Sunday, November 15, 2009

代用監獄アンケート結果(03)

救援467号(2008年3月号)

代用監獄実態に関するアンケート調査結果(三)

弾圧・報復・侮辱

 捜査官による嫌がらせについては、取調べそのものにおける暴言、罵声、長時間取調べなどが指摘されるとともに、体調不良にさせておいていじめる例も見られる。

「発熱して入院したら、病院まで取調官がきて、『そのまま死んでくれ』としつこく言われた。検事は、妻に私が浮気して女に金を使っていると嘘を言っていた。知り合いの暴力団員らにガサを入れたり、何回も呼び出して、『お前が恨まれるようにしてやる』『お前の家族をヤクザに襲わせる』と何度となく言われた」(愛知県名古屋南署、〇三年二月~七月)

被害者や関係者に恨まれるように仕向け、家族が襲われるなどと不安にさせるのも、取調べ目的であると同時に弾圧や報復の手口である。

「『マスコミは怖いぞ。被害者がマスコミ通じてお前の実家の住所を知ったら実家へ押しかけるぞ』と脅し、『喋れ』と耳元で怒鳴りまくる。取調官が使う言葉は『キチガイ。おし。ツンボ。カタワ。ゴキブリ。クズ。ダニ』」(福岡県久留米署、〇二年)

差別的な言葉がふんだんに用いられる。前号で紹介した「お前は麻原だ!」、「人間以下だな、外道だ、お前みたいな奴は死んでしまえ」なども、人格を否定し、貶めることによって精神状態を悪化させ、不安定な心理につけ込んで自白を引き出すためである。その意味では、取調べは最初から弾圧・報復・侮辱によって成り立っている。

「手帳の中から友人や仕事のお客さんらをコピーして刑事が電話したり、呼び出したりした。当時通っていた病院から『通院拒否。刑事から処方をとめられている』といわれ、権力で投薬ができないようにされ、転院せざるをえないようにされた。留置場ではトイレに男性刑事がついてきて、隣のトイレに入られ音を聞かれ、調書に『排尿量は普通だった』と書かれた。『立ちションせえへんのか』などセクハラが多かった。排尿障害になり、ネフローゼになった」(関西空港署、〇一年八月~一一月)

 家族関係や友人関係を破壊し、被疑者に孤立感をもたせるのも同じ目的である。女性に対するセクシュアル・ハラスメントは数多いと思われる。今回のアンケートでは女性の回答は一通のみであるが、かつて手塚千砂子編著『留置場・女たちの告発』(一九八九年)、同『警察官の性暴力』(一九九〇年)、前田朗監修『劇画代用監獄』(いずれも三一書房、一九九三年)などが指摘した問題である。

取調べの可視化

 一月二四日、警察庁は「取調べ適正化指針」を公表した。昨年の志布志選挙違反冤罪や富山強姦冤罪を受けて検討した結果である。取調べに対する監督の強化を掲げ、捜査部門以外の部門によるチェックをめざすという。具体的な監督対象行為としては、①被疑者の身体に接触すること、②直接又は間接的に有形力を行使すること、③殊更不安を覚えさせ、又は困惑させるような言動をすること、④一定の動作又は姿勢をとるよう強く要求すること、⑤便宜を供与し、又は供与することを申し出、若しくは約束すること、⑥被疑者の尊厳を著しく害するような言動をすること、などである。

 こうした行為、つまり拷問その他の非人間的な取り扱いがなされてきたことを間接的に認めたことになる。これまで十分に監督してこなかったことも。だが、この程度の監督では到底不十分であり、指針の賞味期限は一日しかないだろう。

「代監は冤罪づくりのシステムです。信じられないかもしれませんが、刑事からの差し入れのジュースやお菓子で自白したり、嘘を言う奴もいます。買えないので苦しいのです。否認するとタバコは吸えなくされます。言うとおりに喋れば吸わせてくれます。私の事件では捜査官が証拠を捏造しました。しかし、裁判官は捏造と知りつつ証拠から除外せず判決を書きました。冤罪の一番の問題は検察よりも、すぐ有罪にする裁判官だと思います」(名古屋南署、〇三年二月~七月)

 「代監は自白の強要、拷問、偽計の取調べに用いる所です。私は拘置所にいたのですが、留置場に移管され、偽計により事実と異なる事を認めさせられました。一審では、認定に相反する証拠まで、検事の申立てだから両方とも信用できるとされました。代監は冤罪事件を創ります。拘置所は一応他人の目があるので、暴行とかできないし、食べ物でイジメル事もできないから虚偽自白させられる事も少ない」(名古屋中署、〇二年九月~〇三年)

「否認していたので、体調不良を無視され、他の収容者よりも差別されていました。その中で数人の留置担当者はいろいろと個人的に世話をしてくれました。代監は暴力的な密室です。脅迫的な言葉と罵声を浴びせられたら内容のない虚偽の自白になってしまうのです。密室取調べがどのようなものか、一般的には知られていませんから、捜査官の思うままに事が進むのです。被疑者の拘禁場所ではないです。人間性を改悪・剥奪する場所です」(岡山西署、〇五年八月~〇六年一〇月)

 他方、拘置所より留置場が快適となる場合もあるという。

「自分から望んで刑事や検事に頼み、求刑まで留置場にいたのです。否認する者にとっては不利でしょうが、私のように犯罪を認め争うことがない場合は、拘置所より留置場の方が規則が甘く勝手がきき過ごしやすいのです。もちろん刑事も追起訴があるので都合がいいのです。面会も時間は許される限りできるし、立会いなしもあります。面会したいから電話してくれと頼めばしてくれます。捜査官が一番嫌うのは否認されることです。この意識がなくならない限り代監はなくなりません。日弁連がどれだけ騒ごうが現場の体質が変わらない限りダメでしょう」(宮城県大和署、〇三年七月~〇四年三月)

これは⑤の便宜供与の裏返しである。当該被疑者に便宜供与しなくても、他の被疑者を優遇しているのを見せることで十分な効果を挙げることができる。この点だけから言っても、警察庁の指針は無意味である。長期間の身柄拘束、密室における支配と管理(身体、人格、あらゆる動作と状況への支配)のもと、自白を強要するのが現状である。取調べの可視化を本格的に検討するべきである。