Sunday, November 15, 2009

代用監獄アンケート結果(00)

救援462号(2007年10月号)

代用監獄実態に関するアンケートにご協力を

代監批判の論点

  本年五月に公表された拷問禁止委員会の日本政府に対する勧告は、拷問の定義、代用監獄、取調べ、死刑など多くの問題について改善を求めるものであった(前田朗「拷問禁止委員会が日本に勧告」無罪!二六号)。拷問禁止委員会は、日本が代用監獄を利用していること、被拘禁者の手続保障が不十分であること、権利侵害が増大していること、無罪の推定、黙秘権、防御権が尊重されていないことを指摘している。拘置所よりも留置場収容が多いこと、捜査と留置の分離が不十分であること、留置場には適切な医療がないこと、起訴前拘禁が長いこと、起訴前拘禁に対する司法的統制が効果的でないこと、起訴前保釈制度がないことなど、日本の刑事司法が抱える数々の病理の改善を勧告している。

  これらはNGOによる情報提供を受けて、委員会で日本政府報告書を審議した結果として出された勧告である。NGO報告書には、代用監獄の処遇や取調べの実態についてさまざまな情報が掲載されている。

 本年二月二三日に鹿児島地裁で無罪判決の出た志布志事件では、「鹿児島県警の捜査は虚偽と不正、横暴と杜撰を極め、『デッチ上げ』という単語がこれほど当てはまる事例もそうは多くないように思える」(青木理「何から何までデタラメな県警の強圧的捜査」『週刊金曜日』六七〇号、以下の引用も同じ)と指摘されている。「『バカ、認めろ』『このウソつき野郎』『認めなければ親も子も逮捕だ』。気が遠くなるほど長時間の聴取で脅迫まがいの言辞と罵声を浴びせられ、捜査官たちは虚偽の自白を強要し続けた」と。

 志布志事件は冤罪だったから問題とされている。しかし、冤罪でなければ、よかったのだろうか。仮に後に真犯人であると判明したとしても、「取調べ」のあり方は無罪の推定に反し、防御権を侵害し、人格権をも侵害しているのではないか。代用監獄を利用した二四時間管理体制(あらゆる自由の剥奪)、長期の未決勾留(家族の破壊)、そして長時間に及ぶ暴力的な密室「取調べ」は、法が予定している取調べではなく、端的に拷問と呼ぶべきではないのか。その意味では(冤罪ではなくても)すべての事件において重大人権侵害が繰り返されてきたのではないか。

  最近、迎賓館横田事件の闘いの出版のために、「拷問大国から脱却するために」と題して次のように書いた。

 「代用監獄は、主に次のような機能を果たしてきた。①被疑者の逃走予防、証拠隠滅予防(ただし、それなら拘置所で足りる)、②警察による被疑者取調べ、自白の強要、虚偽自白、③政治目的などによる弾圧(最近は『国策捜査』と呼ばれることもある)や報復、④『改善更正』、転向強要、人格破壊。従来の代用監獄批判は②の問題点を取り上げてきたが、③④も考慮すれば、代用監獄の真の機能は『裁判抜き短期自由刑の執行』と見るのが正当であり、正当化の余地はない。」『未決勾留一六年』(近刊予定)

 同じことを一九年前には次のように書いた。

「代用監獄に象徴される拘禁二法とは、単に冤罪の温床になる反人権的悪法であるだけではなく、単に受刑者の自由を制限する施設管理法であるだけでもなく、そのいま一つの狙いが、労働・政治運動に襲いかかる治安立法にほかならないからである。代用監獄とは、被疑者の拘禁場所ではなく、被疑者の人間性剥奪の場であり、『裁判なき刑罰執行』の場である。警察によって反体制的とみなされた運動から狩り出された個人を恥ずかしめ、圧迫し、打ちのめすための場である。それは、異端排除による国民統合のシステムの要である。しばしばいわれる自白獲得すら、そこでは二の次となるであろう。労働・政治運動こそ、拘禁二法反対運動の主翼を担って闘うべきゆえんである。」(前田朗「拘禁二法反対運動に向けて」『思想運動』三八二号、一九八八年)。

アンケート協力依頼

代用監獄が被疑者取調べ、自白強要のために活用されているのは事実であり、この点への批判は欠かすことができないが、弾圧、転向強要も無視してはならないだろう。刑事訴訟法学の諸論文では、逃走予防、被疑者取調べに限定した議論がなされてきた。筆者の見解への賛同をほとんど見出すことができない。刑事訴訟法学では、実体的真実主義のゆきすぎをデュープロセスによって制約する論理が唱えられてきた。しかし、警察捜査の現実は実体的真実主義でさえないのではないか。

 かつて一九八〇年代に代監批判が盛り上がった時期、代監体験者の聞き取り調査が行われ、公表された。体験談を通じて、のみではなく、➂➃の側面もあると考えたのが右の引用文である。その後も、多くの冤罪事件などで取調べ批判、代監の実態が明らかにされてきた。拷問禁止委員会に提供された情報もそうした情報だ。しかし、冤罪の衝撃性が、論点をに絞ることにつながる傾向があったように思われる。実際には、➁➂➃は単純に区別できるのではなく、つねに同時並行でからみあっているのではないかと思うのだが、そう主張するための実証データがあまりない。

 そこで読者の中の代監体験者に次のアンケートにご協力いただきたい。

体験の時期(一九九〇年頃とか、二〇〇七年春などの記述)

場所(**警察署、あるいは**県内の警察署)

留置担当官の言動に疑問点はなかったか

取調べにおける自白強要の有無・程度・手段

捜査機関に弾圧や報復の意図を感じたか(具体例を)

取調べ目的と関係のない侮辱行為などはあったか

「代用監獄=裁判抜き刑罰執行」論についてどう考えるか

その他関連する情報または意見

  以上について情報をお寄せいただけると幸いである。結果は本紙にて報告したい。その際、個人情報は公表しない。また他の目的に使用することはしない。

送付先192-0992 東京都八王子市宇津貫町1556 東京造形大学内 前田朗

Eメール:maeda@zokei.ac.jp