Wednesday, March 23, 2011

グランサコネ通信2011-15

グランサコネ通信2011-15

3月20日

地震・津波・原発崩壊事態のため帰国を見合わせていましたが、明日の飛行機で22日に帰国の予定です。

1)18日の人権理事会は、ミクロネシア、モーリタニア、アメリカの普遍的定期審査でした。

アメリカははじめての普遍的定期審査です。2010年11月5日に作業部会が行われ、今回、その報告書が公表され、勧告に対するアメリカ政府の回答も出ました。各国からの勧告はなんと228も出ています。たいていは100くらいのところ。

主な項目は誰でも予想のつくものばかり。

アメリカは国際人権条約の批准の数が非常に少ないので、まず国際社会権規約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約、それらの選択議定書を批准するようにとの勧告がたくさん。

さらに、人種差別に対処すること、ヘイト・クライムに適切に対応すること。

未決及び既決の被拘禁者処遇を改善すること。

拷問をなくすこと(国内の刑事施設)

死刑を廃止すること。

反テロ法の実務を改めること(拷問、恣意的拘禁、長期未決拘禁、グアンタナモ、アブグレイブ、秘密拘禁など)。

ムスリム差別をやめること。

など実に多くの勧告が出されています。

アメリカ政府は、勧告を受け入れるもの、一部受け入れるもの、受け入れないものなどの回答をしました。例えば、市民権と差別に関する勧告は基本的に受け入れる方針。刑事司法に関してもかなりは受け入れ。しかし、被拘禁者、特にジャーナリストの表現の自由を保障せよという勧告は拒否。18歳未満の少年で重大犯罪で終身刑などになった者の処遇改善勧告も拒否。死刑廃止勧告も拒否。先住民族に関しては、国連先住民族権利宣言を解釈基準とせよという勧告を拒否。「国家の安全保障」を何度も何度も強調して、勧告を拒否しています。アブグレイブ、バグラム、グアンタナモにおける拷問批判や閉鎖勧告を拒否。「テロ容疑」と称する被告人を軍法会議ではなく通常裁判所で裁けという勧告も拒否。国際社会権規約、移住労働者権利保護条約、国際刑事裁判所規程を批准せよという勧告を拒否。国際自由権規約や拷問禁止条約の一部留保を撤回せよという勧告を拒否。

さて、日本政府ですが、18日には何も発言しませんでした。というか、16~18日の3日間の普遍的定期審査では完全沈黙。ただし、昨年11月5日の作業部会で発言した記録が残っています。なんと、「日本政府は、アメリカは、多人種、多国民、多宗教社会というユニークな文脈で、人権問題に積極的に取り組んでいると称賛した」という記録が国連文書に出ています(A/HRC/16/11. para.80. 4 January 2011)。私は茫然自失。

他方、1つだけですが、日本政府はアメリカに対して勧告も出しています。社会権規約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約を批准するようにという勧告です。同じ勧告を、インドネシア、ベトナム、インド、中国、スロヴァキア、韓国、オーストリア、トリニダードトバゴ、スーダン、スペイン、ヴェネズエラなども出しています。当たり前で、しかも目立たない勧告です。しかも、日本以外の国は、アメリカに対して、国際刑事裁判所規程、子どもの権利条約選択議定書、移住労働者権利保護条約、障害者権利条約、いくつかのILO条約、社会権規約選択議定書、自由権規約第一選択議定書などの批准も勧告していますが、日本政府はそれには言及していません。たいした内容はなくても、日本政府がアメリカに対してせめて1つ勧告を出したことを評価すべきでしょうか???

朝鮮政府はアメリカに対して9つの勧告を出しています。日本のマスコミは絶対報道しませんから、紹介しておきます。

女性差別撤廃条約を批准するように。

「北朝鮮人権法」という内政干渉の法を廃止するように。

住居・労働・教育における広範な人種差別にきちんと取り組むように。

法執行における人種主義プロファイルをやめるように。

宗教に対する誹謗中傷をやめるように。

他国に対する一方的な制裁措置をやめるように。

アフガニスタンとイラクにおける民間人殺害をやめ、被害者に補償し、グアンタナモなどCIA秘密キャンプを閉鎖するように。

国内国外における残虐な刑罰や拷問を禁止するように。

外国の基地における女性に対する暴力など重大人権侵害に効果的に対応するように。

9番目は重要なので全文を。

「92.116 外国の基地に駐留する米軍兵士が数十年にわたって行っている、女性に対する暴力などの重大人権侵害を終わらせるために適切な措置を取るように」。

言うまでもありませんが、これは沖縄や韓国の米軍基地のことです。朝鮮政府が、沖縄の米軍基地における暴力を批判しているのに、それを聞いた後で、日本政府は「アメリカは人権問題に積極的に取り組んでいると称賛」したのです。言うべき言葉がありません。

2)反差別国際運動日本委員会編『今、問われる日本の人種差別撤廃--国連審査とNGOの取り組み』(2010年)

昨年2月の人種差別撤廃委員会における日本政府報告書審査、3月の勧告などをまとめた記録です。人種差別撤廃NGOネットーワークの事務局を担った反差別国際運動の編集で、NGOネットワークのメンバーたちが執筆しています。ちょっと原稿を書く必要があって、資料として重要なので持参して、今回ざっと読み直しました。

3)竹田いさみ『世界史をつくった海賊』(ちくま新書、2011年)

世界周航で有名なドレークは実は海賊であり、エリザベス1世の命を受けて、スペイン船を襲っては財宝を略奪してイギリスに富をもたらしたので、女王からナイトの称号までもらったそうです。イギリス・スペイン戦争でイギリスが勝利したのも、弱体のイギリス軍の力ではなく、海賊たちの活躍によるものでした。先に植民地帝国をつくったスペインを後から追いかけたイギリスは海賊の力によってスペインの財宝、植民都市を奪い取って、やがて世界を制覇するようになったそうです。近代の資本主義も、海賊による資源略奪が基礎にあったので成立したのです。このため海賊を英雄や冒険家として美化する風潮があったのです。それがやがて、勤惰的な貿易制度が確立していくと、逆に海賊が邪魔になり、まずは海賊を利用して海賊を取りしまり、ついには海賊を禁止するように変わっていきます。イギリスのスパイ戦の源流とか、スパイス争奪戦の具体例とか、イギリスはなぜコーヒーから紅茶にかわったかとか、知らない話が多くて面白い1冊です。