)
編者2名と、若手研究者13名による論文集である。編者2名には学界や研究会の場で4半世紀ご教示いただいてきた。13名のほうは(一部は若手と言うよりも中堅からベテランに向かおうかと言う研究者も含まれるが)面識のない研究者も数名いる。良い機会なので、一日一論文、勉強しよう。
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巻頭は白取祐司「戦後刑事訴訟法学の歩みと現状」
現行刑訴法ができた直後の指導的理論だった団藤理論が、その骨格も内容も戦前・戦中にできていたことを確認し、団藤理論への批判を通じて形成された平野理論が日本国憲法の民主主義を法理論化したものであり、学説には圧倒的な影響を与えたものの、実務には受け入れられなかった理由を検討する。
そして、平野理論を継承した田宮理論と松尾理論の分岐――「デュー・プロセス」から「精密司法」論への転換を追いかけ、松尾の主観的意図とは別に、「精密司法」論が実務の正当化理論として受け入れられたことを見る。「精密司法」論の現状説明能力を評価するにしても、現状を憲法の基本的人権や民主主義に照らして検証するには、その先の理論が必要であることも明らかにされる。
最後に、刑事訴訟法学の課題と担い手について、学会規模の肥大化、法科大学院の影響(研究の停滞、後継者養成の制約等)、最近の刑事立法の「活性化」(自由と民主主義を制約する刑事立法の乱発)を踏まえて、今後の刑事訴訟法学がいかにあるべきかを検討している。
七〇年に及ぶ刑事訴訟法学の展開をひじょうに短い文章でまとめているが、基本線はこの通りであろう。個別の論点には別の説明も必要となるが。基本を踏まえつつ、新しい時代に対応した刑事訴訟法理論をいかに構築するべきか、示唆に富む。
現実には、理論を放擲し、警察権力と一体化して「新しい時代の刑事司法」を強引に作り出している刑事訴訟法学者も少なくない。理論と実務という対抗軸で考える場合、政治権力そのものである立法と、司法権力であっても理論を睨みながらの法実務とは、趣がかなり異なる。著者は射程を広げつつも、抑制した筆致で問題点を整理している。