黒﨑真『マーティン・ルーサー・キング』(岩波新書)
1968年の暗殺のニュースは記憶にない。なぜだろう。ケネディ大統領暗殺のニュースは記憶しているのに。キング暗殺から50年。半世紀の歳月が流れた。存命中から「伝説」だったキングだけに、伝説の彼方という感じもするが、逆に言えば、まだ半世紀にしかならないのか、とも思う。
キングの伝記はいくつもあるが、本書は、非暴力の思想、実践、その意義に焦点を絞りながらキングの闘いの全体像を描き出している。わかりやすく、有益な本だ。バスボイコット運動やシット・イン運動、フリーダム・ライド、ワシントン行進、ノーベル平和賞受賞など、よく知られた事実だが、最新の研究や資料も駆使して伝記を構成し、同時に思想もていねいに解説し、かつ読みやすく書かれている。ベトナム反戦、アラバマ・プロジェクト、メレディス行進、そしてメンフィスへの流れもフォローしている。
その後の問題としては、キング国民祝日の非が制定されたが、それにより体制に取り込まれる意味もあったこと、「公的記憶」に成る際に一定の「無害化」がおきること、晩年のキングを忘れてはならないこと、そして人種暴力は減ったようにも見えるが、人種格差は今日に至るまで拡大し続けていること、それゆえ「キングの夢」はいまなお「夢」であり続け、2013年のワシントン行進50周年や、2018年の暗殺50年を経て、今後なおキングとともに歩み続けなければならないことが確認されている。
「キングの未完の夢と非暴力の遺産を受け継ぎながら、自ら行動を起こすことができるのだという希望と勇気」に賭けた著者の思いが伝わる。