Monday, September 23, 2013

バーゼル美術館散歩

バーゼルはライン川の町で、スイスの一番北にある。町の北東はドイツ、北西はフランスで、鉄道の駅もスイスの鉄道駅、フランス駅、ドイツ駅がある。ライン川を挟んでできた町の中心、旧市街にミュンスター、市庁舎、そして美術館がある。バーゼル美術館はスイスの美術館の中では、チューリヒ、ジュネーヴと並ぶ規模の大きさだ。といっても、格別大きいわけではない。スイスの美術館が一般に小さ目だから。バーゼル美術館の常設展をゆっくり見ても3時間程度だろうか。近代西洋美術史の勉強にはちょうど良い規模と構成になっている。もちろんスイス出身又はスイスとゆかりのある画家・彫刻家の作品が多いが。そういえば、亡くなった美術評論家・宮下誠の名著『逸脱する絵画――20世紀芸術学講義』(法律文化社)で取り上げられている作品のかなり多くがバーゼル美術館所蔵だ。宮下がバーゼル大学大学院に留学したためだ。『逸脱する絵画』を思い出しながら、展示を見て歩いた。宮下とは面識がなかったが、かつて「特別講座パウル・クレー」に出講してもらおうと連絡を取ろうとしていた矢先に亡くなってしまった。実に残念だ。結局、その講座は、前田富士男(慶応大学名誉教授、中部大学教授)や、林綾野(キュレーター)といった素晴らしい講師にめぐまれて、大成功だったが、やはり宮下にも講義してもらいたかった。宮下誠『越境する天使』、同『パウル・クレーとシュルレアリスム』も名著だ。さて、バーゼル美術館だ。図録が凄い。400頁もあって、1万円だ。受付隣の売店に積んであって、誰が買うのだろうと思いながら、1冊買った。美術館所蔵主要作品の解説だが、見開きで左ページに解説、右ページに図版で、1から160まで、15世紀から20世紀まで並ぶ。ホルバイン親子、エルダー、ルーベンス、フュスリ、ドラクロワ、コロー、クールベ、ルノワール、ピサロ、モネ、ドガ、アンンカー、ベックリン、セガンティーニ、ホドラー、バヨットン、ゴーギャン、ゴッホ、セザンヌ、マチス、ボナール、ピカソ、ブラック、モジリアニ、レジェ、ムンク、マレヴィチ、カンディンスキー、シャガール、モンドリアン、ジャコメッティ、アープ、ノルデ、エゴン・シーレ、マルク、キルヒナー、クレー、ミロ、エルンスト・・・と続く。彫刻もロダンやジャコメッティ。バーゼル美術館の代表作を何にするのか、迷うところだ。もっとも、印象派は世界中にいくらでもある。セガンティーニ美術館、キルヒナー美術館、パウル・クレー・センター、ピカソ美術館、シャガール美術館などもある。それらを除くと、マルクの「動物の運命」(1913年)が浮上するかもしれない。宮下の本でも大きく取り上げていたはずだ。20世紀初頭の政治的社会的緊張を背景とし、死と戦争を念頭に置いたマルクの代表作だが、死後に破損したため、盟友パウル・クレーが修復したことでも知られる。作品名も、マルクの原題ではなく、クレーがつけた「動物の運命」として知られる。