本間龍『ブラックボランティア』(角川新書)
2020年東京オリンピック・パラリンピックに際して。11万人のボランティアの動員が目指されている。入場整理、観客誘導、通訳、アテンド運営サポート、ヘルスケア、テクノロジー、メディア・サポートなど各種のボランティアを市民から、特に大学生から募集する方向性のようだ。
ところが、1日8時間ほど、10日できる人ととしながら、報酬はゼロ、交通費などの経費は自己負担だという。ただ働きだ。一生に一度の舞台で、感動をわかちあえるから、一丸となって五輪を成功させ、世界の人々とふれあえるからだという。
それならば、JOCも組織委員会、スポンサー会社も、電通もただ働きするべきだ。
ところが、スポンサー企業から推定4000億円以上の収入が予定されている。スポンサー企業も五輪をネタにぼろもうけを企んでいる。
JOCや企業は丸儲け、学生は酷暑のなかでただ働き、という異様な計画だ。
著者は、この奇怪な計画を徹底批判する。旧陸軍の「インパール作戦」になぞらえる。現場の状況を無視して、机上で準備し、一度動き出すと止まらない暴走だからだ。著者は五輪に反対なのではない。五輪をえさに、市民を、学生をたぶらかし、ブラックボランティアに落とし込みながら、自分対は金儲けに邁進するやり口を批判している。
同時に著者はメディアが五輪を総出で支えている構図にも疑問を挟む。朝日、毎日、読売、日経がオフィシャルスポンサー、産経がサポーターになっている。全国紙がそろっている。テレビ局もNHKだけでなく、日テレ、TBS、テレ朝をはじめ各社がずらりと並ぶ。メディア翼賛体制ができあがっている。これでは監視はできない。膨大な税金を投じて行われる巨大イベントのチェックができない。「復興五輪」などと言うデマを利用して、実際には福島の復興を妨害していることも、なかなか報道されない。