押田茂實『法医学者が見た再審無罪の真相』(祥伝社新書)
専門書以外には『医療事故』『法医学現場の真相』を出してきた法医学者の刑事再審への関与の経験を踏まえた著作。日本の刑事裁判が誤判・冤罪だらけになる理由の一つとして、いい加減で非科学的な法医学があり、その誤りを明らかにする科学的な法医学をしっかり確立する必要があることを打ち出している。著者が関与した事件は、再審無罪事件では、袴田事件(正しくは再審開始決定まで)、東電女性会社員殺人事件、足利幼女殺害事件、布川事件、氷見事件。再審請求中の事件では、福井女子中学生殺人事件、飯塚事件(死刑執行され、遺族が起こしている再審)、姫路郵便局強盗事件。他にも各種のわいせつ事件。これらの事件の法医学鑑定上の問題点を適宜示して、問題点を明らかにしている。
再審無罪に関する問題点として、特にDNA型鑑定を取り上げ、日本におけるDNA型鑑定の進歩と問題点を解説する。具体的なDNA鑑定の恐るべき事例として、宮崎県警「資料を被害者に返したとする警察」、神奈川県警「証拠資料を抹消してしまう法医科長」、山口県警「科学捜査研究所員の証言に驚愕」、鹿児島県警「死刑が無罪」などの例を紹介し、法医学の悲惨な実態を厳しく批判している。全体として法医学者や科学捜査研究所員のいい加減な証言を徹底批判しているが、個人攻撃ではなく、法医学に関する認識、体制の在り方、裁判と法医学の関係などの改善を目指している。他方、誤判を量産する裁判官への批判は控えめで、瀬木比呂志『絶望の裁判所』を紹介する程度なのは、法医学者として発言するべきことを踏み越えず、自制しているのであろう。もっとも、きちんと読めば随所で裁判官の異常ぶりが明らかになる本だが。
死刑事件は袴田事件、飯塚事件、鹿児島老夫婦殺人事件(死刑求刑、裁判員裁判で無罪)。