山本義隆『近代日本一五〇年――科学技術総力戦体制の破綻』(岩波新書)
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出版時にすぐ購入したが、多忙のあまり今頃ようやく読むことになった。『一六世紀文化革命』『福島の原発事故をめぐって』の著者である科学史家による日本近代科学技術論の決定版である。分厚い研究書ならともかく、新書1冊にこれだけの内容を盛り込めるのは著者ならではだろう。勉強になり、読み応えがある。
近代日本の国家主義と資本主義が大日本帝国の歴史の随所に刻まれていること、「帝国の学問」が植民地支配や戦争を支えていったこと、国内においては民衆に対する棄民政策となったことなど、一般論としてはよく知っているつもりだったが、本書はその一つひとつに具体的な証拠を提示し、エピソードもはさみ、読みやすく通史として構成されている。著者の力量に感嘆するしかない。
軍産複合体の出発点には幕末のテロリスト集団がいたことや、「女工哀史」の時代の「ウルトラ・ブラック企業」による産業革命の「成功」など、なるほど、なるほどの連続である。
安直な「これでわかる」本とは違い、西欧近代の科学技術史に対する透徹した科学史的認識を背景に、日本近代の道行きをフォローしている。星野芳郎や武谷三男の科学技術論はむかしまじめに読んだが、その後は『日本の科学者』の諸論文に学ぶだけだった。1冊で通史を学べて良かった。
著者が物理出身のため、生物学、人類学、法学などいくつかの重要分野が手薄だが、やむを得ないだろう。