Saturday, July 25, 2020

ヘイト・クライム禁止法(172)ノルウェー


ノルウェー政府がCERDに提出した報告書(CERD/C/NOR/23-24. 2 November 2017
2005年1月に改正刑法が施行された。刑法185条は憎悪表現に対する禁止としてのヘイト・スピーチ規定であるが、禁止の範囲を、私的領域や準公共圏に拡張した。表現が公然となされたことを要件としない。故意または重大な不注意(重過失、gross negligence)が基準である。
ヘイト・スピーチ規制において、重大な不注意(gross negligence)を基準にする例は初めて見た。より詳細な調査が必要だ。
反民族差別法は民族、国民的出身、世系、皮膚の色、言語、宗教又は信念に基づく差別を禁止する。2017年の反民族差別法は包括的な法律で、2018年1月施行である。
法律に人種を明記するか否か検討したが、人種概念を採用しない結論になった。人種主義と闘うために重要なことは、人々が人種概念に込めている観念から距離を置くことである。法律に人種概念を明記すると、人種概念に根拠を与えてしまいかねない。人々が人種について有する意見や観念に基づく差別はいずれも民族差別に当たるので、規制に空白はない。
2015年、政府はヘイト・スピーチに反対する政治宣言を出し、2016年11月「ヘイト・スピーチと闘う戦略」を策定した。対話と意識喚起のための23の措置を定める。CERD勧告に従って、政府は不寛容や憎悪煽動に反対する声明を出した。民主社会ではメディアのもっとも重要な責任は、当局から独立し、批判的に検証することである。政府からのプレスの独立を守ることは、カギとなる政策目標である。メディアの責任倫理について幅広い政治的コンセンサスがある。政府はメディアの独立を犯さないようにしている。
ヘイト・クライム/スピーチは警察管区の優先事項である。ヘイト・クライム事件は全国的にも地域的にも優先事項である。ヘイト・クライムは「ヘイト・スピーチと闘う戦略」に従って全国統一基準にのっとって記録、捜査、訴追する。性的指向、ジェンダー・アイデンティティ、ジェンダー表明に関する差別も扱っている。
2015年、刑法185条について、警察が記録したヘイト・スピーチ事案は86件である。2016年は189件。2017年以後は訴追事案の統計をとる。
「ヘイト・スピーチと闘う戦略」は、知識、司法、メディア、子ども、青年、集会、職場について23の措置を定める。インターネットやソーシャルメディア上野ヘイト・クライム/スピーチにも対処する。2014年以来、政府は「ストップ・オンラインのヘイト・スピーチ」キャンペーンを行っている。これはEUの「ノー・ヘイト・スピーチ運動」による。幅広い諸団体の協力を得ている。「ヘイト・スピーチと闘う青年ネットワーク」を準備している。
メディアの法的責任について、開かれた健全な対話を促進する方向で考えており、メディア責任評議会が調査を続けている。文化省はメディア責任委員会報告書を受けて、刑法269条について検討している。
2016年2月、オスロ大学に「過激主義(極右、ヘイト・クライム、政治暴力)調査センター」を設立し、極右とヘイト・クライムの原因と結果について研究を始めた。警察、自治体、市民社会、ジャーナリスト、教育機関と情報交換を進める。
2016年、「ホロコーストと宗教的マイノリティ研究センター」は、インターネットやソーシャルメディアを含むメディアにおける反ユダヤ主義について調査した。
警察大学は、ヘイト・クライムを予防し捜査する教育研究プログラムを作成した。ヘイト・クライム/スピーチと闘うための手段となる。
刑罰加重事由を定める刑法77条のうち、同条(i)によると、宗教、人生観、皮膚の色、国民的又は民族的出身、同性愛志向に基づいて犯罪が行われた場合、刑罰を加重する。
ヘイト・クラムは刑法185条により、行為又は重大な不注意で公然と差別表現又は憎悪表現を行った場合を含むが、これには人に対する脅迫又は中傷、迫害を含む。
ヘイト・クライムは2014年には223件だったが、2015年は347件と増加した。増加原因は、オスロ地区警察がヘイト・クライムに焦点を当てた警察活動に力を入れたことが挙げられる。警察庁はヘイト・クライムに関する年次報告書を作成している。22017年から訴追事件も統計に取る。警察庁は警察がヘイト・クライムを記録するためのガイドを準備する。ヘイト・クライムの定義・記録手続きは全国一律とする。
CERDがノルウェーに出した勧告(CERD/C/NOR/CO/23-24.2January 2019
人権法に条約を組み入れること。平等・反差別法の定義を条約第一条に合致させること。ヘイト・クライムについて、予防措置を取り、被害者に救済を提供すること。ヘイト・クライム増加原因を調査し、移住者のヘイト・クライム増加の不安に対処すること。オスロだけでなく全国でヘイト・クライム対策班を設置すること。検察官、裁判官、法執行官にヘイト・クライムの特定、記録、訴追の知識を共有するため研修を行うこと。さまざまなコミュニティの間でヘイト・クライム予防のためステレオ対応に対処するキャンペーンを行うこと。
ヘイト・スピーチについて、政治家など公的人物によるオンラインを含む人種主義的ヘイト・スピーチを非難し、距離を置き、関連する法律を完全に適用し、被害を受けやすい集団を保護する措置をとること。「ヘイト・スピーチと闘う戦略」のすべての措置を履行し、全警察がヘイト・クライム/スピーチ捜査を優先事項とし、警察、検察、裁判所の連携をとること。人種主義ヘイト・スピーチやヘイト・クライムを特定、記録、捜査し、政治家やメディアの責任者を訴追し、制裁を科すこと。ヘイト・クライム/スピーチの統計の収集・記録を標準化すること。ソーシャルメディア上のヘイト・スピーチについて政治家のためのガイドラインを策定すること。
人種主義団体やネオナチ団体がソーシャルメディアやデモに登場していることに留意する。条約第4条(b)に従って、人種憎悪を助長・煽動する団体を違法とし、禁止すると宣言していないことに留意する。一般的勧告35に従って、条約第4条と表現の自由が合致することを強調する。法律を改正して、人種憎悪を助長・煽動する団体を禁止すること。