Wednesday, August 08, 2018

ニュータイプの刑事訴訟法教科書


中川孝博『刑事訴訟法の基本』(法律文化社、2018年)

『合理的な疑いを超えた証明』『刑事裁判・少年審判における事実認定』『判例学習・刑事訴訟法』の著者で國學院大學教授による、新しい教科書である。

第1に、アクティブラーニング型授業で使えるように工夫した。講義動画をYouTubeにアップし、基本的知識をwebにアップし、反転授業ができるようにしたという。第2に、分厚いものにせず、300頁弱におさえた。このため条文の引用を避け、判例は最高裁判例を中心に絞り、学説状況の紹介も極力減らした。もちろん筆者の私見は随所で展開されている。

春に出版され、著者から献呈されたが、多忙のため読めなかった。ここ数日、1日1章読んでいる。ようやく第6章の「公訴提起・追行:審判対象の変動」まで。従来の教科書と異なるため、最初は読みにくかったが、慣れるに従って苦にならなくなった。

捜査に関する強制処分法定主義、令状主義、通信傍受や強制採尿、身体不拘束原則、捜査と拘禁の分離原則、取調べ受忍義務批判、黙秘権、弁護権の解説はいずれも共感を持って読み進めることができた。

何よりの感想は、これは学部学生には無理だろう、というものだった。ぎっしり詰め込まれた内容、それを理解するために本書と別にYouTubewebを参照し、判例を読まなくてはならない。学部学生にそれだけの時間はないし、努力も難しいだろう。刑事訴訟法ゼミの学生の中には一部、懸命に取り組む学生がいるかもしれない。著者本人がゼミで本書の活用法を直接話すから可能になる。他方、ロースクール向きでもない。その意味では、一般的に使える教科書ではないように思うが、本書をきっかけに、さまざまなスタイルの工夫が始まれば、事情は変わってくるかもしれない。

著者とは以前、いくつかの研究会でご一緒させてもらったが、私がさぼるようになってからはほとんどお目にかかっていない。村井学派らしく切れ味鋭い著者の舌鋒を聞かなくなって久しいが、これは私にとって損失でもある。今はともかく本書にきちんと学ぼう。