Thursday, November 22, 2018

目取真俊の世界(11)語り得ない暴力の記憶と身体


目取真俊『眼の奥の森』(影書房、2009年/新装版、2017年)


米軍占領下における性暴力事件を素材に、レイプ被害者、その周囲の少年たち、家族、村人たち、及びレイプ犯の米兵らの視点から、事件とその影響を多面的重層的に描いた作品である。『虹の鳥』と双璧をなす「傑作」である。

カギ括弧つきで「傑作」としたのは、沖縄の近現代史を文学作品で描き出すのに、ここまで書かなければならないこと、に留意したいからだ。『虹の鳥』や『眼の奥の森』を書かなければならなかった文学者の思いを、読者がどこまで読み取れるか。本土の読者に果たしてどこまで届いているか。こうした問いを繰り返さなければならないからだ。


聞こえるよ(ちかりんどー)、セイジ。


レイプ被害を受け、村人からも隔離され、産んだ赤ん坊も取り上げられ、錯乱したまま人生を過ごした女性の、半世紀も後の言葉が、戦争と暴力、憎悪と屈辱、時代の闇を、微かに、ほんの微かに、しかし確かに切り裂き、その先に「光」を送り届ける。

米軍の暴力に押しつぶされそうな村で、たった一人、復讐に立ち上がった盛治の闘いは、凄惨と無残の果てに打ち捨てられるが、それでも人々の魂を揺さぶり続ける。

盛治の悲痛の叫びは、小夜子には届いていた。


聞こえるよ(ちかりんどー)、セイジ。


これほど悲しいつぶやきを、限界を突き破った文学者だけが書き記すことができる。だが、それは文学者にとって幸せなことだろうか、不幸なことだろうか。